VIPO

インタビュー

2018.06.12


『アニメNEXT_100』ー 101年目を迎える日本のアニメがこの先100年も世界のトップでいるためには

日本を代表するコンテンツとして世界で高く評価されている日本のアニメが昨年100周年を迎えました。これをきっかけに生まれた『アニメNEXT_100』のプロジェクトは、日本のアニメの「チカラ」をさらに発展させて世界・未来に繋げていくためのものです。今回は一般社団法人日本動画協会理事長でこのプロジェクトの代表である石川和子氏と本プロジェクトの統括プロデューサーで株式会社サンライズ 代表取締役社長の宮河恭夫氏をお迎えして日本のアニメのこれからについてお伺いしました。

(以下、敬称略)

日本のアニメの未来は、人材育成とIPビジネスのブラッシュアップにかかっている

日本のアニメの「チカラ」はずっと世界標準だったこと

日本のアニメ100周年のプロジェクト『アニメNEXT_100』とは


VIPO専務理事 事務局長 市井三衛(以下、市井)  『アニメNEXT_100』ではどのような活動をされてきましたか?

『アニメNEXT_100』プロジェクト代表 石川和子(以下、石川)  国産アニメーションが日本で初上映されてから100年になる2017年にむけて、2015年に日本動画協会(以下、「動画協会」)が中心となって100周年検討会を立ち上げ議論を重ねてまいりました。その結果、ア二メの未来を創造することを大きな柱とした『ア二メNEXT_100』プロジェクトチームを組成し以下の3つのテーマが設定されました。

 

『ア二メNEXT_100』プロジェクト3つのテーマ
1. 日本のアニメ大全
2. アニメーション教育・人材発掘・育成
3. アニメの未来

そこで、『ア二メNEXT_100』全体を統括する会議体を設置し、その全体の統括プロデューサーを宮河社長に担っていただいています。また、プロジェクト全体のアドバイザーとして、各分野の専門家でいらっしゃいます5名の皆様にご参加いただくことができました。
そして、3つのテーマごとにプロジェクト推進チームを組成し今に至ります。

市井  3つのテーマをもう少し掘り下げて、どんなものを目指されているのかを教えていただけますか?

1. 日本のアニメ大全

石川  「日本のアニメ大全」は、日本のア二メを歴史的かつ網羅的に体系立て、日本のア二メ100年の歴史を皆さんに知っていただき、未来へ繋げるという想いで立ち上げました。「動画協会」として作品情報とアーカイブ情報を兼ね備えた網羅的データベースを構築することを目指して推進しております。それらは、制作に携わられた関係者の皆様のご協力によって今日に至っています。

この「日本のアニメ大全」が基礎になり、日本のアニメーションの歴史を皆さんに知ってもらえるようにと現在進行中です。作品を知っていただくために一番大切な問い合わせ先についても、国内だけではなく海外へ向けた発信を意識しています。

市井  日本のアニメの原点を探求する「調査研究」と「作品情報」の2つの切り口に関してはいかがでしょうか?


石川  「調査研究」はそれぞれ学術的な視点や研究テーマを持たれている方たちに、メンバーとして参加いただき共同調査・研究を行い、随時成果発表をさせていただいています。

「作品情報」という観点からはIPへの対応も含めてですが、各社で著作権を含む作品情報を継承していくことの大切さをふまえて、ア二メ産業界のナレッジが継承されていくようにメタ項目を検討し、サブタイトル数などまで1作1作突き詰めています。VIPOが運営しているJACC®*(Japan Content catalog)は海外からのビジネスユーザー向けにアクセスもしやすく、情報もセグメントされていらっしゃると思います。

「動画協会」ではエンドユーザーが必要とする作品情報まで掲載できるよう努めており、制作会社にとって利便性が高い性格を持つように心がけております。

市井  作品数はどのくらいありますか?

石川  現在私どもでデータベースに入力しているタイトルだけで約1万2,000作品あります。エピソード数では16万話以上はあります。それらのカテゴリーとなる、初出(初放送・初上映・初配信など)劇場、テレビ、WEB、配信など、どのように展開されてきたかも分かるようになっております。

「アニメ大全」による著作権情報については、初めて公開・放送された時点の初出情報を採用しています。

市井  とても大変なプロジェクトですよね。英語の情報は入っているのですか?

