VIPO

インタビュー

2022.10.19


2022年秋公開『夜を越える旅』の監督とプロデューサーが「プチョン国際ファンタスティック映画祭」企画マーケットに参加し、凱旋上映、劇場公開を果たすまで
2020年夏、VIPOはアジア最大のジャンル系映画祭「プチョン国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)」の企画マーケット「NAFF It Project」の推薦枠で、『Journey Beyond the Night(夜を越える旅)』の参加支援を実施*しました。監督の萱野孝幸氏とプロデューサーの相川満寿美氏は、オンラインでピッチングに参加。そして作品完成後の2022年夏、プチョンで凱旋上映を果たしました。今回は、おふたりの出会いから、初めて参加したピッチング、凱旋上映から劇場公開、今後の展望などを伺いました。(取材日:9月2日)


*経済産業省令和4年度「コンテンツ海外展開促進事業(コンテンツ関連ビジネスマッチング事業)」の一環として実施

 

10.21(金)公開 『夜を越える旅』予告

 

「プチョン国際ファンタスティック映画祭(Bucheon International Fantastic Film Festival, BIFAN)」企画マーケット「NAFF It Project」とは
アジア最大のジャンル系※の映画祭である韓国の「プチョン国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)」の企画マーケット「NAFF(Network of Asian Fantastic Films) It Project」は2008年よりスタートしました。「NAFF It Project」では毎年、世界をマーケットとするジャンル映画から約20企画を選出し、その企画のプロデューサーと監督が、世界から招待された出資者、映画祭担当者、プロデューサーなどを相手に、ピッチング(個別ミーティング)をするプログラムを実施しています。過去15年間で399のプロジェクトが選出され、そのうち78作品が完成し、映画製作者を支援および育成するアジアのハブとしての地位を確立しています。
>>「BIFAN」 http://www.bifan.kr/eng/
>>「NAFF Project Market」 https://www.bifan.kr/eng/big/info02.asp
 
※「ジャンル系映画」:明確な定義はないが、SF、ホラー、ファンタジー、アクションなどのエンターテインメント性の高いファンタスティック系映画とされている。

 

次回作を待望される監督になっていきたい

出会いから国際マーケットに行くまで

SNSのスタッフ募集に乗っかりました
 
映像事業部チーフプロデューサー 信澤靖江(以下、信澤)  「プチョン国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)」企画マーケット「NAFF It Project」のピッチングから2年以上経ちますね。支援した企画が無事完成して、劇場公開されることになってとても嬉しいです。今日はよろしくお願いいたします。
 
それでは萱野監督から自己紹介をお願いできますか?
 
『夜を越える旅』監督 萱野孝幸(以下、萱野)  私は大分県出身で、九州大学の芸術工学部で映像について学び、卒業後はフリーの映画監督として活動をしています。今回公開される『夜を越える旅』が長編3本目で、わりといろいろなジャンルの映画を手掛けてきたと自負しております。
 
信澤  萱野監督は大学を卒業してからずっと映画監督志望だったのですか?
 
萱野  あまり深いことを考えていませんでした。絶対に映画しかやりたくないということでもなかったのですが、気がついたら映画中心でやれていますね。
 
『夜を越える旅』プロデューサー 相川満寿美(以下、相川)  私は福岡に拠点を置いている有限会社アルファープロデュースの代表取締役をしています。いろいろなクリエイターさんや地場の才能のある方々のマネジメントやキャスティングなどをメインに、映像からスチール、イベント、配信なども行なっています。2017年に萱野監督に出会ってからは、映画にも重点を置いて、萱野監督の作品をご一緒させていただいています。
 
信澤  2017年に萱野監督に出会ったきっかけはどのようなものでしたか?
 
相川  最初の長編の『カランデイバ』(18)の配役が決定した記事をSNSで見たことがきっかけです。このようなきちんとした映画を撮る方が福岡にもいることに興味が湧いて、私からご連絡しました。
 
信澤  監督は相川さんから連絡をいただいていかがでしたか?
 
