VIPO

インタビュー

2018.05.07


映画『溺れるナイフ』の山戸結希監督が、ロッテルダムで学んだこと --個人が個人に惹かれるという形でしか“越境”はなされない
VIPOは、世界で活躍できる映画プロデューサーの養成に取り組むため、若手映画プロデューサーの登竜門「ロッテルダム国際映画祭」の企画マーケット「CineMart」とパートナーシップを締結。第一弾として、「CineMart」が運営する「Rotterdam Lab」*に、映画『溺れるナイフ』の山戸結希監督を派遣しました。今回は山戸監督をお迎えして、「Rotterdam Lab」で学んできたことをお伺いしました。

*プロデューサー養成ラボ、期間:2018年1月27日~31日

山戸結希氏(映画監督/プロデューサー)[略歴

「ロッテルダム国際映画祭」公式サイト https://iffr.com/en(英語)
・「CineMart」について:https://iffr.com/en/cinemart
・「Rotterdam Lab」について:https://iffr.com/en/iffr-industry/rotterdam-lab
・パートナーについて:https://iffr.com/en/rotterdam-lab-partners

(以下、敬称略)

海外で活躍できるプロデューサーのロールモデルを作り、日本の映画界を世界につなぐ

2012年のデビューから「Rotterdam Lab」に参加するまで

出会うべき人に出会える。命のような体験が、映画館にはある

 

VIPO事務局次長の槙田寿文(以下、槙田)  山戸監督はまだ20代ですよね。映画を撮るようになったきっかけから教えていただけますか?

山戸結希(以下、山戸)   大学3年生の時に撮った初めての中編映画『あの娘が海辺で踊ってる』が、2012年に東京学生映画祭に、その次に撮った短編がPFF(ぴあフィルムフェスティバル)に入賞したことが、映画に携わるきっかけでした。

槙田  そもそも映画を撮ろうと思ったのはなぜですか?

山戸   大学2年生の終わり、英語の授業で隣だった女の子に「映画研究会に入ったら大学の中でゆっくりする場所ができるから一緒に入ろう(笑)」と誘われて、映研に入りました。でも次の週には、その友人は法学部で課題が多かったため、すぐに来られなくなってしまい、いつのまにか私自身が部長となっていました。

全く予想していなかった展開でしたが、大学3年生のはじめに、新入生の子たちが映研に入部してきてくれたとき、新入生の目がキラキラしていて、「入ってくれるなら、みんなの力になりたい」と思いました。もちろん実際に脚本を書き、スケジュールを組まないと、みんなで撮ることはできなくて。脚本選考会をやって提出してもらったりしました。部長として、まずは自分が撮らなくてはと思い、夏休みに初めて撮った映画が、『あの娘が海辺で踊ってる』でした。

というわけで、特に映画の勉強をしたわけではなく、カメラを回し、独学のまま、とにかく作り上げました。ただ、実際にやってみると、もっと「よく」撮りたいと思い、「もっとよく」撮るための方法を考えるようになりました。

槙田  うまく撮りたいからって、うまく撮れるものではないですよね?

山戸  1作目は、気持ちだけの作品でした。あの時はその気持ちに対して、審査員特別賞をいただけたのだと思います。

槙田  そういうキャリアだと、商業映画を撮るとなった時に自主映画感から抜け出せない人が多いように思いますが、『溺れるナイフ』は今人気の役者さんが出演したメジャー感のあるエンターテインメント作品だったと思います。このような作品を撮ることになったきっかけを教えてください。

山戸  初めて撮った『あの娘が海辺で踊ってる』は、2012年に、ポレポレ東中野で、自主配給の上映をさせていただきました。当時、その劇場公開が好評を呼び、プロデューサーの方たちも、よく観に来られていました。上映が落ち着いた頃、プロデューサーさんから「ご一緒しませんか?」と声をかけていただきました。

