インタビュー

2026.01.20


韓国コンテンツ振興院(KOCCA)東京・大阪ビジネスセンター長インタビュー<第二弾 大阪ビジネスセンター長編>大阪発、日韓連携で目指すグローバル市場へのチャレンジとKOCCAの「コンテンツ金融支援制度」を紐解く
世界26カ所にビジネスセンターを展開している韓国コンテンツ産業の育成と海外展開を支援する政府機関、KOCCA(韓国コンテンツ振興院)は、海外での拠点を拡大しています。
日本でも東京に加え、2024年11月に西日本での活動を中心とした、韓国と日本のコンテンツ産業の交流・協業の拠点となる大阪ビジネスセンターが新設されました。
今回、大阪のセンター長に就任された白 承爀(ベック スンヒョック)氏にインタビューを行い、大阪ビジネスセンター長としてのビジョンと活動状況、さらには白センター長ご自身が携わってきたKOCCAの「コンテンツ金融支援制度」についてお話を伺います。(2025年11月7日オンラインで実施)

 

(以下、敬称略)

 
 

大阪ビジネスセンター長 白 承爀(ベック スンヒョック)氏の経歴と就任の背景

日本留学からKOCCA研究員、そして再び日本へ
 
VIPO専務理事・事務局長 市井三衛(以下、市井)  まずは白さんの自己紹介と、経歴や主に携わってきたコンテンツ分野について教えていただけますか。
 
KOCCA大阪ビジネスセンター センター長 白 承爀(以下、白)  私はKOCCAに研究員として入社し、長年コンテンツ産業に関する政策研究に携わってきました。主に制作会社の資金調達や法律改正に関する研究を行う中で、資金調達の重要性を強く実感しました。その経験から「コンテンツ金融支援制度」研究に取り組むようになり、「コンテンツ価値評価」というモデルを開発しました。それが2016年のKOCCAコンテンツ価値評価センター設立につながり、私自身も研究チームからセンターに移り、立ち上げメンバーとして参画しました。
 
市井  次に、今回の大阪赴任の経緯を教えてください。ご本人の希望ですか。それとも突然決まったのでしょうか。
 
  私は日本の大学院に留学した経験があります。日本で学んだ知識や経験を韓国で活かしながら、研究や現場での実務に取り組んできました。大阪ビジネスセンターの新設計画を知り、両国の交流に貢献できると考え、応募してこちらに参画しました。
 
市井  なるほど。ご本人のご希望だったのですね。
日本の大学院に留学された時期はいつ頃ですか。東京ですか。
 
  東京です。大学院では「研究生」という制度があり、それを経て修士課程の前期と博士課程の後期で勉強しました。2001年に日本に来て、10年目に入った2010年の2月に韓国に帰りました。
 
市井  東京での生活はいかがでしたか。
 
  正直、当時は家と学校を往復するだけの生活で、旅行や東京の他の地域に出かけたことがほとんどありません。
韓国とは異なり、日本の大学院後期課程では研究者として扱われ、現場の方々や、他の専攻・他の大学でコンテンツやメディア産業を学ぶ方々との交流が活発でした。そこで様々な経験を積めたことは、非常に良い機会でした。ただ、せっかく日本にいたにもかかわらず、日本の文化や各地の自然に触れる経験をしていなかったので、今回はぜひ経験したいと思っていました。でもまだ大阪でもあまり出かけられていません。
 
市井  KOCCAでは何かのコンテンツ分野に特化して携わったのではなく、資金調達という切り口で研究され、価値評価センターの設立に参加された。通常のコンテンツ周りをやっている方とは少し違う経歴だと感じます。
 
