VIPO

インタビュー

2018.07.20


JeSU岡村会長が語る、eスポーツの未来と可能性

アジア競技大会の公開競技にも認定され、今後さらなる発展とプレー人口の増加が見込まれるeスポーツ。日本では2018年2月、日本国内におけるeスポーツ産業の普及と発展を目的とした新団体「一般社団法人日本eスポーツ連合(Japan esports Union、略称:JeSU、読み ジェス)が発足。今回は「JeSU」の会長(代表理事)である岡村秀樹氏に、市場や選手の育成、ライセンスの発行などeスポーツのこれからについてお伺いしました。

(以下、敬称略)

eスポーツを発展的・多角的な視点で知る

急拡大する世界のeスポーツ市場

eスポーツの歴史 – 日本・海外


VIPO専務理事 事務局長 市井三衛(以下、市井)  まずはeスポーツの歴史を教えていただけますか?

一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)会長 岡村秀樹(以下、岡村)  eスポーツの歴史はコンピュータゲームの歴史とともにあると理解していただけるといいと思います。
 

〈日本におけるeスポーツの歴史概略〉
1983年 任天堂からファミリーコンピュータが発売され一般家庭にゲームが普及。
1985年 日本初の大会「全国キャラバンファミコン大会」が開催(賞金付きではなく、興行というよりは、プロモーションを目的)。それ以降、全国各地でコンピュータゲームの大会が開催されるようになる。<黎明期>
1990年代 カプコンから『ストリートファイターII』が発売。爆発的なヒットで、各地で大会が盛んに開かれるようになる。梅原大吾さんが活躍し始める。
2000年代 オンラインPCゲームが非常に盛んになり、ワールドワイドに遊べるようになったことで、競技人口が増加。この頃にeスポーツという言葉が海外で使われるようになったと言われている。
2003年~2012年頃 eスポーツ大会の闘劇*が開催。
2015年 「一般社団法人日本eスポーツ協会」発足。「一般社団法人e-sports促進機構」発足。
2016年 「一般社団法人日本eスポーツ連盟」発足。
2018年 「一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU, Japan esports Union)」(ジェス)が発足。※「JeSU(ジェス)」が「CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)」と「JOGA(一般社団法人 日本オンラインゲーム協会)」の協力の元、日本におけるeスポーツ3団体である「(一社)日本eスポーツ協会」、「(一社)e-sports促進機構」、「(一社)日本eスポーツ連盟」を1つの団体に統合。
*コンピュータゲームの1ジャンルである対戦型格闘ゲーム大会の一つ
〈海外におけるeスポーツの歴史概略〉
1972年 スタンフォード大学でビデオゲームの大会が始まる。
1980年代 インベーダーゲームの大会に1万人が参加。『パックマン』(ナムコ〔当時〕業務用ゲーム機)や『ドンキーコング』(任天堂業務用ゲーム機)で高スコアを獲得するスタープレイヤーが生まれる。
1990年代 通信環境の向上やPCゲーム機の高性能化によりオンラインでのマルチプレイが可能になり、リアルタイム性が加わり戦略性が増す。賞金付きの大会などさまざまな大会が開催。
2000年代 eスポーツは世界に拡張し、韓国、アメリカ、フランス、中国、イギリスで国際大会が開催される。
2003年 中国国家体育総局がeスポーツを99番目の正式体育種目に指定。
2006年 「アジアオリンピック評議会」主催の「第2回アジア室内競技大会(Asian Indoor Games)」にeスポーツが正式種目として採用。
2010年代 ライブストリーミングにより多くの人がオンラインで大会を観戦し、興行性が出てくる。

市井  2010年代がビジネスへの転換期ですね。

岡村  そうです。ゲーム好きが集まってゲームをしているだけであればただのゲーム大会ですが、そこに多くの人が観客として集まれるような配信環境を整えて、ビジネスとして成立させたことが大きな転機になりました。

 

 

市場は世界規模、競技人口もファン数もリアルスポーツに匹敵

岡村  スポーツには観戦者がいますが、海外調査会社Newzooによると、世界のeスポーツ視聴者は、2018年で約3億8千万人、2021年には、5億人を超えて6億人近くなるだろうと言われています。これは、サッカーやメジャーリアルスポーツに匹敵する規模です。

市井  この数年で倍増ですか……。

岡村  そうですね。常連と言われるゲーム好き観戦者と一般ファンとの割合が、2016年くらいから逆転してきており、特にゲームコアファンでなくても自分の興味のある大会を見ている人が増えています。2017年には一般ファンが1億9200万人、常連ファンが1億4300万人程度と想定されます。

市井  一般ファンが多いとは意外でした。


岡村  常連ファンの世界分布は、アジア太平洋が53%、北米14%、欧州18%、その他15%程度と予測されています。

市場規模は2016年ベースの推定で、おおよそ北米で2.7億ドル、アジアで3.3億ドル、欧州で2.7億ドル程度といわれています。(出典:eスポーツグローバルマーケットレポート2016/SuperData Reserch) 

市井  市場の大きさは、何で測っているのですか?