萱野  その時は右も左も分からず、自主制作でスタッフもほぼ素人で作っていました。人手が本当に足りなくて、スタッフの募集をSNSに書き込んでいたんです。録音部や美術スタッフやケータリングに詳しい方を募集していた中に、ダメもとで遊び心に近い感覚で「プロデューサーも募集しています」と書きました。
 
信澤  SNSでプロデューサーを募集するなんて……(笑)。
 

©『カランデイバ』KAYANOFILM
相川  それに乗っかりました(笑)。
 
萱野  応募が来るとは思わなかったのでとても驚きました(笑)。
 
信澤  相川さんが連絡しようと思ったのは、地元の監督なので応援したいというお気持ちからですか?
 
相川  実はもっと具体的な理由があるのです。
 
その半年くらい前に、私が深田晃司監督のワークショップに参加したのですが、参加者の中に、才能があると気になっていた俳優さんがいらっしゃって、その俳優さんが萱野監督作品のキャストとして選ばれていたのです。……ということは、同じ感覚を持っている監督なのかな、とすごく興味を持ちました。そしてSNSのプロデューサー募集の投稿を見つけて、「できそうなことはプロデューサーしかない!」と。脚本も読みたかったので、100%興味だけで連絡しました。
 
信澤  きっかけなんてわからないものですね。
 
それは自主映画ですよね。どのようなジャンルだったのですか?
 
萱野  群像劇です。各編ごとに、いろいろなジャンルが混ざっていました。サスペンスだったり青春ドラマだったり、少しミステリーだったり……それをひっくるめた群像劇でした。
 
信澤  上映はされたのですか?
 
萱野  あまり広くはできませんでした。尺が3時間8分と長かったのもあって、映画祭とかも通らなくて。
 
相川  観ているとそれほど長く感じないですけどね。
 
信澤  それはいいことですね。
 
相川さんはその作品からプロデューサーとして参加されていたのですよね?
 
相川  プロデューサーというよりも、みんなでこの映画を盛り上げるためにいろいろなことをお手伝いしました。
 
上映に関しては関係者試写はやりました。その後、コロナ禍に無料の配信をしたところ、再生回数が何千回にもなりました。


 

佐賀県の助成金で制作
 
信澤  長編2本目はどのような映画でしょうか?
 
萱野  ハッカーの映画『電気海月のインシデント』(19)です。プロデューサーが変わり種で、大学の1つ上の卒業生で、IT関連の教育や子供向けのプログラミング教室をやっている方だったんです。その方が映画を立ち上げた形で、私はある意味オファーされて内容を考えて監督もしました。
 

©『電気海月のインシデント』KAYANOFILM
信澤  この作品は教育を意識した内容だったのですか?
 
萱野  「映画として面白くエンターテインメントを作ってほしい」と言うことだったので、それほど教育のことは考えずにやりました。
 
信澤  長編3本目が、今回の『夜を越える旅』(21)、ホラー作品ですよね? どのように企画を立ち上げられたのでしょうか? もともと監督の企画だったのですか?
 
萱野  私の企画です。脚本は何となく書いていました。
 
信澤  初めから相川さんも参加していたのですよね?
 
相川  はい。
佐賀県のフィルムコミッションにいた友人が福岡で開催された「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」(※2021年3月終了)のマーケットに来ていたときに、「佐賀県の助成金はシナハンやロケハンにも補助がでるので、ぜひ来てほしい」と言われていたので、監督に「佐賀県どうですか?」と聞きました。
 
信澤  助成金を得るためのコンテストのようなものがあったのですか? それとも申請ですか?
 
相川  申請です。先にいただけるものではないので、「このようなものを撮ります」という資料を提出して審査が通ったら、終わった後に経費を申請し、それがその金額に見合っているのかを判断されます。佐賀県の助成金は人気があるみたいですね。
 
信澤  佐賀県からロケーションの指定はありましたか? 使いたいところを使えましたか?
 
