株式会社スクウェア・エニックス 三宅有氏インタビュー(後篇)

株式会社スクウェア・エニックス 三宅有氏インタビュー

三宅有(みやけゆう)

 INTERVIEW

ネット展開で考慮すべき方向性とは?

考え方として方向性は2つあります。
ネットワークで売るという部分と、ネットワークで遊ぶという部分。
今まで店頭で買っていたゲームをネットワークでダウンロード購入するとか、ゲームの1アイテムに課金されたものを購入するとかいう、ゲームのディストリビューションの問題の観点です。そしてもう一つは、ネットワークで人とつながって遊んだり、家の中で外の世界とつながって遊んだりという遊びの部分の提供の仕方です。
2つの観点をわけて、いかにユーザーの手に入りやすく、遊びやすい形で、新しいゲームを提供できるかということを考えゆくべきだと思います。

こういう人といっしょに仕事をするとおもしろいというのがあればお聞かせ下さい。

最近の若い人たちと話していると、言葉はおかしいですが「やってやるぜ感」が薄いんです。
スクウェア・エニックスに入って、おもしろいゲームを作って、おれは名プロデューサーと呼ばれてメディアとかにバンバン出るんだ! という感じの人が前はたくさんいたんですよ。そういう気概を、心に秘めてしまうタイプが多くなったのかもしれませんが、だんだんと希薄な感じになっています。仕事としてやってる感じがするんです。
ものを作っている人たちにとって何が幸せかというと、儲けることだけではなく、たくさんの人に自分が作ったもので楽しんでもらう、ということだと思うんです。そのためにはどうしたらいいかを示していくのがプロデューサーなんです。そういう気持ちが若い人は希薄に感じます。自分がおもしろいと思ったものを作れればいいというようなひとりよがりな感じだし、会社でこういう部署にいるからこういう仕事してますというスタンスが見ていてつまらないですね。
そこは、会社が大きくなってしまった弊害かもしれないですね。面接を例にとると、昔はわざと”地雷”となるような人を残していました。ちょっと扱いを間違えると、周りを巻き込んで暴発してしまう人(笑)。これを社長に会わせるとどうかな、絶対に駄目だろうな、と思っても、気概を買われてそういう人が採用されたりしていましたが。それに、この10年、20年の教育で、勝ち負けを決めること自体が悪、みたいなところもあるじゃないですか。 勝ったら誰かが負ける、負けるからこそ勝とうとするというのに、負ける人を出さないような世の中の仕組みになりつつある。そういう傾向の影響も、大きいですよね。

ご自身は勝ち負けについてこだわる方ですか?

私は勝ち負けにはこだわりませんが、自分で決めたことができないというのはもの凄くいやで、悔しくてしょうがないです。
その悔しい思いをしないために、できる最大限のことを準備するんです。
スタッフみんなに目標を認知させ、それぞれの立場や思惑のある中、プロジェクトの目的や趣旨という点で共通認識を持ってもらいます。
以前はクリエーターがやりたいといったことをやるのがプロデューサーだ、会社を納得させてそれを通していくのがプロデューサーだと思っていました。つまり、スタッフのやりたいことが出来る環境を作るのが仕事だと思っていました。でも、それは間違いで、全体でどうしていくか、そのためにどういう風に最善を尽くしてもらうか、がプロジェクト成功の鍵になるんです。スタッフに最善を求める以上、私はジャッジのためにいつも考えていて、いつも準備していないといけない。実はいつも迷っていますが(笑)。自分自身、本当はこういう仕事は好きではないのかもしれないけど、仕事はきちんとしないといやなんです。

株式会社スクウェア・エニックス 三宅有氏インタビュースタッフの評価については何を基準にされていますか?

