インタビュー

2026.02.26


「目標は小さく、夢は大きく」38年間、毎年“最高の運”を更新し続ける株式会社IGポート 代表取締役社長 石川光久氏の飽くなき挑戦とは
〈前編〉経営者講演
〈後編〉石川社長に聞く!(受講者および、市井校長からの質問コーナー)

 

『攻殻機動隊』シリーズや『PSYCHO-PASS サイコパス』『ハイキュー!!』シリーズなど多くのヒット作を生み出してきたProduction I.G。そして、『進撃の巨人(Season1~3)』『SPY×FAMILY』といった話題作を手がけるWIT STUDIO。日本のアニメーション界を牽引する2大スタジオを傘下に収める、株式会社IGポート代表取締役社長・石川光久氏は、成功の鍵は「運の強さ」と「人との出会い」にあるといいます。名だたるクリエイターと築き上げた深い信頼関係を大事にしながら、その経営哲学は「チームは最小、権限は最大」にすること、そして人を育てるのではなく「育つ環境を与える」こと。38年に及ぶキャリアの中で今が一番辛くも楽しいと述べる石川氏に「運とご縁」を繋ぐことへの情熱とこれまでについてお話を伺いました。
(本記事は2025年12月4日のVIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」にて行われた経営者講演をまとめたものです)

(以下、敬称略)

 
 
 

〈前編〉経営者講演

 

運の強さとは人との出会い~人との出会いにより今がある

はじめに
 
今日のVIPOアカデミー経営者講演は、株式会社IGポート 代表取締役社長の石川光久氏にお越しいただきました。石川氏は、東京都に生まれ。株式会社竜の子プロダクション(現 タツノコプロダクション)に入社。プロデューサー業務を経て独立して創業。アニメーションのプロデューサーとして、数多くの映画、TVアニメーション、ゲーム制作などを手掛けて、ジャパンアニメブームのきっかけを作ったとされる代表的な映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』を制作しました。また日本のアニメーション作品として、はじめてカンヌ映画祭のコンペティション部門にノミネートされた映画『イノセンス』を世に送り出しました。その後はアニメーション業界の常識を変える経営を展開し、映像作品への出資や権利獲得、IP運用を精力的に手掛けています。
 
株式会社IGポート代表取締役社長・石川光久氏(以下、石川)  IGポートというのは、Production I.G、WIT STUDIO、マックガーデンという、この3社のホールディングの会社です。サンリオさんとは、Netflixシリーズ『My Melody & Kuromi』というストップモーションアニメを制作していますが、今日はProduction I.Gでの話を中心にお話させていただきます。
 
まず、私がここまでこれたのは、運の強さがあったからだと思っています。運の強さとは何かというと、人との出会いだと思うんですね。人との出会いに恵まれ、助けられた。ということは私が常々感じていることなので、それをみなさんにお伝えできればと思います。


 

 
 

「チームは最小、権限は最大に」~英語のネイティブスピーカーを社長に据えて
 
これは「Anime EXPO 2025」、(2025年7月3日~6日、米ロサンゼルスにて開催)のときの画像です。ここには、Production I.G USAの寺島(Maki Terashima-Furuta)もパネリストとして登壇しました。実はI.G USAは今から30年ほど前に海外の営業窓口として設立しているんですが、設立時、最初に心がけたのはひとつ「余計なことはしない」。そしてモットーは「風車、風が吹くまで昼寝かな」でした(笑)。
 
設立当時の社長は私でしたが、現在は寺島が社長を務めています。彼女は入社当時アニメにそんなに詳しくもなかったんですね。逆にそれが良いなと思って。ハリウッドを攻めるとなると、アニメに精通したオタク的な性質のある人間が適しているかなと思った時期もありましたが、実は寺島が入る3年前に務めてもらっていた人物がそのタイプだったのですが、それだけでは事業として立ち上がらないと気づいたんです。正直、アニメに精通している人間よりも、自分たちの考えをしっかり通訳できてネイティブに伝えられる、きちんとコミュニケーションがとれる人間が欲しかったんです。私が創立時の社長として、英語をバリバリ話してかっこよく乗り込んでいければよかったんですけどね(笑)、中途半端な英語では逆に失敗してしまうなと僕は思って、寺島に任せました。そういう意味でも寺島といういい人材に出会えて採用できたことも運がいいなと思っていることのひとつです。
 