  私は、主に研究員としての経歴を持っており、KOCCAが実施している制作費支援のプロジェクト経験があまりないため、そういった面ではKOCCAの他の職員の経歴とは少し異なります。
私が取り組んだ資金調達の説明をすると、KOCCAでは、シードマネーとして制作費全体の一部分を制作会社に支援しています。しかし当然、国からの支援金だけでは限界があります。コンテンツ産業に限りませんが、民間の金融機関などから資金調達ができなければ企業は成り立ちません。それをどうしたらよいのか、に取り組んできました。資金調達の事業部署が通常の事業部署と違うのは、ひとつのジャンルではなく、KOCCAが扱う様々なジャンルが対象で、制作会社の財務、法務、所属クリエイターたちの経歴まで検討し、会社やコンテンツの全体を見ていた点です。非常に貴重な経験をしたと思っています。

ピンチをチャンスに—大阪発、韓日協業で切り拓くグローバル市場

立ちはだかる「東京一極集中」の大きな壁

 

市井  今までの資金調達、コンテンツ価値評価センターでのご経験を踏まえ、大阪では何をしたいというイメージがあったのでしょうか。
 
  大阪に来る前は、東京とあまり変わらないだろうと思っていました。大都市で、ゲームを中心とした大手コンテンツ企業の本社も多くあります。最初は東京と同じように、ビジネスマッチングを中心にやっていこうと考えていました。ところが、大阪でまだ約1年ですが、東京とは全く違いました。どの国でも首都に集中する傾向はありますが、日本のコンテンツ産業も東京に集中しています。また、歴史が長い東京ビジネスセンターと違って、大阪のセンターはまだネットワークがほとんどありません。日本の投資会社、流通などの企業やコンテンツ産業に関係する方々にお会いしたいのですが、そういった企業の情報を得ることにも苦労しています。
 
市井  それは大変でしょうね。韓国におけるソウルほどではないにせよ、日本もかなり東京一極集中ですから、大阪独自での活動は大変だろうと思います。

 
 

関西のクリエイターと連携で新しいビジネスモデルを模索

 

  大阪本社の会社と取引する場合でも、流通やビジネスの担当部署が東京にあるため、大阪に来る必要はなく、結局東京で全て済んでしまいます。では、大阪でできることは何か。クリエイターは関西にも多く存在していることがわかりました。特にゲーム、アニメ、マンガ(ウェブトゥーン)、音楽公演といったジャンルのクリエイターです。大阪でも「制作」に関しては話がスムーズに進むのですが、ビジネスの話に移すと東京の管轄のため、なかなか前に進みません。大阪のクリエイターたちも、なんとかしたいとの思いはあるようです。こうした状況に対して、何かできることがあるのではないかと感じています。東京主導のビジネス慣行とは異なる、新しい形のビジネスを始めるなら、大阪の方がむしろチャンスがあると考えています。
 
VIPO事務局次長 槙田寿文(以下、槙田)  京都にはゲームも含めて集中しているものもあると思いますが、京都とは何か関わりを持っていらっしゃいますか。
 
  京都の「IVS」という大きなビジネスマッチングのイベントへの参加を検討しています。おっしゃる通り、京都にはアニメーション会社やファッションの会社など意外に様々な企業があります。ファッション系とはやり取りをしていますが、アニメーションの場合は難しさを感じています。変な言い方かもしれませんが、クリエイターたちにはマンガとアニメは日本が世界トップだという自負が強く、「我々だけでやっていける」という思いを感じます。だから「一緒にやりませんか」と言っても、あまり興味がない、そういう印象を受けました。
 
槙田  そうですね。マンガもアニメも京都が発祥の地だという自負がありますしね。

 
 

奈良・神戸、そして九州へ。広がるネットワークと可能性

 

  まだこれから話を進める段階ですが、奈良や神戸は、興味を持っていただいているようです。奈良は音楽や公演に興味があるようです。神戸は企業を誘致して一緒にやりたいという考えがあって、ビジネスチャンスがあるのではないかと思います。
 
