VIPO

インタビュー

2017.11.21


ソニー・ミュージックエンタテインメント CEOが明かすマネジメントの極意
(VIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」講演より)

今回は、VIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」で毎回実施している経営者講演会を再構成してお届けします。株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント 代表取締役 CEO 水野道訓氏をお迎えし、コンテンツ業界の経営(マネジメント)層の視点や考え方、音楽をはじめとした日本コンテンツの将来における方向性などについてのお話を伺いました。

(以下、敬称略)

コンテンツ業界のマネジメントとビジネスモデル

多角的な事業でエンターテイメントを牽引

発想はアマチュアリズムから生まれる


市井三衛(以下、市井)  今日は、経営者講演会の講師としてソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のCEOである水野様にお越しいただきました。経営者視点を養い、日本コンテンツの将来や世界市場への取り組みを学んでいただきたいと思います。

早速ですが、SMEの事業内容から、お伺いしていきたいと思います。

水野  SMEは、総合エンタテインメントカンパニーとして多角的にビジネスを展開しているソニーミュージックグループ全社の経営・管理を行うとともに、グループ各社の事業を効率的に推進できるよう支援しています。ソニーミュージックグループでは、レーベルビジネスやビジュアルビジネス、アーティストマネジメントだけでなく、音楽出版、デジタルソリューション、音楽チャンネル、ライブホールの運営、イベントプロモーションなど、さまざまな事業を行うグループ会社があります。その中心となる音楽ビジネスでは、音楽・映像ソフトの企画・制作や、プロモーションを行うレーベルビジネス、アーティストのマネジメント、ライブ興行、ファンクラブの運営、物販までを行っています。

市井  ソニー・ミュージックアーティスツ(以下、SMA)には音楽系アーティストだけでなく、俳優や声優、お笑い芸人の方も所属しているんですね。

水野  社名のイメージで、音楽系アーティストのプロダクションと思われがちですが、実は土屋太鳳や二階堂ふみ、倉科カナといった俳優も多く所属しています。お笑い芸人だとバイきんぐ、アキラ100%など。音楽系アーティストではUNICORN、氣志團、東京スカパラダイスオーケストラ(以下、スカパラ)、木村カエラ、西野カナなどが所属しています。おもしろいのが、氣志團とスカパラはどちらも所属レーベルはエイベックス・エンタテインメントさんで、木村カエラはビクターエンタテインメントさんです。こういう自由さは分社化の良さでもありますね。

市井  アニメやゲームアプリでも大きな収益を上げていますよね。

水野  アニプレックスが『ソードアート・オンライン』、『魔法少女まどか☆マギカ』、『Fateシリーズ』などを手がけています。「アニメもやっていたんだね」「ゲームアプリをいきなりよくやったね」などといわれるのですが、当社がアニメビジネスを始めたのが約20年前。ゲームアプリのビジネスは2012年からスタートしています。だから、アニメにしてもゲームアプリにしても、最近始めてポンと当たったわけではないんです。

市井  次々とゲームアプリがヒットする勝因はどこにあるのでしょうか?

水野  現在ヒットしているスマートフォン向けRPGなどは、プロデューサーが「このアニメはゲームアプリに合うのではないか」と考え、制作会社と組んで作りました。ゲームビジネスありきではありませんでした。「お笑いの目利きが来たから、お笑いをやろうよ」といった感じで、アマチュアリズムなんです。アマチュアリズムの強みは新鮮な発想ができることです。また、社内にスペシャリストがいなければ、それは外のプロフェッショナルとパートナーを組むことで、新しいものも生み出していくこともできると思います。

市井  それが、「ソニーらしさ」の源でしょうか?