25年前ごろからProduction I.G USA パネルとして、Anime EXPOに登壇するようになりました。Anime EXPOのようなアニメを扱うコンベンションは世界中、毎月どこかしらで開催されているんですが、「まずはそういうところから行っていこうよ」と寺島と話して地道に行脚しました。最初のお客様はたった3人です。なおかつそのうちの2人は知り合い(笑)。それを25年前からずっと繰り返して、3人が5人になり10人になって、2025年のこの画像のステージは7,500人です。何が言いたいかというと、これまでの地道な努力なんです。アニメ制作会社として地道に活動してきて、この7,500人のコンサートホールをAnime EXPO側が用意してくれるんですから。これは、実はものすごいことなんです。また、この時でもI.G USAのボードメンバーは、社長の寺島、副社長の和田、CEOの僕(石川)、そして会長のアヴィ・アラッド、このたった4人ですから。
 
私はいつも“チームの人数は増やさず、権限はどんどん最大にする“ということをモットーにしてやっているんです。


 

名プロデューサーとの出会い~アヴィ・アラッド氏

 

Production I.G USAの会長は、アヴィ・アラッドという『スパイダーマン』シリーズ他を手がける名プロデューサーで、10年ほど前に就任してもらいました。当時から当然大物プロデューサーでしたが、家も大きくて。ビバリーヒルズの彼の邸宅にお邪魔したことがありますが、ハリウッド山の一番上にあって、敷地に入るゲートを通っても家までまだ遠くて、お隣さんなんて見えないです。たまげました。そんな大物ですから、普通だったら高額な報酬を払わなければいけない彼に、「お金は出せないけど、タダで会長やってくれないか」とお願いしました。それで引き受けていただいたのは、ハリウッドで製作した実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』があったからです。この実写化を巡るやり取りの中で、原作出版社の講談社さんや原作者の士郎(正宗)さん、そしてハリウッドのスタジオとの交渉を取りまとめる代理店みたいなことを僕がやらせていただいたんです。その何年かにわたるお付き合いの中で、ものすごい信頼関係ができました。実際、この10年でお金は全く払っていません(笑)。運が強いというのは、出会いです。ただ単にケチなだけとも言われていますけど(笑)、出会いを大事にして、誠実に向き合ってきたということは言えます。


 

まさか本人とは思わなかったタランティーノ監督と米国を拠点に活躍していた3DCGアニメクリエイター ・ジャスティン・リーチとの出会い

 

別のエピソードとしては、今年スペインで開催された「San Diego Comic-Con Málaga」で司会者をしてくれた、Qubic Picturesの創業者兼CEOでプロデューサーのジャスティン・リーチとの縁です。(Production I.G初の外国籍アニメーターとして押井守監督作品『イノセンス』にCGアーティストとして参加)。彼はクエンティン・タランティーノ監督がI.Gに遊びに来た時にI.Gに在籍していました。
 
タランティーノ監督との出会いは確か1999年、ジャスティンが3DアニメーターとしてI.Gで働きだした頃です。アポなしでI.Gのスタジオに遊びにきたんです。そのときはスタッフも誰もホンモノが来たとは思わずに、タランティーノに似ているけど、ものすごいオタクが来たと思っていたら、ご本人で(笑)。『GHOST IN THESHELL/攻殻機動隊』を見て、僕に仕事を頼みたいと言ってきたんです。『レザボア・ドックス』(1992)とか僕の好きな作品もたくさんあったので、会いたかったんですが、その当時、I.Gは物凄い額を一気に集めてスタジオとして勝負をかる作品を進めているときだったので、新しい仕事を一切受けられない状況だったんです。なので僕は会いませんでした。だけど、ジャスティンに「石川、絶対彼に会ったほうがいいよ」と言われて。それで後に恵比寿のウェスティンホテルで会ったら、タランティーノの情熱がすごかった。熱意がすごすぎて、これは断れないなと思いました。