槙田  福岡の企業にはコンタクトされたことはありますか。
 
  まだ福岡はないですね。今は奈良、神戸、京都、それと名古屋、その辺です。大阪を中心として、徐々に広げているところです。
 
槙田  福岡は韓国と距離的にも近いうえに、「福岡を中心にコンパスで円を描いて、これが福岡経済圏だ」といった考え方をしますから、韓国に対してもハードルが低いと思います。ただ、コンテンツ関連の企業がどの程度あるのかでしょうね。ゲームだと『妖怪ウォッチ』のレベルファイブさんですね。ゲーム会社とそれに付随する規模が大きめのアニメ会社が、確か福岡にもあります。映像関連で言うと、以前、日中韓でドラマのコンファレンスを実施した時に、中心的に声を出していたのは福岡、北九州の方たちでした。日本でも配信がどんどん広がり、九州を中心とした地方局の皆さんがドラマを作ろうという動きがあります。ドラマなどの日韓共同製作には興味があるかと思います。

 
 

白センター長のビジョン:韓日の強みを結集して世界へ

 

  そうですね。そういうことはあるかもしれません。
最初に言い忘れていましたが、今日お話ししているのはKOCCAの公式的なものではなく、あくまで私の個人的な意見として聞いてください。KOCCAの一番の目的は韓国のコンテンツを発信し、市場を広げること、簡単に言えば海外で韓国のものを売って売上を上げていくことです。私自身にとっても、もちろんそれは大事ですが、韓国や日本の市場だけではなく、「グローバル市場」を目指しています。グローバル市場に、日本の企業と「一緒にいきましょう」というのが、私がやりたいことです。韓国は2012年からコンテンツの輸入額より輸出額の方が大きくなり、逆転しました。これは、韓国の制作力が上がって海外からも評価されるようになった証拠といえます。それほどまでに韓流が世界中に広がっています。日本はアニメやマンガもあり、J-POP、ドラマなどが昔からグローバル市場で評価されています。そんな日本のクリエイターたちと、近年制作力が上がってきた韓国のクリエイターたちが一緒に作ることで質の高いコンテンツになり、世界で十分戦えると思います。それを実現したくて、日本の方々にどうしたら理解・賛同していただけるかと試行錯誤しているところです。
 
槙田  日本で欧米を攻めようと考えるのは、やはり東京にある企業が圧倒的だと思います。そういった企業と組まない限り、なかなかグローバルでの展開は難しいかもしれませんね。
ところで、大阪センターと東京センターの地域的な区分けはあるのですか。
 
  必ずしも、ではありませんが、基本的には、関東は東京センター、関西は大阪センターという棲み分けになります。今言われたように、海外展開は東京中心になりがちだ、という意見には同意します。ご存じのように韓国は市場が狭いため、韓国の企業は最初から海外展開を念頭に置いています。中小レベルであっても海外展開の経験を積んできた会社が結構あります。一方で大阪のクリエイターの方たちは「制作」に関しては自信を持っていますが、海外展開に関しては、東京が主導しているため経験とノウハウがない。そこで、海外のノウハウを持つ韓国企業と共同製作をし、海外でビジネスを展開する。この方法であれば大阪からも海外を目指せます。ただ、一つハードルになっていることがあります。世界的に経済が落ち込んでいる今、日本の会社も経営面・金銭面で苦しんでいます。大手企業の下請で成り立っていた会社は下請業務が減り、厳しくなっています。そんな時に韓国企業との連携の提案をすると、躊躇する空気を感じます。その理由は、韓国とのビジネスを検討していることが発注元に知られてしまうと、下請業務がゼロになる可能性もあるためです。こういった事情もあるので、どうしたら進めることができるのか、悩んでいます。
 