石川  英語の情報は作品によって情報量の差が大きく異なりますので、どのように網羅していけるのか、するのかが課題となっています。これらについては、基準作りなど含めてVIPOにも相談に乗っていただけたらと思っています。

市井  JACC®*(Japan Content catalog)とのリンクもあるといいですね。

石川  2019年から2020年には公開したいと思っています。一方で、アニメに関するデータベースが複数できるのではなく、一括管理を行うことが産業界としても望ましく、事業化して運営していくことも課題だと思っています。

市井  「動画協会」に加盟している皆さんは、「日本のアニメ大全」をつくっていく強い気持ちをお持ちなのでしょうか?

石川  やらなければならないと思っている、と思います。
もう少し、産業界全体として皆さんにご協力をお願いしたいと思っています。古い作品を知っている方も含めて、どこまで追いかけるのかという問題もあります。それが歴史ですし、あらためて事業に結びつくこともあると思うので、地道に進めながらも、できるだけ早く公開できるようにしたいですね。

市井  データベースに関しては私たちも行っていますが、常にアップデートが必要ですよね。「でき上がって終わり」ではないので大変だと思います。

『アニメNEXT_100』の3つのテーマの2つ目、人材育成についてもお願いします。

*登録商標”JACC”は,当機構が株式会社ITSCから許諾を得て使用しています。

2. アニメーション教育・人材発掘・育成


石川  人材育成というと、アニメに実際に関わっている人の育成だと思う方もいると思います。実際にそれも大切なことなのですが、このプロジェクトは未来を担う子どもたちの創造力や発想力、生きる力を引き出すために、アニメーションのチカラを使って教育していこうというものです。

私は教育のツールとしてアニメーションを使っていくことを啓蒙していきたいと思っています。子どもたちが、創造力や生きる力を自分たちで培っていかなければならない中で、楽しみながらそれを引き出せるようにしたいです。アニメーションはそのためのツールとしてもふさわしいと思いますし、多くの方にアニメーションを使って楽しく教育していただきたいと願っています。


市井  具体的には「アニメイク・キッズサマージャンボリー」などがそれにあたりますか?

石川  はい。「アニメイク・キッズサマージャンボリー」は2017年8月に4日間、秋葉原で行いました。アニメーターの方に実際に先生をつとめていただき、子どもたちにはアニメーションを創ることを体験をしてもらいました。

そこで子どもたちが私たちの想像を超えるようなすごい力を持っていることを改めて感じましたし、子どもが自由にものを考えたり描いたりすると、プロのアニメーターも想像できなかったものができるということを、参加されたアニメーターも、アニメーターとして貴重な学びの場になったと話されていました。

市井  アニメの作り方のHow-toを学ぶことによって、「アニメってこんな風に作られているんだ」ということを分かってもらう趣旨も入っているということですね。

石川さんが最初に言われていた「通常の教育プログラムの中にアニメーションを用いる」という部分に関してはいかがでしょうか?

石川  「アニメイク・キッズサマージャンボリー」は4つのプログラムを同時並行で実施いたしました。

教育者向けには、アニメーション教育カンファレンスとして、「アニメーション教育」「アニメーションメソッドを用いた教育」の2つのテーマを取り上げ、ア二メを活用した教育法について実践的にアプローチできる機会を設けました。

アニメの未来を考えた時、小学生のころからアプローチしたほうがいいと考え始めたきっかけは、学習指導要領の中で採用されているアクティブラーニングの進め方やアニメーションのワークショップを学校で行いたいというお問い合わせが「動画協会」に寄せられていたこと、また、「動画協会」の人材育成委員会で、「子どものうちに、身に着けておいた方が良いことがたくさんある」という産業界の現場から声があったことです。

市井  ニーズにきちんと応えられたんですね。

石川  アニメが好きになって、アニメに関わるような仕事をしてほしいと願うと同時に、全てのことを観察する大切さも教えたいです。自然に身につく観察力や想像力はアニメーションの仕事以外でも大切なことで、そこを意識したプログラムにしています。

市井  今のお話は、大学生や専門学校生になったときに、小さい頃からの教育がもう少しあればクリエイターとして一人前になれるのにという話ですか? それとも、アニメーションを学校の教育を学びやすくするために使った方が良いというお話ですか?

