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インタビュー

2021.08.20


持続可能な日本アニメ産業の未来を創る――トムス・エンタテインメント 竹崎社長が語る「アニメSDGs」と「リーダーのあるべき姿」(VIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」講演より再構成)
日本でアニメが誕生してから100年を超えた今、グローバル配信プラットフォームの登場等により、アニメ産業はデジタル化をはじめとした様々な変革が求められています。今後、日本のアニメ産業が世界で生き残っていくために長期的に取り組もうとしている「アニメSDGs」について、さらにリーダーは何を意識して日々の仕事に取り組むべきなのか? トムス・エンタテインメント 竹崎社長にお伺いしました。(※本記事はVIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」講演を一部抜粋・再構成したものです。)

「アニメSDGs」とは

原体験で得た仕事のポリシー
 
竹崎氏私のポリシーは「世の中を楽しくする」というシンプルなモノです。きっかけは子供の頃、学級新聞にマンガを描いて評価してもらったことでした。自分がマンガを描くことでみんなが喜んでくれるんだと感動したことが原体験になっています。
 
高校生の頃から同人誌を始めたのですが、自分の作品単体ではなく雑誌全体の構成や企画力を編集者として評価いただく機会が多く、自分より素晴らしい作品を生みだす人はたくさんいるので、それらをうまくまとめて世に出すことの方が自分がやるべきことで、クリエイターや作品を発信していく側で役立ちたいと考えるようになりました。
 
就職して6年間SEを経験したあと、28歳のときにセガに転職しました。セガのゲームは面白いのに、それがうまく世の中に伝わっていないと感じていたので、自ら広報の技術を身につけてセガの魅力を伝える仕事がしたいと何の迷いもなく飛び込みました。ここでは、優れた”創作物”を周知させるという関わり方にシフトしました。
 
2015年にセガグループのトムス・エンタテインメントに異動し、今はアニメ産業そのものに貢献できる方法を模索しながら日々の仕事に取り組んでいます。異動していろいろと学んでいくうちに、アニメ産業には一筋縄ではいかない様々な問題があることが分かったので、日本アニメを産業として持続するために何をすべきかを考えるようになったのです。
 
自分で創作することから→世に出す→周知させる→産業として持続させるという風に”創作”というものへの関わり方が少しずつ変化しています。一貫しているのは、何かを創り出すことで「世の中を楽しくする」という想い。これが私の原体験から今に至るまでのおおよその流れです。
 


 

  

日本のアニメ産業の現状

 

日本動画協会の発表によると、2018年度の日本のアニメ産業の市場規模は2兆5112億円。うち48%を海外市場向けが占めています。昨今は、グローバル市場で展開する配信プラットフォームの台頭によって、自ら世界中を回って個別に営業しなくても世界中の人にアニメを観てもらえるようになりました。
 
日本アニメは海外では「ANIME」と呼ばれ、大人の鑑賞に耐える内容、ジャンルの多様性、クオリティの高さとコストパフォーマンスの観点から、他国のアニメーション作品とは一線を画した存在として世界中で注目を集めています。その結果、日本アニメを通じて日本語や日本文化が世界に浸透するようなちょっと嬉しい状況も生まれました。
 
産業としてはさらなる成長の可能性を秘めている一方、制作現場がそれに追いつかなくなっています。アニメの制作現場には長年先送りにしてきたさまざまな課題が山積みになって、待ったなしの状態です。これらの課題をそのまま放置していると、日本アニメは産業として持続することが困難な状況に陥ります。
 
このように、今はチャンスとピンチが同時に押し寄せており、ここをチャンスと捉えて未来への道筋を切り拓いていけるか否かは、ここから数年間の我々経営者の舵取りにかかっています。
 
私が経営者として今後10年間で成し遂げたい使命をひとことで表現するとこうなります。
「アニメSDGs 2030年までに、持続可能な日本アニメ産業の未来を創る」
 
自社や日本のアニメ産業がどのようにSDGsに貢献できるかを考えていた際に、そもそも自分たちの産業そのものが危機的状況にあることを解決しなければそれどころではないと思い立ったのがきっかけでした。日本アニメ産業を持続可能にすることで、産業自体がSDGsにも貢献できる構造を目指します。
 
