VIPO

インタビュー

2020.09.23


ベルリン国際映画祭「European Film Market / Berlinale Co-Production Market」 紹介セミナー から再構成 ~各マーケットの概要、日本から参加することのメリットとは~
1部:「European Film Market(EFM)」プレゼンテーション
   「European Film Market(EFM)」ディレクター Matthijs Wouter Knol氏
2部: セミナー受講者からの質問に答えるQ&Aセッション(EFM編)3部:「Berlinale Co-Production Market」プレゼンテーション
   「Berlinale Co-Production Market」創始者Martina Bleis氏
4部: セミナー受講者からの質問に答えるQ&Aセッション(Co-Production Market編)

 

ベルリン国際映画祭が2021年2月11日~21日に開催されるにあたり、映画祭と並行して業界関係者向けの映画マーケットが開催されます。VIPO(ヴィーポ)では、ヨーロッパ最大級の映画見本市である「European Film Market」と 国際的に活躍するプロデューサーをはじめ、世界の映画関係者が参加する「Berlinale Co-Production Market」の詳細および日本からの参加のポイントを紹介するセミナーをオンラインにて実施いたしました。EFMのディレクター、および「Berlinale Co-Production Market」の代表・プロジェクトキュレーターを招き、解説していただきました。
(※2020年7月28日に、経済産業省「令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(コンテンツ関連ビジネスマッチング事業)」の一環として、実施されたセミナーを再構成したものです)

(以下、敬称略)

 
◆ベルリン映画祭
会期:2021年2月11日~21日
公式サイト(英語):https://www.berlinale.de/en/home.html
 
◆「European Film Market / Berlinale Co-Production Market」
会期:2021年2月11日~18日
公式サイト(英語):https://www.efm-berlinale.de/en/home/homepage.html
 
 

1部:「European Film Market」プレゼンテーション

 
VIPOグローバル事業推進部 木元(以下、木元)  本セミナーは経済産業省令和2年度コンテンツ海外発展促進事業、コンテンツ関連ビジネスマッチング事業の一環として行われる事業でございます。
 
それではEFMディレクターのMatthijsさんにさっそく、「European Film Market」について、お話しいただきましょう。よろしくお願いします。
 

Mr.Matthijs

EFMディレクター Matthijs Wouter Knol(以下、Matthijs)  今日はこのようなセッションにお招きいただきありがとうございます。そしてプロデューサーのみなさまがたくさん参加されていることを大変うれしく思っています。
 
みなさまにEuropean Film Market(以下、EFM)についてご紹介いたします。これまでどのようなものであったのかということ、また2021年に向けてどういった変化があるのかについてお話いたします。
 

EFMの会場、プログラム内容について
 
EFMは二つの会場で行われています。ひとつは美術館である、Gropius Bau。もうひとつは、Marriott Hotelです。私達はフィルムマーケットとしては大変急速に成長しておりまして、前回の参加者は11,500人ほどいう大変大きな数になっています。そしてマーケットの中ではいろいろなプログラムが行われており、たくさんの配給会社や映画関連会社はもちろん、日本企業の方、またVIPOのみなさんも2020年にはGropius Bauにスタンドを設けていらっしゃいました。
 
Marriott Hotelでは、オープンスタンドとして、映画を観終わった後にバイヤーやセラーがミーティングをすることができるスペースや、クローズドの状態でミーティングが可能な個室もご用意しています。
 
参加者は、セールスカンパニー、配給会社はもちろんですが、近年の参加者の1/3はプロデューサーの方たちです。昨年は11,500人のうち、4000人ほどは、プロデューサーの方々でした。
 

 
EFMのプログラムは年々多様化していまして、セールスエージェントや配給会社向けの内容ももちろんありますが、プロデューサーの皆様にメリットを感じていただけるようなプログラム構成にしています。例えばプロデューサーの方が投資家を探しやすいようなプログラムですとか、共同製作を考えている方たちがマーケットの中で協力者を見つけやすいようにですとか、お互いが繋がりやすいように、様々な取組みが行われております。
 

新たにドラマ部門を設立
 
それに加えましてドラマ部門を設けました。公式プログラムの中にハイエンドなドラマシリーズのマーケットがあります。元々はヨーロッパ、北米のドラマシリーズから始まったものでありますが、これはベルリナーレ・タレンツ*とも協力をしながら私達が行っているものです。これは編集者やプロデューサー、そして様々な方達に参加していただくとメリットがあると考えております。
(*ベルリナーレ・タレンツとは、業界10年未満の映画人を対象にした育成プログラム)
 