石川  両方です。クリエイターになるためには、理解力やオリジナリティ、想像力を育むことが大切です。描きたい絵だけを描くのではなく、今はストーリー展開、オリジナリティ、動きの創造力、企画力を強化する必要があると言われることが多くなっています。

そこで、子どものころに体験を通じて観察や洞察、想像力を養うことが大切。各国のアニメーションを用いた教育に携わる方々と、アニメーター育成の現状、そして今回の取り組みで共通とされたテーマは、子どものときに基本的な観察力や動きを理解してきた経験がとても重要だということ、更にそこから生まれる発想力はアニメだけではなく、あらゆる業界で必要とされる力へとつながり、別の意味でも活きていくということでした。

市井  確かに「発想力」は今後ますます重要になってきますね。

石川  アニメ―ションを用いた教育でアニメーターやクリエイターを育てていくということ、またその教育によって子どもたちの可能性がアニメ業界だけでなく幅広い領域で育ってくれることを目指しています。その結果、アニメ産業界の未来を担う人材が育ってきてくれるのではないかと思っています。

今回は、大人にとっては懐かしい、子どもにとっては新鮮な見たことのない映像作品を見ていただく場も設けました。子どもたちは興味を持って見ていました。これらのことは継続することに意味があると思っているので、昨年の反省を踏まえつつ今年も開催していきたいと思っています。

市井  昨年は東京で開催され、4日間で600人程の規模でした。今後大きくしていきたいと思っていますか?

石川  そうですね。ただ、さまざまな条件もあるので、継続する中でみなさんに関わっていただきながら少しでも広がりを持たせていけたらいいと思っています。

市井  今は動画で配信もできるので、地方などで来られない人にも体験してもらう形づくりなどいろいろな方法がありますね。

石川  最終的には学校のカリキュラムの中に、アニメーションの何かが組み込まれていくといいなと思っています。

市井  3番目のアニメの未来についてはいかがですか?

3. アニメの未来


『アニメNEXT_100』統括プロデューサー 宮河恭夫(以下、宮河)  周年事業などの企画には、過去を振り返るものが多いと思います。

しかし『アニメNEXT_100』では振り返るよりも次の100年をどうするかという思考に切り替えて、100年後のアニメはどのように発展していくのかを業界みんなで考えています。コンテンツ市場はヒット作があれば市場全体が広がっていきます。そんな中で、年に2回アニメ業界に関わる方々が集まって考えていくイベントが必要、その1つが、春の『AnimeJapan』になっています。
そこで、『アニメNEXT_100』では、ア二メを徹底的に楽しめる秋のフェスティバルとして『アニメフィルムフェスティバル東京』を立ち上げました。

市井  『AnimeJapan』と『アニメフィルムフェスティバル東京』の違いはどのようなものですか?

宮河  春の『AnimeJapan』は、ビデオメーカーなどが中心になりアニメファンの方々にたくさん来ていただくイベントです。『AnimeJapan』は映像を見せるというよりは作品紹介の場。秋の『アニメフィルムフェスティバル東京』は映像重視として、テレビも映画も上映できるように組み立てています。そのモデルとして、もともと当社サンライズがフィルムに重きを置いたイベントを夏から秋にかけて、『サンライズフェス』として行っていました。

過去4年間、私たち単独の催しとして、夏に新宿で過去のテレビアニメのオールナイト上映をしています。子どものころテレビで見ていたアニメを20年後に再び映画館で鑑賞するという場です。そこにクリエイターを招いて、クリエイターとも交流できる場を設けました。これが評判だったのでそのモデルをア二メ業界で共有し新しいフェスを目指しました。さらに広げるために昨年は新宿観光振興協会による「新宿まちフェス」とジョイントして『アニメフィルムフェスティバル東京』と名付けたイベントに仕上げたわけです。映画館が全て徒歩圏内にある新宿で、10月13日から15日まで開催しました。

市井  反響はいかがでしたか?

宮河  第1回は悪天候も影響し、内容的にも課題を残すところがありましたが、スタートしたことに意義があると思っています。毎年やりながら「国際映画祭」にも近づけていく方法を探して続けていきたいです。

次の100年を考えるというと大げさに聞こえるかもしれませんが、みんなで映像を見ながら楽しんで、次にどのような作品をつくるのかを考えることは作り手にとっても見る人にとっても、とても重要だと思います。

市井  やりがいがありますね。次へのアイディアなどはありますか?