岡村  eスポーツによって生み出される「ビジネス」「放送権利」「大会の興行収入」などです。観戦者の規模は2017年には2015年比で20%強伸びると予想されています(出典:Super Data Reserch)観戦者が増えれば、スポンサーになる企業がついてきます。最近はメジャーブランドのスポンサーも増えてきています。

市井  アジア市場はいかがですか?

岡村  アジアでは中国、韓国を中心に競技人口・観戦者数が圧倒的に多いですね。日本はまだ始まったばかりです。

市井  ちなみにインドはいかがですか?

岡村  今はまだ少ないですが、ジャカルタでアジア競技大会が開催されることもあり、これから増えていくのではないかと思っています。eスポーツは通信インフラがしっかりしていないと思うように発展できないので、そういった意味で通信環境とは表裏一体の世界だといえます。

 

 

米国・中国・韓国の国の支援策


市井  主な国の政府の取り組みについて伺わせてください。各国のサポートはどのようになっていますか?

岡村  米国では、eスポーツでのアスリートビザの発行や、大学ではeスポーツ奨学金がでてきていますし、高等学校連盟がeスポーツを競技として採択しています。

中国では北京大学がコンピュータゲームの選択授業を開設しました。授業では、eスポーツの試合会場への見学なども計画し、コンピュータゲームの開発だけではなく、ビジネス的な内容も含めた業界全般について学ぶことになっているとお聞きしています。また、中国では7,000人を収容可能なeスポーツスタジアムが中国・重慶に造られています。PCが並び、大きなスクリーンがあり、ライティングがある大規模なスタジアムです。

市井  アメリカ、中国は、やはり動きが早いですね。

岡村  韓国においても、ソウルをはじめいくつものeスポーツスタジアムができています。やはり米国や中国、韓国などeスポーツが盛り上がっている地域は、国や公共機関などと連携し先進的に取り組んでいます。そういった点では、日本はまだ民間任せの状況だと思います。

 

 

プロゲーマーの世界

どんな人がプロゲーマーなのか?


岡村  eスポーツの競技人口は世界で1億人を突破すると言われています。アメリカ、北欧、ヨーロッパ、中国、韓国、世界中のプロゲーマーの中で充分暮らせるくらいの収入を得ている人は40%強だろうと言われています。

特に中国、アメリカ、韓国には、世界的にもトップクラスのプロゲーマーが多くいます。選手自身にスポンサーがつくこともあるので、その収入で年間数億円を稼ぐプロゲーマーもいます。

市井  年収数億円ですか。プロゲーマーの平均年齢はいかがですか?

岡村  一般的にはやはり10代後半から20代にかけての選手が多く、30代になるとeスポーツはきついと言われていますね。現在、日本でプロゲーマーでも生計を立てられるほどの年収を稼ぐ人は数人程度ではないでしょうか。

市井  厳しい世界ですね。

岡村  これらの人たちは海外の大きな大会に出場して賞金を獲得していますが、大会によっては法律などの兼ね合いで日本人参加者に賞金を出さない場合もあります。

ただし今後は「日本eスポーツ連合(JeSU:ジェス)」のプロライセンスを保持していれば安心して出場して賞金も獲得できるようになります。

市井  それは大きな前進ですね。

岡村  日本でのeスポーツを取り巻く環境は、現時点では海外とは同レベルではないですが、以前とは大きく変わってきており、今後ますます良い方向に向かっていくと思います。

市井  「JeSU(ジェス)」として、プロゲーマーの規模はどのようになっていくと思いますか?

岡村  今のペースでいけば、3年後は500~600人程度に増えるのではないかと考えています。 年齢が高くなるとシフトアウトしてしまう方も出てくるかと思うので、継続的に新しい人にも入ってきてほしいです。

 

 

高い集中力とメンタルの強さ


市井  どのゲームもeスポーツの対象になるわけではないですね?

