VIPO

インタビュー

2022.01.24


内閣府に聞く―アフターコロナにおける「クールジャパンの再構築」とは
世界が新型コロナウイルスの脅威にさらされてからまもなく2年。
リアルでしか体験できない集客型エンタメは収益の減少を余儀なくされましたが、オンライン市場は、集客型の機会損失をカバーするだけでなく、事業継続のための収益獲得やファンとのつながりを維持する重要な役割を果たしてきました。ウイズコロナにより我々の価値観も大きく変わり、コンテンツ市場も大きく変革を迎えました。そこでアフターコロナを見据えた「クールジャパンの再構築」の方策について内閣府 知的財産戦略推進事務局長 田中茂明さんにお伺いしました。

 
 

「クールジャパン戦略の再構築」の大きな3基軸

エンターテインメントコンテンツの重要性を再認識

VIPO専務理事・事務局長 市井三衛(以下、市井)  今日はお時間をいただきまして、ありがとうございます。早速ですが、まずは大枠として「クールジャパン戦略の再構築」について方向性などご説明いただければと思います。 
 
田中茂明内閣府 知的財産戦略推進事務局長 田中茂明(以下、田中)
はい。クールジャパンを取り巻く今の喫緊の重要な視点をお話しさせていただきます。エンターテインメントを含むクールジャパンの関連産業というのは、このコロナ禍であらためて、その重要性が浮き彫りになっていると思います。東日本大震災のときもそうでしたが、厄災も含め、人生の困難に直面したときに、それを乗り越えるために必要なもの。自分を癒してくれたり、元気づけてくれるものとしてエンターテインメントのコンテンツの重要性はあらためて感じますよね。映画のワンシーンや歌のフレーズに救われることってたくさんあります。そういう意味でも社会機能としてエンタメコンテンツは重要な役割を果たしていると思います。それを作り、届けてくださっている方々や企業が今、危機的状況に直面されているわけですが、コンテンツ産業がきちんと機能し、存続、発展できることを社会全体で支えていかなければならないですし、認識共有しなくてはなりません。政府のほうも、そのための支援をやってきましたが、これに対する社会的なご理解を得ながら続けていくことが大前提です。でないと、クールジャパン戦略の再構築も、その担い手がいなくなってしまう恐れがあります。そのことはあらためて強調しておきたいと思います。

 
 

(知的財産推進計画2021 P80より)

 
 

インバウンドにかわるもの、デジタルは国境を超える。

クールジャパン戦略の再構築の大きなきっかけはコロナということは言うまでもないのですが、コロナが何を変えたかというと、国境をまたいでの人の流動ができなくなり、インバウンドが止まりました。逆の意味で変わったのはデジタルです。デジタルは国境を越え、リアルを超越するということで、日常生活の中でデジタルに需要がシフトしました。
その勢いをもう一度活かし直すことはクールジャパン戦略を構築する上で重要な着眼点であるということです。

 
 

コロナ禍における価値観の変化

さらに、技術面だけではなく、価値観そのものが変化しているという議論もあります。ソーシャルディスタンスもそうですし、ヘルスケア、衛生に関する関心がものすごく高まりました。そして、よりサスティナビリティ―であるとか、エコにも関心が集まり、世界的にも経済観念に変化がありました。それは日本も同じで、菅政権時代にカーボンニュートラルをコミットすることとなりました。そういう関心や価値観の変化にも向き合おうというお話です。

 
 

日本ならではの伝統と精神文化を背景に持つ資源の再発掘

日本の伝統的な文化に目をおいても、かつての欧米的な量産し消費するような成長価値観とは一線を画しています。サスティナビリティ―については言うに及ばず、日本人がもつ「もったいない精神」や「足るを知る」といった価値観を体現しているものを「クールジャパン」として再定義して、いいものを発掘していくことができるはずです。それは今後の商品・サービスの提供の中で見せられるものがたくさんあるのではないでしょうか。それを「クールジャパン」の資源として再認識して、磨いていけないかということです。何らかの日本ならではの精神文化に裏付けられているAuthenticなものであるからこそ、コンテンポラリーなコンテンツを含めて世界から求められているようになってきているのではないかと感じていますし、そういう観点から、もう一度埋もれた宝をピックアップし直すというのが第1基軸です。