売れた売れなかったというのはわかりやすい評価の対象になるんですが、運の部分も大きいので、商品の内容自体も含めて、仕事をやってきた過程も評価に考慮します。成功と失敗についてはっきりといわないといけませんが、次の商品も同じスタッフで作らないといけないこともあるので、次につなげていくことを重視して対応します。
先ほども触れましたが、全体としてはおとなしいスタッフが多いですが、やれる人はやってくれます。今まで叩かれていないからそこそこの仕事をしているだけで、戦う環境を用意すれば結構戦ってくれるんです。 環境、方向性を整えたところに置いてあげて、実際できるかどうか、を判断します。  私たちと同じ土俵に置いてそれで駄目な人は駄目です。当然やってみて違ったという人はいます。
70人ぐらいの会社だった当時と比べてちがうのは、そこそこ利口でスキルも持っている人が入ってくるんですけど、結局は叩かれたあとにどうなるか、なんですね。

プロデューサー育成にあたってされていることは?

最近のマーケットの拡がりをしっかり捉えたゲームのプロデューサーって、なかなかいないと思います。
ゲームは今までハードが決まっていて、任天堂さんならファミコン(ファミリーコンピューター)やスーパーファミコン、ソニーさんならプレイステーションというのがあり、ソニーさん、任天堂さんが準備したビジネスの枠組みの中で仕事をするというのが主流でした。
売る場所も売り方も決まっていて、単純におもしろいものを作ればよかったんです。ゲームソフトとしての面白さだけで差別化できて、勝負できていました。ディレクターやクリエーターの色が全面にでて、数字に直結していました。
それが今の時代は、ハードも分散してきていますし、ハードそれぞれの特性もでてきていて趣が変わってきています。携帯ゲーム機、携帯電話、PCのウェブ上、オンライン上などさまざまなゲームのアウトプットの場所ができてきています。各々ビジネスの仕組み、スキームも違いますし、枠組みに乗るのではなく、自分たちでやらないといけないこと、システムを組まないといけないことが増えてるんです。昔だったらPSとかファミコンのフォーマットに乗ってしまえばいい、あとは面白さを最大限にすればいいというだけでしたが、ルールも違えばお客さんも違うという点で、何かおもしろいアイデアがあったとしても、この面白さをどこに置くか、どこに乗せるものを作って、どういう形でビジネスにするのというところから判断をして動かしていかなければなりません。それができる、そういうことを考えることができているプロデューサーはまだあまりいません。
ゲームのソフトとハードのことを考えつつ、最新の情報を持ちつつ、正確な判断をしてプロジェクトを立ち上げて、会社からお金を引き出して、スタッフを引っ張って、売れるものを作っていかないといけませんから、ものすごく難しいし、経験を積まないといけない。知識だけでは到底できるものではないですね。
そういうことをすべてできる人たちを育てて、強力なプロデューサー軍団ができれば当社も強くなるだろうなと希望を持っています。
若いスタッフにいろいろなハードや地域でものを作らせていますし、海外の開発会社と組ませたりということもしています。とにかく経験値をどんどん増やしてもらうようにしています。
でもやっぱり一番大事なのは、元となるおもしろいアイデアです。いいアイデアなしにそういったことだけやってもいい商品はできません。

アイデアを生み出すためには?

世の中をいろいろな方向から観ていないと、おもしろいアイデアはでないと思います。
「おもしろい」と一口には言っても、遊んで面白い、観たことないからおもしろい、などいろいろあります。世の中のおもしろいといわれるものを見る、自分でおもしろいものを探す、面白くないものを観たときこうすればおもしろくなるだろうな、といつも考えていることですね。

今後やってみたいことについて教えて下さい。

精鋭のプロデューサー軍団ができて、世界のどこでも当社のゲームを作れるようにすることです。世界で一番売れるゲームを作りたいですね。
ゲームプロデューサーを育てるという観点をもった会社はほとんどないと思うんです。今でも、ディレクターからあがってきたり、転職してきたりという風に、ゲームプロデューサーとしての叩き上げは少ない。そういう叩き上げの人材を増やしていきたいです。プロデューサーに向いている、向いていないはありますが、そこは実際に任せてみないとわかりません。向き不向きと併せてもう1つ必要なことは、”覚悟”を決めないといけない。
逆にこちらからは、「この道で生きていくんだ」と覚悟をつけさせる、向き不向きを見極めてあげると同時にそれもとても重要です。

株式会社スクウェア・エニックス 三宅有氏インタビュー御自身仕事の覚悟を決めたのはいつ頃ですか?