岡村  まず「競技性」が必要です。ゲームの結果が運だけによって左右されるものは、eスポーツの対象にはなりません。競技性としての要素がどのくらい高いかで見ていきます。

市井  プロゲーマーのイメージの1つとして、普通の人が見ても「すごい!」と思えるということが起きるということでしょうか? 一方でゲームをする人のイメージは、一般的に、少し消極的で暗いイメージがあると思うのですが……?

岡村  ゲーマーというと、暗いというイメージを持たれることもありますが、長時間にわたって競技をしていくには、非常に高い集中力と、メンタルの強さがないとやりきれません。したがって、心身ともに健全ではないとできませんし、普通のスポーツのアスリートと同じような要件が要求されるのです。

さらに予選から始まって数日間にわたって行われるメンタルコントロールも、ものすごく大変です。勝ち上がっていく人は、そういうことを身に着けている人です。中にはジムで体を鍛えている人も大勢います。

市井  心身ともに、強さが必要なんですね。

岡村  そうです。緊張して実力を出し切れないことはどんな場合でもありますが、eスポーツは一瞬にして勝敗が決まってしまう場合が多いですし、またチーム戦の場合はコミュニケーションの要素もものすごく重要ですから、コミュニケーション能力などの社会性が欠如していたらできないですね。

日本でもゲームユーザーは約5,000万人いるといわれており、その中でもeスポーツのトップアスリートを目指す人は心身共に健全に取り組まれています。

市井  確かにそうですね。競技時間の一番短いゲームはなんですか?

岡村  『ぷよぷよ』(落ち物パズルゲームのシリーズ。セガゲームスが販売)などは代表的で、3~4分で終わってしまう場合もあります。

市井  それでは長いものは?

岡村  ゲームにもよりますが、チーム対戦のゲームなどは、1試合30分以上かかるゲームもあります。

市井  その30分を何度もやるって大変ですよね。


岡村  チーム戦のタイトルでは、5セットやって3セット先に勝ったら勝ち上がりといったルールも存在します。そうすると数時間以上になりますね。いずれにしてもその間、コミュニケーションと集中力を維持するということです。

市井  うーん、これはかなり集中力を要しますね。 国別でやっても盛り上がりそうですね。

 

 

女性も同等に活躍できる

市井  プロゲーマーは基本的には男性ですか?

岡村  女性もいます。セガの「ぷよぷよカップ」には女性選手も出場されています。

市井  競技はリアルスポーツ同様で男女別ですか??

岡村  男女別ではありませんが年齢制限はあります。女性が不利ということはありませんが、現在は男性のほうが圧倒的に多いです。

市井  男女別でないスポーツって、ほかにありますか? もしかしたら、初めてのケースかもしれないですね。これは「売り」かもしれませんね。

岡村  確かにそうですね。

 

 

新しい職業の誕生


岡村  今までは、eスポーツに対しゲームを好きな人が独自に道を切り開きながら手探りでチームや個人として取り組んできました。しかし、日本でもようやく専門学校などにおいて、プロゲーマーやゲーム実況、イベント運営などeスポーツに関わるさまざまな職業のノウハウを教える学科が、2年ほど前くらいから立ち上がり始めました。

市井  ライセンス化の前に学校が学科を作って、すでに卒業する人も出てきているということですか? 学校側はライセンス制度ができると思って投資を始めたということですか?

岡村  「JeSU(ジェス)」は約半年の準備であっという間に立ち上げたので、学校側も日本でこのような形で立ち上がるとは予想していなかったと思います。ただし、「世界の潮流」としてはeスポーツは拡大しており、そういった点を見て取り組まれているのではないかと思います。

市井  学科の開設時点では、日本でどうなるかわからないのに、学校に入った人がいたということですね。

岡村  そうなりますね(笑)。eスポーツはコンテンツの開発会社や選手だけではなく、大会の運営、実況、配信など様々な役割の人たちが関わりビジネスとして形成されます。例えば、ゲーム大会の実況者はゲームに精通していて、自身のスキルも高くないといけないのです。

リアルなサッカーの場合、「今、いい動きをしましたね」など俯瞰して観ながら伝えますが、eスポーツのゲーム大会では手元とモニターの両方を見ていなくてはなりません。

「どういう操作をしてそういうことになったのか」を解説する必要があるからです。

プレーヤーは必ず2人以上いて、これがチーム体制になるとチームワークでファインプレーをしたりします。それを全部カメラで追って、実況者がタイムリーに実況します。ディレクターは実況に合わせ、瞬時に編集をかけて配信するわけです。

市井  16人全員同時……目が回りそうですね。一瞬でゲーム全体を把握してプレーを分析するんですね。

岡村  これは特別なスキルなんです。そしてそれはつまり、周辺ビジネスとして新しい職業が誕生したといえるのではないかと思います。eスポーツに関しては大会運営が盛り上がるノウハウは普通のイベントとは違うので、専門学校の授業ではそういったノウハウも勉強することができます。

 

 

日本のeスポーツの未来に向けて

JeSU – 事業推進団体とIPフォルダーが一緒になった画期的な組織


市井  日本のeスポーツ業界の現状はいかがですか? どんな課題がありますか?

