VIPO

インタビュー

2019.04.22


日本コンテンツ専門チャンネルのCEOが明かす アメリカにおける日本コンテンツの可能性
VIPOは2月に、Amazonプライムでアメリカ市場向けの日本コンテンツ専門有料チャンネル「J-Edge(ジェイ・エッジ)」を運営するGlocal Media社のCEO デニス ヤンさんとChannel Manager 中村 淳(あつみ)さんをスピーカーに迎え、セミナーを開催しました。セミナー後、お2人に、アメリカにおける日本コンテンツの需要や、その他海外向けの日本コンテンツ専用チャンネル活用の可能性についてさらにお伺いしました。

 
「海外動画配信サービスにおける『日本コンテンツ専用チャンネル』 活用セミナー ~A New Business Model to Export Japanese Content Worldwide〜」実施報告
 

【セミナー資料】
『Your gateway to the world “New Licensing Opportunities”』
ダウンロード PDF:1.29MB
(以下、敬称略)

転換を求められる日本のコンテンツ産業の対応

進化・拡大を続ける動画配信マーケットとチャンネルの多様化

マーケットの求めに応じていく――日本はブルーオーシャン?
 
VIPO専務理事 事務局長 市井三衛(以下、市井)  現在アメリカ市場において、日本のコンテンツを専門で放映しているチャンネルは数局のみという状況だそうですが、チャンネルは国ごとに細分化される傾向にあるのですか?
 
Glocal Media社 CEO デニス・ヤン(以下、デニス)  特にそういうことはありませんね。1つの国に対してさまざまなチャンネルがありますが、必ずしもその国ごとにコンテンツを分けることはありません。
 
例えば、当社のSVODチャンネル『The Best of British』のコンテンツは、イギリス、アイルランド、スコットランド、カナダ、オーストラリアで制作されたものです。
 
市井  それはイギリス人向けのチャンネルですか?
 
デニス  いいえ、アメリカ人向けです。実際、イギリスのTVドラマ『ダウントン・アビー』 はイギリスよりアメリカでの方が人気があるんですよ。アメリカ人はイギリス系の番組が好きなんですよ。
 
市井  Glocal Media社では「アジア戦略」というのはあるのでしょうか? 例えば御社の中で「アジアマーケット戦略」のようなものがあり、その中でも今は「日本のコンテンツ専用チャンネル」に注力している、というような戦略を取られているようにも見えます。
 
デニス  現在当社はアジアチャンネルを5ヶ国で17チャンネル運営しており、それぞれのターゲットに合わせてさまざまなコンテンツを提供しています。この図はアメリカにおいての米国在住外国人向けのチャンネル数を表したもので、米国在住の日本人の人口に対してチャンネル数が圧倒的に少ないです。
 
日本に関して現時点では、コンテンツサプライヤーとして、とても魅力を感じています。オーディエンス(視聴者)としてよりもです。
 
ですから私たちは、国ごとにチャンネルをもったり、アジアに関して特別な戦略を持っているというよりは、マーケットが望んでいるものを提供しようとしているにすぎないのです。先ほど申し上げたように国ごとにコンテンツを分けているわけでもありません。
 
それに、コンテンツの供給先という意味ではアジアはとても魅力的ではありますが、私たちのカスタマー国としてはアメリカとカナダがメインであり、アジアを中心に考えているわけではありません。ですから5つの言語があるわけで、そのチャンネルのターゲット視聴者がその言語の国にいるわけではありません。

 
 

どんな日本のコンテンツが求められているのか?
 