水野  そうですね。「偉大なるアマチュアリズム」というのが、当社のDNAかもしれないですね。それは、1968年にCBS・ソニーレコードを立ち上げた大賀さんが作った求人用コピーにまでさかのぼると思います。「他のレコード会社の経験者よ、集まれ」ではなくて、「既存のレコードメーカーから人材を引き抜くという安易な方法をとらない」という基本方針からも読み取れます。そういうイズムは未だに残っているのかもしれないですね。当社はいろいろな会社が20社ほどありますから、人事異動は転職と同じ状況なんです。音楽に携わっていたのに突然アニメ業界に異動とか、アニメからCDのパッケージ製造などソリューションビジネスへ異動など、よくありますよ。アマチュアリズムと何でも経験させることから生まれる何かに期待しているんでしょうね。

 

分社化経営の部分最適と全体最適



市井  ソニーミュージックグループのビジネス領域についてお聞かせください。

水野  基本的には(1)デジタル、(2)リアル(パッケージ/マーチャンダイジング)、(3)ライブの3つが大きな領域です。

ソニーミュージックグループの課題は、デジタル化のところかと思います。昭和に立ち上げたインフラから派生してビジネスを展開してきましたから、10年先を考えたらもっとデジタルに取り組む必要があるのも事実です。

フィジカル(CD、アナログレコード)はまだ7割あります。しかもここからの利益の絶対額は70%ぐらいある。日本はアメリカと違って、フィジカルなどのパッケージが衰退していないことを冷静に見るべきだと思います。まだ底上げできる策はいろいろあるはずです。

ソニー・ミュージックマーケティングは販売インフラを持っていますし、ソニーDADCジャパンが担う工場やジャレードが担う倉庫、ソニー・ミュージックコミュニケーションズ(以下、SMC)を中心としたマーチャンダイジングなど、製造・物流のインフラもある。それから、法務、放送・出版、イベント企画・製作、ライブ運営、そして総務や経理、システム管理などを行うシェアードサービスなどのインフラがある。こういうインフラとの組み合わせで、さまざまなビジネスが発生してくるのだと考えています。

市井  ソニーミュージックグループはそれぞれのジャンルで分社化経営をしていますが、その理由やメリットをお聞かせください。

水野  それぞれの事業をすべて分社化させるのは、CBS・ソニーレコードの時代から続く企業風土です。分社化経営をすると、それぞれの会社が利益に対して非常に意識が高くなり、階層を減らすことで、より迅速な意思決定もできる。「部分最適」ができるわけです。

CBS・ソニーレコードは設立から3年後の1971年にはCBS・ソニー・ファミリークラブ(通販会社)、6年後の1974年にはエイプリル・ミュージック(音楽出版社、のちにプロダクション機能も担う)、10年後の1978年にはEPIC・ソニー(レコードレーベル)とソニー・クリエイティブプロダクツ(キャラクター会社、以下、SCP)、1979年にはソニー・マガジンズ(出版社)を作っています。いろいろな会社を作って水平展開していくという分社化のDNAは、その辺からあるんですよね。

市井  弱い部分、改善すべき点はどうお考えですか。

水野  グループ20社のうち、社員数は少ないところでは5~6人、多いところでは300人以上の会社があります。その中のユニットはPL、つまり利益を出すことを意識しています。ただ、これが強すぎると、「全体最適」ができなくなってくる。例えば、SMA所属のOKAMOTO’Sというバンドは、Zeppクラスのライブホールだと即完で埋まる。ですからSMA的には利益が出ているのですが、CDのセールスはさほど大きくない。360度でどのようにビジネス化するのかという部分が課題であると思います。

 

人を集めてコンテンツを見せる、体験させる

成長傾向のライブエンタテインメント

市井  ビジネスを展開している中で、今もっとも注目しているのは?

水野  今、いちばん熱いのは、ライブエンタテインメントだと思います。ライブというのは、コンサートだけでなく、人を集めてコンテンツを見せるもの、そのすべてがライブエンタテインメントだと思います。この相関関係の真ん中にコンテンツがある。コンテンツとは、アーティスト、アニメ、実写映像、ゲーム、ファッション、フード、スポーツなどさまざまありますが、そういったコンテンツをどのように「デジタル」「リアル」「ライブ」でビジネスをしていくかと考えることが必要です。

市井  昨年、誕生したB.LEAGUE(日本のプロバスケットボールのトップリーグ)のエンタテインメントパートナーとして、試合演出のサポートをしていますよね。スポーツとエンタテインメントの関係についてお聞かせください。

水野  フェスも含めたべニュー関連のビジネスは今後、大きな軸になると考えています。B.LEAGUEでは、オールスター戦やチャンピオンシップ決勝戦などの試合前後のセレモニーやハーフタイムショーの企画・演出、リーグ公式グッズの企画・制作・販売などを担当しています。2019年には日本でアジア初の「ラグビーワールドカップ2019」が開催されますが、当社では今、日本大会に向けて代表選手強化のために生まれた「サンウルブズ」というチームのマーチャンダイジングやイベント関連を手がけていて、先日秩父宮ラグビー場では試合前にアーティストによるライブを行いました。僕は学生の頃からラグビーを観ていますが、ラグビーって「商売の香りがしちゃいけないんだ」みたいな感じがあるので、まさかライブができるとは思ってもいませんでした。でも、時代の変化なのでしょうね。こんな風にスポーツをエンタテインメント領域でさらに盛り上げていきたいなと思っています。

市井  スポーツ関連でのビジネスは以前からですか?