 
 

ソーシャルディスタンスを踏まえた新たな好循環

二つ目の基軸は、輸出とインバウンドの好循環の構築です。今までの好循環の回転というのは、インバウンドからの輸出だったわけです。このインバウンドが、いったん止まっていますので、逆回転があるのではないかという話です。食品加工物に関しては需要が増えていますし、コンテンツもその典型です。そもそもデジタル配信ができるわけですから、こちら側が努力すれば世界に売っていくことができます。これはVIPOにもご協力いただきましたが、継戦能力を維持するための支援の中で、デジタル配信をしませんかと。そういうことを一つのトリガーにしながら現場に対する支援を行っています。これには積極的に参加して頂いた方がたくさんいましたので、その結果としての成功例が出てきています。

 
 

デジタル配信の可能性

それから、もちろんデジタル空間の中での課金というのは、リアルに比べて低額だというお話も聞きますし、イベントを見てくれる人の数を圧倒的に広げられるという意味では、掛け算をすると、大きな収入になるケースも出てきていると聞いています。これを国内だけでやっているのはもったいない話であって、海外に対しても配信していくという努力をされた方もいますし、もっと進めるべきであると思います。そのことから、デジタルを通じたコンテンツの配信の強化が重要課題だと考えています。
 
これをエンターテイメント・コンテンツの消費としてだけ見るのかというのが次の視点です。例えば、観光についてもVR、AR技術を駆使してデジタル配信でオンライン観光を開始された方々もいます。商談会や展示会も、特に産業機械メーカーにとってリアルでの開催は決定的な商談獲得の機会でしたが、3D動画を使ってデジタル空間で紹介することも増えました。いよいよ、3DやVR、AR技術が重要になるわけですが、そういった技術プロヴァイダーや技術者の需要も増えていくと思います。また、デジタル配信で見たものに引き寄せられた方が今度はそれをリアルに実際に触れて感じてみたいという消費者の渇望につながるわけです。ソーシャルディスタンスやデジタル空間での消費が不可逆的になるのでは?という議論がありますが、好循環と捉えています。

 
 

文化的発信力の強化

他にも大きなテーマを挙げていますが、あと一つだけ申しますと、これはコロナであろうとなかろうと重要なことですが、発信力です。特にデジタル空間を使ったエンゲージメントが重要になってきているということです。日本の発信力は本当に十分なのだろうかと考えると、コンテキストストーリーを意識して発信していくということを研ぎ澄ましていく必要があります。もともと欧州の方々は日本文化に対して、非常に関心があります。それはキリスト教的文化との違いに魅力があって、そういったバックグランドを踏まえた文化的コンテキストにとても関心をもってきました。
 
そうしたコンテキストを発信する手段としてのデジタル配信や動画表現だったりするわけですが、伝え方についても「HPに掲載しました。」というだけで本当に伝わるのだろうか?見ていただけるのか?という問題があります。配信を広めるためにSNSをうまく活用できているのか?ということなど、どこまでエネルギーを注いでやってくべきだろうか?ストーリーは本質的で相手の関心に刺さるものになっているだろうか?そういう意味もこめて発信力強化を再構築のいくつかの基軸のひとつとしてとらえています。手段として貢献される動画をお作りになる制作事業者の方々やその利用者の方々とも、こうした観点を共有していただければ有難いと思っています。

 
 

(知的財産推進計画2021 P81より)

 
 
市井  一つ目、二つ目の基軸は比較的ストレートな話ですが、最後の発信力の強化については範囲もものすごく広いですし、アクションプランがとても難しいですね。

田中  はい。浸透させることが難しいです。最終的にはみんなが知っているロールモデルを作って、知れ渡っていくということしかあまり効果的な策はないのではないでしょうか。せめてわれわれ政府の中で心掛けなくてはいけないのは、そういうことに対して何らかの支援をしている場合には、きちんと審査する場を相当意識して、ロールモデルとなるものをピックアップしていかなくてはならないですし、皆さんがそれを知る機会をどう増やすかということにエネルギーをかけていかないといけません。

 
 

