VIPO

インタビュー

2019.11.21


バンダイナムコエンターテインメントの社長が語る、これまでの挑戦と失敗。成功体験から学ぶ、挑戦する人が生き残れる会社へ。 (VIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」講演より再構成)
>>〈前半〉VIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」講演より
バンダイナムコエンターテインメント 代表取締役社長 宮河 恭夫氏
>>〈後半〉VIPO 事務局長とのQ&Aセッション

「アソビきれない毎日を。」という企業理念を掲げネットワークコンテンツ、家庭用ゲームやライフエンターテインメントなどの分野において、さまざまな商品やサービスを世界にむけて提供している株式会社バンダイナムコエンターテインメント。
今回は、同社代表取締役社長 宮河恭夫氏をお招きし、これまでの挑戦と失敗、成功体験から基づく社長としての、マネジメントのあり方をお伺いしました。
(以下、敬称略)

VIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」講演より
バンダイナムコエンターテインメント 代表取締役社長 宮河 恭夫氏

ガンダムがつないだ縁

 

2019年の4月からバンダイナムコエンターテインメントの代表取締役社長をしています。本日はよろしくお願いいたします。
 
私は1981年にバンダイに入社しました。今年、『機動戦士ガンダム』放送開始から40周年になりますが、私の入社はちょうどガンプラがブレイクしたころでした。入社当時はガンプラの営業をしていましたが、その時の直属の上司は私が就任する前のバンダイナムコエンターテインメントの代表取締役社長の大下 聡さんでした。当時大下さんは係長で、バンダイナムコエンターテインメントの代表をつとめたこともある鵜之澤 伸さんと私が同期。バンダイナムコホールディングスの代表取締役社長の田口三昭さんは私の1つ下で、バンダイの代表取締役社長の川口 勝さんがもう1つ下に入ってきて、たまたま同じ営業部だった僕たちがそれぞれの会社の代表になっているのはガンダムが縁になっていると感じます。

 

会社は生き物/バンダイナムコグループ組織体制

 

バンダイナムコグループは、純粋持株会社であるバンダイナムコホールディングスのもと、5つの「ユニット」と各ユニットをサポートする関連事業会社から構成されています。
 

組織体制

 
私はバンダイナムコエンターテインメントの社長ですが、ネットワークエンターテインメントユニットの主幹会社の社長として、所属会社も見ています。
 
私が入社したころはバンダイの社員数は数百名程度でした。バンダイナムコグループは成長し続け、今では社員数8,000名を超えています。そういった意味では会社は生き物だと実感しています。

 

ピピンアットマークへの挑戦

 

1996年当時、同期の鵜之澤と「ピピンアットマーク」というマッキントッシュ互換のマルチメディア機をアップルと共同開発するプロジェクトに加わりました。ここから大激動の人生が始まりました(笑)
 
その頃、CD-ROMのゲームが流行り始めた時代だったので、ハードディスクを持たないマルチメディア機を開発しようと思ったんです。その時の広告コンセプトは高城 剛さんが挙げてきた「インターネットをテレビで見よう」というコピーで、私は「これだ!」と思いました。しかし、早すぎた。(笑)
 
当時、インターネットは雑誌で見るものだったんです。インターネットが普及し始めて、「wwwはこんな世界だ」と雑誌で画像写真を載せて紹介していました。そんな時代に「インターネットをテレビで見よう」なんて言われても誰もピンときませんよね。それに技術も追いついていませんでした。

 

270億円の赤字とオーナーの言葉

 

270億円という数字が何の数字かわかりますか?
 
