堀義貴氏インタビュー

堀義貴氏インタビュー

株式会社ホリプロ 代表取締役社長 COO

和田アキ子、優香、深田恭子、妻夫木聡、綾瀬はるか、さまぁ~ず。毎日のようにテレビに出演する人気タレントが所属している大手芸能プロダクション、ホリプロ。「文化をプロモートする人間産業」を企業理念に掲げるホリプロの代表取締役社長、堀義貴さんに”芸能プロダクションの仕事””エンターテインメントの未来”などについて話を聞いた。「いちばん大切なのは、ちゃんと笑って、ちゃんと泣ける人間であること」という言葉は、エンターテインメントの世界で仕事をしたい、と思ってる人にとって、とても大事なことを示していると思う。

プロダクションの仕事には、人の魅力を見極める力が必要だと思うのですが、“魅力”とはそもそも、どういうものなんでしょうか?

「難しい質問ですね。まず、どんな人にも魅力はあると思います。ただ、テレビ、映画、舞台などで自分の魅力を伝えられる人というのは、それほどいないんですよね。こればかりは、“教わってできるようになる”というものではないんです。演劇部に入っていても、小さい頃からピアノを習っていても、たくさんの人を惹きつける魅力は身に付かない」

タレントを育てるというのは、本当に難しい仕事なんですね。

「もちろんです。ただ、行動を起さないと何もはじまらない。歌、バラエティ、舞台。いろんなフィールドにトライしながら、そのタレントに合った方法を探るしかないですね。まあ、みなさんが想像しているよりは割りの悪い仕事ですよ」

マネージャーの仕事は、確かに大変そうですよね。

堀義貴氏インタビュー「そうですね。タレント本人にいくら才能の下地があったとしても、それをうまく引き出して、プロモートしていくマネージャーがいなければ、絶対に成功しませんから。制作者であると同時に営業マンでもある。一人前のマネージャーになるのは最低でも3年はかかりますね。ホリプロにはたくさんのマネージャーがいますが、私がいつも彼らに言ってるのは、“とにかくしゃべらなければタレントは売り込めない”ということなんです。“視聴率20%のドラマに出演した”とか“映画賞を獲得した”なんていう説明をしても、相手の心を動かすことはできません。大事なのは上手く説明することではなくて、とにかく熱意を持って、たくさんしゃべること。そのためには、担当するタレントにほれ込んでいなくてはいけません。“この子は絶対、スターになる”。まずはマネージャー自身がそう思っていなければ、売り込む相手を説得するのは無理です」

まずは自分が思い込む。

「そう。“このタレントをたくさんの人に知ってもらいたい”という気持ちが大事なんですよね。逆にいちばん良くないのは、自分の目で見たこと、肌で感じたことに自信を持てないこと。”流行”はマーケッターが作るものではなくて、個人の“これはおもしろい!”という感覚からスタートすると思うんですよ。テレビや雑誌の情報、あるいはシンクタンクの“流行予報”をもとにして、“次はこれが流行りますよ”なんて言ってる人には、クリエイティブな仕事はできません」

なるほど。

「どんなことでもそうですが、分析をはじめた瞬間におもしろくなくなっちゃう。この仕事に向いてる人っていうのは、“おもしろがれる人”なんです。たとえば花を見て、キレイだなと思う。たいていの人はそこで終わりですよね。でも、おもしろがれる人というのは、“この花で首飾りを作ったら、楽しいだろうな”とか “自分の家でこの花を育てるには、どうしたらいいだろう?”なんて考え始める。そういう感性ってじつは子供のほうが鋭くて、大人になるにしたがって失われがちなんです。3歳くらいまでの子供って、泣きたいときに泣くし、笑いたいときに笑うでしょ。あれは人間として正しい行為だと思うんですよね。ホリプロの社員を募集するときにいつも思うのは、“ちゃんと笑えて、ちゃんと泣ける人に来てほしい”ということなんです」

堀義貴氏インタビュー感情が豊かでないと、人の心を動かすことはできない。

「最近は自分の感じたことを素直に表現できない人が増えているような気がします。嬉しいのか悲しいのか、何を考えてるかわからない。これではコミュニケーションが成立しませんよね。何かに心を動かされ、“これをたくさんの人に伝えたい、教えてあげたい”と思う。それがエンターテインメントの基本ですから。また、ひとつのことにこだわり続ける、というのも大事な資質。たとえば”凧をあげる”という遊びがあります。子供のときは誰でもやりますが、ある程度の年齢になれば、やめちゃいますよね。“あんなのは子供の遊びだ”ということで。でも、なかには凧あげが好きで好きでしょうがなくて、ずっと続ける人がいる。より高くあげたい、もっと大きな凧をあげたい…それをきわめていくと、必ずエンターテインメントにつながるんです。子供だましのようなことでも、周りの人にどう思われようと、好きなものは好き。そういう気持ちは必要ですよね」