今はネットで手軽に映画を配信できますが、映画館で上映するのはとても大切なことだと思います。熱いミニシアターが多いので、そうした場所で映画をスクリーンにかけて、映画に向き合うことは、最も重要だと思います。

東京には映画に興味をもっている方がたくさんいます。若い映画監督でも面白い映画を撮れば、SNSを通じてその情報が業界の方へきちんと届きます。いろいろな評論家の方も目を配られています。劇場公開をしっかりやることで、出会うべき人に出会えると思います。映画館の暗闇が、良い出会いを呼びます。

槙田   山戸監督に声をかけたプロデューサーさんは見る目があったのですね。若い方の作品を熱心に見て、その中から才能を引き上げることはインディーならやりやすいと思います。でも、ある程度の規模になると、新人監督での映画制作は会社の決裁も下りづらくなるし、勇気が必要になるのが今の映画制作の現実です。プロデューサーさんとのいい出会いがあったということですね。

山戸   これは監督からの視点かもしれませんが、声をかけてくださる方はたくさんいらして、皆さん真剣に若い才能を探されている印象です。監督にとって命のような体験が、映画館にはあります。

 

「Rotterdam Lab」(プロデューサー養成ラボ)はどんなところ?

 
槙田 「Rotterdam Lab」は、全世界の32団体から59名の人が参加して行われたのですよね。概要を簡単に教えてください。

山戸  「Rotterdam Lab」は、世界各国の若手プロデューサーの登竜門のようなところです。前日のプレを除くと、授業は5日間行われ、座学とワークショップがありました。

槙田  座学とワークショップはどのくらいの比率でしたか?

山戸  半々ぐらいでしたね。 「Round Table」というチームを組んでメンバーと講師とで話し合う授業は、双方向的で質問がしやすく、座学とワークショップの中間的なものです。最後の2日間は、全て座学でした。最初の3日間に、ワークショップ要素の強いものが多くありました。その3日間で講師陣と、参加しているプロデューサー同士の交流があったので、結果的に最終日の座学でも、とても質問がしやすかったです。「Rotterdam Lab」の特色だと思うのですが、「CineMart」(「ロッテルダム国際映画祭」の企画マーケット)の方たちとは朝食やランチも一緒だったので、自然な交流も生まれやすい雰囲気でした。

槙田  プログラムを拝見するとかなり広い範囲で勉強やディスカッションをするようですが、特に記憶に残った良かったことを授業単位で教えていただけますか?

 

何を?どう語るか?を教える「Pitching WS」

 
山戸 「Pitching WS(ピッチング・ワークショップ)」は、参加者同士でも一番面白いと話題の授業でした。

自分の企画を出資者に伝えるスピーチ練習も各自の席で行われ、挙手をした15人程が、代表して壇上で実践を行いました。まずその企画がどういうものなのかを説明し、そのためにはどうするべきかを話し合います。

その授業では、「一番素晴らしいピッチはパーソナルなピッチだ」というお話がありました。映画は大衆芸術であり、集団作業でありながらも、個的なものが必要とされます。映画は相反した芸術表現であるのだと思います。映画制作はその裏腹さの中で展開されており、プロデューサーとして企画を動かす上でも、パーソナルなピッチがとても大切な要素となってきます。個的な作家性と、映画を作るという大きな営みが繋がっているということを感じさせるとても良い授業でした。

槙田  プロデューサーとしても個性が必要だということですよね。作品をオーガナイズするビジネス的なセンスも必要ですが「Who you are?」(あなたは何者なのか)という部分ですよね?

山戸 まさにそうですね。「Who you are?」が大切だ、と全く同じことをおっしゃっていました。

槙田  自分をきちんと売り込めないとお金も人も集まらないし、プロジェクトをオーガナイズしていくことも難しいということを教えようとしていたのかなと感じます。

山戸 結果として、「個人が個人に惹かれるという形でしか“越境”はなされない」ということを、全体を通して感じましたね。直接会ったときに生まれるフィーリングが、その後の関係性を作るのにどれだけ大切かを非常に感じます。それは、国内でも同じなのかもしれません。

槙田  スピーチのときに手をあげた15人は自信があった方たちですか?