ピピンアットマークの事業を行っていたバンダイ・デジタル・エンタテイメントという会社が解散した時の特別損失の額です。当時のバンダイの利益を上回る大変な数字でした。
 
アメリカと日本に会社を作って展開をした結果、赤字が膨らんでしまったんです。その会社では鵜之澤がハードウェアを、私がソフトウェア担当だったんですが、2人で解散後に「お前はいったいいくら使ったの?」とよく話をしていて、2人足しても170億円ぐらいなのに、会社って解散すると270億円になるんだと怖くなりました。実際に使ったお金のほかにも会社運営にはものすごくお金がかかっているということを今更ながら理解し、そこで会社の大切さやすごさも実感しました。
 
その当時のバンダイの社長から、「一生働いて返せ。普通の会社だったらクビだけど、君たちは失敗したんだから、ノウハウはたまっているだろう。だからそのノウハウを生かしなさい」と言われました。そのメッセージに救われました。

 

失敗から学び、心に刻んでいること

 

そこから学び今でも心に刻んでいる重要なことが2つあります。
 
1つは、
 
「挑戦者として、取り返しのつかないような分不相応なことはしない」
 
これはすごく重要なことです。売上が数兆円規模だったらハードウェアに挑戦しても良かったのですが、その会社の売上や利益の規模によって事業は決めるべきだと思いました。
 
皆さんが挑戦しようとするとき、「会社にいくらお金があるんだろうか」とか、「部署にいくらお金があるのか」ということは、予算ではなくて、本当に考えたほうがいいと思います。

もう1つ重要なことは、これも必ず言っていることですが、
 
「3歩先より半歩先」
 
ということです。「ピピンアットマーク」は完全に30歩くらい先を行っていました(笑)
 
3歩先って夢を語っていてもいいので、楽だし、楽しいんです。ではなぜ半歩先かというと、発売が2年先なら2年先の半歩先って結構微妙な難しいところですよね。新しいことをやるには、新しい挑戦をし続けないといけませんが、それが10年20年たつと変化していきます。
 
エンターテインメントは生活必需品ではないので、明日なくなるかもしれません。だからこそ挑戦をし続けないと生き残っていけない。エンターテインメントで一番重要なのは挑戦者であるべきだということです。

 

自分の仕事の評価指針

 

売上規模を伝えるときに、9,800円のゲームが115万本と言われてもよく分からないですよね。なので、ものすごく売れた身近なものと比較して話します。これは皆さんがこれから商売するときに実践するべきことです。
 
1992年当時、大ヒットした人気アーティストのCDが累計売上枚数300万枚を突破しました。CDは1枚3,000円だったので、3,000円で300万枚(90億円)。私は、9,800円で115万本(112億7千万円)売上げましたので、「人気アーティストに勝った!」と思った瞬間でした。これはすごく分かりやすい指標だと思います。
 
分かりやすい自分の指標を持って違う業界や好きな業界と比べると、いいと思います。一時、玩具業界と豆腐業界が同じ売り上げだったんです。数字は嘘をつかないので、自分たちがやっているプロジェクトの売上が何に匹敵するかを考えると、「もっとがんばらなくては」とか「すごいな」と思えることができるので、経営視点としては比較対象を持ったほうが面白いと思います。

 

ガンダムシリーズでやった3つの掟破り

 

『機動戦士ガンダムSEED』は私が初めて携わったガンダムです。それまでガンダムを創ったことがなかったので(1)タイトル、(2)キャラクター、(3)音楽で掟を破ってしまいました。
 
(1)タイトルについて
それまでタイトルに「機動戦士」とつけていたのは、原作者の富野由悠季さんのガンダムだけだったんです。
 
それ以外のガンダムは別の名前がついていたんですが、それを見て私は「どうして”機動戦士”とつけないのか?」と聞いたら、 「つけていいのは富野さん制作のものだけです」と言われたんですよね。でも私は、「ガンダムSEED」の福田己津央監督に確認を取り、「機動戦士」をつけることに決めました。それ以降のシリーズにもすべて「機動戦士」とつけています。
 
(2)キャラクター
もう一つはキャラクタライズされたガンダムを映像化したときです。ここでも「ガンダムではありえない」と言われました。
 
(3)音楽
テーマ音楽について当時、オープニングは1年で多くて2曲、エンディングは1年間同じ曲でいくという慣習があったので、それを変更するなんて信じられない話でしたが、「ワンクールごとに全部変えよう」とやり始めたことが今は当たり前になりました。当時は当たり前ではなかったことがスタンダードになったきかっけだと思っています。