市井  日本の番組が求められていることはわかりました。先ほどの資料からすると、アメリカ在住の日本人の数と比較するとまだチャンネルが1つしかないということはチャンスですね。
 
デニス  アメリカ在住の日本人が32万9000人いるのに対し、在米イタリア人は約35万人で6チャンネル、在米ブラジル人は32万人で7チャンネルですよ。日本チャンネルの需要が高いのは明らかです。
 
各国の言語(母国語)とローカルランゲージ(現地語)がありますから、在米日本人に母国語である日本語でサプライするということと、それにサブタイトルをつけて日本番組好きのアメリカ人に対してサプライすること、この2つの領域があると考え、今はそこを狙っています。
 
日本語とローカルランゲージ(現地語)では、もちろんパイが断然大きいローカルランゲージの方を狙っています。
 
市井  母国語とローカルランゲージ(現地語)では、好まれるコンテンツが違うのではないですか?
 
デニス  確かにそうですね。そこで、日本人のためのリニアチャンネル*(間もなく開始予定)とアメリカ人のためのSVODチャンネル両方運営する私たちが、まだアメリカに進出していない日本のコンテンツホルダーの方々にユニークな解決策を提供できるわけです。SVODチャンネルの「J-Edge」で配信しているホラー作品は全て英語字幕をつけていますが、例えばその作品をリニアチャンネル上で放送することもできるのです。
 
ただ、日本人はアメリカ人と比べるとホラーにそこまで興味があるようではないので、リニアチャンネルではプライムタイム以外の時間に流すなど、時間を選んで放送することもできます。このように複数の方法でコンテンツを配信・放送できるということが、グローカルの強みです。
*リニアチャンネル:(24時間・毎日放送しているテレビのこと。番組は全てスケジュールされている。)
 
市井  日本人向けには日本で人気のある番組が当然ながら好まれるでしょう、ということですね。
 
デニス  はい、そうですね。アメリカ在住の日本人は、日本でどういうものが流行っているか、どういう俳優やタレントが今人気なのか、そういったことを外国にいながらでもフォローしたいので、日本で人気がある番組を視聴したいと思っています。

反対に、ローカルランゲージ(この場合は英語)の番組の主なターゲットは基本的にアーリーアダプター(トレンドに敏感な層)です。日本文化の先端に興味を持っている方たちを相手にするので、必ずしも日本人が好む番組と同じとは限りません。アメリカ人のアーリーアダプターの方には、ラーメン特集とかお寺巡りなどの番組が好まれていますね。
 
市井  ジャンルだとか国による差は少ないのではないでしょうか。つまり、よいドラマであれば好まれると。よいドラマの定義がすごく難しいとは思うのですが。
 
ドラマではないですが、近藤麻理恵さんのNetflixのプログラム『こんまりメソッド』はすごくブームになったみたいですね。しかし日本にいると「ブームだ!ブームだ!」と日本人が騒いでいるのか、本当にアメリカでブームなのかいまひとつわからないです。
 
Glocal Media Channel Manager 中村 淳氏(以下、中村)   実は本当に「『こんまりメソッド』を観た」と言っている方はすごく多いんですよ。日本でだけで盛り上がっているという感じではなく、実際にアメリカでもデニスも観たし、本を買った従業員もいました。

 
 

日本とのパートナーシップにおける課題
 
市井  パートナーシップに関しては2つあって、作品がたくさんある場合はレベニューシェア(Revenue share:事業収益を分配すること。提携手段のひとつ)とか、そうではない場合はライセンス契約というのが最も一般的ということですね。
 
デニス  そうです。ミニマムギャランティを出すかどうかはコンテンツ次第ですね。
 
日本は権利処理(クリアランス)に時間がかかる点が問題ですが、良くはなってきています。問題点はその権利処理に時間がかかるという点ではなく、権利が取れる場所が限られているということです。ここしかない、あそこでないという風になると、正直とてもやりづらくなってしまいます。
 
そういう意味ではドキュメンタリーはやりやすいですね。フードショーやバラエティでも、あまり有名な方が出ていないものは、クリアランスが早く、権利の制限もないためプライオリティを高くしています。

 
 

今後の配信サービスの成長性をどのように考えているか?
 