山戸 自然に手を挙げられていたのだと思います。実際、北米の方たちはとても積極的でした。子供の頃からそういうスタイルで授業を受けてきているという差異でしょうか。というのも、最初は皆さん自信がある方たちなのかと思っていましたが、非常に上手な方も、まだ余地のある方も発表されており、まずは人前で発表することを恐れないという文化前提の違いも感じました。

槙田  講師はそれに対してどのようなアドバイスをするのですか?

山戸 それが一番意外だったのが、実際に何を話すかということよりも、毎回全員におっしゃられていたのが、なんと、「文と文の間をはっきり区切ること」というアドバイスだったのですよね。それは、せかせか話すと、企画の印象まで損なうからとのことでした。確かに講師の方の話はとにかく聞きやすく、説得力に満ち溢れていました。

また、自分がどこから来てなぜここにいるのかという動機を、必ず述べた方がいいということも、おっしゃっていましたね。

槙田  「何を語るべきか」と「どう語るべきか」の両方のアプローチを教えてくれたのですね。

山戸 最も印象深かったのは、「自分1人のメッセージを一方的に伝えるのではなく、一緒にやるという空気をお互いが作り出すこと。私たちは同じプロジェクトを前にしているのだから向かい合うのではなく、同じ方向を向くこと」というお話が、心に残っています。

 

なぜその映画を撮るのかを問われた「Round Table」

 
山戸  充実度が高かったのは「Round Table」という授業で、4回開催されました。「Round Table」というスタイルは、日本ではあまり馴染みがないものですが、個別的な質問を受け入れる講義でもあります。例えば、「日本から何をしに来たの?」の質問に対して、各々が進行する企画を答えると、「それだったら◯◯さんに会うといいよ」など、それぞれに対する、国際的なプロデュースの視点で具体的な話題が展開していきました。

槙田  「Round Table」は、テーマごとにテーブルが分かれていて、参加者は自分の好きなテーマに集まって、講師のような方がリードをして進めていくという形ですか?

山戸  少し違います。5人の講師がそれぞれのテーブルに分かれて、同じテーマで30分ずつ行います。ですから、テーマは変わらず全員の講師の話を聞けることになります。映画『FOUJITA』(フジタ)にも関わられた、イラン・ジラードさんは面白いと思った講師の中のお1人です。彼は、数字としてのニーズが少ない文化面の強い映画は、限られたマーケット、限られた制作費だからこそ、共同制作をする必要があるとおっしゃっていました。日本人が持つべき方向性と重なると感じられ、その話は自分ごととして迫ってきました。

槙田  その方から何を学びましたか?

山戸 「企画の思想性を持って話す。」「表面的なコラボレーションや映画の内容ではなくて、その映画を作らざるを得ない思想を持っていれば共鳴する。」という部分でしょうか。表面的な部分ではそれぞれのカルチャーには差異があるかもしれませんが、その映画を作らなければいけないという根源的な意志というものは、さまざまなことを超えて繋がりやすいという趣旨ですね。

槙田  その映画のコアとなる部分が普遍的だということですね。

山戸  それが実際に行われてゆく過程についてのお話にも、とても説得力がありました。

槙田  若手の海外のプロデューサーから見て、日本は国際共同制作するサークルの中に入っていましたか?

山戸  ヨーロッパと日本の共同制作の実例が、非常に多くはないからなのか、「なぜ日本から?」とよく尋ねられ、彼らから見ると変わった立ち位置から参加していることの実感はありました。これは当然のことですが、昨年の「釜山国際映画祭」で受けるリアクションとは、全く違いました。

槙田  そういうところに日本からの参加者が少ないということは、今後の日本映画の国際展開を考えると少し残念なことだと思っています。それもあり、VIPO自身がそこに人材を派遣しようと思い、今回は山戸さんに参加していただきました。

 

「宣伝」には欠かせないSNS

 
槙田  ほかに印象に残る授業はありましたか?

