韓国コンテンツ振興院 日本事務所 所長 金泳徳氏インタビュー(後篇)

韓国コンテンツ振興院 (KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA) 日本事務所 金泳徳所長インタビュー

韓国コンテンツ振興院(KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA)
金泳徳所長

INTERVIEW

韓国コンテンツ振興院 (KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA) 日本事務所 金泳徳所長インタビュー2010年における韓国音楽の市場開拓について概況を教えて下さい。

中国、台湾、東南アジアは海賊版が多く出回っておりますが、日本は違法流通も殆ど少なくCD等の売り上げも期待できるんですね。音楽が売れるとアーティストのCMや写真集など二次ビジネスで展開できるメリットも大きいです。デジタル音源の配信市場も大きくなっています。
たしかに、韓国の内需が厳しいことから海外市場を視野に入れていること、YouTubeや韓国ドラマで日本の若年層もK-POPコンテンツに慣れ親しんだこと、BOAや東方神起などによるK-POPの受け入れ土壌ができたこと、日本の音楽市場の活性化を図りたい日本企業の利点が一致したことなどが今のK-POPビジネスにつながったかと思います。

その中でも市場開拓の一番の要因を挙げるとすれば何ですか?

まずは、内需の厳しさ故の韓国文化コンテンツのグローバリゼーションを企業が積極的にとらえ、海外市場開拓に取り組んだことでしょう。とくにキー企業にSMエンタテインメントがあるんですが、日本とのビジネス経験も豊富ですし市場もよく知っているんですね。「Boa」や「東方神起」のときは日本に長期滞在しながら積極的に日本語を学んだりプロモーションをやりました。そのような現地化戦略の徹底さが彼らを成功に導いたといえるでしょうね。しかし、いまはK-POPアーティストやトレンディーに関する情報がネットなどで刻々日本に伝わっていますし、韓国語を知っている人も多くなっているという状況です。それで韓国でヒットした歌をそのまま出したり韓国語の音盤が直接輸入したりしているんですが、結構売れているんですね。つまり長期滞在やJ-POPじゃなくても日韓を行き来しながら活動できるという以前とは違う環境もできてますね。
しかし、K-POPブームが冬のソナタの時と同じようにここまでブレイクするとは思いませんでした。いくらコンサートやライブ、音盤などプロモーションをかけてもやはり一番の要因はファンが来てくれたり、買ってくれないとブームになりませんので、K-POPを楽しんで頂いているファンのお陰だと思います。

文化コンテンツ分野での人材育成についての取り組みをお聞かせ下さい。

放送、アニメ、ゲーム、映画などのコンテンツに関して高校や大学レベルでたくさん学校が開校しています。ゲームでいうと、ゲーム専門の高校が6、大学が25、短期大学30、大学院7が運営されております。あと、最近の例としては、KOCCA主催により、2010年4月より「ドラマプロデューサーズスクール」をソウル 麻浦区の韓国コンテンツ振興院にて開校しました。開講した理由は韓国テレビドラマ制作の現場ではまだ日本と違ってプロデューサーとディレクターが明確にわかれていないんですね。で、制作後のプロモーションを考えずに作ったり、予算を大幅オーバーしてビジネスのことをあんまり考えずに作ったりという弊害も生まれる場合もあります。そういった弊害を解消し、事前の企画段階での心構え、制作プロセスの効率化、放送後のビジネス展開を図るためにすでにドラマ制作を経験している人向けに企画能力、ファイナンス、業務の効率化やマルチビジネス展開などを教えております。20人規模で放送局、ドラマ制作プロダクションのプロの方に10カ月間学んでもらいます。また、予備人材育成についても同じく2010年4月より20代の大学在学生や卒業者も含め若手人材用に開校しています。
また、2002年1月からは「ディレクターズスクール」を中小の制作会社を中心に40人程度向けに開校しています。最先端の制作技術、編集機材などを使って、予備制作やマーケッティング人材を育てて人材が不足している番組プロダクションにつかせてます。その優秀な人材を送り続けることによって制作プロダクションの制作クォリティーアップに貢献しているし、海外での販路開拓にも取り組んでます。
その他に放送、アニメー、キャラクター、デジタルコンテンツ、ゲーム、音楽など様々なコンテンツ産業においてコンテンツ創作・企画、制作、流通レベルまで必要であるならば、随時課程やカリを設けてタイムリーに人材を養成し市場に送り込んでおります。
特に今年は韓国を「3Dコンテンツ強国」にするため、KOCCA内に立体映像支援チームを組織し、今年はStereographer, グラフィック、3D変換などで 1250名を育成する計画です。

ドラマのフォーマット販売についての韓国での現状は?