マーケットではドキュメンタリー映画にフォーカスをしたプログラムもあります。これは世界各国のドキュメンタリー映画に興味のある方が集い、様々な講演会やミーティングに参加しながら他のプロデューサーや、ドキュメンタリー映画を放映することに興味がある放送局などと会うことができる場です。
 

6つのプラットフォームで構成されるプログラム
 
6つのプラットフォームの1つであるアフリカハブでは新しい世代がアフリカでイノベーションを起こそうとしていることに着目し、アフリカにおける映画やVRについて、事業主の方達に集まっていただき、お話いただいたり、新たな資金調達の在り方を模索したり、アフリカ映画のショーケースなども行っています。
 
今年始めた新しい試みでは、EFMランドマークと呼ばれるものがあります。こちらもプロデューサー向けの取組みですが、映画コミッションなどの方達を対象にして、映画を撮る際の機材の手配や、ロケーション探し、資金調達の方法などについて説明をしています。共同製作をより簡単にするためのものです。
 
EFM Horizonについても紹介させていただきます。これは国際的に業界がどう変わってきているのかということをお見せしていくプログラムです。作品製作のフォーマット、そしてアプローチがどう変わったのかということをお見せして、近年映画における持続の可能性ですとかダイバーシティ、今後の方向性について意識を高めてもらうものです。私達にとっての映画業界や製作における将来がどういった形になっていくのかということを示す場や、企業が新たなトレンドや新商品等をショーケースする場となっています。ベルリン国際映画祭は年の初めに行われるものなので、EFMにおいても、これからの1年でどういったことがおきていくのかということを示す格好の機会になっています。
 

毎年ひとつの国にフォーカスするプログラム。2021年はイタリア
 
 

最後にEFMの取組みとしてご紹介したいのが、毎年私達が1つの国にフォーカスをして行っているものです。これはフォーカスされた国について、どんな新しいことや興味深い取り組みが行われているのか、セールスカンパニーや配給会社、またはプロデューサー向けにお話をするというものです。前回はチリにフォーカスし、その前はノルウェーやカナダ、メキシコなどにフォーカスを当ててきました。来年については、イタリアに焦点を当てる予定です。
 

2021年のEFMについて
 
これまではEFMが過去にどういったプログラムを行ってきたかという話をしてきましたが、これからは2021年はどう開催するのか、今後のやり方についてお話しいたします。ドイツ、特にベルリンはコロナウイルスの影響を大きく受けました。そういった中で次回のEFMはハイブリッドバージョンでマーケットを開催していきます。
 
Gropius Bauは、メイン会場として来年も物理的にもオープンいたします。もちろん安全を確保しながら開催していく予定です。さらにオンラインでもマーケットを開催したいと考えています。オンラインのプログラムに関しては現在開発をしているところですが、これまで参加したくとも、物理的にできなかった方に向けて提供していくことを考えています。
 

プロデューサーがハイブリッド型のEFMに期待できることとは
 
参加されるみなさんはこのハイブリッド型のEFMからどういったことを期待できるのでしょうか。まずは私達のところにあるプラットフォーム、例えばプロデューサーズハブ、EFMランドマーク、ドキュメンタリー、ドラマシリーズ、EFM Horizonなどについては、オンラインのセッションも提供していきたいと考えています。そしてプロデューサーのみなさんがオンライン上でネットワーキングすることができるような環境を整えます。2021年についてはみなさんがベルリンにいらっしゃらなくてもEFMとは何かを直に感じていただけると思います。
 
これまでVIPOのみなさんや日本企業の方々のご協力もあってEFMには年々日本のみなさまの参加率が高まっています。みなさまがたくさん参加してくださることでヨーロッパの企業が日本のビジネスと繋がるということが容易になってきています。日本のみなさまの中には国際的に共同製作をしたいという興味が高まっていると聞いておりますので、EFMにとっても、この後に話すBerlinale Co-Production Marketにとっても相互に役立てることがあるかと思います。そういった中でぜひみなさんからどんなニーズや需要があるのかということを今日はぜひ知りたいと思っています。今日はこのようなセミナーにお招きいただきまして、ありがとうございました。
 