萱野  指定は全く無かったです。使いたいところを使わせていただきました。香盤表を組むときに「近さ」をとるか「スケジュール」をとるかいろいろ考えると、その日しか撮れない場所があったのでかなり旅をしましたね。
 



 

世界に目を向けて、プチョンの企画マーケットに参加

なんでもチャレンジした方がいい
 
信澤  『夜を越える旅』の企画が立ち上がっていた段階で、2020年の「プチョン国際ファンタスティック映画祭(BIFAN)」(以下、プチョン)の企画マーケットの推薦枠に応募されたわけですが、海外のマーケットに持っていこうと思ったきっかけは何でしょう?
 
相川  私はそれまでVIPOさんの存在を存じ上げなかったのですが、知人からプチョンの企画マーケットの参加支援があると教えていただいたのがきっかけです。声がかかるものにはなんでもチャレンジした方がいいという気持ちでしたし、その知人からもすごく勧められました。
 
信澤  マーケットに参加することで、どのようなことが得られると思いましたか?
 
相川  普通のマーケットだと映画祭での出会いだけですが、企画マーケットではそれプラス資金や海外からの助成金もあると伺っていたので、そこは確実に得られると思っていました。
 
信澤  企画マーケットは、どちらかと言えばプロデューサーが資金調達やその後の展開を期待して参加する、作品を成立させるためのプロデューサー目線が多いと思います。
 
監督は企画マーケットへの参加をどう思われましたか?
 
萱野  正直、初めてだったので、成果として何が得られるのかは何も分からず挑みました。ただ、参加してみて脚本について具体的な感想やアドバイスをいただけたことが一番新鮮でした。
 
信澤  事前には、どのような準備をしていましたか?
 
相川  提出資料がたくさんあったので、監督に作ってもらいました。ポスターなどのデザインはマンガが関わっているのでイラストレーターに描いてもらったり、英訳してもらったりしました。
 
萱野  約4分のピッチプロモーション用のビデオも作りました。


 

ピッチングに初めて参加してみて
 
信澤  このときのピッチングはオンラインでしたよね? オンラインだとリアルよりもやりにくさを感じる部分があったと思いますが、実際に海外の方にピッチングしていかがでしたか?
 
相川  今回が初めてのことだったので、比べようがなかったです。国内の映画祭は分かりますけど、海外はどうなんだろうと思っていました。
 
オンラインになって、普段現場には来られない国の方々も参加しているからラッキーだとは聞きました。
 
信澤  リアルでは、会った方と食事ができたり、アポをとらなくてもふらっと会えたりするメリットがあります。ただオンラインだと現地に行けない方も自分の国から参加できるので、そういう意味ではチャンスが増えるという利点はありますね。今はリアルで開催して、オンラインでも受け付けるハイブリッド式が増えていると思います。
 
実際のピッチングはいかがでしたか? 成果などは?
 
相川  韓国、中国、香港、シンガポール、スペイン、ベルギー、エストニア、カナダ、アメリカ、オーストラリアから20人くらいの方とお会いしました。
 
1件につき15分だったので、そこにはまる方とお会いしました。こちらから会いたいと伝えた方もいますが、向こうから興味を示してもらえた方も多かったです。
 
信澤  相川さんは、プロデューサーとしては資金調達を期待していたとおっしゃっていましたが、その点はいかがでしたか?
 
相川  現実的にまずコロナでオンラインという状況がありました。そこでこちらが向こうに行って「スポンサー紹介してください」と言う話でもないなと思いました。でも、各国の助成金のとり方の話などはとても勉強になりました。
 
韓国では今、日本の映画が上映できません。これは国同士の問題なので残念ですが、「だからこそ、韓国で出資してくれる方を集めてベトナムで撮るのはどうですか?」とお話をしてくれた方はいました。
 
いろいろな国の情報が得られましたし、海外での制作や現実的な問題が分かってきたので、海外が近くなりました。あとは繋がれたことですね。メールでのやり取りも続いているので、いろいろと教えていただいています。
 
フェイスブックでも繋がっているので向こうの情報が上がってきて、映画祭が始まったんだなとか、この人はこういうものを書いているんだなとか分かります。
 
信澤  マーケット参加の収穫は大きかったようですね。
 
相川  はい、とても!
 