宮河  過去作品のオールナイト上映を通してとても重要だと思ったことは、クリエイターとファンをどうコミュニケーションさせるかということです。

過去作品の監督のトークショー込みの上映では、昔に見た映画に対して「こんなことを考えて作っていたんだ」とお客さんとクリエイターとのコミュニケーションが生まれていました。

アニメを見て終わりではなく、そこにクリエイターが居合わせてファンと話していくことの重要さが分かってきたので、これは続けていきたいと思っています。年に1回はクリエイターが居合わせる機会を作りたいですね。クリエイターとファンを近づけたり、かつてのテレビアニメをみんなで見てその商品を買ったりできるというお祭りができればいいなと思っています。

市井  「アニメの日」も制定されましたよね?


宮河  『アニメNEXT_100』で制定しました10月22日の「アニメの日」は東映動画の「白蛇伝」(1958年10月22日に公開された日本初のカラー長編アニメーション 製作:東映動画、配給:東映)を公開した日です。なかなかそういうものを見る機会はないので、フィルムで上映しました。また、テレビアニメ黎明期のシリーズ第1話だけを4本上映するなどのプログラムも作りました。見てみると、自分が思っているものと実際の内容が違ったりして、新しい発見もあり面白かったです。

秋は昔から芸術の秋、文化の秋と言いますが、そんな秋にフィルムを見る機会をこれからも作っていきたいです。各テレビ局や映画会社は権利関係が複雑なので、その1週間は全て解放するような勢いで広げていきたいと私個人は思っています。

石川  合言葉は「おしみなく」ですよね。

市井  みなさんは協力的でしたか?

宮河  そうですね。みなさん協力的でした。例えば、映画にちなんだグッズを出そうという話では『おそ松さん』が6人で映画をみている描き起こしのオリジナルグッズを作ってもらいました。これが広まっていくともっと面白くなると思います。

石川  そこでしかありえないコラボレーションができたらいいですね。

市井  アニメの国際プロモートの仕組みはいかがですか?

石川  アニメのチカラをもっと海外にアピールしていく中で、パッケージを作ってこの『アニメNEXT_100』というプロジェクトを海外に出していこうとしています。

宮河  海外の大きなアニメのイベントにも『アニメNEXT_100』のブースを出展して、版権の壁を越えて歴史的なアニメ作品を紹介していくことが必要だと思っています。日本のアニメは海外でもとても売れているので、それをオフィシャル化して出していくことが大切です。個社でやるのはビジネスとしても重要ですが、このようにアニメ業界全体としてやっていくことも時には重要だと思っています。

石川  昨年、「アヌシー国際アニメーション映画祭」でも日本アニメが100年ということで、アヌシー国際アニメーション映画祭、国立映画アーカイブ(旧:東京国立近代美術館フィルムセンター)の共催で特別上映プログラム「Annecy Classics: 100 Years of Japanese Animation」(日本のアニメ100周年)を実施しました。これはアヌシーでも初の取り組みでした。

さらに「MIFA」**でプレゼンしたりもしました。日本のアニメが100周年ということもあり『アニメNEXT_100』の今後の展開にとても興味を持ってもらえました。
**アヌシー国際アニメーション映画祭に併催する世界最大規模のアニメーション見本市

アニメの権利関係は確かに複雑ですが、『アニメNEXT_100』だからみんなで集合しようと声をかけて成し遂げることができたので、とてもよかったと思います。

宮河  去年100周年を記念して公式テーマソングを制作し、同時に122作品のアニメ(動画)をつないだPVも発表しました。前代未聞だと思います。YouTubeに「『アニメNEXT_100』スペシャルムービー」でアップされていますが、現在33万アクセスがあります。海外の方からの反響も大きかったです。鳥肌モノの14分で、見応えがあると思います。

石川  ムービーに使用されている『アニメNEXT_100』公式ソング「翼を持つ者 ~Not an angel Just a dreamer~」は、「ONE PIECE/ウィーアー!」など多数のヒットソングを手掛けた作曲家・田中公平さんが制作指揮をとり、楽曲誕生に際してもレーベルの壁を超えて、豪華アニソン・声優アーティスト23組が関わってくださいました。
 

 

 
 

アニメがグローバル化を担う役割に


市井  2018年の『アニメNEXT_100』のテーマメッセージである「アニメのチカラを世界へ」にある、日本のアニメの「チカラ」とは何ですか?