槙田  今お話しされたケースはアニメかゲームですか。
 
  アニメもゲームもありました。
 
槙田  アニメはそうだろうなと思います。
地域で言うと、先ほど言いかけた、福岡を中心とした企業とアジアを目指す、要するに「日韓でアジアの市場を目指す」というのは、結構考えられるのではないかと思います。
福岡も沖縄も、日本というよりアジアという概念の方が強い人が増えてきています。先ほど申し上げたように、那覇や福岡にコンパスを立てて、そこから何百キロ圏内はアジアの経済圏だからそこで攻めるんだ、と。最近の映画祭なども、東京とは関係なく福岡と那覇を中心に実施しているものも増えてきましたから、九州の方の意識は開かれてきていると思います。京都はお感じの通りですので、難しい部分もありますが、人的関係が構築できれば違ってくると思います。
 
テレビに関しては、我々VIPOはJLOX+補助金のロケ誘致の事務局もやっていますが、日韓のテレビ局が組んで作るドラマの申請が増えています。お互いの心理的な障壁はなくなってきていると思います。関西テレビさんなど、結構思い切ったことをやるテレビ局もあるので、そういった会社は共同製作に関しても心理的バリアはないのではないかなと感じます。
 
ゲームは日本と韓国では得意分野が異なるので、韓国の得意分野の「海外展開をサポートします」や「共同製作しましょう」は、ありだと思います。ただ、インディーゲームの場合はそもそも表舞台に出てきていないので、相手を見つけるのは大変かもしれません。でも、そこにニーズがあるのは間違いないと思います。
 
アニメは、産業が多重構造のため、がんじがらめになっている会社が多く、白さんが言われたような、発注元を気にして動けないということは常にあるだろうと思います。今日もニュースで「アニメの下請け会社が潰れている」「このままいくと倒産件数が過去最高になる」という記事を見ましたが、相当苦しいところが出てきています。一方で、韓国と組めるような相手、つまり企画開発もできるようなところは、結構仕事がありますので、なかなか簡単に「共同で作りましょう」ということは難しいかと、正直思います。共同製作は時間もお金も労力もかかります。それより今は、幸か不幸か国内も海外から引き合いがたくさんあるため、先を見越して大きなチャレンジを考えるところが少ないのは、なんとなく理解できます。
話があちこちして申し訳ないですが、ゲームの、毎年京都でやっている「BitSummit」には行かれましたか。

 
 

インディーゲームの祭典「BitSummit」での手応え

 

  はい、毎年KOCCAのブースを出しています。
今年の例でいうと、韓国で6社ほど選抜して「韓国パビリオン」のような共同ブースを出しました。結構良い評価を受けまして、日本の会社との商談も始まっているところです。
 
槙田  それなりの糸口があったということですね。
 
  そうですね。ほかにも、「BitSummit」の事務局と早いうちから意見交換を行うなどの工夫をしてきました。その流れで、今年は事前ネットワーキングのパーティーを開催しました。「BitSummit」が始まった7月18日の、その前夜に、日本の会社や流通、投資家の方々を招いて、韓国からの参加者とビジネスマッチングをしながらIR(投資家向け広報)などを行いました。その後に、自由にネットワーキングをする場を作ったのが結構評判が良かったので、来年はもっと規模を大きくしようかと話しているところです。
 
槙田  そこでは、共同開発の話が多いのですか。それとも、ゲームを相手の国で流通したいので協力しましょうという話が多いのですか。
 
  ケースバイケースですが、韓国のインディーゲームをこちらでリリースしようという話も、日本のゲームを韓国でパブリッシングしてくれないかという話もありました。需要は大手よりもあると思います。
 
槙田  そうですね。大手を攻めるよりも、インディーゲームは非常にいいエリアだと思います。お互いにまだまだ「これから」という感じがありますので、協力できる要素が見つけやすいのではないかと思います。今後ますます京都の「BitSummit」は大きくなっていくと思うので、ゲームに関してはそこに一つの拠点を持つ、みたいなのは良いのではないでしょうか。
 