水野  Jリーグ開幕節となった1993年、9チームのマスコットキャラクターをSCPが製作・商標管理をし、旗やメガホンなどグッズもすべてSCPが運営するショップで販売しました。当時はもうバブルのような状態で、いきなりすごい売上があがりました。2年後、急降下して在庫だけが残ったんですけどね(笑)。協会というのはマネジメントであり、興行元であり、我々はなかなか入りにくい。でも、エンタテインメントの領域は僕らのほうがプロです。演出やファンクラブビジネスに近いようなビジネスは、ソリューションビジネスなどで養った既存のノウハウを提供できるだろうと考え、試行錯誤しながら始めています。

市井  イベント企画・制作ではどんなことを手がけていらっしゃいますか?

水野  今年、天王洲の寺田倉庫で開催したデヴィッド・ボウイ大回顧展では、来場者が3か月で約12万人でした。それから、2014年から毎年3月に行われている日本最大級のアニメイベント「AnimeJapan」は14~15万人の来場者数となりますが、運営事務局はSMCが担っています。今年1月から5月にはカナダの会社MOMENT FACTORYと組んで「食神さまの不思議なレストラン」展という展覧会を開催しました。MOMENT FACTORYはおそらく今、世界最高峰のデジタルアート集団です。プロジェクションマッピングやシノグラフィー(光と音の舞台装置)を使用して、ユニークでミステリアスな和食の世界を表現しました。

 

海外展開やホール新設の先にある狙い



市井  最近は海外でのイベントやコンサートにも力を入れていますね。

水野  国内だけでなく海外にも活動の場を広げているアーティストを中心とした音楽レーベルを作ったということもあるのですが、アニソンのライブやイベントを海外と日本で開催し始めています。その他に2008年からシンガポール、インドネシア、マレーシアで行われている「アニメ・フェスティバル・アジア(AFA)」の運営会社に投資をしています。今年から来年にかけて、「C3 AFA」としてアジア5都市でのフェスを開催しています。

市井  ライブホールのZeppがアジアでの展開を本格化し、大きな話題になりました。今後のビジョンをお聞かせください。

水野  1998年にZepp第1号が札幌に開業してから、もう20年です。現在は札幌で1か所、東京に2か所、大阪に2か所、名古屋に1か所の6会場を運営しています。来年は福岡、2020年には横浜に株式会社コーエーテクモゲームスより運営を受託されたライブホールも開業予定ですし、その他数都市候補に上がっています。今年6月には海外初のZeppをシンガポールでグランドオープンさせ、台湾とマレーシアでも開業することが決定しています。あとは香港、それから成長が著しいインドネシアのジャカルタ、ほか数都市で検討中です。現地パートナーの商業開発会社と協力しながら、徐々に進めていこうと思います。

我々はホール経営の収益のみに期待しているというわけではありません。ホールを作ることによって、小さなライブハウスで活動しているアーティストたちが「今度はZeppでやろう」「2000人規模でやろう」と目標にしてくれますし、Zeppはどの会場でもステージ、照明・音響設備などが意図的に同一規格で作られているので、全国をまわるZeppツアーを行う場合、1つのプランを作ればどのホールでも短時間にセッティングすることができ、低コストで実施することが可能です。またアーティストは、リハーサルをする際も、各会場で演出を変えないのであれば、1度どこかのZeppで行ってしまえば、他の会場でのリハーサルは時間や手間を大きく省くことができます。この仕組みをアジアに持って行けば、アジアまで足をのばしたZeppツアーが可能になります。ライブビジネスの広がりは今後ますます大きくなるんじゃないかと目論んでいます。

 

日本コンテンツの今後と新規事業を育てる仕組み

音楽ビジネスは新たなステージへ


市井  今後、音楽事業のビジネスモデルはどのようになりますか?