先ほど話していただいた、タレントさんとマネージャーの関係にもつながりますよね。「このタレントが大好き」という気持ちを持っていないといけない。

「そうですね。こんなにかわいい子がいる、すごい歌を歌う人がいる。このことをどうしても伝えたくてしょうがない。じゃあ、どうやって伝えるのがいいんだろう…それが我々の仕事なんです。”どれくらい儲かるだろう”なんていうのは、その後の話ですから」

インターネットの急速な普及によって、メディアはどんどん多様化しています。これからの時代、エンターテインメントはどう変化してくると思いますか?

「メールの時代になってから、エンターテインメントは“参加型”になってきています。ただこちらから情報を提供するだけではなく、お客さんに“自分も参加してる ”という気持ちになってもらう。そういう傾向はこれからもどんどん進んでいくでしょうね。いちばん分かりやすい例は、サッカー。単にサッカーを観戦するのではなく、“自分もいっしょに戦ってる”くらいの気持ちだと思うんですよ。そういう時代に我々はどんなものを提供すればいいのか? それはとても難しい問題です」

堀義貴氏インタビューエンターテインメントのカタチが変われば、プロダクションの役割も変わってくるでしょうね。

「そうかもしれません。どんな業界でも同じだと思いますが、いまは先が読めない時代です。もちろんエンターテインメントの世界でも環境は急速に変化している。ただ、“これだけは変わらない”というものもあると思うんです。たとえば、ラジオというメディアがありますよね。ラジオのおもしろさというのは、聴いている人が自由に想像できる、ということなんです。つまり、無限の世界が広がってるわけですよね」

もっともアナログでありながら、じつはいちばん可能性があるメディアかもしれない。

「ラジオの仕事をうまくやれる人というのは、おしゃべりだけでお客さんを楽しませることが出来る人。実際、ラジオをうまくやれる人っていうのは、映画や舞台にもしっかり対応できるんです。逆にどんなに芝居が上手くても、ラジオはダメっていう人もいる。こういう人は長い目で見たとき、不利なんですよね。また、ライブの魅力も変わらないと思います。歌、お笑い、芝居。生身の人間が目の前でパフォーマンスする、その迫力と感動というのは、やはり特別ですから」

そうですね。ホリプロとして今後、やってみたいことは?

「基本は音楽だと思ってます。もともとは歌手のプロダクションとしてスタートした会社なので。歌が上手い人は当然、声をしっかり出すことができます。ということは、舞台にもすぐに適応できる。自分で曲を書く人であれば、もっといいですよね。自分を表現する手段を持っているわけだし、どうすれば人に伝わるかということがわかっていますから」

堀義貴氏インタビュー近年はモデル、お笑いタレントの育成にも力を入れてますよね。

「“誰にでも愛されるアイドル”に関しては実績があるのですが、それ以外の分野もどんどんやっていこうということですね。お笑いのライブも定期的にやってますし、ハイブロウなファッションショーに出演するモデルもいます。“テレビに出て、スターになる”という方法だけではなく、もっとコアなところから発信していくことも必要だと思っているので。実際、テレビにはそんなに出てないにも関わらず、ライブのチケットはすぐに売り切れてしまうお笑いタレントもいるんですよ」

活動の幅がさらに広がっている。

「ホリプロは喜怒哀楽という人のすべての感情にかかわる仕事をする会社ですから。エンターテインメントの世界にあるすべてのジャンルにおいて、トップの地位を目指す。そんなユメを持っています。また、この業界でゆるぎない地位を占めることができれば、いろいろな分野でビジネスを展開できるはず。たとえば、アジア各国とのショービジネスでの提携。楽曲や映像ソフトを使用する権利をもとに展開する“版権ビジネス”にも力を入れたいと思っていますし。やらなくてはいけないことは、まだまだたくさんあります」

最後に堀さん自身、「これは本当に感動した」という体験を教えてください。

「子供のときに見た『ピーターパン』ですね。最後にピーターパンが客席に向かって飛んでくるのですが、あの場面をはじめて見たときは、本当に感動しました。『ピーターパン』はホリプロが最初に手がけた舞台で、今年で26年になります。当時は芸能プロダクションが自らブロードウェイのミュージカルを制作するなんてまったく考えられなかったし、社内にも反対があったようです。ところがいまでは、2世代、3世代に渡って楽しんでもらえている。それは本当に誇りに思いますね」


理論社「メディア業界ナビ」
編集長 高橋克三 katsuzo takahashi
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