  そうですね。来年は予算も増やしてやっていきたいと思っています。

韓国が先駆けるコンテンツ産業を支える仕組み:「U-KNOCK」と「コンテンツ金融支援制度」

初開催のIRピッチイベント「U-KNOCK 2025 in OSAKA」の手応え

 

VIPO経営企画部部長 山崎尚樹(以下、山崎)  10月末に「U-KNOCK 2025 in OSAKA」というIRピッチのイベントを大阪で実施されました。これは、コンテンツ企業の資金調達が背景にあるのだと思いますが、どういう経緯でこういうピッチイベントを実施されたのか、また、その手応えをお話しいただけますか。
 
  資金調達というと、「企業に対する投資」を考えがちですが、IRピッチのイベントは、それだけではなく、コンテンツそのものに対する投資をしてもらう目的もあります。日本も同じだと思いますが、コンテンツを扱っている企業の多くは、規模が大きくなく、経営状況もあまり良くありません。ところが、そんな企業から良いコンテンツが出て、ヒットするようなことは普通に起きます。ですから、「U-KNOCK」も企業の説明が中心にはなりますが、まずは「何を作っているか、作ろうとしているか」「売り上げなど、どのような可能性があるか」を知ってもらうために実施しているイベントです。コンテンツに対する投資のためであることに注目していただきたいです。私が最初にお話しした資金調達も、コンテンツに対する資金調達です。企業に対する資金調達に限定すると、経営状況が良くないところへは、民間の金融機関は融資しません。だからこそ「コンテンツの可能性を見て、支援してください」と。それが大きな概念だと理解していただければと思います。
 
山崎  価値の根源はコンテンツにあるので、そこを見てもらい、結果としてコーポレートファイナンス(企業融資)になるかプロジェクトファイナンスになるかは分かれる、ということですね。もう1点。今回のタイトルは「U-KNOCK 2025 in OSAKA」ですが、韓国の中でも同様のIRピッチングを実施されているのでしょうか。
 
  はい、もともとは「KNOCK」という名前で韓国国内で実施していました。今も自国内で開催していますが、去年からアメリカ、シンガポールで「U-KNOCK」という名称で始めました。
 
山崎  そのイベントを今年初めて日本で実施したということですね。手応えはいかがでしたか。
 
  日本の企業や投資家たちからの反応が結構良かったですね。その時に発表した14~15のコンテンツに対する質問もありましたが、「今後のことについて話し合いたい」というお話もいただきました。東京から来られた方もいて、初めての日本開催で手応えを感じました。
 
山崎  関西の企業に限らず、東京の企業や投資家も対象にしたのでしょうか。
 
  はい、そうです。ご存知だと思いますが、クールジャパンのファンドもそうですが、日本にはコンテンツだけを扱う専門のファンドがありません。そういったファンドの中でコンテンツ産業の担当チームが東京にあるのであれば、大阪での開催であっても、彼らを招きたいと考えています。最近は、松竹さんや電通さんなどのファンドもあるので、そういった大手企業ファンドとの関係強化をしていかないといけないと思っています。
 
山崎  日本のコンテンツ企業は、個別のファンドとの話し合いはしていても、こういったイベントで自分たちのIPを前面に出してピッチングしていくことがあまりないと思います。日本の資金調達の仕組み自体がもともと製作委員会形式が多いため、あまり意識していない側面もあると思いますが、今回実施されたこの「U-KNOCK 2025 in OSAKA」の情報を見て、日本にも非常に参考になるのではないかと感じました。

 
 

資金調達スキルを学ぶ「U-KNOCK」の教育システム

 

槙田  私は「KNOCK」や「U-KNOCK」をあまり存じ上げていないのですが、ピッチングをやってインベスターから資金を調達するというコンセプトは理解しました。そこには「コンテンツ価値評価」も関わってくるのでしょうか。ピッチングするときに、KOCCAで受けた価値評価を提示するのですか?
 