水野  今まで音楽事業は原盤ビジネスを中心に、アーティストマネジメントや新人発掘、音楽出版があり、地域と繋ぐ製造・物流がありました。今後はアーティストを中心に考えることが必要だと思います。アーティストを中心にマネジメントビジネス、原盤ビジネス、ライブビジネス、それにまつわるビジネスを考えていくということです。当社でいえば、例えば西野カナを真ん中に考えるとしたら、CDを何枚売りましょう、配信のみにしましょうか、ライブをどれくらい開催しましょう、物販をどれだけ売りましょうか、エキシビションを開催しましょうか、音楽出版をどうするか…。これが我々の考えている新しい「音楽会社」なんです。これからはそういう方向に舵を切っていきたいと思っています。

音楽は斜陽産業といわれていて、実際にCDの販売枚数はどんどん下がっていますが、それをカバーできるほどサブスクリプション(定額制ストリーミング音楽配信サービス)が追いついているかといえば、まだまだです。今後はアーティストがIP(Intellectual Property:知的財産)であるという考え方ができるかもしれませんね。例えば、MAN WITH A MISSION(ロックバンド)はそれに近いかもしれない。

オールでビジネスを考えたとき、音楽ビジネスはもっと広がりが大きくなる可能性があります。他のコンテンツも同様です。映画やアニメも、今までの方程式が通じなくなった。最近では、『君の名は。』のヒットによってさらに状況は変わりました。今まではテレビ局の深夜アニメで放送して、パッケージの売上で回収するというビジネスモデルで、その中でいい作品は劇場公開していました。でも『君の名は。』は、いきなりの劇場公開。テレビ局の力を借りずにあれだけのヒットを生み出しました。ビジネスの方程式というのは今後もどんどん変わっていくと思います。

市井  第5世代移動通信システム(5G)の導入に伴い、リスナーの視聴体験は変わるのでしょうか? また、5G商用化に伴う音楽業界ビジネスチャンスをどのようにお考えですか?

水野  音楽業界でいえば、ダウンロードを支えてきたのがハイレゾ音源(CDより高解像度の音声データ)というのがとても大きかったですね。ハイレゾは今後もまだまだ楽曲を配信できるので、ビジネスを伸長させていくことは可能だと思います。今後、配信で大きなポテンシャルとなるのが、ハイレゾのサブスクリプション。データ量が大きく取得に時間がかかるので現状では難しいですが、5Gになれば環境的に良くなるので、ハイレゾ・ストリーミングみたいなものがもっと出てくるんじゃないでしょうか。映像やゲームの配信もそうです。通信速度が上がり、大容量のデータが瞬時に移せるようになるのは、エンタテインメントのネットワーク・デジタルにおいてはウェルカムなことだと思います。

市井  サブスクリプション領域などを中心に、ますますグローバルプラットフォーマーの意志決定が、コンテンツプロバイダの経営を左右することが増えているように思います。コンテンツプロバイダとしての対抗戦略についてのお考えを伺えますか。

水野  グローバルに限らず、プラットフォーマーがだんだんコンテンツ領域に入ってきています。当社でもアニプレックスがNetflixやCrunchyrollで作品を独占配信することが一部でありますが、その動きが100%問題かといえば、そうではないですね。

コンビニエンスストアではPB商品が増えていますが、強いブランド力を持つNB商品は駆逐されずに残っています。特定のところでしか観ることができない映像、聴くことができない音楽を展開しだしたとき、コンテンツプロバイダとして考えておくべきなのが、それに「負けないブランド」「負けないコンテンツを作ること」です。切磋琢磨をするのは良いことですし、プラットフォーマーが完全にシェアを独占してしまうことはありえないと思っています。

Apple MusicやNetflix、amazonにすべて従属するような考え方でコンテンツビジネスを行っていったら、絶対に衰退していくと思います。バップさん(レコード会社)はマキシマム ザ ホルモンを配信もせず、レンタルもせず、2年ぐらいフィジカルだけをやっていましたが、ああいう姿勢はとても大事だと思います。コンテンツプロバイダ側がいろいろと考えながらやっていく。まさにせめぎ合いです。そうすることでもっといい作品、もっとおもしろいことが出てくるのであって、ユーザーの心理や思考をいち早く掴めるかどうかですよね。そのためにはデータマーケティングが必要で、ユーザーにどれだけ近付いているかの勝負だと考えています。