宮河  日本のアニメは閉ざされた世界で成熟されてきました。海外を意識しないで作ってきたことが一番のチカラだと思います。海外を意識せず、商売を意識しすぎず、日本の中で日本の子どもたちに向けて作ってきたドメスティックさがチカラになっていると思います。

市井  グローバライゼーションしていないから日本の良さがまだ残っていて、それが今のアニメのチカラだということですか?

宮河  というよりも逆に、意識していなかったにもかかわらずグローバル化されていたということです。分かりやすく言うと、「ガンダム」の「シャア(・アズナブル)」って人種がわかりませんよね。日本のアニメはダイバーシティです。これは30年前に意図的に行われたわけではないので、そこがドメスティックな成熟だと思っています。いろいろな人種のいろいろな肌の色の人がいるダイバーシティがこの10年で徐々に認められてきたと思います。ここを、意識せずにやってきたことがすごいと思っています。

もうひとつは、吹き替えさえ行えば、それが日本のものかインドのものかわからなくなるところです。これが日本のドラマだと出演者が日本人なのでそうはいきません。日本のアニメがカメレオンのように、上映されたその国のものになるところがいいところだと思います。

石川  また、実写だとイメージがついてしまいますが、アニメだと自分がその人物になることを想像できることも魅力ですね。

さらに日本の文化を伝える手段としても大切な役割を果たすことがあります。たとえば「ちびまる子ちゃん」はアジア圏で展開していますが、以前は「たたみ」や「障子」が出てくる回は放送できない国もありました。しかし今は、それがなくなりました。これはすごいことです。現在は日本と海外で同時配信をしていて、それを可能にしたのは「ちびまる子ちゃん」が果たした役割だと思います。このように、日本を近く思ってもらえる役割を果たせるのも「アニメのチカラ」だと思います。

市井  そんなアニメを創っている日本の果たす役割とはなんですか?

石川  大きなくくりで言えば、世界平和ではないでしょうか。
 

 

アニメビジネスを守ることが人材育成にもつながる



市井  日本のアニメーション業界の課題はありますか? それに対してどう対応されようとしていますか?

宮河  人材育成は全体で行うべき要素と、全体では行うのは難しく個社でやるしかない要素があると思っています。
当社サンライズではアニメーターや演出家を育てるために、特待制度のある人材育成に取り組んでいます。つまり成果に対する報酬を伴った仕組みです。

しかし、人材育成が追いつかないくらいアニメ制作の発注数があるのも確かです。

石川  忙しくて人材を育成しているゆとりはなく、作り続けて行かなければならないという感じです。宮河さんがおっしゃる通り、どこかで歯止めをかけていかないといけませんが、自由競争の世界で、難しい状況もあります。しかし、これを続けていると人材や作品のやクオリティにも影響してくると思います。

今までの100年を学んで、これから先も残るものを創っていく環境を整えないといけないと思いました。行政も含めてどうしていくかも課題です。

市井  海外でアニメが作られ、クオリティもあがってきていますが、それに関してはどのように思われますか?

石川  技術として危機感は持っていますが、日本でなくてはならない部分があると思っています。例えば、シナリオや演出の部分はまだまだ日本がどこよりもチカラがあるところだと思っています。そこのチカラをもっとつけるために若い方たちを教育・育成していくことが、今だから大切なことだと思います。

宮河  制作会社を含めた個社が知的財産を守るという感覚を持ってほしいと思います。

大企業は、大切なIPの知的財産の守り方や裁判の方法を分かっています。しかし、それを知らない若い企業や若いクリエイターに裁判のやり方も含めて知的財産の守り方を国が教えてあげてほしいです。つくる技術を守ることも大切ですが、どのようにIPや知的財産を守っていくのか、それをどう行政が教えていくのかが重要なことだと思います。

知的財産を守っていければこの産業はなくならないと思います。ここは非常に重要です。

市井  IPをクリエイトするのではなく、プロテクトをするトレーニングをサポートするということですね


宮河  魅力的な市場を私たちが作り続けていれば、絵が好きな人やクリエイターは生まれてくると思います。それをどう守ってビジネスにしていくかという意識がアニメの業界は希薄なので、それを支援する体制を『アニメNEXT_100』で構築していきたいです。

石川  作って終わりではないところが大切です。プロデューサー教育として、全てのアニメに伴うビジネスの考え方として、著作権やいろいろな知識を持つことが重要だと思います。

市井  アニメーション以外のコンテンツ業界、他産業との連携は考えていますか? 