  韓国の「KNOCK」では、価値評価との直接の絡みはありません。投資ファンドから「価値評価の報告書を持ってきてください」と言われたことはありますが、価値評価が必要、という仕組みではありません。「KNOCK」を始めた最初の目的は、投融資を誘致するのが最も大きなものですが、投融資を得るためには、少なくともこういうスキルを身につけた方がいい、という「教育」の目的もあります。企業が投資家や銀行から投融資を受けようとするには、自分の会社のこと、何を作っているのかなど、相手側に説明して納得してもらう必要があります。しかし、コンテンツを作っている方々はそういった経験が少なく、投資家を納得させるスキルが足りません。「KNOCK」では参加企業を対象に、ピッチ資料の作り方から、発表するときの身振り手振り、声はどうすればいいのか。そういったことを各専門家から学んでもらいます。

 
 

コンテンツの可能性を可視化する「コンテンツ価値評価」システムの評価方法と仕組み

 

槙田  そういったピッチングの事前トレーニングや研修は、我々VIPOも行っています。
話は「コンテンツ金融支援制度」に戻りますが、コンテンツに対する価値評価と、コンテンツを作っている企業に対する価値評価の、2種類出るのですか。
 
  コンテンツに対しての価値評価です。
 
槙田  具体的にはどのような考え方で評価されるのですか。
 
  コンテンツの競争力、クリエイターは誰か、そのクリエイターの経歴、財務的なもの。これらが大きな枠組みの項目に入っています。評価の判断は、制作・コンテンツに対するものが中心となるので、まずは作る側の専門家、財務に関しては銀行や投資家のような財務的な専門家、流通に関する専門家。そういった異なる専門性を持った学者などが全般的に見ます。評価する項目が10あるとすると、それぞれが自分の専門性にあたる項目だけを評価し、最終的に一つの結果として出します。これが基本的な仕組みです。企業自体に対する評価項目も入れていますが、その情報は最小限にしています。
 
槙田  評価項目は、全部で何項目ありますか。
 
  ジャンルによっても、制作のどの段階か、によっても違います。パターンがいろいろあり、一つのジャンルの中でも、例えばゲームであればRPG、コンソールゲームなど細かい区分によっても異なります。
 
槙田  相当細かいですね。最終的なアウトプットとしては、点数ですか。それともABCDE評価のようなものでしょうか。
 
  2パターンあります。売上予測と、ABCDE評価です。投資家にとってABCDE評価は不要で、欲しいのは売上予測です。一方、銀行に向けては、銀行が融資で使っているダブルA、トリプルBといった信用格付けのランクがあるので、それに照らし合わせて参考にできる、ABCDE型の評価結果が出ます。
 
槙田  なるほど。ただ、コンテンツの価値を金額的に表すのは、当たり外れがあって難しいですよね。それは、経験値やサンプル数から、確率(プロバビリティ)がこの程度です、この幅(レンジ)ですよ、という形で出すのでしょうか。
 
  はい。一つの金額だけではなく、レンジで出します。
積みあげてきた結果や、既に出ているリテールのジャンル毎の成果などを参考にしています。
 
山崎  「コンテンツ価値評価」は2016年頃から10年近く、支援事業はもっと長く、KOCCAは継続してノウハウを積み上げていくイメージがあります。日本はそういった継続的な対応を行う組織がなく、国が単年度で支援することが多いのですが、どのように継続できているのでしょうか。
 
  中小企業の制作力向上、人材育成、資金調達、政策研究といった支援の大きな枠組みに関しては、政府も「続けていかないといけない」という共通意識を持っています。韓国では、各プロジェクトの担当者が予算を管轄する部署を説得します。予算は毎年増減があるのですが、各自がそれを突破していく、そういう仕組みなので、担当それぞれが頑張ってきた結果が、継続性に繋がっているのではないかと思います。法的な仕組みも整っています。コンテンツ産業振興の主務部処(日本の省庁に当たる行政機関)である文化体育観光部の所管法律の、「文化産業振興基本法」や「コンテンツ産業振興法」などによってコンテンツ産業を振興しており、弊社も「文化産業振興基本法」第三一条に基づいて設立された法的機関ですので、継続性が担保されています。
 