そして、この「アニメSDGs」の実現のために、アニメの作り方を変える<作り方改革>と、
アニメの産業構造を変える<産業構造改革>、2つの改革を中心に、これを実現する人材育成と意識変革を支える<人づくり改革>を3本柱としてトムスの中で取り組みを始めました。

 

  

アニメSDGs<作り方改革>とは

 

アニメの制作現場における代表的な課題を3つあげます。
・「紙に手描き」を前提とした人海戦術による制作工程の限界
・手描きアニメ制作を支えてきたベテランスーパーアニメーターの高齢化
・アニメーターの量的・質的不足による品質劣化
 
日本でアニメが制作されるようになって100年以上がたちました。この間、日本のアニメの作り方は基本的には変わっていません。作品によって違いますが、30分番組だと、だいたい4000枚前後の絵を動かしています。作画の一部はデジタル化もされていますが、特にベテランの方は今でも全て手書きで、限られた人材の取り合いも起きています。こういった問題を解決するために、アニメ制作会社では、各社各様にデジタルツール等を導入するトライアルをしているところです。
 
竹崎氏とはいえ、紙がデジタルになっただけでは4000枚の絵を描く行程は変わらないので、アニメーター不足の解決にはならず、さらに突っ込んだ作り方の改革に着手する必要があります。デジタルで描けるようになったら次は、
・若手のスキル不足をテクノロジーで補う仕組み作り
・デジタル技術を活用し、人的作業を軽減する制作工程の実現
・新しい制作工程のアニメ業界全体への波及
といった取り組みに挑まなければなりません。
 
100年かけて作った工程は10年くらいかけないと変わらないと思うので、2030年にゴールを置いて取り組みを始めました。

 

アニメSDGs<産業構造改革>とは

 

私たちがやりたいことは、アニメがヒットしたときに出資者だけではなく、制作側も儲かる形に持っていくことです。
 
<産業構造改革>における大きな課題は、アニメ制作で得られる収益が、アニメの販売&二次利用収益に比べて圧倒的に少なく伸びしろがないことです。アニメのビジネスでは、制作側は最初に決まった金額で雇われて作ったらおしまいで、作品が大化けした際のリターンはお金を出した人に戻る仕組みが大半を占めてきました。歴史上、制作会社は自分で作品を世に出す出口を持っていなかったので、出口を持っている発注側に価格決定権があったのです。仕事をもらえなければ制作会社は成立せず、仕事をいただけるだけでありがたいという関係性です。
 
実際にはビジネスとして成功しているアニメ作品がそんなにたくさんあるわけではないのですが、それでも当たっている作品は目につくのと、作品が当たったときには出資者が収益を得られる産業構造になっているので、結果的に、出資者だけがどんどん増えて、制作キャパシティを超えて発注される事態が続いています。
 
当たり前ですが、制作する人がいなければアニメ作品は作れないわけで、そのキャパシティは限られています。一方、出資者側はお金さえ用意すれば良いので、儲かると思われている限りいくらでも参入者は増えます。この状況を客観的に捉えれば、制作側が優位な立場になりそうなのですが、実際のところ、制作会社は出資者の下請けにすぎず、なかなかその立場から脱却できません。これって変じゃないですか?
 
私は、この産業の仕組みを変えたいと思ったのです。
 
この課題を解決するためには、作り手に潤沢な利益が残せる制作費の設定や、作り手に販売&二次利用収益が還元される仕組みを確立し、制作側にそれだけの分配をしてもなお出資者側にも十分な収益が出るビジネスを成立させなければなりません。そのためには作品ひとつひとつの稼ぐ収益を大きくする必要があり、分配のルールを見直し、しかも、これを産業全体として当たり前の状態に持っていかなければなりません。
 
このような方向性を追求していけば、粗製乱造状態から脱却し、おのずとコストをかけた良い作品だけを数を絞って作るように全体の流れが変わるのではないかと期待しています。
 
トムスで取り組みたいことは、プロデュース機能を強化することによって、自社でお金を出して作品のビジネス構造を自由にハンドリングすることです。自らがメインの出資者であれば、制作側にどのように収益配分をしようと責められることはありません。もともと制作側にいたトムスが、出資側と制作側の両方の立場に立ってさまざまな新しい仕組みにトライし、そこから成功事例が出て、それが産業全体に少しずつ広がっていけば、今の制作会社が置かれた状況に風穴を開けられるのではないかと考えています。もちろん、トムスが関わる全ての作品を自社でプロデュースするという話ではありませんが。
 