韓国コンテンツ振興院は最近になってドラマやバラエティのフォーマット販売について支援を始めました。フォーマットビジネスの可能性を見て、フォーマット開発やバイブル作りを支援してます。
ドラマのパッケージ販売は欧米の市場ではなかなか受け入れ難いものがありますね。日本もそうですが、やはりフォーマット販売は欧米市場への進出を図るに当たって大きな商品になれればいいなと期待をしています。

コンテンツ業界の雇用創出についてはいかがでしょうか?

韓国政府では、コンテンツに関して公的機関での雇用を今年は3200人に増やす計画を立てています。近年の雇用情勢は深刻で、コンテンツ業界だけでなくすべての業界で雇用の創出が叫ばれています。
韓国コンテンツ振興院も企画、制作、流通、インフラ整備で年間約1,700億ウォン(約122億円)の事業支援を行いますが、それを使った際に見合う雇用が見込まれます。さらにその事業支援によって韓国コンテンツ企業が大きくなれれば、より多くのジョブが生まれるかと思います。

地方においての文化コンテンツ事業についての動きを教えて下さい。

韓国で特徴的なのは地方主導のコンテンツ振興院が多く運営されていることです。ほとんどの財源は地方自治体で賄っていますが、Asia Content&Entertainment Industry Fair(ACE FAIR)が開催されている光州広域市での文化中心都市造成事業のように、光州のコンテンツ振興院も関わり、国策によりコンテンツ産業を活性化するような事例もあります。
釜山や済州には映画祭がありますが、国の予算を投入し、ソウル一極集中を避け、地方活性化ををするため、地方の文化インフラの整備を図り、地方に文化コンテンツ関連の事業で特性を作ろうとしています。コンテンツに関しても地方に強固な産業基盤ができれば、国全体の産業基盤も安定につながるでしょう。国が地方の大学と連携し、コンテンツ関連人材を育成する動きも活発化しています。
1990年代IMFの国の危機により、韓国全土の危機感、また、立ち上がるため地方経済の活性化の必要性も認識されました。2000年前後に韓流ブームがあり、海外でも韓国の文化コンテンツが受け入れられるという自信、それに国の政策も後押しし、韓国の文化コンテンツが産業として成り立つのだという意志を地方も持ったことが、それぞれの地域での文化コンテンツのビジネススキームの構築につながったかとも思います。
首都機能も一極集中を避け、大韓民国中部の忠清南道燕岐郡および公州市を中心に建設される行政中心複合都市世宗特別自治市に政府の一部の機能を2012年から2014年にかけて移転する計画があり、韓国コンテンツ振興院が所属する文化体育観光部を含め、教育科学技術部、知識経済部などの移転が決まっています。

韓国コンテンツ振興院 (KOREA CREATIVE CONTENT AGENCY:KOCCA) 日本事務所 金泳徳所長インタビュー2012年に韓国コンテンツ振興院が最も注力する活動について教えて下さい。