 

2部:Q&Aセッション(EFM編)

 

 

・Q1. EU市場で注目されているアジア映画のジャンル、EU以外の海外コンテンツの海外進出状況、ゲーム関連の映画作品のレピュテーションについて
 
Matthijs  EFMでは、アジア映画全般に対して大変興味があると感じています。例えば日本だけでなく、韓国の映画もそうですし、中国へのプレゼンスも高まっているといえるかと思います。日本を含めたアジア映画についてはアートハウス系の映画への興味が大変高いです。アニメーション映画についても関心はありますが、これまでのEFMの伝統としては、あまり大きなプレゼンスはありません。それがこれまでのEFMの状況といえます。
 

・Q2. 共同製作を進めるには、または作品を売り込みには、EUの制作会社と放送局のどちらと商談をした方が、話が進みやすいか?
 
Matthijs  この質問については、のちに登場するMartina Bliesの方からより詳しい説明があると思いますが、EFMの観点からお話しますと、共同製作をするためのプロデューサーを探す時には、EUなどを拠点にしているプロデューサーとの出会いを探すことが1番いいと思います。
 
EUのみならず、その他諸外国のプロデューサーとの出会いが重要であると考えます。先程お話をしたプロデューサーズハブや、またみなさまがネットワーキングすることのできるプラットフォームがいくつかありますので、それを活用していただければいいかと思います。まず自分が一緒に仕事をしたいと考えるプロデューサーを見つける必要があります。そこからプロデューサーの方も放送局などに話しにいくということになりますので。EFMのプラットフォームを使うことにより、プロデューサー同志が国際的にネットワーキングができるメリットがあります。
 
また既に映画が製作済み、または製作過程の後期にあれば、上映会の予約をして、ビジターの方に映画を観ていただくこともできますし、製作後期の段階であれば、そのパートナーや、映画を買いたいというバイヤーを募るということもできるわけです。その中には放送局もいるかもしれません。みなさんの手持ちの映画がどういった製作段階にあるのかということにより、EFMの使い方も変わってくるかと思います。
 

・Q3. 日本を含むアジア映画と積極的に商談を行うEFM常連参加者や、特記すべき企業名があれば教えてください。
 
Matthijs  日本の映画に興味をお持ちのところは多いですが、メジャーなところをあげれば、ドイツの企業の「RAPID EYE FILMS」です。この会社はアジア、特に日本の映画を広めるというところで大きな役割を果たしています。他にもフランスやイギリス、ベネルクス、そして北欧諸国などでも、より規模の大きい企業で日本の映画に興味をお持ちのところがあると思います。
 
EFMでは、日本企業のプレゼンスがかなり大きくなってきています。例えば松竹さんや東映さん、ユニジャパンさんがたくさんのスタンドを出しておりまして、VIPOさんにも注目が集まっています。日本企業のスタンドにもぜひ顔をお出しになって、日本が海外と繋がれるようにしている取組みの中に入っていくのがいいのではないかと思います。そしてそのスタンドを出している日本の企業がどういった海外企業とビジネスをしているのか、その相手がどういった映画に興味を持っているのかという情報を得て、プロデューサーのみなさんご自身が企業とミーティングをセットアップしていただくことが大変有効かと思います。
 

・Q4. 新人監督がEFMでアピールをする際のアドバイスがあればお願いします。
 
Matthijs  大変重要ないい質問ですね。EFMでは、新たに伸びてくる監督や、プロデューサーの方にもフォーカスを当てるようになっています。その中で私達はベルリナーレ・タレンツといったプログラムを行ったり、のちほどお話をするMartinaさんのCo-Productionチームの中で若い才能のある方の発掘を行い、彼らがフィルムマーケットの中でどこに行けばいいか、どういったコネクションを作るのがいいかといった支援をしています。若いプロデューサーのみなさんにはぜひベルリナーレ・タレンツに参加していただきたいと思います。参加するためには応募が必要ですが、選定されなかったとしてもベルリナーレ・タレンツの中には公開セッションがありますので、その公開セッションには参加することができます。また2012年以降は東京をベースにしたタレンツ・トーキョーというものもありますので、そういったものにも着目してください。EFMに来ていただく価値は十分にあると思います。そして参加される際には十分に準備と質問を用意して、EFMが自分にとってどういった機会を提供してくれるのか?ということを探っていただければと思います。
 

・Q5. 日本からの参加者の(ヨーロッパを拠点としていないアジアからの参加者)参加するメリットは?
 