 

18mのガンダムを実際に建てるまで

 

ガンダム30周年の時にお台場に18mのガンダムを立てました。
 
その構想を打ち出したときに「そんなことをして、ガンダムのイメージが壊れたらどうするんだ」と費用対効果や安全面の話しがあがり、反対を受けました。
 
私はおもちゃ屋出身なので、おもちゃ屋の血が半分、フィルムメーカーの血が半分流れているんです。フィルムメーカー100%だったら、30周年の時に映画を作っていたと思いますが、映画ではない何かをやりたいと探していたときに、富士急ハイランドで横たわっているガンダムをディスプレイ会社が作っていたんです。それで、あれを立たせたらいいなと、ぱっと思いついて伝えたら「そんなに簡単には立ちませんよ」と言われました。
 
バンダイナムコグループの企業理念は「夢・遊び・感動」です。立ったガンダムを見て「すごい!大きい!」と思うだけでそれを表現できますよね。私は費用対効果というよりも、実物をみた感動をみなさんに伝播させていきたいと思っています。ですから来場人数だけは気にしました。
 
結果的に短い期間でしたが、400万人もの方が来てくれました。面白いイベントで僕もすごく楽しかったです。ここ何年かの自分の仕事の中でかなり記憶に残る仕事でした。

 

今まで誰も考えなかったことをイメージする

 

ある時に、「宮河さん、立っているだけで、400万人来たなら、動いたら大変なことになりますよ」と知人に言われたんです。40周年に何をしようかなと考えたときに、2020年は世界から日本に注目が集まる年でもあるので賑やかなことをやりたいと思いました。そこでその言葉を思い出して、「動くガンダムプロジェクト」を立ち上げました。
 
私は挑戦したいと思った時に、かならずビジュアルを思い浮かべるんです。私が最初にイメージしたのは森の中にガンダムが立っていて、小さな女の子がペタペタと足元を触っている画です。
 
ガンダムを立てる場所がお台場に決まった時は、実はいろいろとクリアすべき条件があるなど大変なこともありました。でも、自分がやりたいと思ったら「どうしたらそれができるか」を考えてそれを実行することが一番重要だと思います。
 
皆さんは部下がいるから経験しているかもしれませんが、できない言い訳をする人はたくさんいますよね。そうではなくて「どうしたらできるか」をひたすら考えることが大事なんです。

 

時代を見据えたビジネスを展開する

 

5年前、映像と音楽にものすごい環境の変化が起きました。
 
私は7年前くらいにサンライズのプロデューサー社員を集めて「これから映像音楽だけで8~9割のビジネスをするモデルは成り立ちません。イメージとしては映像音楽商品で3割、マーチャンダイジングで3割、イベントで3割のコンテンツを作りましょう。それがこれからの生き残る道です」と、表明しました。
 
これから時代はどんどん変わっていきます。5Gになって、クラウドになって、サブスクリプションになっていきます。
 
今から10年くらい前にこれからはライブの時代が来ると思い、制作が好きな私はライブの制作会社を作りました。それがバンダイナムコライブクリエイティブです。
現在、年間800本以上のライブをしています。今の時代、音楽業界はカタログとライブという魔法の2つを手に入れています。カタログとして楽曲ストリーミングサービスで配信し、そしてライブビジネスも行う。
 
音楽で昔の曲を聴くようには、古いゲームはやりません。今、私はゲーム業界に「音楽業界がライブやカタログという市場が出来たように、ゲーム業界でも新しい市場を考えないと生き残れません。それを考えましょう」と言っています。
 
音楽、映像業界、ゲーム業界はダイナミックにお金が流れる世界です。そこで勝っていくためには、「自分たちだけでは作れないのだから、優秀なクリエイターと、一緒にやっていくことがとても大事。バンダイナムコだけを考えずに外部の会社とどう組んでいけばいいのか、みんなでどうやって勝ち抜いていくのか」ということを考えなければいけません。新しい時代をどのように切り開いていくかが重要なんです。

 