今や、中国やアジア圏ではIPを起点としてアニメ、ゲーム、キャラクター全てまとめて組み立てるビジネス戦略ができています。売れてから戦略を考えるのではなくて、はじめから戦略を考えるべきだという考え方はありますか?

宮河  知識がないことをどう打破していくか、どう教えていくかが重要なポイントだと思います。アニメ業界の人で、コンテンツと商品が結びついているという発想を持っている方は10人のうち1人か2人しかいないのではないでしょうか。

純粋な人が多く、お金のことを考える人は少ないですが、それだとビジネスとして成り立たず、アニメ業界がしぼんでしまいます。アニメを創るときには、商品を創ることも同時に考えていく、啓蒙をしていきたいと思っています。

石川  その昔は、アニメ1本作るときに「何かぬいぐるみとして売れるなるような動物をひとつ入れていこう」という意識がありました。

市井  この考え方をスタンダードにしていけるといいですね。

石川  作って満足してはいけないですよね。

宮河  国や団体がビジネスを守る方法を教えてくれるのは重要だと思います。
 

 

デジタルの世界になってアニメ市場はどう変わったか

日本アニメのビッグマーケットは世界に


市井  世界のアニメーションコンテンツ市場とその変化をどのようにとらえていますか?

宮河  今の日本のコンテンツの4割以上が輸出産業なんです。バンダイナムコのあるキャラクターに至っては日本の市場が15%で北米市場が85%になり市場は相当激変しています。なぜならば、デジタルの時代になったからです。


スマホのゲームは日本よりも、中国・アメリカ・ヨーロッパを足した数のほうが断然多くなっています。このようにデジタルの市場が広がることによって可能性も広がっています。昔はぬいぐるみをひとつ作って外国で売ることは大変なことでした。

変化と言う部分では、ビジネスがしやすい環境になってきています。昔は日本でアニメを放送した半年から1年後にアメリカで放送されるタイム感でしたが、今は全世界に同時配信することができるなど、ビジネスがスピードアップしています。キャラクターグッズをそろえるのであれば1年くらい前から用意しておく必要がありますが、そこさえクリアしていれば放映と同時にビジネスができるので世界ビジネスの可能性は圧倒的に増えたと思います。

市井  デジタルディストリビューションはその通りだと思いますが、先ほどのIPをベースにしたビジネスの中でマーチャンダイジング(商品化)は、今おっしゃられたように、前もってグッズを作って全世界にばらまいておかなければなりませんよね。やりづらくなったりはしていないのですか?

宮河  やりづらくはなってはいますが、ダイナミックになっていますよね。失敗するのもダイナミックですし、成功するのもダイナミックです。

市井  勝負するならいい時代ということですね。

石川  世界とのスピード感も距離も近くなりました。世界に出ていく可能性が増えているので、積極的にやっていきたいと思っています。

市井  世界同時に攻めて行ける人材が必要ですね。

石川  そこを視野に入れて考えられるプロデューサーが必要です。
 

 

世界市場に目を向けられる人材教育を


市井  プロデューサーの方たちがリーガルリテラシーをもっと持つことが必要となっていくと思います。

宮河  アニメも実写も完璧にディレクターオリエンテッドで、プロデューサーオリエンテッドではありません。そこの文化が一番大きいのではないかと思います。アメリカでは監督には編集権もありません。それがいい部分もありますが、日本が培ってきた歴史の重みも感じます。

石川  クリエイターにフォーカスをあてるようなところも出していきたいですね。

市井  現状、クリエイターの数は足りていないと感じていらっしゃいますか?

宮河  作品数に対しては足りてないと思います。

市井  先ほどのお話にもありましたが、サンライズさんが実施している、特待制度についてもう少し教えてください。

宮河  受講生は1年間、月10万円を支給されながらアニメーターになるための絵の勉強をすることができます。これですべての生活はまかなえないかもしれませんが、少しバイトをすればやっていける額ではないでしょうか。応募は前よりも増えていますし、そこの卒業生は優秀です。このように、現場で誰かがきちんと教えていくことが重要になっていると思います。

市井  それがいい循環になっていくといいですね。
 

 

アニメ市場が世界と近いことをもっと知ってほしい


市井  100周年事業をきっかけにアニメ業界内外および海外に伝えたいことはありますか?

