インタビュー

2026.04.28


日仏の映画映像分野における構造的協力へ フランス国立映画映像センター(CNC)会長 ガエタン・ブリュエル氏が語る「映画の未来」と「3つの挑戦」【外部インタビュー】


左より ガエタン・ブリュエル(CNC会長)、松谷孝征(VIPO理事長)
VIPO(ヴィーポ)とフランス国立映画映像センター(Centre national du cinéma et de l’image animée 以下、CNC)は、エマニュエル·マクロン仏大統領とカトリ-ヌ·ペガ-ル仏文化大臣の公式実務訪問にあたり、映画および映像分野における協力協定を締結しました。
 
両国の文化・クリエイティブ産業の発展に向けた共通の目標に基づき、本協定は、フランスと日本の専門家間の相互理解と協力を強化することを目的としています。
 
2026年4月1日に国立新美術館(東京都港区)にて行われた調印式では、基本合意書(MOU)に両機関の代表者が署名を行いました。
MOUの概要は以下の通りです。
 

■MOUの概要

  • 映画・映像分野:両国プロデューサー間の共同製作や資金調達を促進
  • 情報交換:公共政策やベストプラクティスに関する情報交換を、少なくとも年1回実施
  • アニメーション分野:日仏のスタジオやクリエイター間の継続的な交流と協力を推進
  • デジタル分野:ビデオゲーム、没入型コンテンツ、生成AIなどデジタル分野における対話や共同製作の支援
  • 人材育成:ワークショップやレジデンス(滞在型製作支援)を通じたクリエイターのスキル向上支援
  • 知的財産(IP)の活用:著作権保護を前提としたIPの流通や、トランスメディア展開に関する対話の実現

※本MOUの有効期間は、2026年4月1日の署名から3年間で、終了の通知がない限り自動更新
※本MOUに法的拘束力はなく、特別な合意がない限り双方に金銭的義務は発生しない

(以下、敬称略)

 
 
来日したCNC会長のガエタン・ブリュエル氏に映画評論家の石津文子さんがお話をうかがいました。
 

VIPOとの協定調印、その真の目的とは

――まず今回のCNCとVIPOによる協定調印の目的を教えていただけますか?

 

ガエタン・ブリュエル氏(以下、ブリュエル)  今回いくつか結ばれたフランスと日本の文化協定の中に、映画の協定が含まれましたが、映画の歴史においても日本とフランスは本当に深い共通の絆で結ばれています。
それは、第一に、作家主義的な映画を日本もフランスも非常に重要視しているということ。第二に、映画というものが日常にも根ざしているということです。
しかし、これからの時代はそれだけではなく、さらなる”挑戦”をしていくことが必要だと感じています。
そのために、仏日の協力関係をいっそう緊密にし、様々な設計をしていく必要があります。
日本にはCNCのような団体はありませんが、現状ではVIPOが我々と同等の団体だと考えており、1年前に私が就任して以来、VIPOとの関係を強化しています。
映画のみならず、映像全体においても共同プロジェクトの準備を進めているところです。

 

――具体的にはどんなことでしょうか?

 

ブリュエル  5月に開催されるカンヌ国際映画祭では、「マルシェ・ドゥ・フィルム(Marche du Film)」という映画見本市があります 。日本は、今年カントリーオブオナー(Country of Honour)に選ばれています。
 
その中で今回のMOUは、両国の映画、映像のプロの人たちが接近するための1つの近道になるのではと思います。
同時に人材育成にも注力していく予定です。
本MOUを通じて日本とフランスの映画界の共通ビジョンを、海外の人たちにも提示していければと思っています。

 


写真左より 松谷孝征(VIPO理事長)、カトリーヌ・ぺガール(フランス文化大臣)、ガエタン・ブリュエル(CNC会長)

 
 
 

両国が共有する「映画への楽観主義」

――先ほどの ”挑戦” というのは、何に対してなのでしょうか?