輸出からインバウンドへ~コンテンツへの支援とは

ストーリー性のある映像制作の難しさ

 

市井  私たちが経産省から受託してやっているJ-LOD「デジタル配信を念頭においたストーリー性のある映像の制作・発信を⾏う事業」で、支援はしているんですが、採択率がものすごく低いんです。つまりストーリー性のあるプロモーション動画になっていないということです。田中さんがおっしゃったように、大きな範囲で対象を広げるというコンセプトは正しいですが、ではどうやって?ということを示すのはとても難しいと感じています。

田中  これは、実例レベルで見せていくしかないですよね。

市井  まさにおっしゃる通りです。実例を見せて、採択されたものはこういうものですよ。とは我々も紹介しています。しかし、実際問題かけられるお金との問題もあります。

田中  今ここで議論していることは、言われればみなさんにとって何を今さらということなのだと思います。だけど、具体的にどのようなレベルのものがそれにあたるのか?というのは実例をみて、やってみる以外にしか道はないという気がしますね。
 
市井市井  ほんとにそう思います。今、インバウンドから輸出へ、ではなく、輸出からインバウンドという流れの中で、輸出をより促進していった結果インバウンドにつなげていくということだと思うんですが、食品に関してはそれも正攻法だと思いますが、コンテンツについては、どうサポートしていくかお考えはありますか?

田中  ジャンルによって、既に実態状況が違っているのではないかと思います。誰にお聞きしても、アニメは、このコロナ禍での巣ごもり需要と、デジタルコンテンツマーケットへのシフトの好影響は明らかに受けています。海外における配信や、売り上げにおいても、日本のアニメは結構な成功を収めているということです。問題は、実写についてはどうなのか?という話ですね。韓国は成功していますが、それはなぜか?ということは、これまでも話に出ていることですが、韓国は初めから国外への輸出に賭けています。日本はまず国内市場が大きいので、起点が違うことが大きいですが、それでも努力したら成功した国があるわけで、そこにチャンスがあると思っています。
 
デジタルということを考えると、今までと同じルートでしかコンテンツは売れないということはないと思います。現にNetflixは日本のコンテンツエコシステムを利用してオリジナル作品を作ろうとしていますし、彼らはオリジナル以外も買って配信していますから、すなわち、国際的な配信ネットワークを使って利益を上げて、コンテンツの輸出をはかることはもっとできるわけです。そういったものをもっと使うべきだというのが一つの視点です。では、全部グローバル・プラットフォームに依存しなければいけないのか?という議論もあります。
 
私の経験から行くと、売り先は実はもっと多様にあると思います。テンセントがゲーム・コンテンツ・SNSのサービス・レイヤーに力を入れているのが典型的な例で、マルチサイド・サービスプラットフォーマーはメディアやコンテンツの領域を持つことによって、eコマース等その他の自己のサービス・レイヤーに消費者を取り込むわけです。これはどこのプラットフォームも考えていて、新規顧客の囲いこみの要素をどれだけ高めて築き上げることができるかということに、心血注いでいると思います。
 
例えばGRABとかも日本から欲しいものの一つに、コンテンツと言っているんです。ネットの世界は無限にお客を取っていかないと負けてしまうので、そういう意味では、より多くのバラエティーに富んだコンテンツを集めないと勝負にならないということがあります。そういうところに対してエンゲージをしていくという努力が、まだ足りないのかなと思います。そこにマーケットチャンスがあると思えば、ローカルキャプションをつけなくてはいけないですし、ストーリーや画の作り方も含めて、モディフィケーションしなくてはいけないですから、やれることはいくらでもあるわけで、私はそこにチャンスがあると思っています。

 

コンテンツ業界における就業環境の大きな課題とは

取引における適正化

 

市井  その流れでいくと、コンテンツ制作における取引の適正化の話にもつながりますね。下請けになってしまうとしても、取りあえず買ってくれますから。ただ、短期的にはいいですが、長期的に見ると人がコンテンツ業界に来なくなってしまう。いわゆるブラックと言われることの多い業界なので、就業環境の改善に資する各種ガイドライン等について聞かせていただけますか。 

 