制作側にも「新しいことにもチャレンジしていく」ことを意識してもらって、そこに関わるスタッフの行動も変えていかなければなりません。あわせてそれ相応の評価や人事制度、報酬体系も含めて制度設計から変えていくことが必要で、それを<人づくり改革>と表現しています。
 
私はトムスを「世界を夢中にさせるアニメーション創造企業」に成長させると同時に、「アニメSDGs 2030年までに、持続可能な日本アニメ産業の未来を創る」という使命を成し遂げたいという強い意志を持っています。3年ごとの中期計画を3回まわせばちょうど2030年になるので、非常に分かりやすい残り9年間のチャレンジだと捉えています。
 


 

 

コーポレートリーダーとして必要なこと

「好きなこと」でビジネスを成立させる

 

私が社会人として日ごろから気をつけていることをお話します。
 
ひとつは、「好きなこと」、「自分が面白いと思うこと」を、いかにビジネスに組み立てるか? ということです。「やりたいこと」と「お金を払ってもらえるもの」はそう簡単に一致しません。アニメ業界に限らず、クリエイターは「好きなこと」をやりたい人が多いのですが、「やりたいこと」をやるためにはお金が必要で、使ったお金は回収しないと会社はつぶれてしまいます。極端に言えば、最終的にお客様にお金を払ってもらえないものは、お金を払う価値のないものだと理解していただきたい。自分の「やりたいこと」と支払ってもらえる「対価」。そのバランス感覚を身につけて欲しいです。そのバランスさえうまく取れれば、結構「好きなこと」にもチャレンジできると経験上思います。

 

相手に分かってもらうためには

 

「自分が言ったこと」と「相手に分かってもらえたこと」は違います。リーダーとしてスタッフに何かを伝えるシーンで、言った通りに理解してもらえないことや、反対意見が出ることもありますが、最終的には相手に分かって納得してもらえたことだけが残ります。自分の言いたいことを同じ粒度でいかに相手に分かってもらえるように伝えるかを、リーダーには強く意識して欲しいです。
 
竹崎氏また、伝えたいことは、なるべくキャッチーでわかりやすく、頭に残る言葉で伝えるのがいいと思います。コピーライターにでもなった気分で。
 
私は、「アニメ産業の課題を何年かけてでも解決しなければこの先がない」という話をずっと語ってきましたが、あるとき「アニメSDGs」という言葉を思いついて、「2030年までに、持続可能な日本アニメ産業の未来を創る」というメッセージに整理したことで、とても話が伝わりやすくなりました。同時に、そのための取り組みを<作り方改革>、<産業構造改革>、<人づくり改革>という言葉にできたことも大きかったと思います。
 
「なぜ」の深掘りをする

 

「できない」「無理」「難しい」「業界の常識と違う」などと言われることがあります。「言い訳するな」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、頭ごなしに否定するのではなく「なぜ無理なのか?」を何度も何度も聞き続けて、「なぜ」を深掘りしていくことを私は心がけています。「無理です」「なぜ無理なの?」「昔からこういったルールなんです」「そのルールは誰が作ったの? ルールを変えるにはどうすればいいの?」といった具合に。問いには必ず何らかの答えがあるので、それをどこまで突き詰めて考えられるかが大切です。
 
もし「なぜと聞かれても分からない」と言われたら、こちらから考え方のバリエーションをいろいろと投げかけてあげて少しずつ答えに近づいていけばいいのです。とことん考え、徹底的に掘り下げ続けても答えが出ないときは、「答えが出ないことが答え」だと思うので、そこまで行きついたなら、それでいいと思っています。
 
決める前に迷え

 

リーダーは決断しなければならないことが多いです。決めること自体大変なことですから、決める前には散々迷った方がいいと思っています。そして、「何かを決めた後には迷わない」と肝に銘じています。
 