みなさん、まずは参加した方がいいと思います。海外の映画祭の経験があるのとないのでは、プロデューサーとして思いつくことやアイデアが違ってきます。
 
日本の中だと目立たなくても、海外に行くことによって日本の監督として印象に残ることは確実です。オンラインだろうが、リアルだろうが確実に参加した方がいいと思います。


 

監督として認知してもらったことに尽きる
 
信澤  監督はいかがですか?
 
萱野  企画をロングプロットのような形で持っていったのですが、想像していたよりも感触は良かったです。「ぜひ撮るべきだ!」と言っていただきました。「ここをこうした方がいい」という具体的なアドバイスではありませんが、特に構成を面白がってもらえたことが記憶に残っています。
 
日本のインディペンデント系映画の多くは、構成がしっかりしていると言うよりも、世界観がすごく良くて、ふわふわ終わる。そのふわふわ終わるところもひっくるめて評価されると聞きました。
 
『夜を越える旅』は途中で転調があったり、3幕構成できちんと落ちがついているので「そういうインディペンデント映画は日本では珍しい」と。それまではそれほど意識したことが無かったので自信がつきました。
 
日本では打ち合わせをしていても、構成構成と言われることはあまりありません。作家としては構成の話もしますが、テーマ性などに話が落ち着くことが多い中で、構成の話がメインだったのはとても新鮮でした。
 
あとは、「シンガポールだともっとファミリー向けでないと観客が入らないよね」とか、「この国はこういうジャンルのホラーが最近人気」などを聞いたのは知識としてとても面白かったです。
 
信澤  脚本は大学で勉強していたのですか?
 
萱野  独学です。見よう見まねで書きました。最近なんとなくいろいろ調べて書いているくらいです。
 
信澤  一番の成果は何でしょうか?
 
萱野  認知してもらったことに尽きると思います。それが今年のプチョンでの正式上映に繋がったのだと強く思っています。
 
映画は声をかけてもらわないと作れないし、上映できないので、そこは大きいです。結果的に上映していただいたので、母数はそれほど多くなくても韓国の観客の方に認知してもらえたのは嬉しいです。このような活動を繰り返して次回作を待望される監督になっていけたらいいなと思いました。
 
信澤  映画祭サイドも自分たちが選んだ企画が完成することは嬉しいので、招待につながりやすいと思います。いろいろなところに出ていくことは、すぐに何かに繋がらなくても重要なことだと思いますね。


 

準備しておけばよかった……
 
信澤  では、参加する上でもっとやっておけば良かった、準備しておけば良かったと思ったことはありますか?
 
相川  確実に英語ですね。通訳の方も頑張ってくれましたが、話せたら本当に良かったなと思いました。
 
萱野  私も語学の部分は全く同意です。
 
自分がペラペラになるにはだいぶ時間がかかるので、クルーやプロデューサーチームの中に英語ができる方が最初からいると、企画段階で海外に売り込みやすいだろうなと思いました。内容を完全に理解していて国際的な感覚を持っている方を最初からチームに置くのは、今後前提になっていくと思いました。
 
信澤  企画マーケットに参加される方には、プロデューサーも監督も英語が得意でない場合、通訳ではなくて、英語が話せる方をメンバーに入れることをお勧めしています。
 
単に監督に言われたことを通訳するのではなくて、基本的なことは監督に言われなくても答えられて、プラスアルファで聞かれた場合に監督やプロデューサーが答える形が理想です。特にオンラインでは時間が限られているので、いちいち通訳していると時間がかかってしまいますからね。
 



 

プチョンでの凱旋上映から劇場公開へ

韓国のお客さんの反応
 
信澤  今回の作品で海外へ行ったり全国上映をしたり活動範囲が広がってきたと思います。今後の作品作りに対する姿勢などは変わりましたか?
 
萱野  大きく変わるほどは撮ってないですが、毎回新鮮な気持ちで撮っているので、次も全く違う視点で撮ると思います。
 
海外のお客様含め世界中の映画ファンに届くような映画を目指したいと思いました。厳しい目にさらされていることを企画段階から考えないといけないなと、特に韓国で上映したときは思いました。
 
信澤  韓国での反応はいかがでしたか?
 