(内閣府 知的財産戦略推進事務局資料より)
 

田中  極めて重要なポイントです。Netflixの参入を契機に、日本のコンテンツがバリューチェーンの社会の中でいろんな変化が起こっていると聞いていますが、契約文化の問題も出てきています。国際プラットフォーマーはグローバル産業なので、バリューチェーンの管理、時間効率、生産性に対しても、非常に厳しいです。それに対してはいろんな要求をしてくるし、アドバイスもしてくるという意味では、生産効率についてさまざまな刺激を与え始めています。例えば、デジタル技術を使った生産管理方式についても、いろんなアドバイスや、あるいはソリューションを提供しているという話も聞いていますが、様々な評価があるのかもしれませんが一つの重要な刺激として受け止めるべきではないかと思います。
 
さっき私が申し上げてきたコンテキストからすると、様々な国際的な配信ルートにどんどん流していかないと国際マーケットを取れないということです。彼らはそういう水準を要求してくるので、本当に国際マーケットを取ろうと思えば、契約慣行にしても、執務環境にしても、生産効率環境にしても、これはグローバルスタンダードに合わせていかないと、マーケットが取れないということを意味しています。そういう観点から、既に優良なアニメのコンテンツの制作者においては、変化が生まれつつあると聞いています。しかし、その商習慣、商業環境構造変化を、どういうふうに加速させていくかというのは、大きな課題です。

 
 

契約慣行におけるひな型集/文化庁

これは発注・配信側も制作側もそれなり生産効率が求められるということになってきます。ここを機会に切り替えていかないと、その対応ができなかったところは衰退していくということになりかねません。だから、ある意味では好機なので、いろんな施策を打っていかなければいけないと思います。しかし、政府ができることには限界があります。契約慣行のことについては、自分たちにとって不利でない契約をできるような、そういうひな型を与えていかなければいけないということで、ここ2、3年、文化庁のほうで努力されています。
 
文化庁のホームページに「誰でもできる著作権契約」というページがあって必要な条件を入力すると、契約書が出来上がってプリントアウトできるという。ある種、契約の標準化がなされていて、誰でも簡単に契約書が作れるというようなツールを提供しています。

 


 

市井  それは日本語の契約だけですね?

田中  そうです。国際的な配信をする上で、日本に支社のない人たちとやるとなったら別ですが。しかし、日本に来ているグローバルなコンテンツプラットフォーマーであれば、日本語でできるわけです。取りあえず、これを必要とするレイヤーは、日本にいる企業、外資系企業含めてやるという関係でしょう。
 

 

コンテンツのサプライチェーンの生産性の向上

それからもう一つは、生産性を向上するためにどうするかということです。デジタルのバリューチェーン管理プロセスを導入していく。これは製造業でもすでに行っています。ERPとか、いろんなソフトウエアがありますから、これをコンテンツ制作チェーンの中に入れ込むということです。アニメの先進的なプレイヤーが日本にはいらっしゃいますから。これを普及していくべきじゃないかと考えています。さらに、そのツールを発展、磨いていくための事業((4)「コンテンツのサプライチェーンの生産性向上に資するシステム開発・実証を行う事業」)をVIPOでご支援をいただいていますが、そのことをもっと普及させていくことも、大変重要なことと捉えています。ブラッシュアップが必要ですね。
 
契約慣行についても、非常に重要なわけですが、契約ができれば全ての問題が解消するというわけではなく、発注者と受注者の間で、適正な契約がなされている環境もつくっていかなくてはなりません。きちんと順守いただけているのかということについては、われわれ政府側もさらに努力をして、実態をまず調べていき、その上で、必要な点については、ご意見を申し上げていくということなどを強化していくつもりです。

 
 

フリーランスのガイドラインを補完

それと、フリーランスについてですね。既にフリーランスのガイドラインを、政府として出しました。それを下請取引のガイドラインを補完するものとして、これもしっかり運用強化をしていくという形で、クリエイターの方たちが、しっかり働いて幸せでいられる、やりがいを感じる、そういう環境を整備していくということです。これは単なる弱者保護ではなくて、産業競争力強化そのものなんですよね。それを、産業界全体で共有していかなくてはいけないということが、強みにつながっていくと考えています。