リーダーに求められるのは、決断すべきことに対してできるだけ多くの情報を集め、さまざまな意見を聞きながらいくつもの視点で検証し、迷いがなくなるまで考えぬいて決めること。それを限られた時間の中でどこまで深くできるかです。そして、決めたら迷わずに突き進むこと。リーダーがちょっと迷っただけで、会社全体は大きく揺れ動いてしまいます。リーダーはすべてを背負う覚悟で決断してください。
 
交渉はどこがフェアかを考える

 

特に社外の方と交渉するときは、お互いにとってフェアなところがどこにあるのかを常に考えるようにしています。
 
まず一度、自分の会社の立場から要求したいことを決めます。そして、今度は相手の側に立って自分の要求に徹底的に反論します。立場を変えながらこれを何度か繰り返すことで、自分たちの要求の妥当性を見極め、それぞれが何を守らねばならず何が譲れるかを理解していくのです。このように、相手の立場をよく学び、想像し、どこが妥当なのかをよく考えて、ある程度の着地点を見出してから交渉に臨むと交渉が成立しやすく短時間で決着がつきます。
 
会社の利益を追求する

 

リーダーは個人の利益ではなく、会社の利益を追求することを常に強く意識して欲しいです。
 
自分の部門の利益ではなく、会社の利益を最大化することが一番目指すべきところです。自分の部署の利益は若干下がっても、トータルで見たら他部署の大きな利益になる場合は、自分の部署の利益を捨てても会社全体の利益を考えてください。
 
もし、それを会社が理解してくれないなら、個別最適ではなく全体最適を考えている全体像を会社に説明してみましょう。それでも会社が理解できないなら、その会社はダメな会社です。
 
コーポレートリーダーに望むこと

 

私が子どもの頃の原体験を話した理由は、「なぜ、自分がこの仕事をしているのか?」をよく考えて欲しいからです。今の仕事をしているきっかけや自分自身の軸になるものは、みなさんの中に必ずあると思います。その中で自分が心からコミットしている理念や使命は何か? さらに「今後10年かけて成し遂げようとしていることは何で、そのために日々どんな取り組みをしているか?」ということを自分に問うて欲しい。
 
自分がなぜここにいて、どこに向かっているかがハッキリすれば、日々の仕事は目的に向かう「旅路」であり、大変な仕事にも楽しんで取り組めるようになります。どうせやらなきゃいけないことは、楽しくやった方がいいです。
 
最近、昔買った本を読み返していて、ちょっと良いなと思った言葉があったのでご紹介します。
 
「一生懸命働き、偉大な仕事をすることは、呼吸と同じくらい不可欠である。自分のやっていることにベストを尽くさず、情熱的に(ときにがむしゃらに)仕事をしていないなら、それは才能と運命と神に対する裏切りだ。」
出典:ジョージ・ロイス著『世界を変えた伝説の広告マンが語る-大胆不敵なクリエイティブ・アドバイス』
 
このくらいの気持ちで毎日の仕事に取り組めると気持ちいいよなって、そんな風に思っています。
 


Q&Aセッション

グローバル配信プラットフォームの影響

 

市井  それではここからは、参加者のみなさんから事前に募集した質問をお聞きしていきましょう。
 
グローバル配信プラットフォームが日本のアニメ産業に及ぼした影響、これからの影響についてどう考えますか?
 
竹崎  かつて日本ではテレビと劇場しか出口がありませんでしたが、配信プラットフォームが出てきたことで、作り手が出口を選べる状況になってきています。
 
私が元々いたゲーム業界は、コンテンツ、つまり作り手が一番強い世界でした。アニメ業界では作り手が最下層である状況がなかなか打破できませんでしたが、YouTubeも含めたグローバル配信プラットフォームの登場で、アニメ産業においてもやっと作り手にスポットライトが当たるようになってきたと思っています。特にNetflixは日本の尖ったクリエイターと組んでいろいろなチャレンジをしています。作り手の立ち位置は相対的に上がってきているのではないかと感じています。
 
市井  Netflixが制作会社と組んで人材トレーニングをしている状況もプラスと見ていいのでしょうか?
 