山戸  最終日の宣伝の授業です。その講師の方のお考えだとは思うのですが、「現在の映画における宣伝はイコールSNSと結びついていて、国際映画祭はバズるための要素のひとつ、という流れになってきている。」という話は、新鮮でした。私は子どもの頃から SNS があった世代ではないので、極端には感じましたが、同時におもしろい指摘だなと思いました。その例も含め、SNSの話を重点的にされていましたね。

槙田  インディペンデント映画のように、ヨーロッパは制作費が厳しいからでしょうね。

山戸  SNSはもはや普遍的なものなので、同時代的に通底する部分なのかもしれません。

槙田  若手のプロデューサーにとって、宣伝費を使わなくても宣伝ができるSNSが、宣伝ツールとしてメインストリームになってきているということですね。どうやって話題を作るかという問題はありますが、うまくアプローチをすれば大きな効果が得られるということですよね。

 

プロデューサーを目指せるロールモデルとそれに必要なもの

世界につながる英語文化圏の強さ

 
槙田  他の国の参加者についてお聞きしたいのですが、印象に残った国の参加者はいましたか?

山戸  北米の方々は、すでにプロデューサー同士の知り合いの方も多く、彼らからすると「Rotterdam Lab」は、“アウェイではない”のだなという肌感覚の違いを感じました。

槙田  皆さん、「Rotterdam Lab」への参加は初めてだったのですよね? それなのにもうすでに知り合いがいた方やネットワークをきちっと持っている方がいたということですか?

山戸  はい。英語圏の文化の結びつきをとても感じました。例えば釜山に行くと、知っている方もたくさんいるので、活動地域の違いもあると思います。今のメインストリームが、ハリウッドやヨーロッパであるという考え方をするならば、最初の壁として、“異郷の者”であることを実感しました。

槙田  参加した方たちの出身国はバラバラだと思いますが、それでも、英語圏のネットワークがあるということですか?

山戸  それは、確かにあります。作り手がお互いの文化圏に参加し合うということは”特別なこと”だという意識が、現状どうしても存在しているのだと思います。

槙田  ほかの地域の方も、たとえばアメリカに行って映画を作っているということですか?

山戸  私が一番親しくなったシンガポールの女の子は、このロッテルダムラボの後にイギリスに行くんだよと言っていました。その後、そのままアニー賞(アニメのアカデミー賞といわれる賞)の作品賞を受賞していてびっくりしました。シンガポールの方は、小学校の頃から英語の勉強をしているので、完全に2カ国語が話せるようになっていることも大きく、シンガポールは同じアジア地域でもありますが、全く違う活動範囲があるということをまざまざと感じました。

槙田  同じアジア地域であっても、日本人に比べ海外へ進出することに対するハードルが低いと言うことでしょうか?

山戸  そうだと思います。それに、前例としてのロールモデルも多いのだと思います。韓国であればハリウッドに留学するルートであったり、シンガポールでも海外マーケットが視野に入りやすく、国際的に映画をつくりたいプロデューサーや監督が何にアプローチをすればいいのか、はっきり分かっているのだと思います。アニー賞に、作った短編がノミネートされるということも、自然な選択肢なのだな、と彼女たちと話している中で痛烈に感じました。

最終日には、ポストプロダクションの授業がありましたが、特にレベルが高いわけではないことも、胸に突き刺さっています。ハリウッドの大作などは予算規模が違い過ぎるので除くとしても、実際に「ロッテルダム国際映画祭」に出品されているそれぞれの地域の美しい映画と、日本映画のクオリティの差は、率直に感じませんでした。でも、自分たちがメインストリームだと思っている地域から、分断されている背景があると言わざるを得ないのかもしれません。

 

プロデューサーの繋がるチカラ

 
槙田  向こうで、これまでのプロデューサー像が変わったりしましたか?