 


©1995士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT

 
 

タランティーノに出した二つの条件

 

そこで僕は、条件を2つ出しました。一つ目は「スタッフに関しては全部任せてほしい」、全面的にこちらのスタッフを信用してほしいということ。二つ目は「I.Gの名前は世界では知られてないから、I.Gの名前を宣伝してくれ」と言いました。タランティーノは全部受け入れてくれて、『キル・ビルVol.1』の宣伝のときもそうそうたる出演者の中、私を登壇させて、I.Gのことをディテールまで細かく、5分以上褒めまくってくれました。ただ悔しいのがね、通訳がそれを全部拾いきれないんですよ。たぶんものの30秒です。だから「I.Gは魅力的なアニメーションスタジオだ」とだけで終わるというオチがあるんですけどね(笑)


 

人を育てるのではなく、育つ環境を与える

 

「San Diego Comic-Con Málaga」の時に話は戻りますが、私は通訳として秘書を長いことやってもらっていた稲葉もも(スペイン語担当)と吉本早貴(英語担当)の2人を連れて行きました。稲葉はスペイン語が驚くほど上手でしてね、スペインに留学してサッカーをしていたんですよ。それにスペイン人の恋人も作って、スペイン語を喋らなきゃいけない環境に持っていったということもありますが、ネイティブ並みに話せるんです。通常秘書はバックヤードにいるものですが、私は彼らをどんどん登壇させました。スペイン語でも英語でも現地のお客さんを沸かせてくれて、通訳以上の力を発揮してくれました。
 

 
私は、人というのは育てるんじゃなくて、勝手に育つと思っています。だからこそ、環境を整えてチャンスを与えるということ。そのチャンスを与えたら足を引っ張らない。何かあったら守る。そうやって、どんどん表に出して、いい環境を与えて、いい出会いや運気の波に乗らせる。そういう私のDNAや文化を受け継いで成長してほしいと思っているんです。


 
 

目標は小さく、夢は大きく

よい人とのつながりの深さが集団を強くする

 

私は「目標は目の前に置くほど小さく、夢は大きく持って根は深く」という言葉を大事にしています。これは、相田みつをさんの「夢はでっかく、根は深く」という言葉から引用しているんですが、人間は目に見えない“根”の深さが大切で、魅力や強さはそこから生まれると思っているんです。だから根の深い人間が一人でも多くいれば、その集団は強いということを私は教わってきたので、みなさんにもそこは伝えたいです。
 
私の成功は「出会い」によるものがほとんどです。ジャスティンともいい協働関係ができています。ドリームワークスで『イノセンス』の企画をプレゼンした時も彼が編集した『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』のかっこいい映像を一緒に見せに行きましたし、『キル・ビル Vol.1』のアニメパートを担当をする時も彼とのつながりがあってやることになりました。多くが人の縁で拡がっているんです。
 
あるとき、どこかのイベント・ステージでジャスティンに「僕を雇って、人生どうでしたか?」と聞かれました。「人生最大の失敗はジャスティンを雇ったことだ」というジョークで返し会場が沸いたことがありましたが、それが笑いになるのも、これまでの僕たちの信頼関係があるからこそです。
 
ここまでさんざん人との出会いついて話してきましたが、例を挙げたらキリがないですね。
ジェームズ・キャメロンやジョージ・ルーカスとの話もあるんですが、あと1時間では足りないです(笑)


 

庵野秀明監督との深い関係

 

『新世紀エヴァンゲリオン』の制作を通じた縁ですが、映画のエンディングで僕の名前をものすごくかっこよく格別に扱ってくれました。これは庵野監督と現場で一番近くにいて、一緒に苦しんできたやつは誰かってことで、演出してくれたわけです。そのエンディングを見て僕は涙がでるほど嬉しかった。それだけの関係ができたことにも感動しました。
 