Matthijs  日本のみなさんのプレゼンスは年々高まってきていますし、過去数年の間にも国際共同製作された映画で大きな成功を収めたものはいくつも出てきています。例えば是枝監督の『真実』などがその例としてあげられます。EFMには様々なヨーロッパの関係者が集う場ですので、みなさんが来ていただくことでヨーロッパにおける資金調達のシステムがどうなっているのかを知る大きなきっかけになります。またご自分が製作している映画は共同製作に適しているか?ということについても探っていくことができる場です。そういう意味でもEFM及びCo-Production Marketに参加していただければと思います。
 
日本のみなさまにチャンスになると共に、どんなプロジェクトをもち、ポテンシャルがあるのかということをベルリンにきている諸外国のみなさんに示すことができるいい機会です。
 

・Q6. ローカルな題材を扱う作品をワールドワイドに売っていくために必要な視点やポイントとは?(ローカル作品のどこに可能性があるか)。
 
Matthijs  この質問も大変良い質問ですね。日本のことをテーマにした映画というのは海外でもポテンシャルが大きいと考えています。国際的な要素があればあるほどより海外からの興味は深まるわけですが、日本映画は往々にして大変独特で強い物語性が根底にあります。その物語性は海外の人々の心に届くストーリーであると感じています。また最近は、ローカルであればあるほどより国際性が増すということも言われ始めています。ですから日本における特有の状況や物語について洞察を提供する映画はヨーロッパにおいても、ラテンアメリカ、そして北米においても受け入れられるものと考えています。マーケットにくる方は、これまでと違った視点を手にいれることができる作品に興味深さを感じるからです。
 
最後に、今日はご清聴いただき本当にありがとうございました。EFMに興味を持っていただき、大変嬉しく思います。2021年、みなさんが実際にベルリンに来られるか、それともオンラインでご参加されるかはわかりませんが、ベルリンやEFMでお会いできることを楽しみにしております。ありがとうございました。
 
木元  Matthijsさん、どうもありがとうございました。益々のご活躍をお祈りしています。
 

 

3部:「Berlinale Co-Production Market」のプレゼンテーション

Co-Production Market設立のきっかけとプログラム
 
木元  続きましてCo-Production Market、Martina代表にプレゼンテーションをお願いいたします。
 
Berlinale Co-Production Market代表、Martina Bleis(以下、Martina)  今日はお招きいただきありがとうございます。
 
私の方からご説明する「Berlinale Co-Production Market」とは、国際共同制作のためのネットワーキング及びプロジェクトをプレゼンするためのプラットフォームです。Co-Production Market自体は、80年ほど前に国際的に活躍するプロデューサーや投資家のために自分達の母国を離れた拠点として設立され、Berlinale Co-Production Marketについては、18年前に設立されました。
 
私達がプログラムの中で提供しているものは、キュレーションを行った有望なプロジェクトの選定です。そしてその選定されたプロジェクトの中には長編映画もあればドラマシリーズもあり、映画化の対象になるような小説なども含まれています。更にはプログラムとしてケーススタディのセッションや、テーマトーク、国別のセッション、スピードマッチングなども行っています。これについてはまた後程詳しくお話いたします。
 

メインプログラムである、スポンサー、共同製作者とのマッチング
 
このプログラムは5日間にわたって行われますが、多くの場合、1on1のミーティングが行われています。事前に選定されたプロジェクトの方たちが、様々なプロデューサーらとミーティングをします。この選ばれたプロジェクトの方達がプログラムにやってきて、600人の参加者の中から共同製作をするパートナーを募っていくわけです。このミーティングでは、ピッチングは行われません。こちらについてものちほどご説明いたします。
 
公式プロジェクトの選定については、例年、9月頃から応募を募ります。毎年500件ほどの応募がありますが、適切なプロジェクトを選定するのはとても大変な作業です。その中から、ローカル性が十分にあり、興味深くかつ国際的に繋がっていくことができるようなプロジェクトを選定することになります。
 