 

ブリュエル  現在、世界において映画の未来を憂う国の方が多数派ですが、例外がフランスと日本です。この2国は映画の未来に関して、楽天的と言えるのではないでしょうか。ただ、これは決して奇跡ではないのです。
 
もちろんフランスでもコロナ後にかなり観客動員数は減りましたが、フランス作品は好調ですし、日本には目覚ましい観客動員数の作品がありますよね。
日本映画には、美しいダイナミズムがあると思うのです。ただ、日本の映画市場においては、日本映画が約7割を占めていると聞いており、それは素晴らしいことではあるものの、裏を返せば脆弱性にもつながる面があると思います。
現在の状況は、日本の映画人皆さんの努力の賜物だと思いますが、まだまだ日本の映画にはポテンシャルがあると思っています。ですから、それを補足するための挑戦を協力してやっていきましょう、ということです。


 
 

映画館、経済、そしてアーティストを守るための「3つの挑戦」

――両国に共通する挑戦ですね?

 

ブリュエル  はい。映画館というものが将来的に無くなるのでは、という憂いを抱えている人がいます。ですが、私はそうはならないと思うのです 。NETFLIXのCEOは、映画館はオペラのようなエリートのためのものになると言っていますが、私は違うと思うんです。配信が増えても、日本にもフランスでも、30年後も映画館はあり続けると思うし、映画監督も存在すると思います。
 
今後脆弱になる可能性はありますが、残り続けると思う理由は、映画館に行くことの喜びを感じ続ける、それが大切だと思うのです 。フランスでは、そこに教育を絡めています。
たとえば、現在、フランスでも日本でも書店がとても減っていて、日本では20年前までは2万軒あった書店数が、半分になったと聞きました。私たちはそんなふうに映画館を減らさないことが重要です 。フランス国民は1年に平均1人あたり30分は映画館で過ごす、という統計がありますが、それは小さな村でも映画館に行く人がいるということであり、この状況をキープしなければいけない。そのために、CNCは映画館をサポートしています 。ただ静観するのではなく、アクションを起こすしかない。
それは新しい観客、つまり若者たちに向けてしなければいけないのです。それが映画教育です。
 
小さい時から映画に親しむ、そして映画館に親しむ様々な活動をCNCは行っています。

 

――それは映画鑑賞教室、ということでしょうか?

 

ブリュエル  活動はいくつかあるのですが、その一つがCNCで行っている「私たちの教室は映画館」というプログラムです 。
午前中、映画館にクラスで行き、映画を観て、対話をする。これは映画館も空き時間を有効利用できますから喜びますし、これによって18歳以下の青少年の15%に当たる、200万人の子供たちが映画館に行く回数が、年1回から年3回に増えました。
つまり600万人の観客増です。これによって子供たちが映画館で映画を観る喜びや、イメージ・リテラシーを早くから学ぶことができる。これをハリウッドは行っていないで、映画館は終わりだ、なんて嘆いているのです。教育に力を入れれば、フランスと日本にはまだまだ未来があります。
 
映画というのはアートでもありますし、娯楽でもありますし、それから非常に活況のある産業でもあるんですね 。ですが、その映画というプレミア感のある映像作品が、現在(AIなどで)ローコストで作られるショート動画などにとって代わられている気がするのです。そのせいで、映画の制作費もテレビの制作費もだんだんと低予算になっていく。あるいはストリーミングのプラットフォームも一時の盛況は翳りを見せています。
 
そしてビデオゲームの世界でも、プレイヤーがもうビデオゲームを買わなくなっている。どういうことかと言えば、自分がプレイするのではなく、他の人がプレイする様子をYouTubeで無料で見ることが増えているんです。これは経済的にも文化的にも非常に大きな問題だと考えます。ですから、映画館で見るという経験には非日常のプレミアム感があることを、皆さんにもう一度思い出してほしいんです。
 