岡村  まず最重要課題としては「JOC(日本オリンピック委員会)」への加盟が挙げられます。 

我々「JeSU(ジェス)」は、日本の9割のゲームメーカーが参加している「CESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)」と「JOGA(一般社団法人 日本オンラインゲーム協会)」の協力のもと、日本におけるeスポーツ3団体である「一般社団法人日本eスポーツ協会」、「一般社団法人e-sports促進機構」、「一般社団法人日本eスポーツ連盟」を統合して1つの団体になりました。

JOC(日本オリンピック委員会)」は統合された1つの団体しか承認しないというという前提をもっていますから、これは重要なポイントです。

もう1つ「JeSU」の設立で画期的なポイントは、eスポーツを推進する3つの団体とIPフォルダーが一緒になったということです。これは非常にエポックメーキングで世界に類を見ない要素です。

日本はeスポーツ後進国だという方もいますが、先行している国での問題点を研究して、それらをクリアするために、各ステークホルダーが手を組んで組織を作る、これはかなり画期的だと思います


市井  今後、何か懸念するようなことはありますか?

岡村  eスポーツは興行性をもちますから、反社会勢力と結びついてしまうのが怖いですね。

そこに選手がはまってしまうことは避けなければなりません。ドーピングの問題もそうですが、そういうことがないような啓発活動、ライセンスを受けた人に対する教育活動をしっかりやることも、責務として考えています。

市井  「JeSU」としては限度がありますよね?

岡村  賭博で捕まるようなスポーツ選手もいますから、絶対皆無というわけにはいかないかもしれません。しかし、そういうことが起きない教育やルールを作り上げていく取り組みが非常に重要だと思います。

市井  若い頃からの教育、小学生や中学生に対する教育も必要となってきますよね。

岡村  「JeSU」の場合は、義務教育を終了していないと、プロライセンスは発給しません。

未成年はライセンスでもなんでも親の同意書を必要としていて、これでもかというくらい厳しくしています。

 

 

ポピュラリティの高いJeSUのプロライセンス認定制度


岡村  世界では賞金総額30億といわれる大会が開かれていて年間獲得賞金が数億円を超すプレーヤーも出ています。

そのようなプレーヤーたちが憧れの的になるという流れが韓国や中国、アメリカ、ヨーロッパで起きています。

そこで「JeSU」ではプロ認定制度を作り、公正なルールで一定のレギュレーションに基づいて行われる大会で、上位に位置する人がプロの認定を受けるという仕組みを作っています。

今回多くのゲーム会社が賛同する、ポピュラリティの高いレギュレーションの認定制度を「JeSU」が作りました。これは国家認定試験ではありませんが、社会通念上ずっと担保されていけば、それ自体は取引付随性を目的としたものではない、消費者が害を被るものではないというものになります。プロは「景品表示法」の外枠にあるものとみなされます。

市井  プロが参加して賞金をもらうのは問題なく、上限も決まってない、ということですね。

岡村  プロ制度は高額賞金をとるためだけのものではありません。プロライセンスを持つ高度な技能を発揮した人たちがリスト化されて、国際大会の強化対象選手になります。国際大会ではシード権を与えられたりするので、プロ認定を受けるということは、「JeSU」が窓口になる国際大会に派遣される選手の候補になるというメリットもあります。

市井  アマチュアですごく強い人が生まれた場合は当然、「JeSU」としてはプロ認定に誘うのですか?

岡村  認定を勧めますが、本人の自由ですから、認定は受けなくてもかまいません。

市井  認定は受けないと強化選手として送り出せないのでは?

岡村  国際大会の場合は特別なものの考え方で、プロ認定を受けなくても、送り出すという場合もあります。海外ではライセンスを受けるという認識は全くありません。
 

 

世界中のプレーヤーから選ばれてゲーム産業が活性化する


岡村  スポーツとeスポーツは違いますが、eスポーツは新しいジャンルだと思います。

ゲームも含めて先端産業にもっと目を向けてほしいですね。中国などは本気で国家戦略として取り組んでいますし。

市井  具体的な方向性はありますか?