公式プロジェクトが選定されるためのルールとは
 
公式プロジェクトに選定されるためには具体的なルールがあります。
 
ルール1:例えば予算は、75万ユーロ*から最大2000万ユーロほどまで。
このプロジェクトには75万から2000万までの比較的低い予算の方が多いですが、75万ユーロは決して少ない数字ではありません。私達が75万ユーロを下限に設定した理由は、そのプロジェクトをビジネスモデルとして成立させなければならないからです。(*75万ユーロ=9400万円ほど/9月現在)
 
ルール2:製作資金の30%が既に確保されているかということ。
この30%の資金はマーケットから確保してきても問題ありません。例えば配給会社やテレビ局ですとか、地元の製作サポートの取組みの一環としての助成金を出してもらうという方法でもいいわけです。いずれにしても、自分たちで30%の資金が自分達で集められることができなければおそらく国際的にもうまくいかないという考えから、このルールを設けています。
 
ルール3:プロジェクトをもつ製作会社側で、国際市場における経験がある。
ということが必要になります。共同製作というのは何たるかについて理解していただいておく必要があるからです。
 

公式プロジェクトの選定基準とは
 
選定基準についてお話をしますと、まずプロジェクトがどういった構造であるか、どういったプロデューサーがいてどんな投資家がついているのか、そして国際的な共同製作に適したものであるかどうかということ。そして、このBerlinale Co-Production Marketの参加者にとって魅力的なプロジェクトであるかどうか。アピールできるインパクトを持っているかというところを重視しています。
 

1on1のミーティングについて
 
 

1on1のミーティングは、予め1500以上ほどスケジューリングされています。実は2500のリクエストの中からセッティングされたミーティングでありまして、このプロジェクトについてのリポートを読んで興味をもった方がリクエストをしています。私達はそのリクエストの中から1番有望なミーティングを成立させるというところに重きを置いています。
 
選定をされたプロジェクト(長編映画)はこの2日半の間に1on1のミーティングをやっていきます。それぞれの長編映画につき30から35件ほどのミーティングが設定されます。
 
Berlin Co-Production Marketは活動を始めて17年、これまで様々な成功を収めてきました。プロジェクトのだいたい50%ぐらいが完了し、映画祭や映画館などで公開されています。その中にはアカデミー賞でも話題になった、セバスティアン・レイロ監督の『ナチュラルウーマン』や、タイカ・ワイティティ監督の『ジョジョ・ラビット』などがあげられます。ほかには、カルラ・シモン監督の『悲しみに、こんにちは』や、ルクレシア・マルテル監督の『サマ』、そしてアイスランド・デンマーク・スウェーデン合作の『ホワイト、ホワイト・デイ』、アグニエシュカ・ホランド監督の『Charlatan(原題)』については、今年のBerlinaleで取り上げられています。
 

企業ともマッチング
 
次にご紹介するのはプロジェクトではなく企業のマッチングです。私達は企業プロフィールが面白かったり、哲学をしっかりもっているといった企業を毎年5社選び、マッチングを行っています。このマッチングでは、どういったビジネスが成立するか、今後のアライアンスを組んでいく可能性はないかなどの話し合いができる場となっています。
 

プログラムの中で行われるピッチングとは
 
ピッチングについて、ご説明します。
BerlinaleのCo-Production Marketは数年前から、EFM及びベルリナーレ・タレンツと組みまして、ベルリナーレシリーズのマーケットに参加をすることにしました。ドラマシリーズの製作者達がパートナーと繋がることができるようにする場を提供するためです。
 
毎年ドラマシリーズを10プロジェクトほど選んで、国際的なパートナーを探すお手伝いをしています。その中ではピッチングも行われていて、1on1のミーティングの機会を設けたり、ネットワーキングのイベントもしています。
 
このプログラムの中から出てきたドラマシリーズは、みなさんご存知かもしれませんが『バビロン・ベルリン』などがあげられます。こちらのシリーズはドイツでは異例の成功を収めていて、現在3シーズン目に入っています。こちらのベルリナーレ・タレンツのプログラムには、通常のCo-Production Marketに参加する以外の方も参加していて、様々なパートナーシップが生まれています。このプロジェクトに参加したい方々を毎年11月に募集しています。事前にカタログを見ることができますので、どのプロジェクトに参加し、ミーティングをセッティングしたいかを事前に決めることができます。
 