山戸  普段接する日本のプロデューサーさんは目上の方も多いのですが、今回は、年下の方や若くからプロデューサーを目指している方がたくさんいらっしゃったことも新鮮でした。

槙田  日本では組織に入っているプロデューサーが大半ですからね。

山戸  海外でも組織に入っている方はたくさんいたのですが、新人時代に国際的な研修に参加している感じでした。日本では、まず企画や現場に入ってアシスタントをされるという選択肢が一般的だ思うので、驚きました。

槙田  単純な比較は難しいですよね。ところで、ヨーロッパにおいて作品がどのように成立していくのか、「Rotterdam Lab」に参加したことでわかりましたか?

山戸  各映画祭で行われるファンドのミーティングや他国のプロデューサーと「とにかく繋がれ!」という世界を実感しました。講師とも連絡を取らないといけなかったですし、多くの授業で、SNSを活用して繋がるようにと言われました。

槙田  全ては繋がることから始まるのですね。

山戸  そうした世界観でした。それと、監督はともかく、国際的なプロデューサーを目指すなら、ビジネスの場では英語が話せないなら企画は無理だと改めて感じました。基本的にもちろん皆さんネイティブなので、英語力は大切だと実感します。

 

日本・TOKYOと海外を繋ぐ道を

 
槙田  講師の方々は、日本の映画や映画祭についてどのように捉えていましたか?

山戸  ちょうど、「Round Table」の授業でアジア担当のフィリピン人の女性講師が、それぞれのアジアの映画祭の特徴を説明されていました。日本については、東京フィルメックスは、タレントキャンパスとしてアジアで一番おすすめだと、お話しされていました。また、大きなファンドとしては香港のHAF(Hong Kong – Asia Film Financing Forum)があり、釜山国際映画祭はアジアで一番大きい映画祭であると。

TIFFCOMは、コンテンツとしては映画よりもテレビが大きいマーケットだが、あなたの方が詳しいんじゃない?とそこで私に振られて、私自身、日本の映画祭で作品を観るのが好きなので、「東京にぜひいらしてください」とお伝えするのですが、参加者の皆さんに、「いつ東京に行けばいい?」と聞かれた時に、「このタイミングで!」としっかりと返答できるようにならなければと思いました。海外のプロデューサーの方々に企画をプレゼンする場の情報を、正確に持ってさえいなくて、自分の不勉強を恥じました。

槙田  そういう場を提供する必要がありますね。

日本でははじめから海外を考えている作品はかなり少ないのではないかと思います。ですからシステム的に難しいのかなとも思います。山戸さんに、流れを変える成功例を作っていただければ、日本映画が海外へ出ていく道への認識が映画界にできて、変わっていくのかなという感じがします。

山戸  私自身、こうした機会にずっと参加したい思いでしたので、今回、大変、勉強させていただきました。現在プロデュースしている作品も、今回の文脈に出来る限り載せてゆければと思っています。

 

監督の個性を観るヨーロッパ、スターをもとめるアジア
アピチャッポン・ウィーラセタクン(タイの映画監督・映画プロデューサー・脚本家、美術家)のインスタレーション

 

槙田  日本映画のテーマが共同制作として海外に受け入れられる、あるいは興味を持たれるために、日本は何をすべきだと思いますか?

山戸  英語圏は、字幕を読む習慣が強くないかもしれませんが、ヨーロッパでは字幕を読む文化が明確にあります。「ロッテルダム国際映画祭」でも、作家の資質がはっきりした映画が上映されていました。私たちも海外の映画を見るときに、監督の名前で見たりもしますよね。深田監督や是枝監督もそういう監督として認識されていると、会話する中で感じます。映画の真ん中にいる方たちは、「社会問題を取り扱っているから良い」などの定規ではなくて、その作家という個人をこそ観ていると、ロッテルダムと釜山では大きく感じました。