その後、僕の突然の「I.Gの取締役やってくれない?」という提案にも、庵野監督は即答で「いいよ」と引き受けてくれました。(2025年8月、Production I.G取締役に就任)他の大手企業の方には「どれだけ株を渡したら引き受けてくれたんだ??」と言われましたか、渡してないです(笑)。株も渡さずに承諾を得られたのは、長年の信頼と共闘の歴史があったからだったと思います。


 

サンリオとの資本・業務提携

 

サンリオさんとIGポートとの資本提携・業務提携も発表しました。(2025年6月17日発表)私が嬉しいのは、資本提携だから、株価が上がるかどうかも大事なんですが、それよりも業務提携によって、どういう新しい作品が生まれるかが最大の楽しみなんですよ。今は僕は外ではサンリオ「さん」って呼んでいますが、もう「サンリオが~」って呼び捨てしてもいいくらいの関係にはなっています。業務提携の中身はまだここでは言えませんが、僕はとてもワクワクしています。


 
 

夢のバトンタッチと今の自分

「今年が人生で一番運が良かった」と思い続けたい

 

庵野さんが取締役になってくれたことも含めて、これは全くゴールではありません。スタートラインに立てただけなんです。今後の作品で庵野監督のDNAが入ってくることも、サンリオさんとの業務提携も、この先自分も楽しみですし、僕の夢は次世代へのバトンタッチなんです。いかにこれまでのご縁や受け継いできたDNAを次につないでいけるかが最大の夢です。
 
今年でアニメ制作の仕事も38年経ちまして、毎年「今年は本当に運が良かったな」と思うんですが、不思議とその思いが38年、続いちゃったんですね。こんなことってあるのかなって自分でも思います。ただ一つ言えるのは、今が一番楽しい。だけど逆に一番辛いのはいつですか?って聞かれたら、それもやっぱり今なんです。逃げ出したいと思うこともたくさんあります。責任の重さを毎年感じていますが、この先、どれだけ面白いものができるかという未来への期待、楽しみのほうが大きいです。これからの業界を担うみなさんもね、人との出会い・ご縁を大切にしながら、今日より明日、去年より今年が一番楽しかった、運がよかったと毎年思えるように、頑張っていただきたいと思っています。


 
 

〈後編〉石川社長に聞く!(受講者および、市井校長からの質問コーナー)

 
 

ヒット作の法則とアニメ業界の未来

 

–ヒット作を作ることに対する方法論や心構えについて、詳しくお聞かせください。
 
石川  自分の実体験で言えることは、変えちゃいけないものは変えちゃいけない。変えなきゃいけないものは変えなきゃいけないという。この二つ。
コアな部分(世界観)は絶対変えちゃいけないです。でも、周縁(音楽、デザインなど)は、今の時代にアジャストする柔軟さが絶対必要で、変えなければいけないものは変えなきゃいけない。その二つがなければ、なかなかヒットには結びつかないと思います。
 
VIPO専務理事・事務局長 市井三衛(以下、市井)  逆に言うと、コアの見つけ方。何がコアで何が環境に基づいて変えなきゃいけないかって。そういう区別がちゃんとできないと、ダメだよってことですね。
 
石川  はい、そうだと思います。バンダイナムコの創業者・中村雅哉さんの本の中で、こういうことが書いてありました。ヒットを生み出すのは、才能や能力ではなく、「なみなみならぬ熱意を持った人間」です。その熱意を持った人間が、仲間を増やして継続的な熱意にすることで、とんでもないヒットを生み出すんだと。
一人の熱意だけでは一過性で終わってしまいますよね。真にヒットを生む人間は、その圧倒的な情熱によって同じ志を持つ「仲間」を増やして周囲を共感させることで組織としての推進力を生み出すんだと僕は思っています。
 
 
–アニメ市場の成長はいつまで続き、どのようにトレンドを加速・減速させていくのでしょうか?
 