挑戦した人がきちんと評価される仕組み~挑戦を失敗で終わらせないために~

 

大きな会社だと、嵐が来ても耐えていれば生きていけるんです。逆に挑戦した人たちは、私みたいに失敗して海外に逃げたりするんです。
 
でも、ゴールに点を入れる人がいない限り、会社は伸びて行かないんです。だから私は加点主義で評価します。その代わり失敗した時に、そこで終わりにはしません。敗者復活戦はさせてあげたいと思っています。
 
自分は大赤字を出したあと、一時期役職が上がらない時期もありました。だから、1度の失敗で2度と浮上できないようにはしたくないと思っています。
 
私がいつも言っている一番大切なことは、
 
「挑戦する人が生き残れる会社にしたい」
「成功した時のイメージができる人が目的達成できる」
 
の2点です。
 
最初にもった成功したイメージを明確にしていると、到達したい目標が見えてきますよね。
ゴールが見えていない人は、絶対に走り切れません。ゴールはなるべく明確にするべきです。
 
皆さんのように、中間の立場にいる方たちは自分が成功した時のイメージをかなり具体的に持ったほうがいいと思います。そういう人だけが、目標達成できるのです。
 
大前提は挑戦できる人だけが生き残れる会社なんですが、その時に、成功したイメージを持つこと。それを、無理だと思ったら、思考が止まります。できない言い訳を考え始めます。
 
どこまでお金や体力が続くのかを自分で認識しながらやることは大事で、なかなか難しいことですが、まだ大丈夫だと思ったら、成功するまでやり続けることが大事です。そうしたら、絶対に失敗はありません。
>>〈前半〉VIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」講演より
バンダイナムコエンターテインメント 代表取締役社長 宮河 恭夫氏
>>〈後半〉VIPO 事務局長とのQ&Aセッション

宮河社長とのQ&Aセッション

前半部の講演の後は「コーポレートリーダーコース」の受講生から、事前に質問を募集し、VIPOアカデミーの校長でもある市井とのQ&Aセッションを行いました。
 
VIPO専務理事・事務局長 市井三衛(以下、市井)  日本アニメの制作現場やそのまわりの環境に、海外の特に中国やグローバル展開しているネット配信が資本算入しきていますが、危惧されている点や良い傾向と思われることありましたら聞かせてください。
 
株式会社バンダイナムコエンターテインメント代表取締役社長 宮河恭夫氏(以下、宮河)  プラスの面だけを考えるようにしています。最近は「5Gに変わりますが、どんな風な時代になりますか?」と聞かれると、必ず「わくわくします」と答えています。「どんな時代が来るんだろう。こんなにわくわくする時代に生きられて良かったです。」と、本気で思っています。
 
時代が変わるということは、戦国時代が来るわけで、ひょっとしたら大将にもなれるかもしれません。力尽きてしまうかもしれないですが、わくわくしながらそれを乗り越えて、新しい市場をみんなで作っていけることは、ものすごく重要なことだと思っています。
 
市井  今のアニメ制作において、中国をはじめとするアジア各国の技術の向上により、日本とアジア他国との大きな差が生まれにくい状況になりつつあります。すると、必然的にアニメの制作産業の国内各社の競争力の低下が懸念されますが、この状況のなか、国内アニメ制作会社はどのような方向で競争力を向上させていくと思われますか?
 
サンライズさんの場合は、オリジナルIPの創出に強みがあり、それができる資本体力もありますが、多くの制作会社は中小企業で、自社IPで勝負するリスクを抱えるだけの体力を持っていないのが現状です。他産業のセオリーに従えば合併や淘汰の結果、プレイヤーの数が減って、金銭面でも人員的にも体力があるところが強みを出していく方向になるかと思います。ですが、アニメ産業は自分のやり方を貫きたいと独立する方が多いと思うので、M&Aにはなじみにくいのでは? と思うのですが、いかがでしょうか?
 