竹崎  いいと思います。本来は日本のアニメ産業がやるべきことですが、そこまでできていない状況の中で、Netflixのような企業がトレーニングをしてくれることを否定しても意味がありません。作り方の土台を変えていくこと、若い人たちが入ってきやすいようにトレーニングすることは、とてもいいことだと思います。願わくば、自分たちの力でそれが実現できるように産業構造改革を進めたいところです。
 
市井  NetflixやAmazonをインフラ系と見たときに、彼らは一般の消費者やファンとつなぐルートをきちんと持っていますが、IPを持っているアニメ制作会社はファンと直接コミュニケーションはできませんよね。長期的にはいかがでしょうか?
 
竹崎  アニメの制作会社はB2Bの仕事です。私もセガからトムスに移ったときに痛感したのはそこでした。制作会社のお客様はアニメを納品する製作委員会のみなさんなのです。
 
トムスアニメですから、今後少しでもB2Cを意識していけるように、YouTubeで公式チャンネルを開設しました。お客様は『名探偵コナン』や『ルパン三世』、『それいけ!アンパンマン』を知っていますが、それをトムスという会社が作っているという感覚はあまりないと思います。そこをB2CのTMSアニメ公式チャンネルでカバーしていこうと考えています。
 
極端な話をすれば、将来、配信プラットフォームが1強になって競争がなくなることで制作費を抑えにきたり、自らスタジオを作って制作するようになって作品を買ってくれないことも起こりうると思います。私たちはそのときに戦える会社になっていたいと思っています。それはつまり、そんな環境でも欲しいと思われる強力なコンテンツを持っている会社です。内容面でもクオリティ面でもお客様が欲しいと思ってくれる作品を作り続けること、そこを会社の強い軸にしていくつもりです。
 
アニメ業界の共通の目的・活動

 

市井  「アニメSDGs」はトムスさんだけでなく、アニメ業界全体に共通する課題だと思いますが、いかがでしょうか?
 
竹崎  まだどうなるかもわからないことを事前に一方向に決めて取り組んでいくのは難しいので、個社のいろいろなチャレンジ、成功・失敗事例をみんなできちんと共有して産業として解決策を見つけていくアプローチが良いのではないかと考えています。
 
市井  そういう意味では、3つのポイントは非常に重要ですよね。かつ、個社だけではなく業界全体で取り組むべきことだと思います。業界がそういうムーブメントになっていけるのでしょうか?
 
竹崎  困っているのはみんな同じです。中小の制作会社は本当に余裕がないので、大手が旗を振っていろいろなチャレンジをして、そのノウハウを共有していく流れを作っていきたいです。
 
北米、中国市場に向けて

 

市井  北米市場ついて意識することはありますか?
 
竹崎  北米市場に向けてコンテンツを作ると、北米で作られているコンテンツとの競争になってしまいます。日本のアニメは北米のアニメーションとは違うとところが魅力だと捉えられているので、「ANIME」の強みをより押し出していく方がよいと考えます。NetflixやAmazonでも日本のアニメが売れています。日本のアニメがひとつジャンルとして世界中にファンをどんどん増やしているので、とにかく日本らしいアニメを作ることです。
 
市井  中国が莫大な投資を背景に、人材育成も含めて品質も上がりマーケットも大きくなっている中、私たちはどうすればいいでしょうか?
 
竹崎氏竹崎  中国の会社が日本の技術者や特殊技能者を高額の給料で雇用して、中国の会社が彼らから技術を習得し、必要がなくなれば解雇する……そんな話も聞きますね。それに乗るかどうかは個人の判断なので止めることはできないですが、給料が高いからと言って日本のクリエイターがみんな中国の会社に行くわけではありません。慣れ親しんだ環境を好んで残る人も多いので、人がいなくなって作れなくなることは起こらないと思います。
 
予算面の話で言うと、日本で作った作品を中国の会社が10億円で買って10億円以上稼げるのであれば、日本の会社だって直接10億円を稼げると思います。同じ作品を同じグローバル市場で売るわけですから。もちろん、中国では中国で作った作品しか買わないと言われればその分マイナスになってしまいますけどね。ですから、まずは良い作品を作ること、そしてその価値を最大化して売る販売力を持つこと、これにつきると思っています。
 
ゲーム業界とアニメ業界の違い

 

市井  ゲーム業界とアニメ業界は何が一番違いますか?
 