キラーコンテンツの発掘するプロジェクトにて作られたコンテンツをグローバル市場、アメリカ、中国市場に戦略的に広めていくことです。現在「大韓民国新話創造プロジェクト」を立ち上げ、キラーコンテンツの発掘に向けて努力しています。このプロジェクトは斬新で興味深いストーリーを発掘し、これをドラマ・映画・アニメ・キャラクター・ゲームなど文化商品に進化させよというものです。強調しているのは今までになかった新しいストーリーを映像化し、韓国版「ハリーポッター」として、経済的波及効果がある作品にすることです。
「大韓民国新話創造プロジェクト」には国家予算を125億ウォン(約10億円)を超える資金投入し、韓国コンテンツ振興院がコンテンツ企画から製作、流通まで担当し、バックアップするシステムを構築しております。
2010年10月に第2回目のストーリー公募があり、昨年末に11作品の受賞作が発表されました。大賞には1.5億ウォン(約1,200万円)、優秀賞にはそれぞれ3,000万ウォン(約2,000万円)が与えられますが、大賞には1作品、優秀賞に10作品が選ばれました。
ストーリーをブラッシュアップする過程でのバックアップに関しては、希望すれば、受賞者は韓国コンテンツ振興院が運営する「ストーリー創作センター」に入所し、たとえば、法医学、裁判などストーリーを書くために必要な背景及び専門知識なども学びながら執筆活動をしています。
第一回目で選ばれた14作品の中から7作品は2010年の釜山国際映画祭にてピッチも済ませ、投資家にも好評だったようです。授賞作については制作されれば1編最大20億ウォン(約1億6,000万円)まで支援されます。
ストーリーを公募して選べば終わりということではなく、完成し、グローバル市場で通用することまでを想定していますので、海外進出時の契約上の不利益を被らないように国際弁護士の法律的、プロモーションのサポートも視野に入れています。
韓国の優秀なストーリーが日本の投資家や製作者にも早くピッチできればと思っております。

アメリカと中国が2大市場という点について

「大韓民国新話創造プロジェクト」においてもアメリカ市場を意識した部分が多々あります。例えば、脚本を選定、ブラッシュアップするにあたり、アメリカ市場で受けた作品を作った人や、アメリカで活躍された人にも関わってもらっています。誰よりもアメリカ市場を理解している方にアドバイスを求めるためです。
アメリカは世界最大のエンタテインメント市場であり、そこでの成功は大きな意味があります。ナンバーワンエンターテインメント市場で認められることは、韓国コンテンツの大きな自信につながりますし、世界に認められたことにもなります。アメリカで成功事例を作ることは、韓国コンテンツ、コンテンツ産業、波及産業にとって市場拡大のために必須の課題です。
中国市場は、メディア、海外コンテンツについて制度的規制があり、通商の手法に懸念もありますが、市場の勢いやまだ成長の潜在力が非常に大きい上、韓国の隣人でもありますので、魅力的な市場です。
なにか日本のよさと組み合わせて米中市場に一緒に進出できたらいいなって思っております。

日本においてはどのような点を強化していきますか?

可能であれば、K-POPに対する支援を強化していきたいです。 日韓の音楽業界とのネットワークを強化するような事業や日本の音楽ビジネスへの理解を深める事業とか、コンサートなどで多様なK-POPに触れて頂くイベントを増やすこととかができればいいなって思っております。
また継続的なセミナーの実施、コンテンツ業界のネットワーキングを安定、強化させていくことにも注力していきたいと思っております。
個人的には、韓国のよさ、日本のよさを組み合わせ、協力して両国の文化コンテンツ産業を盛り上げていくようなことができればいいなと思っています。アジアコンテンツのよさを日韓で力を合わせて世界に広めていく、産業として世界市場を相手に戦う、アジアのプレゼンスを高めていくという仕組み、グローバルな企画について、互いに考えていきたいですね。

VIPOについて期待することをお聞かせ下さい。

VIPOが掲げるミッションの1つにコンテンツの海外市場の開拓というのもありますので、協力し合ってアジアのコンテンツ産業を活性化するためにWIN-WIN関係を構築していきたいです。
VIPOとはよきライバルでもありパートーナでもありますので、お互いに刺激し合いながら両国のコンテンツ産業をレベルアップしていけたらと思っております。
また、アジアの仲間として、日本政府も積極的にVIPOのようなコンテンツ振興組織に財政面の支援をして、コンテンツ振興のための事業を長期的視点をもって実施できるような体制づくりをしてほしいと思います。日本の経済規模からすればコンテンツ振興にかける予算規模がもう少し大きくてもいいはずです。コンテンツ事業を通じての日韓の協力関係が深まることを期待します。

(取材・文 広報室 小林真名実)


日本事務所 金泳徳所長インタビュー(前篇)
日本事務所 金泳徳所長インタビュー(中篇)

※インタビューは2010年12月に実施