山崎  日本では、コンテンツの価値評価の重要性が一時的に盛り上がることがあっても、数年すると誰も言わなくなったりします。ですが、韓国ではずっと続けておられる。「コンテンツ金融支援制度が必要だ」という軸がしっかりしているのだろうなと思ってお聞きしました。

 
 

投融資における「コンテンツ金融支援制度」の定着を目指して

 

槙田  「コンテンツ金融支援制度」の話に戻りますが、韓国では、金融機関が企業を評価するときや、投資家がコンテンツに投資の判断するときに、「必ず」価値評価を参考指標として使われているものですか。
 
  「必ず」ではないです。我々もまだ定着しているとは思っていません。少なくとも私個人としては、もっと広げていかないといけないと思っていますが、最近は銀行や投資会社が「KOCCAで評価の報告書をもらってきて」と要求するケースが出始めていると聞いています。「必ず」となるようにしたいのですが、国の機関が研究を重ねて売上予想を作っているとはいっても、ある意味、数学の問題を解いて回答を出すものではないので難しいところがあります。
 
価値評価は、その分野に携わっている専門家たちに意見を聞いて、結果を予測することで、投資する側に参考にしてもらうのが大きな目的です。投資する側も必ずしも対象コンテンツやそのジャンルに精通しているとは限らないため、専門家による価値評価報告書を判断材料として活用してもらう。これは、株式投資の際に専門アナリストのレポートを参考にする流れをイメージしてもらうと分かりやすいかと思います。
 
民間に広げるためには、何か仕組みを国で作らないといけないと考えました。そこで、韓国の場合は国が分野ごとにファンドを作っていますので、その一つとして「コンテンツ価値評価連携ファンド」を作りました。今は、「コンテンツ育成ファンド」と名称が変わりました。国のマザーファンドの中に文化アカウントがあります。その下にIPファンド、輸出ファンド、新技術ファンド、そして「コンテンツ育成ファンド」などがある、という形です。
「コンテンツ育成ファンド」から融資を受けるには、必ずKOCCAの価値評価を受けないといけない。それが前提条件です。金融からも価値評価の要望が出てきたりして、少しずつ範囲を広げています。
 
槙田  それ以外のファンドもあるけれども、「コンテンツ育成ファンド」を使いたい場合は必ず前もって評価を受け、その結果をベースに調達や投資の判断を受けてください、ということですね。

KOCCAの海外戦略:コンテンツを軸に広がる産業連携とビジネスセンターが担う役割

 

山崎  次に、KOCCAの海外展開について伺います。日本だけでも東京と大阪にセンターがあり、今後海外拠点を50カ所に広げていくという計画も報道されました。KOCCAとして、海外戦略・展開をどういう方向で進めていかれるのか、大阪センターの役割も含めて教えていただけますでしょうか。
 
  KOCCAの海外展開は、コンテンツの広がりだけが目的ではありません。コンテンツを通じて、ファッション、フード、家電など、他の産業も注目されて関心を得ますので、そういった他の産業と一緒に経済を盛り上げていこう、というものも目的としています。特に農産物や観光、製造業など、担当機関が海外に出ているジャンルとは、共同プロジェクト等で広げていくことを目指しています。
大阪センターの役割ですが、国に対しても強く訴えている「現場」の重要性です。オンライン会議は、直接会うことよりも、どうしても効果が低くなります。韓国のコンテンツ企業は大体が中小規模なので、世界各国に支社や法人を作ることは難しいです。そのため我々現地のセンターが、各企業の「海外支社」として、現場で直接会って話す、そういった活動がKOCCAの海外での大きな役割です。
 