竹崎  一番の違いは、ゲーム業界では作り手が自ら新しいものを作って業界を引っ張っているというプライドを持っているのに対し、アニメ業界の作り手は発注された作品を作って納めるという職人的なスタンスで仕事をしている人が多いところです。もちろん、作っている人には作品への愛もプライドもありますが、このスタンスの違いにはちょっと衝撃を受けました。
 
日本のアニメは世界のアニメーションとは一線を画した個性的なモノとして高く評価されていることを意識して、自分たちの立ち位置をしっかりと作って行くことが大切だと思います。
 
オリジナルIPの立ち上げ

 

市井  どのように新規コンテンツを育てていますか?
 
竹崎  オリジナルIPを作るときにチェックしているポイントがいくつかあります。
 
1つ目は二番煎じではないこと。
 
2つ目はターゲットがハッキリしていること。
 
3つ目はその作品をそのターゲットの人に見せたときに、どんなエモーションを与えられるのかを明確に考えていること。
 
この3つのポイントをクリアしたら一度ストーリーなどの骨格を作ってみるのですが、その次の段階で考えるポイントがあります。
 
このIPはどういったビジネス分野に拡張性を持っているかです。例えばゲームや書籍、舞台など。そのIPからビジネス的にどんな広がりがあるかを考えます。なぜなら、もしそのIPがヒットしたときに、拡張性がなければビジネスチャンスを逃すからです。
 
リーダーとして気をつけたこと

 
市井氏

市井  「アニメSDGs」を掲げてリーダーシップをとる中で、何に一番気をつけましたか?
 
竹崎  アニメーションの産業自体の成り立ちや常識、業界のことをしっかりと勉強をしてベースを作りました。作り手の気持ちが分からないと、作り手と二人三脚で取り組むことができないですよね。
 
市井  そのプロセスで大変だったことはありますか?
 
竹崎  アニメの世界で新しいことをやろうとして困ったことは、これまでの歴史が長い分、「変えたくない」という声が多かったことです。「受託制作会社から自分でプロデュースする会社に成長しよう」と話したとき、古参メンバーから「それは今まで仕事をくれた人への裏切りになるのではないですか?」との意見も出ましたし、作り方改革の話を持ち出したときには「今のままでも数年はなんとかなるので自ら作り方を変えたくはない」と、そんな感じです。気持ちはわかりますが、それではいずれ会社が立ち行かなくなります。
 
2016年ごろから営業力の強化、その次にプロデュースが出来る体制を提案し、さらに自社だけでなく他の制作会社に作ってもらうことも含めてひととおり納得してもらうまでに5年かかっています。そう考えると10年なんてすぐだと思います。
 
個人の利益と会社の利益

 

市井  個人の利益と会社の利益についてのお話は本当にその通りだと思いました。いつから意識するようになりましたか?
 
竹崎  セガに入ってからです。自部門より会社全体の利益を意識することようになったのは30歳を過ぎたあたりからでしょうか。セガにとって幸せでセガが儲かること、セガの存在価値が上がるために何ができるかを考えたときに2部門でせめぎ合いしている場合じゃないと思いながらやってきました。
 
市井  セガ愛がある中で仕事をされていますよね。そうすると個人より会社の利益を意識するというのはすごくナチュラルですね。「やりたいこと」と「やるべきこと」は必ずしも一致しないということは常に意識していたんですか? 社会人になったときからですか?
 
竹崎  「やりたいこと」と「やるべきこと」が違うということは、学生のときの「勉強したくないけど、勉強しなければならない」からきている感じです。「学校の成績は良い方がやりたいことができる」と自分の中で割り切っていました。押さえるべきところを押さえているからこそ好きなことができる! という感覚は学生の頃からありました。
 
市井  ここからは参加者のみなさんからライブで質問を受け付けましょう。
 


 

  

長期の計画への向き合い方

 

Q1  長期計画を立てて実行に移して成果を上げる考え方やコツはありますか?
 