石川  これは、二方面からいえますね。現状から言うと、淘汰されると思います。今のアニメバブルで作品が増え、売値が急激に上がった時こそ、実はピンチなんです。淘汰することである程度は会社が統合し、成長していくと僕は思っています。一方、世界市場では、Netflixやディズニーなどの配信によってアニメが一般に浸透し、「原石を光らせるチャンス」が開けました。 優秀なプロデューサー、クリエイターは世界あちこちにいますから、日本からも世界で勝負できる人材を育てていかないと、日本のアニメ産業としては淘汰されていくと思います。とはいっても、人材が育つのはあくまで成長の過程ですから、
それをちゃんと世界で事業展開を含めて商売してくれる人、お金に変える人が、やっぱり日本から出てこないと、トレンドは加速できませんし、産業の両輪として成立しないんじゃないかと思っています。


 

日本アニメの源泉「育成力」と、産業化への課題

 

–他国がどんどんアニメを作る中で、日本の強みをキープできるでしょうか?
 
石川  I.Gの強み、日本の強みは「育成力」なんです。38年ずっとアニメーターを採用し続けて、マンツーマンに近い形で育ててきた。この地道に人を育て上げていくシステムは、他国は真似しづらいと思います。AIもでてきていますし、短距離で人を育てようとしても、人材の育成力、根が張った会社は強いと思います。人が財産となっているわけです。ただ、商売としてそれをお金に変えてくれる人が日本発で出てくることも日本のその強みを活かす意味でも一番大切です。
 
中国をはじめ、韓国のクリエイターの方も非常に優秀です。彼らはCG技術や資金力を武器に短距離走のようなスピード感で追い上げてきています。それでも、日本の地道な下積みと圧倒的な描画枚数に裏打ちされた「経験値」や「肉体化された技術」は、一朝一夕に真似できるものではないと思います。逆に、海外の優秀でハングリーな人材を日本に導入しても、日本の緩やかな環境に馴染むと、そのスピード感や厳しさが失われてしまうという現実があります。これは文化の違いでもありますが、だからこそ日本は「自国の強みがどこにあるのか」を正しく認識して、独自の育成体制を維持し続ける必要があると思っています。
 
 
–業界全体としてアニメの本数が年々増えている流れについて、スタジオの立場からどう感じていますか?
 
石川  ここ数年は作品数だけでなく、予算も倍以上に上がりました。これは作り手にとってチャンスですが、「張る方(出資者)」は結構厳しくなっていると思います。今後は、価格も淘汰されるという現象が起こるだろうと見ています。


 

石川氏の一番の失敗とストレス対処法

 

市井  今までで一番の失敗談と、それをどう乗り越えたかを聞かせてください。
 
石川  失敗談は、17年間連れ添った奥さんに振られたことですね(笑)。男としての魅力のなさを目の当たりにして落ち込みましたよ。ただ、人間としてはお互いに尊敬しあっていたので、彼女は離婚後も定年までI.Gの取締役として会社と歩んでくれました。
 
乗り越え方は、その挫折から上場準備に集中し、真剣に取り組んだことですね。実は僕は上場に対して、そんなに熱量はなかったんです。社員はその機会のために準備はしていましたが、僕はチャンスがあればのろうかなぐらいの気持ちで。それで離婚ですっかり気落ちしてしまって、ぽっかりと心に穴があいてたときに、社員旅行で「今はしんどいから上場まであと2年ぐらい待ってほしい」って言ったんです。そしたら社員が「いいよ」って言ってくれました。バックヤードは大変ですよ、普通だったらふざけんなですよね(笑)でも、石川さんがそういうならいいよって言葉で、逆に自分のプライベートのことは置いておいて、社員のためにも頑張ろうと思えました。上場後も、私欲が入った判断はしない、大きな失敗だけはしないことを教訓にしています。 上場後のお祝いをそのへんのいつもの居酒屋でやったら、普通はもっと盛大な場所でやるだろうと怒られましたけどね(笑)
 
市井  ご自身の家庭環境において「身の丈」について考えるようになった、具体的なエピソードはありますか?
 