市井  センターの役割は「コンテンツ企業の海外展開の拠点になっていく」と理解しました。東京と大阪がある中で、大阪で特に注力されるジャンルはゲームになるのでしょうか。
 
  今考えているのは、ゲーム、アニメ、マンガ(ウェブトゥーン)、音楽、放送などです。この辺りのジャンルは、大阪で何かできるのではないかと思っています。

最後に:VIPOと日本のコンテンツ企業へのメッセージ

サブタイトルサブタイトル

 

市井  なるほど。それらを中心としてカバーしていこうと今考えているということですね。
最後の質問になりますが、VIPOや日本のコンテンツ業界への期待を伺います。まずは我々VIPOに対してお聞かせください。
 
  まずはこれまでお世話になってきていることに、感謝しています。
VIPOと一緒にやりたいことは企業を開拓することです。VIPOの会員企業は東京中心だと感じたので、特に関西地方の企業を一緒に開拓できればと思います。新たに開拓した企業を含めてジャンルごとの企業リストを一緒に作れれば、と思います。
 
市井  確かにVIPO会員に関西企業は少ないですね。ただ、何を目指して大阪という領域を強化するするのかを考える必要がありますね。企業開拓やリストに関してもう少し説明をしていただけますか。
 
  簡単に言うと、韓日のコンテンツ企業の、ジャンルごとの情報システムを一緒に作りたい、ということです。まず両国のコンテンツ企業へ登録をよびかけ、登録されたデータを蓄積していきます。登録した企業は、共同でプロジェクトを実施したいときや、韓日企業間だけでなく、日本企業同士が協力するときなどにそのデータを活用してもらえる。そういった「場」を提供できることが一番良いのではと思っています。登録をよびかける際にも関西の企業情報が不可欠なので、それを「企業の開拓」という表現をいたしました。
 
市井  コンテンツ企業のデータベース化は、構築までにかなりの労力がかかること、アクセスしてもらうためのプロモーション、常に最新版にする運営上のリスクなど、課題は多いと思いますが、おっしゃることは理解しました。詳細を詰めて、何ができるか話し合っていきたいと思います。次にこのインタビューを読まれている日本のコンテンツ業界の方々に対して発信したいことはありますか。
 
  時代は変わりました。日本製品を韓国に販売する、韓国製品を日本に販売する、そういった一方通行な貿易の時代は終わったと感じています。内需ももちろん重要ですが、韓日でお互いの長所を合わせて世界の市場を目指すことを一緒に考えていただければと思います。実際に今、韓国のクリエイターたちは、「韓国」のコンテンツであることを前面に出さなくなりました。ひとつのコンテンツとして楽しんでもらうことを目標にしています。韓日のプロジェクトチームが作ったアイドルグループが、日本でも韓国でも、そしてアメリカでも活動しています。彼らは、「どこの国」のアイドルという売り方はしていません。そういう時代になりました。一緒にできるイベントやプロジェクトの可能性は十分にあると思うので、「ぜひ一緒にやりましょう」と、言いたいです。
 
市井  ありがとうございます。そこは東京の李センター長とも同様の話がありました。実際、我々VIPOの活動も世界を意識して、日韓共同製作など、日韓の事業を進めているので、見ている方向は一致しているなと感じます。今回は長時間にわたり、様々なお話をしていただきました。今後ともぜひよろしくお願い申し上げます。
 
  ありがとうございました。

 
 
 

白 承爀(ベック スンヒョック)
韓国コンテンツ振興院(KOCCA) 大阪ビジネスセンター長

  • 職歴:
  • 上智大学大学院 文学研究科 新聞学専攻 博士後期課程修了(博士の学位を取得)。帰国後、韓国コンテンツ振興院入社。コンテンツ産業や政策研究を担当。未来政策チーム長やコンテンツ金融支援団長などを経て、韓国コンテンツ振興院大阪ビジネスセンター長に就任、現在に至る。国家知識財産委員会専門委員会委員等を兼任。


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