萱野  すごく良かったです。自分が想像していなかった部分で観客の声が上がることもありました。
 
質問もとても鋭くて「あー、そういうところまで観ているんだ」「自分はそこまで考えてはいなかったけれど、そこが気になるんだ」。全部伝わることを前提に、しっかりと強度の高い映画、つまり、脚本と演出、ビジュアル、サウンドデザイン、など各要素のレベルの高い映画をつくらないと、世界に打って出るのは難しいなと感じました。そこは次回以降も考えるところだと思います。
 
信澤  印象に残っている質問はありますか?
 
萱野  例えばあるシーンでは想定していなかった宗教的な意味などを読み解いてくれた方もいました。違う意味は込めていたのですが、確かにそういう捉え方もできるなと思いました。
 
相川  日本と全く違うとは思わないですが、韓国の評論家の方や主催の方に聞いたところ、韓国は生活の中に映画が浸透しているらしいのです。デートで行く、家族で行くなどいろいろなシーンで映画を観る習慣があると。それを聞いた後に上映と質疑応答があったので、きちんと観ているんだなと思いました。いろいろな質問が深かったと思います。
 
あと、国籍を問わず若手のクリエイターをきちんと取り扱ってくれます。有名だからどうという空気感はあまりないと思いました。
 
信澤  日本と違いましたか?
 
相川  日本では確実に有名無名の区別はされますね(笑)。
 
「経歴など関係なく、才能がある監督が認めてもらえるプチョンに参加できたことはいいことだ」「今後もどんどん参加してほしい」と言っていただきました。
 
信澤  2020年のプチョンのマーケットに参加して、今年の映画祭で完成作品が上映されました。タイミング的にいかがでしたか?
 
相川  コロナの影響はありましたが、公開の時期もうまくいって、最終的に良かったと思います。「監督は持ってるなぁ」と思いました。


 

ジャンル系映画のノリ
 
※ジャンル系映画:明確な定義はないが、SF、ホラー、ファンタジー、アクションなどのエンターテインメント性の高いファンタスティック系映画とされている。
 
信澤  次の作品によると思いますが、参加したい映画祭やマーケットはありますか?
 
相川  ジャンル系映画のほうが認知されやすいと言うことは分かってきたのですが、萱野監督が何を作りたいのかにもよりますね。
 
萱野  ジャンル系のノリはすごく面白かったですよね。
 
相川  映画祭自体が面白かったですよね。関係者もジャンル系が好きな方たちでしたし、参加している日本の監督も面白かったです。
 
何の映画祭に参加したいかと聞かれると、なんでも参加したいですよね。
 
萱野  参加してみないと分からないですよね。
 
相川  日本で映画祭を開催している方って意外と海外の映画祭のことを知らないままやっている方もいると思います。ぜひ行ってほしいと思いました。
 
いろいろな国とコラボレーションをするのがいいと思いますね。今後はオンラインでもできますし。
 
信澤  映画祭によっては地域総出でウエルカムのところもありますね。
 
相川  プチョンはそうでした。
 
萱野  そういうところがいいですね。
 
信澤  そうすると町全体が盛り上がるので、行くほうも楽しいですしね。
 
相川  オンラインで参加したときも映画祭セットみたいなものをもらいましたよね?
 
萱野  サバイバルキットが来ましたね。
 
相川  中にマスクやマスクケースも入っていました。
 
信澤  プチョンはそんな遊び心があるかもしれませんね。


 

47都道府県での上映を目指して
 

©αPRODUCEJAPAN / KAYANO FILM
信澤  『夜を越える旅』の劇場公開はどのようなプロセスで決定したのですか?
 
相川  プチョンが終わったあとに監督へ連絡があったのが、今回の配給会社のクロックワークスさんでした。福岡も大好きな方々で、頑張ってくれています。今まさに大変なときです。
 
信澤  監督の作品としては、全国規模の公開は初めてのことですか?
 
萱野  初めてです。
 
信澤  今は何館くらいの予定になっていますか?
 