石川  うーん、悲惨すぎて言葉にしたくない(笑)でも、その時代は貧しいのが当たり前でもありましたから…。小学3年くらいのときですが、先生から貧困家庭に支給される援助金の申請書を渡されて、入院中の母に見せたら、「うちはそんなの貰うほど困ってない、返してきなさい」と断ってくれたことです。子ども心に涙が出るほど嬉しくて、この親の気持ち、心意気は絶対裏切っちゃいけないと思いました。
 
学生時代は歳を取るほど大変で辛い坂道ずっと上がっていくもんだと思っていました。でもそんなことはないです。社会人になってからのほうがこんなに楽しいしね。大変なことももちろんいろいろありましたが、小学3年時にお袋が断ってくれたことをずっと胸に刻んで今に至ります。
 
 
–経営者としてストレスを感じる場面での対処方法を教えてください。
 
石川  ストレスは実は溜まっていないんです。悩み対する答えはないと思っているので、答えのないものに時間を使うのがもったいないと思っています。だから、楽しいことを常にやる。英語のYouTubeを聞いたり、60歳でゴルフを始めたり。悩む時間があれば、楽しいことに集中することで時間を費やします。 また、過去の失敗やつらさも全部忘れてしまっているんですよ。過去の作品にも正直興味がない。これからの作品、今からのことにしか興味がないんです。
 
20歳でインドに3ヶ月、後にアフリカなどに10ヶ月放浪しました。結論から言うと、放浪して得るものは何もない(笑)ただ、人間ってちっちゃいなということだけは身に染みて分かりました。そこで培った、白人だろうが黒人だろうが、みんなフラットで友達として付き合う間合いは、今の仕事に活きています。


 

プロデューサーの資質と育成とは

 

–人を見極めるポイント、そして人を育てる上で大切にされていることは何ですか?
 
石川  人の根っこは面接では見えません。「逆境のときにどう出るか」で分かります。だから、チャンスを与えて仕事をやらせる。そして、失敗ができるような環境を作ってあげられるか。失敗から立ち直る姿を見守れる体制ができるかが大切です。そうやって育てた根が張った人間が何人か残ってくれて今があります。
 
 
–人により熱意と能力のバランスが違う人もいますが、メンバーを失敗させて成長させる上で、環境づくりで意識していることはなんですか?
 
石川  一人一人が自分の会社を好きで、夢を持ってほしい。能力でクリアする人には、もっときついものを突っ込んで、どう成長するかを見たい。情熱は短期で冷めやすいので、情熱に騙されないほうがいいかもしれない。私は、通訳だろうが秘書だろうが、どんどん表に出して、ツキのDNAを受け継いで成長してほしいと思っています。
 
 
–プロデューサーとして、一番大切にされていることは何ですか?
 
石川  どんだけ仲間を巻き込むかだと思います。これがプロデューサーとしての最大の資質でしょう。
 
 
–「運が良い」ことも「人との出会いに恵まれる」こともそれまでの才能や実力がないと運も出会いも巡ってこないと思うのですが、石川会長思うご自身の「才能」はどんなところだと思われますか?また努力してきたことはなんでしょうか?
 
石川  才能は経験でつくるものです。経験の根底にあるのが、運の強さだと思います。
 
 
–クリエイティブなことを考えることと、経営マネジメントを考えることをどのように両立させていますか?
 