また、フレームワークと呼ばれるいくつかのプログラムがあります。
○どのようにしたら長期的に成功し、国際的なネットワークを構築できるか?
○小規模でよりインタラクティブに参加できるテーマトーク
○どうやったら、その国と共同製作が可能か、コンタクトの方法、ファンディングの仕組みなのがわかるカントリーセッション。1時間ほどで、5~6か国ほどについて知ることができます。
○そして最後にスピードマッチング。ランダムに5分間のミーティングをすることができます。予約は不要なので、その5分の中でランダムに色々な人と話すことができます。とても楽しいセッションです。
 

新進気鋭の若手プロデューサーを発掘するプログラムと、映画化原作を探すBooks at Berlinale
 
次はタレントプロジェクトマーケットです。これはベルリナーレ・タレンツと組んでやっていますが、ここでも10のプロジェクトを選定します。ここで対象としているプロデューサーは10年以内の経歴で新進気鋭のプロデューサーということになります。彼らは選ばれますと様々なトレーニングをうけることができます。こういったことからもタレントプロジェクトマーケットというのは新しい才能を発掘する場でもあるといえます。
 
Books at Berlinaleという取組みも大変個性的で、映画化の対象となるような本のピッチングを行う場です。通常は12の出版社又は著作権代理人の方が集まりまして、ピッチを行います。
 

VIPOも参加したビジターズプログラムとは
 
ビジターズプログラムについて紹介いたします。昨年はVIPOのみなさんも参加してくださいました。このプログラムは、まだ国際的な経験がない若い方が第一歩を踏み出すための取組みとして行われています。前回はこのビジタープログラムに17ヵ国から100人ほどが参加されました。そしてこの新進気鋭のプロデューサーのみなさんが様々なセッションやミーティングを行ったり、カントリーセッションといった一般的なプログラムに参加する機会を得ました。
昨年は5人の日本人プロデューサーの方々が参加してくださいましたが、ぜひこのまま日本人の方が長期的に参加していただけるように続けていければと思っています。
 
Co-Production Marketが行われる場所は、ベルリン州の下院議会です。EFMが行われている会場の真向かいにありまして、Co-Productionのシーズンに関しましては映画館で行われます。
来年の第18回Co-Production Marketは、2021年2月13日から17日まで行われることになっており、参加の応募はもうすぐ始まります。ベルリナーレ・タレンツについては、既に応募が始まっています。各プログラムの締め切りはこちらをご参照いただければと思います。
 

 
みなさまにはこのベルリンの取組みにぜひ参加していただければと思っています。これは来年だけのことではなく、今後についてもぜひご検討をよろしくお願いいたします。
本日はご視聴いただきまして、ありがとうございました。
 
各プログラムの応募ページはこちら
 

4部:Q&Aセッション(Berlin Co-Production Market 編)

 

 

・Q1. ヨーロッパと日本の映画に対する助成金のシステムは異なりますが、もしこれまでにEFMに参加した企業で、ヨーロッパの国と日本のCo-Productionがうまくいった例があれば、教えてください。
 
Martina  Co-Production Marketに参加している日本のプロジェクトは数として多くはありませんので、具体的にお答えするのは難しいですが、船橋 淳監督の『BIG RIVER』は共同製作が成功した事例としてあげられます。ただこの作品は、共同製作をした相手がアメリカでした。この共同製作作品は大変大きな成功を収めましてベルリーナレフォーラムでも上映をされています。最近ではあまり日本のプロジェクトの応募がないので、ぜひもっと日本の方々には応募してほしい願っています。
 
この船橋淳さんがアメリカとの共同製作でマッチングした場がタレントプロジェクトマーケットでしたので、その点からするととてもいい成功例であったと思います。
 

・Q2. 共同製作に積極的な国、特にアジアとの実績が多い国があれば教えてください。
 
Martina  大変いい質問です。ヨーロッパの国のほとんどは共同製作に興味があります。国によって興味の深度は違いますが、多くの国がヨーロッパ以外の国とパートナーシップを組もうと考えています。これまでの事例でいえばフランスはアジア各国と協力するということに大変積極的に取り組んでいました。ドイツもしかりです。この2ヵ国以外のところでもよりオープンにパートナーシップを組み共同製作をするというところが増えてきていることは、みなさんに強くお伝えしたいです。デンマーク、ベルギー、ルクセンブルグ、ポーランド、そしてメキシコのような国までもパートナーシップを組んでいくことに大変積極的です。これらの国はとても良い資金調達のスキームを持っていますので、共同製作がやりやすいという利点があります。ぜひ視野を広く持ってパートナーを探していただきたいと思います。
 