岡村  今回のアジア競技大会で採用される5ゲームのうちの1つが日本のゲーム『ウイニングイレブン2018』(コナミのサッカーゲームシリーズ作品)ですが、5つのうち一つでも多く日本発のゲームになるように、日本のゲームが普遍的に世界中のプレーヤーに広がって欲しいと思っています。

そうなってこそはじめて、日本のゲーム産業が活性化して底上げされていくのではないかと思います。そこには人材や注目も集まるので、いいものを創り出すモチベーションが働いて、ビジネスチャンスが広がっていきます。

市井  世界大会に選ばれるゲームというのは、どこが決めているのですか?

岡村  今回のアジア競技大会の場合は、アジアオリンピック委員会に委託された「AESF(Asian Electronic Sports Federation)」です。

多くのプレーヤーを有する作品の中から選ばれており、そういった点でもやはり一定の規模は必要ですね。

市井  興行が大きくなっていくとスポンサーの話が出てきますよね。ゲームを提供するメーカーが、大会のスポンサーになるということもあるのですか?

岡村  そういう事例は少ないと思います。

昔はメジャーな企業がスポンサーになることはそれほどありませんでしたが、今は異業態からのスポンサーの申し込みも結構あります。とりわけ若い人が集まるので、そこにリーチもできますし、ビックデータにもなるわけです。そこに集まる人たちの属性をきちっと見ているということですね。

 

 

ワールドワイドで普遍性のある日本のゲーム作りの思想に期待


市井  流行っているゲームに、世界と日本で違いはありますか?

岡村  海外は「FPS」(ファーストパーソン・シューティングゲーム、一人称視点シューティングゲーム)、MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)、TCG(トレーディングカードゲーム)、FTG(ファイティングゲーム)などが人気が高いです。

日本ではリアルスポーツ系のゲームもさることながら、相手を殺さないことが前提のゲームが多いです。スキル性に頼らないタイトルが今までは比較的多かったですが、これからはスキル性を問うゲームも増えてくるのではないかと思います。

市井  残虐性の低い、スキル性を問うゲームとはどんなものでしょうか?

岡村  例えば『スプラトゥーン』(任天堂のWii U専用のアクションシューティングゲーム)などはそうです。このゲームは、人を倒す代わりにペンキを塗ります。日本人らしい発想のゲームだと思いますし、この発想が非常に重要だと考えています。欧米などはチームで組んで相手の部隊を全滅させる戦争ものも多く、こういうタイプのものは日本には少ないですね。

国際オリンピック委員会のバッハ会長が「暴力や爆発、殺害などが含まれるゲームとは明確に一線を引かなければならない」という発言をされていました。これは、当たり前ですよね。

これからは、日本のゲームの作り方の思想のような、ワールドワイドで普遍性があり、スキル性の高いものが生まれてくるのではないかと思っています。

市井  ほかの国のゲームメーカーはオリンピック競技を意識して、今までとは方向性を変えてくる可能性はありますか?

岡村  おそらく変えてくるものもあるでしょう。さきほどいった、『スプラトゥーン』のような発想は日本に一日の長があると、私は信じたいです。

市井  最後につけ加えることありますか?

岡村  アベノミクスの一環で、スポーツGDPを約3倍に、5兆円を15.5兆円にしようとしています。しかし人口が減っているので、今までのやり方だと3倍にはならないですよね。

そこで、eスポーツに目をつける政治家の方もいらっしゃいますが、広い範囲でスポーツをとらえて行かないと、日本のスポーツ産業もボリュームオフになってしまいます。

先ほど申し上げたように、eスポーツは社会性やメンタルの強さ、自分の心身をきちんと健全に保って競技に耐えうる状態にしておくためのコントロール能力が要求される健全な競技です。eスポーツは、ゲームが与えがちな負のイメージとは違うところにあると理解してほしいです。

 

 

岡村秀樹 Hideki OKAMURA
一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)会長/セガホールディングス代表取締役社長

  • 1955年2月生まれ。1987年にセガ・エンタープライゼス(現セガ)に入社後、97年に取締役コンシューマ事業本部副本部長 兼 サターン事業部長、2002年にデジキューブ代表取締役副社長、03年にセガ 専務執行役員コンシューマ事業本部長に就任。04年にセガ 常務取締役コンシューマ事業本部長、08年にトムス・エンタテインメント代表取締役社長を経て、14年にセガ代表取締役社長COO、15年に株式会社セガホールディングス代表取締役社長COO、セガゲームス代表取締役会長(現取締役)となる。同年、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会会長就任(現特別顧問)。


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