市井  今の流れの中で、適正化のことについてもしっかり議論するということですね。

 


 

 

クリエイターに対する還元を

田中  はい。適正化に加えて、端的に言うと、クリエイターに対する還元をもっと多くしていかなくてはならないということです。バリューチェーン全体でいくと、その結果として、儲からなくてはいけないことでもあるので、払っただけのバリューを与えられた時間で提供してくださいという話に、なっていくと思います。そういう意味では、人材のクオリティー、質というのも伴わないと、ただのインフレだという話になってしまいます。

市井  制作に対してですね。

田中  はい。マーケットに黒船がやってきて、インフレになってよかったねというだけの話ではないです。人材育成への強化も必要です。今も文化庁や経産省と組んでVIPOがさまざま支援を行ってくれていますよね。人材といってもそれぞれの役割分担があるわけですから、プロデューサー、監督、俳優と各部門において育成支援は必要です。VIPOの若手映画作家の育成事業は長いことやっていますし、またメディア芸術クリエイター育成支援事業もそうです。VIPOでもキュレータ等海外派遣プログラムを行っていますよね。
 
そういった映像制作の現場を支える人たちも含め、インターシップ制度など、学べる場を増やしていくことは意味があると思います。
 
 

インバウンドへの誘因を踏まえた、ロケ誘致施策のこれから

ロケ誘致環境のガイドラインを策定(2020年8月)

 

市井  ロケ誘致の話になりますが、VIPOでもやらせていただいていて、海外の人たちが日本にきて製作する際に、日本人スタッフがそこに関わることで彼らの技術力がアップします。グローバルスタンダートについても学べますしね。もちろん経済効果を狙うことが大前提ではありますが。今はコロナ禍で誘致もなかなか難しいところがありますが、非常に重要な施策だと思います。それについてはどう思いますか?

田中  ロケそのものがやりにくいという話があります。これは海外からの方々だけではなくて、国内で動画を作られる産業の方からもそういうことをよく聞きます。それは大別すると、二つの問題があります。
 
一つは、現地の受け入れ環境という話と、それから規制の問題もあるということです。規制の問題については、これはガバメントリーチの問題として何とかしなくてはいけない。それについては昨年の夏に、ロケ撮影の円滑な実施のためのガイドラインを関係省庁連名で作らせていただきました。現地の環境整備に関していうと、誘致をする側の自治体とフィルムコミッションが、ロケをする側と一緒になって、現地の住民の方々にしっかり説明する。そういうルーティンをつくっていくということが大事です。フィルムコミッションの役割がこれは非常に大きいといったことも、ガイドラインにも明記していますから、 積極的にフィルムコミッションを使ってくださいということを、打ち出しています。これはそれなりに意義があったと思います。
 
そこでもう一つは、誘致に関するインセンティブをどうするかという話になります。今、行っていることの意義は二つあって、一つはなんといっても経済効果、インバウンドです。これまでの実績を地域経済活性化という意味での経済効果を検証(内閣府 大型映像作品ロケーション誘致の効果検証調査事業(外国映像作品ロケ誘致プロジェクト))しているところです。もう一つは、外国の映像プロデュース会社のプロットによって、日本の映像関係エコシステムが巻き込まれることで、彼らが持っている新しい制作に関することやマネジメントノウハウを実体験していって、それによる学びがあります。この両面から、実例をしっかり把握していかないといけません。そのために実証的な支援事業をトライアルでやらせていただいて、補正予算でお金を出しているわけです。そこにVIPOもご協力いただいているという形ですね。ある時点で、その効果を評価としてまとめ上げて、公共的な支援体制というものを検討していこうとしています。今は、まだその途上にあるという位置付けです。

市井  なるほど。実例を積み上げていく段階ですね。

 
 

実写映画における韓国との違い、日本の課題とは

田中  韓国どうしたのという話にまた戻るわけですが、要するに、リスクマネー全部、ガバメントリーチで供給しろというはなしですよね。彼らは完全に本質的な競争力が高いので、オーセンティックな中身で見て、これだけの差をつけられると、こっちは、いわゆる途上国並みになってしまっています。実は、そこまで厳しいという認識が社会全体であるかというと、ないですよ。それどころか日本のコンテンツは強いはずなのに、なぜ、輸出が増えないんだ?という方もいます。