・Q3. EU市場で注目されているアジア映画のジャンル、EU以外の海外コンテンツの海外進出状況やゲーム関連の映画作品のレビュテーションについて。
 
Martina  人気のあるジャンルとしてはやはりスリラーなどがあげられるかと思います。近年でいえば『万引き家族』がとても大きな人気を集めました。『万引き家族』のような映画は人気を博す全ての要素が詰まっていると感じます。こういった映画を作るということは、大変センセーショナルなわけですが、こういった映画は好まれます。ドイツの場合、長編映画のマーケットは配給マーケットが大きくないというところが1つの特徴です。これは言葉の問題というよりはマーケット規模の問題なので、長編映画については、フランスにより大きな市場があるといえます。
 

・Q4. 日本とヨーロッパでは製作資金集めが大きく違い、それが共同製作の弊害となっているが、それについてどのように考えていますか。
 
Martina  ヨーロッパ側の観点からすると、パートナーシップを組む際にヨーロッパのファンド及びプロデューサーにとって大変重要なのは、製作国からの貢献がどれくらいあるかということです。その映画が例えばドイツの映画というラベルが張られましたら、ドイツの要素が入っているかが重要で、単に作品の中にドイツっぽいものが入っているということだけではなくて、ドイツ人のクルーが製作チームにいるか、そういったことがこの共同製作をするうえで重要なわけです。
 
ヨーロッパのファンドが1番重視するのは、自分達の国のプロフェッショナルがきちんと活用され、作品に貢献するためにお金を提供するということです。よって、文化的なアイデンティティが入っていることが重要な要素になります。これは必ずしも日本映画を作る時に資金調達をする上で、ヨーロッパ的なものを無理矢理作品に入れ込まなければいけないということではありません。とても日本的な映画を作りたいが、共同製作をしたいという場合には、例えば音声や編集者などのクルーの中にヨーロッパ人がいるなど、そういったかたちでも構わないわけです。人々のインテグレーションを行った製作であることが大事なわけです。また共同製作をする際には早期段階で色々と話していくということがとても有益です。様々な意見交換を行う中で、「この部分はヨーロッパの人達にはわかりにくいので、もう少し説明的要素を入れてほしい」などのフィードバックを相手側のプロデューサーから得ることができます。そうすれば、その市場でより成功する作品ができるという点でもとてもメリットがあります。
 
注意しなければならないのは、一部の国においては、助成金が出た場合に、年末までに使い切らなければいけないという誓約がある場合があります。これは共同製作においては大きな障害となります。自国からも、パートナー国からも資金を得ても、いつまでに使い切らなければいけないタイムリミットがある場合、私たちでは解決することができません。各国の政府の予算がどのような構造になっているのかという問題に起因する根深い問題ですので、事前によく調べる必要があります。
 

・Q5. 日本からやヨーロッパを拠点としていないアジアからの参加者が、参加するメリットは?
 
Martina  参加するメリットは、大変容易にパートナーを探すことができるということです。こういったCo-Production Marketがなければ自分たちで暗中模索で人を探さなければいけないわけですが、マーケットに参加していただければ既に事前にカタログを見た人達から「あっ、ここのプロジェクトに興味がある。だから会いたい」というようにリクエストがあります。そして私達の方で、そのミーティングのマッチングをするわけです。また参加していただくことにより、どういったプロジェクトが現在存在しているのかということを知っていただくこともできます。
 
また共同製作にマイノリティパートナーとして参加をしたいと考えている場合でもとても有益です。自分の手持ちのプロジェクトがなくても自分の国でこういったことをやっているということを他の参加者に知らしめる機会にもなりますので、みなさんの国のプロモーションにもなるわけです。ですからこのプロジェクトがない場合でも様々な人に会ったり、ネットワーキングをするというのは大変有効だと思います。
 

・Q6. 以前SABU監督がベルリンに滞在しながら企画を開発するファンドを得て、製作されていたが同じようなレジデンシャル型支援は今でもあるのでしょうか?
 