槙田  アジアはキャストのことを聞かれることが多いですが、ヨーロッパだと監督の名前を聞くことが多いですね。

山戸  ヨーロッパとの合作は、企業としての採算性や、コミュニケーションの方法が難しいかもしれないですが、アジア圏での合作や、訴求的に日本映画を観てもらう方法では、もう少し太い糸があってもいいような思いも、個人の実感としてはあります。

『溺れるナイフ』が北京・韓国・台湾・香港で劇場上映されたとき、出来るだけ足を運びましたが、若い女の子の反応は、まったく変わらなかったです。みんな小松菜奈さんの美貌に感銘を受け、菅田将暉さんを大好きで、日本のスターはアジアにとってもスターだと感じました。それはすごく意外な手ごたえでした。

槙田  アジア圏にはすごく可能性が出てきたと思います。制作で、ヨーロッパのことを考えるのは文化的にも難しいかもしれませんが、アジア圏であれば、もっと戦略的にできると思います。

VIPOとしても、中国や韓国などのアジア圏に対してのアプローチにも力を入れようと思っています。そのほうが現実的にも近い場合もありますので。

 

映画館の半分の映画は、女性の監督による作品が上映されるように

自分が監督として若いプロデューサーを次世代につなげたい
Illustration by 玉川桜
©21世紀の女の子制作委員会

 

山戸  現在、映画『21世紀の女の子』という、初めてのプロデュース作品を手がけています。「Rotterdam Lab」にも企画の説明をしながら参加した作品で、秋頃に完成する予定です。企画・プロデュースをさせていただき、監督は山戸の他に、1980年後半から1990年生まれの12人の監督が、全篇に共通した「ある一つのテーマ」を、8分以内の短編で表現するオムニバス作品です。新しい世代の発掘・育成に繋がるよう、公募枠も1名設けています。しっかりと作り上げ、来年のロッテルダム国際映画祭には、絶対に間に合わせたいと思っています。

槙田  面白そうな企画ですね。その作品が“ロッテルダムの成果”だとしたら、とてもありがたいですね。

山戸  ロッテルダムラボでは、非常に学ばせていただきました。人と人との対話で作品が生まれていくという始まりから、もっと共有されるべき道がある気がしています。映画『21世紀の女の子』の未来ある監督さん方が活躍され、それを次の世代の才能ある方たちが文脈を理解し、さらなる後進へと繋がってゆくことを願っています。そして、この映画のプロジェクトを、アジア中の女の子にも、真似してもらえたら嬉しいです。

槙田  企画としても話題性があると思うので、アジア全体に広がるといいですね。

山戸  壮大かもしれませんが、映画館で上映される映画の半分が、女性の手がけた映画になってほしいと思っているんです。まずは日本で実現できるように、そのための一歩を踏み出してみたいと。もしも、世界で一番早く日本がそうなったら、ギネス記録かもしれませんね(笑)。でも冗談ではなくて、真剣に。私自身も、力強い監督作を届けられるよう努力しながら、次の世代へのバトンを、生み出していきたいです。

槙田  それは、素晴らしい計画ですね。VIPOも少しでも後押しできるように若い方々を支援していきたいと思います。引き続き今後のご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

 

山戸結希 Ū-ki YAMATO
映画監督/映画プロデューサー

  • 2012年 

    『あの娘が海辺で踊ってる』でデビュー。

  • 2014年 

    『5つ数えれば君の夢』が渋谷シネマライズの監督最年少記録で公開され、
    『おとぎ話みたい』がテアトル新宿のレイトショー観客動員を13年ぶりに更新。

  • 2015年 

    第24回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞受賞。

  • 2016年 

    小松菜奈・菅田将暉W主演『溺れるナイフ』が全国ロードショーされ、20代女性の
    監督作品において前例なきヒットとなった。

  • 2017年 

    文化庁主催の北京日本映画週間に参加。ブルボン「アルフォートミニ
    チョコレート」、カネボウ化粧品「suisai」の広告映像も手がけている。

  • 2018年 

    『21世紀の女の子』を製作中。

  • 山戸結希公式サイト 

    http://www.ken-on.co.jp/artists/yamato


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