また、アーティストを芸術の中心に置くということを維持し続けなければいけないと思います。たとえばアートハウスシネマにおいて、アーティスト、作り手がその中心にあるべきなのに、そうなっていない状況があります。
AIの台頭ですね。ヨーロッパでもAIがアーティストの地位を乗っ取ろうとしていますが、それは間違った方向に行っているのです。芸術的にも、産業的にも、アーティストがやはり中心にいなければなりません。そのためのサポートが必要です。

 

――今後、その挑戦がより具体的になり、両国の映画、映像文化を盛り上げてくれることを期待します。

 

ブリュエル  これらの挑戦に向けて、すでに1年前からCNCはVIPOと具体的に協議しており、協定がもう一つ結べるくらい実際には進んでいます。現実の方が早く動きますから。

聞き手:映画評論家 石津文子氏
東京都足立区出身。東宝東和にて洋画宣伝や予告編などを担当した後、ニューヨーク大学で映画制作を学ぶ。現在、映画を中心にエンターテインメント全般を取材、執筆。カンヌ映画祭や釜山映画祭も毎年取材。ゴールデングローブ賞国際投票者。日本映画ペンクラブ会員。

 
 
 

【MOU締結にあたって】日本とフランス、新しい協力のカタチ。次世代の育成からドラマの海外展開まで、VIPOが目指すもの──VIPO事務局次長 槙田寿文

 

CNCとのMOU締結を受け、VIPOでは今後、以下の具体的アクションを加速させていく予定です。
 

  1. VIPOはCNCと基本的価値観を共有しており、そこに基づいた施策を順次実行していく予定です。基本的には、フランスを拠点とするカンヌ国際映画祭、アヌシー国際アニメーション映画祭、シリーズマニアといった国際的プラットフォームを拠点とした協業を進めます。
  2. 映画ジャンルにおいては、双方の支援制度を活用して日仏間の国際共同製作の促進を図ります。
  3. アニメ・ジャンルに関してはアヌシーでの協働の取り組みを継続し更に深化を図ります。
  4. ドラマ・ジャンルに関してはシリーズ・マニアを新たなプラットフォームとして確立しヨーロッパを始めとする市場開拓に挑戦していきます。
  5. 人材育成・交流に協働して取り組みます。


 


写真左より ラファエル・ランギヨン(VIPO事業企画部兼映像事業部マネージャー)、
ギヨーム・ゴベール(アンスティチュ・フランセ 映像・音楽部門統括マネージャー)、ガエタン・ブリュエル(CNC会長)、
森下美香(VIPOグローバル展開事業部部長)、槙田寿文(VIPO事務局次長)、市井三衛(VIPO専務理事・事務局長)

 
 
 

Gaëtan Bruel(ガエタン・ブリュエル)氏
フランス国立映画映像センター(CNC)会長

エコール・ノルマル・シュペリウール(ENS)卒業
2012-2016年: 国防大臣の顧問として、軍の映画ミッションの創設に関与
2017-2019年: ヨーロッパ・外務大臣の顧問として、クリエイティブ産業における経済外交を担当
2019-2023年: 在アメリカ合衆国フランス大使館文化参事官(ヴィラ・アルベルティーヌのディレクター)
2024年1月-2025年2月: 文化大臣の首席補佐官(Chief of Staff)
フランスの文化・映像行政の要職を歴任し、2025年2月にフランス国立映画映像センター(CNC)のCNC史上最年少の会長の一人として就任
 
 

CNC(フランス国立映画映像センター)について
CNC(Centre national du cinéma et de l’image animée)は、フランス文化省の傘下にある公的機関で、映画、映像、テレビ、ゲーム産業の振興、資金援助、規制を包括的に担っています。映画の企画から制作、上映、普及に至るまでを強力に支援し、世界でも類を見ない「映画文化の自国保護と共助システム」を構築・運用している組織です。


 


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