宮河  私はなじみにくいとは思ってはいません。M&Aがいいかどうかは別として、私がサンライズの社長時代にアニメ制作会社のジーベックという会社の映像制作事業を譲受しました。それがM&Aに近い形でした。
 
そしてジーベックをそのまま引き継ぐよりも、新しい会社にしたほうがいいということで、サンライズビヨンドを設立しました。さらに、サンライズの驚くほど若い人を社長にしました。その彼が「超える、その先へ」と企業スローガンを掲げたときに、これは大丈夫だと思いました。
 
サンライズを超えるんだと言う気持ちが若い社長の彼にはすごくあるので、M&Aが向かないということはないと思っています。
 
制作の人は頑なところがあって、全部自分でやろうとしてしまいますが、今はそういう時代ではありません。足りないところはどんどんアウトソーシングをしていけばいいんです。バンダイナムコもアウトソーシングが進んでいます。M&Aという形だけにこだわることなく、相互に補完し合う形が向いていると思います。
 
市井  それは宮河さんの立場だから言えるので、実際はアトリエっぽい制作会社のトップの方はまだまだそうは思っていないのではないでしょうか?
 
宮河  思ってないですね。私はみんなに「ライツは私が面倒みますよ」と言っていたのですが、きませんでしたね。やっぱり補完し合っていかないと無理だと思っています。
 
私はスタートアップのベンチャー企業を応援したいです。そこを買いたいというよりも、独立した方をリスペクトしているので、その会社が足りないところは体力のある会社がフォローしていけばいいと思っています。
 
市井  オープンイノベーションなど盛んに言われていますが、基本的にはそういうことですよね。
 
宮河  そうです。バンダイナムコグループはマーチャンダイズの数が多いので、サービスや事業内容を案内するならば、そこに何ページか付け加えればいいわけです。何人も違う人が持って来るよりは絶対そのほうがいいので、本当はある程度集中させた方がいいと思います。
 
市井  そのように変わっていくのを、宮河さんとしてもリードしていきたいということですよね。
 
次の質問にいきます。「HPを拝見すると、オリジナルのIP創出に3年間で250億円の投資をされたとのことですが、IPの成功は何をもって成功として、または失敗とするのでしょうか?『機動戦士ガンダム』もあきらめずにIP展開をし続けたことで成功しました。最初からヒットするIPは稀であると認めてらっしゃいますが、必ずヒットするとは限らないものに、どうやって投資していくのか、またはあきらめるのか?具体的な考え方やフローを教えてください。
 
宮河  放映スタート時の『機動戦士ガンダム』は低視聴率で打ち切りになりました。当時、ネットもないのにすごいなと思ったのが、ある大学生が「こんな面白い番組なのに、どうして止めたんだ」と、テレビ局に電話や手紙、各アニメ誌にはハガキをどんどん出していたことです。それで、ガンダムの商品化権を持っていた会社が解散したときにバンダイが権利を取得しました。
 
その頃は、ブームが出版社やテレビ局へ向かっていて、徳間書店の『アニメージュ』の当時の副編集長の鈴木敏夫さんがとてもガンダムを応援してくれました。毎晩のようにああでもない、こうでもないと雑誌を作っていて、僕もそこにガンプラを展開するバンダイの人間として参加していました。
 
そこに火種があったらそれをどのように、燃やしていくのか、それを自分の手でどのように、動き回って、風を送り込んでいくのかが重要です。動き回ってない人は「このIPはダメなんだ」とは言わずに、まずは動いてみてほしいですね。
 
今はネットで検索すればみんなが興味を持っているかどうかはすぐに分かりますよね。それで盛り上がっているなら絶対にあきらめないことです。でも、あきらめるかどうかは会社の規模によっても変わってきます。資金に余裕がなかったら、途中であきらめざるをえないんです。
あきらめきれないなら、そのコンテンツを売ったり共同開発をしたりして展開していけばいいんです。全部、自分の会社だけで完結させるという考え方はすごく損だと思います。
 
ガンダムは当時の大学生に助けられた作品です。その時私は、ガンダムのプラモデルを担当していましたが、その時はガンダムが40年も続くなんて誰も思っていなかった。40年の戦略なんて全く考えていなくて「明日生きるためにどうするか」と考えてきたことが40年間続いているだけです。
 