デニス  少なくとも米国では、Disney+もそうですが、次々と新たなメジャーなスタジオが参入しようとしているので、これからの成長性は大変大きいと思います。Amazonのような大きなところで、チャンネルや番組を配信することができますから、カスタマーにとっても、私たちにとってもGood Newsですが、Amazonが大きくなることはNetflixといった競合他社にとっては脅威でしょうね。DirecTVも競争相手になると思います。ただ、ディズニーがVODに入ること自体はVODが広まるという意味ではプラスになりますね。
 
いずれにしてもコンテンツオーナーにとって、Good Newsであることは間違いないと思います。

 
 

一般的な北米ユーザーの特徴と変化
 
市井  一般的に、北米ユーザーの特徴と変化、例えば、層、年齢、地域、男女差などはありますか?
 
デニス   「コードカッティング」**が進んでいますね。配信スタイルとしては、ケーブルテレビといった昔ながらのスタイルではなく、携帯で見るといったものが一般的に広がっていっています。そこがメインのターゲットになってくるので、OTT(Over The Top)の権利をクリアにしなければならないんです。
**ケーブルテレビの契約を解除し、インターネット経由の動画視聴を選択するという消費者の動向
 
そこはすごく重要なポイントですね。アメリカの場合はデバイスサイドですね。見るデバイスに対して権利をクリアランスすればいいですが、日本の場合はどちらかというとデリバリーするテクノロジーによって、例えばBS、CS、地上波などで分かれていくので、ものすごくクリアしにくくなりますね。そのテクノロジーが現れれば現れるほど、また権利処理をしなければ……、となってくるので。
 
その点、アメリカは全く問題ありません。まるで逆です。テクノロジーの変化も非常に早いですし……。米国ではどのように権利がクリアされるかに関して、FCC(米国 連邦通信委員会)が規制することはありません。
 
市井  注目しているテクノロジーはどんなものがありますか?
 
デニス   車の自動運転がこれから流行っていき、車内でやることがなくなると、番組を見たりビデオを観たりするはずなので、そうなった際のことは今から考え始めています。(参考:「NABSHOW」)
 
市井  その場合、僕のイメージでは車は長い時間乗るものという感覚があるので、現在OTT(配信)では短い動画が求められていますが、それが変わってくるのではないでしょうか?
 
デニス   まあそれはどのくらいの通勤時間かによるので、必ずしもそうはならないかもしれないですね。まだ予想ができないため大変興味のある分野です。
 
市井  それは何年ぐらい先の話でしょうか?
 
デニス   すぐにでもそうなり得ると思います。自家用車ではなくともUberのようなものに乗っている時に、スクリーンを見ながら移動するらしいですから。

 
 

韓国との違い
 
デニス   韓国からはドラマなどさまざまな番組がアメリカにきて広まっていますが、日本文化は随分前からアメリカで受け入られています。そのため、韓国のドラマや他の番組がアメリカで受け入れられたように、またはそれ以上にアメリカで受け入れられるのではないかと思っています。
 
市井  それはなぜですか。
 
デニス   韓国は90年代から20〜30年の間にアメリカに来て、わりと馴染み始めたのですが、食文化、ファッションをはじめとした日本文化はアメリカにおいてもっと長いヒストリーがあるので、日本のコンテンツに関しても、広がる可能性は高いのではないかと。
 

 
市井  東京と京都がやはり来日外国人の方のベストスポットになっている点も、そういうことなのではないかということですね。まあ日本人はロサンゼルスが好きですよね(笑)。
 
デニス   東京・京都は「行きたい旅行先」としていつもNo.1ですよ。
 
市井  日本のポテンシャルは大きいけれど、アメリカのマーケットにとっては、権利処理が複雑であるため、マーケットで広がる上で障害になっているということですね。
 
韓国はクリアランス的には問題ないのですか?
 