 

新規事業の評価は3年が目安



市井  エンタテインメントコンテンツのような予測が難しいビジネスにおいて、重要な決断を下すのに大切なのは何でしょうか。

水野  ネットやデジタルのビジネスは当たると1~3年で大きくなります。ですが、我々が展開しているビジネスはインキュベートがあって、10年20年経って、ものすごく大きくなる。結果をどこの時点で求めるかというのは、経営判断としてもすごく難しいですが、長期的視野が必要だと考えています。

当社では「こういうことやろうと思う」「これにいくら使ったらいいか」という話が常にありますが、判断基準のひとつは、やりたいといってきた人間の「真剣さ」「熱さ」「その人間に賭けるかどうか」です。経営判断において僕が必ずしているのは、ダメだったときにいくらの損失なのか、あるいは何がリスクになるのか、成功したときの利益も含めて考えます。ネガティブとポジティブの両方を考えての決断です。そのために「これをやるのに3年あげます。3年でやれなかったら辞めてください」と時間を区切ります。

市井  誰かが担当した事業が赤字の場合、芽が出て成長するまで続けてやろうと考える判断軸はどのようなところにあるのでしょうか?

水野  ただ熱さを持っているだけではダメで、論理的にビジネスとしての拡大性があるかどうかを見ます。職人仕事のように、20年見守り続けているわけではないです。20年経ったら世代が変わってしまいます。モノにもよりますが、先ほど言ったように時間軸でいうと3年。3年で拡大性が見えてこなかったら、辞めるか、集約するか、変化させるかのいずれかをやる必要があるし、「これはもっといける。赤字だとしても絶対的な未来がある」と思えれば、「もう3年やりましょう」となります。アニプレックスも『るろうに剣心』がヒットしていなかったら、存続していなかったかもしれない。Zeppもある程度の収益がまわるようになるまでには、やはり3年ぐらいかかりましたよ。

 

経営、マネジメントに必要なこと



市井  ここからは、主に受講者の方から質問を中心にお伺いしたいと思います。ご自身の中で強みと思われているご経験や教訓などは持っていますか?

水野  これまであまり言ってこなかったのですが、経営者になるにあたって良かったのは、ファイナンスをきちんと勉強したことですね。僕が携わってきたキャラクタービジネスの分野というのは、在庫を抱えて赤字になったり、いろいろあるんですね。悔しい思いをしているときに、ファイナンスの責任者が言った「限界利益」という言葉を知らなくてね。必死で勉強しました。それでPLやBSも見ることができるようになったし、あの経験は良かったですね。営業の責任者になったときに、営業の人間には「やっぱりPLぐらいは読めるようにしとけよ」って言いましたよ。

市井  40代に一番意識していたことは何かという質問もきています。

水野  35だったかな…、商品開発とか新しいキャラクターの開発とかをやっていた頃です。それまでは「自分の感性は客に絶対通じる!」って思い込んでいたんです。でも35前後の頃にね、「あっ、僕の感性はもう違うかもしれない」って気づいた瞬間があったんです。それからですね、人に委ねるようになったのは。「お前はどう思う?」と聞いたり、モニター調査をやったり。自分の感性を信用しなくなった。そこからは、自分が中心になって作ったり、企画するより、気分としてはちょっとベンチに入った感じ。マネジメント思考になってきたのかもしれない。「何人の部下を持ってやりました」ということではなくて、「上も下も使って、どうやってこのビジネスを、この目標を実現したらいいか」ということを考えるようになりました。それが40前後だったと思います。

市井  マネジメントへシフトしたんですね。マネジメントとして必要な資質とは何だと思いますか?

水野  僕は肩書きや部下が欲しいっていう思いがあまりなかったんですよ。「人を使う」というのは「部下を使う」ってことではないんですよね。上こそ利用しなければいけないし、上・横・下、隣の部署の人間でもいい。ある分野が弱ければ、その分野に強いやつを他から引っぱってきて、どうやってひとつのプロジェクトに、あるいはビジネスにしていくかを考える。その能力が最終的にマネジメント能力になるのかなと思います。

市井  「音楽制作」に直接関わったことがない水野さんが、SMEのCEOに就任された後、苦労されたことはありますか。経験がないから相手に受け入れてもらえないようなときに、どのように解決されてきましたか?