商売で、生き延びるためには絶対にあきらめないことです。でも、全く無視をされているものは早めに切り上げたほうがいいと思います。そこの見極めがすごく重要だと思います。
 
市井  投資したIPについて、どういう風にコンシューマーが動いているか、どのくらい時間をかけてやっているかのチェックをしながら投資を続けているということですね。
 
宮河  そうですね。僕はほとんどの現場には行っています。イベントやライブ会場へ行って、見て、発言をしないと責任者として失格だと思っているので、すべての現場に顔を出していました。今、バンダイナムコエンターテインメントの現場にもかなり顔を出しています。そうしないと「アイドルマスターすごかったです」と言われても、何がすごかったのかわかりませんよね。現場のお客さんの顔を見れば、まだ大丈夫かの指示もしやすいです。
 
現場でありとあらゆるアンテナを張って、状況を見ながら自信を持ってやっていくのはすごく大事です。これを続けていくと、お客さんの年齢層の変化などに気づいて、その対策もすぐにできます。
 
市井  全社員IP創出ということで取り組んでおられますが、働き方改革に対しての取り組みで(日本マイクロソフトのように週休3日制を実験的に取り組む会社もありますが)
特別にやられていることはありますか?
 
宮河  バンダイナムコエンターテインメントは、“バンナムフライデー”という制度を導入しています。幅広いエンターテインメント体験を通じて自己成長を促進し、新規事業創出の糧を得るために、月に1回、外や他分野のエンターテインメントに触れる機会を作っています。
 
月に1回の金曜日は会社に来なくても、出社扱いにしているんですが、私は毎日会社に行くタイプなので、月末の金曜日に会社へ行くと、「あれ?今日はお休みですか?」と思うくらいに人がいないときもあります。でも、それでよいと思っています。
 
働き方改革で言うと、月のうちに1日だけ金曜日を休みにすると、月曜日に有給を取れば4日間休みになりますよね。そうすると海外旅行や国内旅行へも安く行けたりもします。ですから、「月内のいつの金曜日でもいいので、出社扱いにするので休みなさい」と言っています。
 
働き方改革かどうかは分かりませんが、社員一丸となるために、社で運動会を開催しています。運動会には従業員の家族や子どもたちも来るので、一体感がすごく出ます。
 
また、月に1度「バンナム誕生会」も開いています。夕方から誕生月の社員が集まり、みんなで、お酒も飲みながらわいわい行います。そこでは私は出席した社員全員とコミュニケーションをとるようにしています。
 
それと、自由に働くことを欠かさないことです。時間のことばかり気にして残業時間を超えないようにする強迫観念にとらわれがちですが、残業させないことや休日をきちんと取らせるだけではなく、会社での仕事をエンジョイするためにはどうしたらいいのかを考えることも働き方改革だと思います。
 

 
市井  なるほど。いい取り組みですね。では次の質問に移ります。
 
IPを創出・展開する中で、例えばアニメではなく実写の強みがあるとすれば、どのような要素になるとお考えでしょうか?
 
宮河  これは実践しているので間違えなく言えますが、実写、アニメ、2.5次元、どれが偉いということは全くありません。1つのIPをアニメ化したり実写化したり、舞台化することでそれぞれ違ったファンの特性が出ます。アニメでは描き切れないことが2.5次元ではできますし、実写でもできます。実写では描き切れないことがアニメではできます。
 
アニメの制作会社はアニメのことしか考えない、音楽の会社は音楽・ライブのことだけしか考えないということではなくて、多様性のある時代に1つのIPでどれだけ展開していくかがすごく重要なことだと思います。
 
これは舞台・実写に向いてないのではないか、アニメには向いてないのではないかとは考えずにやっていったほうがいいと思っています。実際ガンダムって舞台に向いてないと思っていましたが『機動戦士ガンダム00』を舞台でやった時に、モビルスーツの見せ方ですごい発明があって。舞台初日まで全く教えてもらっていなかったので、初めて見たときはびっくりしました。モビルスーツをどう表現するかを、うちの現場と舞台の人たちが話し合っていました。すごく面白かったです。
 
新しいことにチャレンジすることで、さらに新しいことが生まれていくのでいろいろなことをしたほうがいいと思います。
 
市井  ホームページを見ると、組織図はIPクリエイションの主幹がサンライズとなっていました。アニメ制作会社ではなくIPクリエイションを全面に出していると思いますが、働いている皆さんのマインドは変わりましたか?
 