Martina  SABU監督はDAAD*のレジデンシープログラム*に参加されていたと思いますが、このプログラムは現在も行われていて、毎年募集しています。実は2021年についてはもう締め切られていますので、次は2022年9月の応募ということになります。またWEBサイトには、ベルリナーレ・タレンツレジデンシープログラムというものもありますので、それを参照していただきたいと思います。
(*DAAD Artists-in-Berlin Program:毎年世界各国から約20名が参加できるアーティスト・イン・レジデンシープログラム。世界で活躍が期待されるアーティストがベルリンに1年滞在し映画や芸術、文学、音楽の企画開発を行う。詳しくはこちら)
 

・Q7. ローカルな題材を扱う作品をワールドワイドに売っていくために必要な観点やポイント(ローカル作品のどこに可能性があるか)。
 
Martina  ローカルな題材を扱う作品には大きなポテンシャルがあると感じています。Matthijsからもお話がありましたが、よりローカルであればあるほどよりグローバルに拡がるといわれています。そしてグローカルという言葉もあるほどです。そのテーマが普遍的であれば、国、人種に関係なく、私達にも理解することができます。私達は自分の日常生活から飛び出して違う世界に行きたいという欲求が映画館に向かわせるわけです。ですので、日本独自の世界観を打ち出すことは、大きなポテンシャルがあると思います。そしてそれは共同製作をする上でも大きな利点です。日本らしいものを見せたい時にどういったところは理解され、逆に難しいのか、その行動規範は独特のものなのかということを事前にスクリプトの段階から意見をもらことができます。そうした軌道修正により他の国の人達に受け入れられやすい日本のローカルの作品を世界へ拡げていけると思います。アジアのいい作品がたくさんここから生まれました。それらの映画に共通するレシピを洗い出すことは大変難しいですが、独自性がある中にも情感的な部分は私達も理解・共感することができます。たとえ共感できなかったとしても、その国の独自性に魅力があると思っています。
 

 
木元 貴重なお話をありがとうございました。参加されたみなさまもたくさんの質問をありがとうございました。EFMは2021年2月11~18日、Co-Production Marketは2月13日~17日を予定しております。みなさまも来年はぜひご参加してみてはいかがでしょうか?
ご視聴いただきありがとうございました。
 

 
各プログラムの応募ページはこちら
 

 
 

Matthijs Wouter Knol氏
オランダ生まれ。2001年からオランダ人監督Johan van der Keukenのデジタル・リマスター作品を含む、数々のドキュメンタリー映画のクリエイティブプロデューサーを務め、2006年にCahiers du Cinéma賞を受賞。その後、2001年から2007年は映画のインスタレーションや映画と関連するフォトグラフィープロジェクト、協議会、印刷物のプロデュースを担当する。それから一年間、共同製作やセールスの知識を生かし、オランダのIDFAに務める。「IDFAcademy」 トレーニングプログラムを指揮し、その後も順調に「IDFAcademy Summer School」も始動した。
ベルリナーレタレンツを2008年から14年まで担当しベルリンのサミット、スタジオ、ラボのプログラミングを監督。その後世界6カ国で姉妹プログラムもコーディネートした。2012年にはベルリナーレレジデンシープログラムを共同設立。
2014年よりEuropean Film Market(EFM)を担当し、世界の主要映画マーケットの一つであるEFMを急速に変わりゆく映画業界に順応したかたちにすることに注力してきた。高いクオリティを持つドラマシリーズ等のプラットフォームに合ったマーケットを追加する傍ら、新しい配給・セールスやマーケット戦略が発表される新プラットフォーム「EFM Horizon」もスタートさせ、よりEFMの規模を拡大。2021年からはヨーロピアンフィルムアカデミーのディレクターとなる。

Martina Bleis氏
Berlinale Co-Production Market代表・プロジェクトキュレーター。応用文化学にて文学博士号を取得したのち、EAVEプロデューサーワークショップを卒業。Berlinale Co-Production Market創設者の一人。現在はキュレーションアドバイザーやメンター、モデレーター、審査員など、世界各国の映画祭やワークショップにて国際共同製作のコンサルティングを行っている。


 
 


新着のインタビュー記事はメールニュースでご案内しています。
よろしければ、こちらよりご登録ください。

メールニュース登録


インタビューTOP