デニス   日本だと監督から俳優さんや事務所とか、大勢の方に確認しなければならないですが、韓国の場合、日本と比べるとより少ないステップで、より簡単に権利がクリアできます。
 
市井  そうですか。それなら早いですね。配信会社のような新しい形態はそういう意味では楽になってきていますね。配信会社との取引だとその制作会社がライセンスを持っているので早いということですね。

 
 

日本とのビジネスへの期待
 
市井   日本のコンテンツホルダーの方々は国内マーケットに満足してしまって、まだまだ海外に出たがらない傾向があると思います。そのような状況に対してどのように思われますか?
 
デニス   日本には、魅力的なコンテンツがたくさんあると思うので、とてももったいないと思います。魅力的なコンテンツさえあれば、ローカライズなどさまざまな業務は私たちで対応することができます。ですからどんどんコンテンツをご提供ください。
 
市井  そういう意味では2月18日から始まった「コンテンツグローバル需要創出等促進事業費補助金(J-LOD)」も使えるということですね。Glocal Media社に配信をしてもらう時にローカライゼーションをしたいということになれば、彼らからローカルトランスレーター、適切な翻訳会社の紹介もしていただけるということです。
 
日本のコンテンツホルダーの方々には、ぜひ「J-LOD」を活用していただいて、日本のコンテンツをアメリカで広めて欲しいですね。
 
市井  今後取り組んでいくプロジェクトはありますか?
 
デニス   今大きな日本のチャンネルをローンチすることを計画中です。
 
中村  今日のプレゼンテーションでもご紹介しましたが、今年第2四半期に2つの日本専門チャンネルをリリースします。5月末にプレスリリースを予定しています。
 
市井  それは楽しみですね。日本のドラマなのかバラエティ番組チャンネルなのか? 日本の番組をアメリカに住んでいる方々にもっと見ていただきたいですね。
本日はありがとうございました。
 

 
 

 
 
 

デニス ヤン Dennis Young

デニス ヤン Dennis Young
CEO, Glocal Media

  • 業界大手のメディアと電気通信のシステム構築において、25年の実践経験を積んだエキスパート。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアで10以上の有料チャンネルを所有・運営するGlocal Mediaの創業者でありCEO。Glocal設立前には、IT系スタートアップに多数関わり、40か国以上で視聴されるミュージックビデオチャンネルを共同創業者として立ち上げた。
    DIRECTV USの創業時の従業員の一人であり、DIRECTV JAPANの創設と発展においてはエグゼクティブとして貢献。
    またヒューズエレクトロニクスにおいて、アジアサット、Apstar、Measat、パラパ、タイコムといったアジアにおける衛星の設計と構築に関わる。
    カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)において経営管理学修士号を取得、
    南カリフォルニア大学(USC)において電気工学の理学修士号を取得。

中村 淳 Atsumi NAKAMURA

中村 淳 Atsumi NAKAMURA
Channel Manager, Glocal Media

  • Glocal Media日本語チャンネルのチャンネルマネージャー。現職ではJ-EdgeのSVODチャンネルにおいて、日本のホラーおよびスリラーチャンネルの総括マネジメントを担当。英語圏の市場を対象に、米国未公開の作品を英語字幕つきで提供するJ-Edgeにおいて、番組の買付とデジタルマーケティング、および字幕制作のマネジメントを行う。
    J-Edgeに加え、米国向けに他2つの日本語チャンネルも担当。日本の大手放送局や、米国の最大手有料チャンネルと共に、米国在住の日本人をターゲットとした番組編成とマーケティングを行っている。現在、2019年半ば予定でおよそ20年ぶりに米国に新しく開設される日本語チャンネルのローンチに向けて準備中。
    福井県出身。サンディエゴ州立大学において観光マネジメント学の学位を取得後、観光業界で顧客対応を通してカスタマーコミュニケーションにおける知見と経験を積んだ。2017年よりGlocalに在籍。


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