竹崎  ゴールイメージをしっかりと決めておくことだと思います。
 
アニメ業界の課題がいつまでたっても解決しないのはなぜか? と考えていくと、実は短期間では解決できないたくさんのハードルがあることが分かります。それでも解決しようと思ったら、あきらめている人や反対している人たちを全力で説得しなくてはなりません。ハードルをひとつひとつクリアしつつ、そのときどきの状況に応じて軌道修正しながらプロセスを作って行く感覚です。その途中で心が折れたりしないのは、ゴールを明確に決めて、絶対にゴールにたどり着く強い意志を持っているからです。
 
自分の目標をしっかりと掲げて、そのために今何をするべきかを常に考えていれば、「辿り着くまでに長い時間がかかってしまう」というよりも、「やるべきことはたくさんあって、それをひとつずつ解決していくのだから、必然的に時間はかかるものだ」と思えるはずです。
 

  

社長としてクリエイティブへの関わり方

 

Q2  いろいろな制作スタジオや企画部門から様々な企画が上がってくる中で、取締役社長という立場でクリエイティブにどのように関わっていますか?
 
竹崎  クリエイティブは人によって感性が違うので、チームメンバーやクリエイターのことを信頼しているのであれば、ある程度は任せたほうがいいと思っています。社長や経営陣は会社経営の軸をしっかり作ることが仕事なので、個々の作品の中身に対して口を出すものではないと思っています。
 
でも、オリジナルを立ち上げるときの脚本は読ませてもらって、オリジナルIPとして独自性がどこにあるのかなど疑問に思ったところには意見しますし、原作ありきの作品なら、ちゃんと原作は読み込んでおきます。そこは、経営としての責任の範囲ですから。
 

  

日本IPのオリジナリティ

 

Q3  日本のアニメの技術や細かい表現力は、日本にマンガがあったからだと思っています。今後アニメが生き残っていくためには、アニメ業界でストーリーを作る人、脚本家を育てることが大切だと思っています。そこはどうお考えですか?
 
竹崎  全く同感です。ディズニーやピクサーならたくさんの脚本家が集まって議論して時間をかけて練り上げていく脚本に匹敵するものを、日本ではマンガが作ってくれているのだと考えています。それは日本のマンガ編集者と作家が、厳しい読者の評価のもとでずっと作品を磨いてきたからです。例えば連載が10年も続いている作品は面白いに決まっています。日本で磨きに磨かれたマンガの原作が、アニメというフォーマットで世界に広がるのは日本の成功事例だと思います。原作が徐々に減ってきている昨今、オリジナルの脚本を作る力を業界として育てていくことが今後の課題だと思います。
 

 

竹崎 忠 Tadashi TAKEZAKI
株式会社 トムス・エンタテインメント代表取締役社長

  • 1964年 兵庫県神戸市生まれ (現在57歳)
    1983年 兵庫県立神戸高等学校卒
    1987年 関西大学 工学部 機械工学科卒
    1987年4月より 株式会社CSK
    大手家電メーカーにて、SE として、要件定義・システム設計・プログラム開発を担当
    1993年4月より 株式会社セガ
    家庭用ゲーム機の事業部にて PR 部門を立ち上げ、メディア各社とのリレーションを構築。メガドライブ(後期)、セガサターン、ドリームキャストの PR 責任者
    2001年より コンシューマ事業部のマーケティング部・部長
    ・EC サイト企画・運営/セガ公式サイト企画・運営
    ・各種調査、顧客データベース構築、顧客 DB を活用したマーケティング、プロモーション
    ・「サクラ大戦」に関する、ゲーム開発・販売、ライセンスビジネス、舞台まで IP 全体のプロマネ
    ・自社保有 IP の自社商品化
    ・小型液晶ゲーム「そだてて!甲虫王者ムシキング」 企画・開発・販売
    2006年より キャラクター・プロデュース部・部長
    ・セガのキャラクタービジネス(ライセンスイン/アウト含む)および映像ビジネスを統括
    2008年6月より 株式会社トムス・エンタテインメント 社外取締役(兼務)
    2012年より 株式会社セガ 社長室にて 秘書室長、新規事業開発担当、社長室長
    2015年4月より 株式会社トムス・エンタテインメント 取締役 国内事業本部長
    ※セガから移籍
    2016年4月より 株式会社トムス・エンタテインメント 常務取締役 事業本部長
    2017年4月~現在 MARZA ANIMATION PLANET INC. 取締役(兼務)
    2019年4月より 株式会社トムス・エンタテインメント 代表取締役社長
    2020年4月~現在 株式会社テレコム・アニメーションフィルム 取締役会長(兼務)
    2021年4月~現在 株式会社トムス・ジーニーズ 取締役(兼務)

 
 

 


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