宮河  アニメがすごいのは、世界に出やすいところです。

世界に向けてビジネスをするツールとしてはアニメとゲームはダントツです。もっと世界に向けてビジネスしようとアピールしていきたいと思います。しかもそれは日本独特のものを作りながら世界に向けてビジネスができることだと、業界の人にもあらためて伝えたいですし、世界の人にも「出ていくから覚悟しろよ」と言いたいです。

市井  それがデータベースを作ることにもうまくリンクしていますね。『アニメNEXT_100』のブースを海外に出すということも結果的に個社がアニメを売ることになり、ベースとしてプラスにな良い循環になりますね。

石川  このプロジェクトを立ち上げてから私もいろいろなことを学びました。自分が思っていた以上に、アニメがすごいということを肌で感じることもできました。それをもっと皆さんに知ってもらいたいです。日本の文化を守るために国にご協力いただきたいこともあります。

『アニメNEXT_100』プロジェクトの役割は、次の100年に向けて、もっとアニメが発展するようにアニメの未来に向けて、次世代に向けて皆さんと一緒にやっていくことだと思っています。

市井  大きな目的ですね。それでは2018年の活動についても教えてください

石川  冒頭でご紹介した「アニメイク・キッズサマージャンボリー」などは継続して進めていきます。


また4月からは環境省COOL CHOICEとのコラボレーション作品(『ガラスの地球を救え!』プロジェクト、作品名「地球との約束」、「私たちの未来」)を地方自治体を中心に上映開始しており、これは4ヶ年プロジェクトとして2022年の3月末までに全国1800の地方自治体で上映できるように環境省の皆さんと連携しながら推進しています。

6月から9月にかけては国内でさまざまなおもちゃショーやゲームショーがありますが、子どもを対象としたところで『アニメNEXT_100』の全体像と作品をあわせながら、トレーラーや上映プログラムの密度を上げていきたいと思っています。

8月には『キッズサマージャンボリー』、10月には『アニメフィルムフェスティバル東京』があります。アニメの日である10月22日には、記念となる取り組みなどを計画中です。さらに、マンガ・ゲーム・玩具等多くのつながりを踏まえた「アニメの未来」といったシンポジウムも組めたらと考えています。

また、「日本のアニメ大全」の調査報告やデータベースを掲載した出版物なども発刊予定です。これらの活動を通して、アニメ業界をますます活性化できたらと願っています。

 

 

石川和子 Kazuko ISHIKAWA
日本アニメーション株式会社 代表取締役社長/一般社団法人 日本動画協会 理事長/『アニメNEXT_100』プロジェクト代表

  • 1973年三菱商事株式会社入社 広報室に配属。1984年 日本アニメーション株式会社入社。2010年代表取締役社長に就任。『世界名作劇場』『ちびまる子ちゃん』に代表される120を超える作品を作り続けてきた、創業40周年を超えた日本アニメーション株式会社の創業者、本橋浩一の「世界の子供や大人たちに素晴らしいアニメーションを提供し、感動を与え、人間性の涵養に寄与したい」という理念を常に身近で体感し続けてきた石川和子氏。創業者の”理念”や”想い” を大切に受け継ぎ、次の世代にむけた新たなる『名作』を作り続けるため、制作事業をベースに、独自のライセンスビジネスを展開。『コンテンツ創造企業』へと成長著しいアジアそして、全世界へ向けて発信し続けている。

宮河恭夫 Yasuo MIYAKAWA
株式会社サンライズ 代表取締役社長/『アニメNEXT_100』統括プロデューサー

  • 1981年株式会社バンダイ入社。1996年株式会社バンダイデジタルエンタテインメント取締役。2000年株式会社サンライズ入社。2014年同社代表取締役社長就任。ガンダム40周年プロジェクト一般社団法人ガンダムGLOBAL CHALLENGE代表理事。2015年株式会社バンダイナムコピクチャーズ代表取締役社長就任。アニメーション作品と玩具やゲームなどの周辺マーチャンダイジング戦略を大きな特徴とした、ガンダムを始め「TIGER& BUNNY」「アイカツ!」「ラブライブ!」など商品・ライブの両立で作品の世界観を広げている。最先端技術×アニメ・匠×アニメなどもその一例。内閣府知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員、クールジャパン官民連携プラットフォームアドバイザーリーボードを歴任。2018年株式会社バンダイナムコホールディングス取締役(非常勤)就任。


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