宮河  IPクリエイションを作ったと同時に「01(ゼロイチ)の会社=0からを1目指す会社」という意味の標語を作りました。0から1と1から100を作る脳は違うので、3社だけは0→1に徹したかったのです。
 
バンダイナムコピクチャーズは原作もやっていますが、エクササイズです。原作1本をやると、原作とのつき合い方も分かります。すごく生意気なことを言わせてもらうと、私のライバルは実はアニメ会社ではなくて『週刊少年ジャンプ』だったんです。「01」をどう生み出して作っていくかが重要だったので、それをやるためにIPクリエイションという名前をつけて、同時に「01」を生み出す会社を標語につけたんです。それでビジョンがすごく分かりやすくなりました。「私たちの会社は0から1なんだね」と。
 
すごくありがたいことに私たちの会社の中にはゼロイチの会社もあれば、イチヒャクの会社もたくさんあります。私たちがゼロイチを作ったら仲間内でイチヒャクにしてくれます。
 
ゼロからイチにするのはアニメに限ったことではないので、アニメ制作会社という名前を止めましょうと言いました。小説でも舞台でも実写映画でもすべてに開放をしているのがゼロイチの会社だと思っています。基本はアニメですが、アニメを作るだけが目的ではなく、基本はゼロから生み出すという考え方に変えたんです。
 
市井  なるほど。分かりました。最後の質問になりますが、“人を核とする企業グループへのチャレンジ”とはどういう意味ですか?
 
宮河  これはカッコつけているわけではないですが、会社って結局“人”なんです。組織論を振りかざす方もいますが、組織でどうなるわけでもないし、最後は“人”です。社員がのびのび働けるようにして、「人が大切です」と絶えずトップがメッセージを出し続けることが大事です。
 

 
10年、20年先を真剣に考えているのは、今の40代の方たちです。だからそのもっと若い世代の方たちがのびのび仕事ができるように「人を大切にしましょう」と言っています。人を基準にするってそういうことだと思っています。会社にずっといなくてもいいと思っていますが、会社にいる人たちをどう幸せにしていくのかを考えてあげるのが経営者の役割だと思っています。
 
市井  今日は貴重なお話をありがとうございました。

 

>>〈前半〉VIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」講演より
バンダイナムコエンターテインメント 代表取締役社長 宮河 恭夫氏
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市井三衛、宮河恭夫

 
 

宮河恭夫 Yasuo MIYAKAWA

宮河恭夫 Yasuo MIYAKAWA
株式会社バンダイナムコエンターテインメント 代表取締役社長

  • 1981年株式会社バンダイ入社。
    1996年株式会社バンダイデジタルエンタテインメント取締役。
    2000年株式会社サンライズ入社。
    2014年同社代表取締役社長。
    2015株式会社バンダイナムコピクチャーズ代表取締役社長就任。
    2018年㈱バンダイナムコホールディングス非常勤取締役。
    2019年株式会社バンダイナムコエンターテインメント代表取締役社長に就任。
    一般社団法人ガンダムGLOBAL CHALLENGE代表理事も務める。
    主にサンライズ在籍時には、アニメーション作品と玩具やゲームなどの周辺マーチャンダイジング戦略を大きな特徴とした、ガンダムを始め「TIGER& BUNNY」「アイカツ!」「ラブライブ!」など商品・ライブの両立で作品の世界観を広げてきた。最先端技術×アニメ・匠×アニメなどもその一例。内閣府知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会、クールジャパン官民連携プラットフォームアドバイザーリーボードを歴任。

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