相川  関東、関西、名古屋は決まっていて、今は北海道を交渉中です。10月21日の劇場公開までには、どうにか整えたいとはおっしゃっていました。
 
佐賀県の方たちにはとても良くしていただいたので先行公開します。地元福岡、鹿児島、熊本、沖縄、監督の地元の大分がそれに続きます。今は調整中ですが、12月までには全部決まるのではないかと思っています。
 
目指せ47都道府県です。そこで話題が取れるのではないかと。
 
信澤  ヒットすると、どんどん上映したい劇場も増えていくと思います。
 
監督として全国公開になる期待や手ごたえはいかがですか?
 
萱野  期待はしています。まだまだ無名だと思うので、これからどうしたらたくさんのお客さん来ていただけるか考えています。クチコミで話題が広がっていけばいいなと思っています。
 
信澤  いよいよ宣伝が大詰めですね。
 
相川  そうですね。クロックワークスさんにも戦略があると思うので、プロの邪魔をしないように広報の方とすり合わせながら進めたいと思います。


 

今後の展望

シナハン段階から活用できるロケ地情報を知りたい
 
信澤  今後、VIPOに期待することややってほしいことはありますか?
 
相川  九州で撮影をしてほしいので、ロケ誘致のようなことをVIPOさんと一緒にできるといいなと思います。市や企業にはこちらが声をかけるので、九州のロケーションでサポートをうけて映画を撮るシステムがあればと思います。
 
逆に言えば、私たちが北海道で撮れるようなことがあるといいかもしれないですね。
 
信澤  VIPOはジャパン・フィルムコミッションと一緒にロケーションデータベースのお仕事をしています。橋渡し的な役割ができればいいですよね。
 
監督はいかがですか? 支援やサポートについて何かご希望はありますか?
 
萱野  佐賀県で撮ったときにロケ地を紹介してくれたのはフィルムコミッションです。単に橋渡しをするだけではなく、提案からしていただきました。ロケーションの資料をいただいて、それでイメージが膨らませることができたので、とてもありがたかったです。
 
ですからロケ地同様、シナハン段階から活用できるものがあると嬉しいです。
 
例えば「このような土地にこういう文化があります。これはまだ映画化されていません」とか、「この文化に興味がある方が、映画を作りたがっています。制作資金はないけど、スタッフを迎え入れる施設はあります」という情報って集めるのが大変だと思うんですよね。
 
監督もプロデューサーもネタを探していると思うので、映画に関わりたい方と、制作者をつなぐ情報やアーカイブがあると面白そうだなとは思います。
 
信澤  ロケ地の紹介としては「全国ロケーションデータベース(JL-DB)」がありますが、プラスアルファの情報があればいいということでしょうかね?
 
萱野  「ロケ地貸します」だけではなくて、ロケ地の情報込みだと嬉しいです。
 
「この文化を残したい人がいる」とか、「社会問題に向き合っている団体が、映画に興味がある」とかですね。
そういう方ってどうしているのでしょうね?
 
ダイレクトに誰かに連絡をしているのか……? そこでVIPOさんが「じゃあ、この人に声をかけたらいいかも」とプロデューサーや監督に声をかけてくれるとありがたいです。その中でコンペなどがあると、今まで映画化されてこなかったテーマと出会えるし、私たちもいろいろな選択肢が増えて楽しいと思いました。


 

作品に合う場所で作ることが大切
 
信澤  萱野監督も相川さんも福岡をベースにしていて、これから全国に乗り込んで行く形ですが、今後も地元で頑張っていかれるのでしょうか? 
 
萱野  作品に合う場所で作ることが大切だと思うので、いい意味で場所にこだわらず呼ばれたらどこにでも行きます。ただ個人的な思いとしては九州で撮り続けたいです。
 
信澤  クリエイターさんは会社も個人も東京に集中していますが、地方で製作された作品が全国公開するのはみなさんの励みになると思います。
 
後進に向けて何かアドバイスはありますか?
 