 
槙田寿文VIPO事務局次長 槙田寿文(以下、槙田)  アニメに関しては韓国に負けているわけでは全くないです。音楽やテレビに関してもよく比較されますが、日本は残念ながら、産業全体として、輸出も含め正直言って映画のクオリティーも国際的にみて苦戦していると思います。輸出全体で捉えた場合に、韓国の映画の輸出額と日本の映画の輸出額は、別に負けてないんですが、『パラサイト』のような例があるので、クオリティー的に象徴的に負けているという話になっています。経済産業省的な数値として見たときには、そんなに差はないですよね。音楽とテレビにはとても追い付かないことになっていますが、ジャンルごとに市場が違うということです。
アニメに関しては、川下のクリエイターの方々や若い人含めてちゃんとお金が還流するという仕組みが出来上がれば、日本はもっといけるのではないかなと思います。
 
一方、実写について北米で日本の映画がどれぐらい見られるかというと、映画祭は別として劇場での一般公開は年、数本レベルです。しかし配信ということになると、数字を今、調査中ですが、1000本弱ぐらいは視聴できる環境にはあります。思ったよりも増えているという感触です。しかしながら、その1000本弱と想定している数字は、100前後ある配信サービスで視聴できる日本映画を足しこんでの数字と思われます。アメリカの家庭で契約している配信サービスはせいぜい4つ程度という現状を鑑みると、その中に日本映画の様なマニアックな映画を配信する小規模な配信業者が入るのは、マニアックな実写日本映画ファンが契約する以外は中々難しいのではないかと考えています。逆に言えば環境と素地はあるので伸びる余地はあるとも思いますが、VIPOとしては今後も経緯・進捗を見ながら将来の施策に反映出来ないかを考えて行きたいと思っています。クオリティーをどうしっかり確保するか、結局そこに話は戻ってくるんだろうなと思います。

田中  私もそう思います。だから、韓国に差をつけられた最大の原因はなんなのかと考えると実写映画もしかり、テレビ番組ですよね。ただ彼らは最初からテレビに配信することだけを目的に作ってはいないと聞いています。世界に配信しようと思ったら、ある程度、普遍性がないと駄目なので、オーセンティックな人間観的なテーマが練られてないと、まず見られる可能性がないと考えて創作活動に当たっているという話を聞きますこの差はかなり決定的です。そうすると何をすればいいかというと、世界向けの配信ルートを前提にしたビジネスをもっとやりませんかということです。製作する意思があったとしても、最後、残るのは初期の製作経費の問題ですね。まず作家も含めて、オーセンティックでいいものを確保するためには、ある程度の製作費用確保にチャレンジする必要があります。

市井  シードマネーのようなことですね。

田中  そうです。完成しないことには売れないですし、完成させるためには、大きな費用をどうするかということです。

槙田  そういうふうにマインドセットが変わって来ているのはいい兆候かなと思いますけど、まだまだ足りないと思います。
 
ドラマに関して言えば、韓国では製作会社が韓国内だけでなく海外も意識して製作しており、資金調達も多様化させ自らもリスクを取っているケースが多いと聞きます。日本の場合はどうしてもキー局の下請けという業界構造から抜け出せず、規模もテーマもそれなりというものに収斂していると感じます。

田中  制作事業者のインデペンデンシーが、次の課題です。そのあたりはわかってきたので、民間でどのように資金供給するのかという話は議論していかなくてはならないと思います。

市井  ほんとにそうだと思います。今日はどうもありがとございました。

 


 

 

 

田中茂明氏 Shigeaki TANAKA
知的財産戦略推進事務局長

  • 87年(昭62)慶大経卒、同年通商産業省(現経済産業省)入省。
    2006年通商政策局北東アジア課長、2008年商務情報政策局サービス政策課長、2010年製造産業局自動車課長、2012年内閣官房内閣参事官(日本経済再生総合事務局)、2017年官房審議官(競争力担当)、2018年経済産業省大臣官房総括審議官。東京都出身。

 
 


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