水野  2年前にSMEの代表になったときは「えっ、僕? これ、僕じゃ収まらないでしょう。音楽の経験値がないし…」というのが本音でした。
「アニメも、アニメのコンテンツもわからないですよ」
「だからお前なんだよ」と。

レーベルの人間もあまり知らないし、アニメの、特に製作の人間とのコミュニケーションは全くない状態から始まりました。40代だったら違ったかもしれないですが、そうなると僕は現場に任せるしかない。あとは経営的な部分のところを話していきましょう、というスタンスで入っていきました。それでいいのかなって気はしますね。

そういう意味では、SMCの代表を47歳で経験したのはよかったと思います。SMCは、スーパースペシャリストの集団で、役員全員が僕より年上だったんです。僕はそれまでキャラクタービジネスしかやったことがないから全くわからない。だから当時、パッケージ部隊、宣伝販促部隊、ライブのグッズ製作部隊など7つぐらいに分けられていたのを、バーチャルカンパニーにしたんです。権限委譲するかわり、一気通貫で利益までみますよというやり方で、徹底的にそこの幹部たちとコミュニケーションを取りました。毎晩飲みに行きましたよ(笑)。だからSMEの代表になったときは「えっ?」と思ったけれど、SMCの経験があったので、いろいろな分野をやることに対しての器が大きくなっていたのかもしれないですね。

市井  それぞれのスペシャリスト、それぞれにマネジメントする方たちがいる中でね、水野さんはどういう付加価値を付けていこうか? と意識されていますか?

水野  組織全体をより良い方向に持っていくためには、自分は何をすればいいのかを考えています。それは、SMCの時もそうでしたが、1つの事業部なり1つの集団をある程度セグメントに分けていくと、そこの部分は「個別最適」ですよね。でも隣が見えなかったり、隣がライバルだったりする。それで切磋琢磨する場合もありますけど、「全体最適」は僕にしか見えない。それを役員たちと共有して、横串を入れたり、「これとこの部分を一緒にしたら新しいことできるよね」といった提案をしています。

市井  最後に、コンテンツ業界の若い方々に向けてメッセージをいただけますか?

水野  エンタテインメントに関わる人間はポジティブであることが絶対に必要だと思います。エンタテインメントって人に感動を与えることだから、嫌なことがあったときに、ネガティブ思考では乗り越えられないなと思います。明日SMEが無くなっても、従業員以外は誰も困らないですからね。

自分の特技なのか、嫌なこともうれしいことも次の日になるともういいんですよ。「これ、マズイなぁ」ってすごく落ち込んでも1晩寝ると「まあ、大したことないな」っていう気になっちゃうんですよね。鈍感力かもしれない。自分では繊細だと思ってるんですが(笑)。かみさんからも「あなたって、本当にすぐ忘れていいわね」ってよく言われます。

市井  気持ちの切り替えが早いんでしょうね。これも経営者として大事な資質のひとつでしょうね。
水野さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。


水野 道訓 Michinori MIZUNO
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント 代表取締役 CEO
  • 1981年 株式会社ソニー・クリエイティブプロダクツ入社 東京CF営業所
        以後、販売促進部CF販売促進課、販売推進部大阪営業所等
    1993年 同社 CR営業本部第1営業部販売推進1課課長
    1995年 同社 第1営業部東京第2営業所所長
    1996年 同社 営業部次長
    1999年 同社 SNW事業部事業部長
    2000年 同社 執行役員
    2002年 同社 プロパティプロモーショングループ 本部長
    2003年 同社 代表取締役
    2005年 株式会社ソニー・ミュージックコミュニケーションズ 代表取締役 執行役員副社長
    2006年 同社 代表取締役 執行役員社長
    2008年 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント デピュティ・コーポレイト・エグゼクティブ
         同社 コーポレイト・エグゼクティブ ソリューション&ライツビジネスグループ代表
    2014年 同社 コーポレイト・エグゼクティブCOO(ソリューション&ライツビジネスグループ、ネット&メディアビジネスグループ 担当)
    2015年 同社 代表取締役 CEO
    現在に至る


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