萱野  後進に言えるほど、何もやれてはないのですが…。
 
作りたい作品やなりたい監督のタイプによっては、東京に行かないとできないことは確かにあるかもしれません。例えば有名な俳優をたくさん使いたいとか、照明部をたくさん呼びたいということであれば、東京で撮った方がコスパが良いこともあるとは思いますが、福岡でやれることも確かにあると今でも思います。
 
私の場合は、プロデューサーをはじめ周りのスタッフやキャストに恵まれてきたと思います。撮れる環境にあったので、周りにいる方と何かできないかと、まずはトライしてきました。それが違うと思ったらアメリカなり東京なり行けばいいと思います。
 
難しく考えたり、思想性をもって福岡に居続けているわけでもなくて、自然体で映画を作り続けている結果、福岡に今いるということです。人によると思うので、一択ではないと思います。
 
もちろん個人的には福岡の映像業界や映画の文化がもっと盛り上がるといいなという願いはあります。


 

九州だからこそ実現できることを
 
信澤  相川さんはいかがですか?
 
相川  福岡と海外の2拠点撮影を考えています。
 
福岡を入れているのは当社の主旨ですが、スポンサーが海外にいて、共同製作するのを当たり前にしたいと思っています。
 
そういうことに詳しい方と現役の監督に相談したところ、興味があるみたいでそれを具現化させる方法を教えてくれました。九州だからこそ実現させることができる感じでした。いろいろ教えてくれた方々も萱野監督の大ファンなので、まずは萱野監督の作品をそれで実現させて、そこに著名な監督が続くと言う形のプロジェクトにすると話題になって面白いんじゃないかと。
 
以前、日中で映画を撮ったことがあります。ロケ地の福岡に中国のクルーとキャストが来て、残りのキャストは日本でキャスティングしました。スポンサーは中国で、向こうで有料配信したら1日で100万ダウンロードされ、とても人気になりました。
 
信澤  なるほど。九州は特に釜山(プサン)と近いですよね。
 
相川  韓国は助成金が豊かで、先に下りたりします。支援が多いと聞いています。福岡市と釜山市は姉妹都市で、市長が協力的だと聞いているので、釜山と福岡をワンセットのロケにすることを実現させていきたいです。
 
信澤  萱野監督の作品で実現されるのを楽しみにしています。今日はありがとうございました。


 

 
 

10.21(金)公開 『夜を越える旅』』
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髙橋佳成  中村祐美子  青山貴史
AYAKA  桜木洋平  井崎藍子  荒木民雄
監督・脚本・編集:萱野孝幸
 

撮影監督:宗大介 音響監督:地福聖二 照明/Bカメラ:和田直也 美術:稲口マンゾ 漫画作画:SHiNPEi a.k.a. Peco
音楽:松下雅史 助監督:長谷川テツ 制作:夏目 プロデューサー:相川満寿美
配給:アルファープロデュース、クロックワークス ©αPRODUCEJAPAN / KAYANO FILM

 
公式サイト http://klockworx-v.com/yorukoe/

 

 
 

萱野孝幸 Takayuki KAYANO
映画監督・脚本家

  • 1990年9月19日生まれ。九州大学芸術工学部を卒業後、福岡を拠点に映像制作を行う。2018年に初の長編映画『カランデイバ』を発表。2019年『電気海月のインシデント』公開。2020年のアジアフォーカス・福岡映画祭では短編作品を特集した「萱野孝幸コレクション」が上映される。堤幸彦監督、本広克行監督、佐藤祐市監督を中心とした映像製作プロジェクト『SUPER SAPIENSS』にて脚本を担当。2023年には、泉谷しげる氏を主役の一人に迎えた群像劇コメディ『断捨離パラダイス』が公開予定。


 

相川満寿美 Masumi AIKAWA
プロデューサー

  • 有限会社アルファープロデュース代表取締役社長。10代でファッションショープロデューサーを務めた事を皮切りに、イベント、店舗、企業、舞台、ライブ、世界的なコンテスト、そして映画、多種多様のプロデュースを行いながら、同時に関わる人材のマネジメントやキャスティング、また世界的な映画祭の主催もしている。

 
 


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