石川  両立させようとしないことです。現場に行ったときは現場の視点になって考えるし、ビジネスサイドでは経営者としての視点にたって、完全にスイッチを切り替えてどちらかに振り切っています。


 

石川氏の好きなアニメとAIへの提言

 

–石川さんの好きなアニメとその理由をお伺いしたいです。
 
石川  好きなアニメは「これから作るもの」です。
個人的に一番好きだったのは『あしたのジョー』。自分が作った中では、下請けで携わった『エスパー魔美』の「雪が降る街を」の回です。 漫画原作のアニメ化で大切なのは、漫画が世に出るまでの大変さを理解し、漫画のコアな部分を裏切らないこと。アニメのオリジナルがヒットしないと言われるのは、漫画のオリジナルが圧倒的な数の中から選ばれているという前段の数字を考慮していないからです。
 
 
–AIをどう活用すべきでしょうか?
 
石川  AIは絶対必要ですが、庵野秀明監督は「このAIは使える」という庵野印の印鑑を押すような、「道しるべ」となる存在が絶対必要だと話していました。やはりAIばかりで作ってしまうと、お客さんは確実に引いていきます。AIとの関係をなくして今後アニメーションが発展させるのは難しいですが、使うべきところとそうじゃないところの判断は間違えてはいけないです。多くの人を納得させる前に、「この人が評価してくれる」「使いたいと思わせる」という特定の人を納得させることが、一番近道だと思います。


 

 
 

最後に ~謙虚さと自信をもつことのバランスの大切さ

 

–人を巻き込む力や魅力を身につけるには?
 
石川  これは押井守監督なら「欲を一つ選びなさい」と問うでしょうね。お金、名声、異性。私は子どもの頃から一番手の届かない「異性にモテたい」という欲をもっていたことで、逆に名声もお金も勝手についてきた感覚があります。でも僕の異性にモテたいは、たくさんの人にモテたいというベクトルではなくて、自分の好きになったヒト・コトに好かれたい、家族に愛されたいとか、一つのことに集中することなんですよ。二つの欲を持つと地獄を見る。他者への深い関心や誠実さ、これが結果として、人を巻き込む力の一部となるんだと思います。亡くなった俳優の大滝秀治さんの言葉を借りれば「人間、成長しつづけるには、謙虚さと自信のふたつが必要」だと。だけど謙虚さは美徳ですが、行き過ぎれば「卑屈」になり、自らの成長を止めてしまいます。自信は不可欠ですが、強すぎれば「うぬぼれ」に陥ります。とても深い言葉だと思いました。
母からはよく「自慢をするな」と躾られました。自らの自信、あるいは自慢したくなる気持ちを母からの戒めと「謙虚さ」で律し、その両方のバランス保つことがプロデューサーとしても、リーダーとしても成長には不可欠だと僕は思っています。
 
市井  今日は人との出会いに関するいいお話や質問にお付き合いいただきありがとうございました。


 

VIPOアカデミー校長 市井より

 

殆どの質問に対して、即答せずに、熟慮した上で、他の方の発言例などを引用して、回答する姿が大変印象に残りました。又、答えにくい質問にも回答して頂き、誠実かつ、正直な方であることを改めて、認識致しました。そのような石川さんであるからこそ、人を巻き込んだり、運を呼び込むことが出来たのだと感じます。人が育つ環境に置くという方針で、後継者も育ててきたようですので、バトンを受けた和田社長が、どのように更に事業を発展させていくのか、楽しみであり、いつか、経営者講演で、お話をお伺いしたいと思いました。


 
 

石川光久 Mitsuhisa ISHIKAWA
株式会社IGポート 代表取締役社長
株式会社プロダクション・アイジー代表取締役会長

1958年 東京都生まれ。大学卒業後、竜の子プロダクション(現 タツノコプロ)に入社。制作進行、プロデューサー業務を経て、1987年、独立し創業。アニメーションのプロデューサーとして数多くの映画、TVアニメーション、ゲーム制作などを手掛ける。米国ビルボードチャートで1位となり“ジャパニメーション”ブームのきっかけを創ったとされる、押井守監督作品 映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」(1995年)や、日本のアニメーション作品として初めてカンヌ国際映画祭コンペティション部門にノミネートされた映画「イノセンス」(2004年)を送り出した。その後もアニメーション業界の常識を変える経営を展開。映像作品への出資や権利獲得、IP運用を精力的に手掛ける。


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