ソフトを取り扱う部門に移動した28歳のときですね。
物事のはじまりから終わりまでから見られる仕事がしたいと思って、プロデューサーならそれができると思ったんですが、結局担当した商品が全然売れなくて、覚悟を決めたつもりがこれは駄目だと思いました(笑)。
ちょうどその頃、ドラゴンクエストの制作チームの人が足りなくなってきて、自分は一プロデューサーではなくてプロデューサーをマネージメントするような立場になったわけです。ドラゴンクエストというブランドも併せてマネージメントする立場になったので、そこで仕事にはまったんですね。
だから若い人にも、自分が目指したものが駄目になったとしても、他の道を究められる余地は絶対にあると思います。

VIPOについて何か御意見ございましたらお願いします。

ネットの普及に伴い、著作権侵害がさらに頭の痛い問題となってきています。
ドラゴンクエストの音楽を担当して頂いているすぎやまこういち先生は、日本音楽著作権協会にも所属されており、著作権に関しての運動をずっとされているのですが、ゲームソフト業界も中古ソフトの問題や、不法にソフトをダウンロードできる環境、それを可能にするツールなどが増えてきて、確実に市場もダメージを被るようになってきました。
権利者の適性な利益が確保できるように、ゲームを含めたコンテンツの権利をしっかり守っていくようなことをやって頂きたいです。そうしないとゲーム会社もものを作れなくなってしまいます。既得権益を守っているように見られることもあるかもしれませんが、ものを作る上では正当な報酬が必要ですし、そこに夢がないと面白い人が集まってきません。イチローが何十億円も貰って、脚光を浴びるから野球選手になりたいという人も多いでしょうし、ゲーム大国として〝ゲームを作って大金持ち〝というようなジャパニーズドリームは、あって然りだと思うんですよ。

それでは、御自身の夢についてお聞かせ下さい。

僕自身は仕事を早くやめたい(笑)。それが夢です。
いっしょに仕事をしているプロデューサーが一人前になって、全員が世界で戦っているという構図が見たい。僕自身は隠居していて、「やってるな」という感じで自分の叩き上げたプロデューサー軍団の活躍を眺めているという……まあ、それは冗談ですが(笑)。
ただ、自分がどうこうしたいという欲はないんです。そうでないと、プロデューサーをまとめるというような仕事はできないのかもしれませんね。とはいえ、下からも上からもいつも、もっと仕事しろと怒られていますんで、もっと頑張ります。

ドラゴンクエストIXの攻略本がオリコン本ランキング(7月20日付け)で「1Q84」の6週連続1位を止めたということが話題になっていますね。

まず攻略本が一般書籍のカテゴリーに入っているのがおかしいんですけど(笑)、昔は情報が攻略本しかなかったのでもっと売れていたんです。昔からいつも攻略本は、一時的に1位になっていましたね。今はウェブを見れば、一般のユーザーや業者が攻略記事のコピーをアップしているというように、情報の入手経路が増えてしまっているので、攻略本の役割も変わってきている。もしかしたら、ドラゴンクエストを遊んでいる人たちは普段攻略方法を追っかけている層と違うのかもしれません。読みものというよりお土産に近い感覚で、ゲームをやって世界を旅して思い出をとどめておこうと購入しているんだと思います。よく映画に行ってパンフレットを買う感覚と同じでしょうか。

「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」について今回の特徴は?

出荷も350万本を超え順調にセールスを伸ばしています。今回のテーマは「みんなで遊べる、ずっと遊べる」です。
今回は”すれちがい通信”という機能に対応していて、プレイヤー同士が町中のどこかですれ違うと、知らないうちにプロフィールが交換されるんです。僕もやっていますが、電車に乗っていても、1駅ぐらいで3人ぐらいバババっと交換されたりする勢いなんですよ。
昔ドラゴンクエストをやってくれてた人が戻ってきてくれたり、以前よりも女性が遊んでくれたりと、いかに「IX」を遊んでいただいている方の密度が高いか、目に見えてわかりますね。
お子さんはゲームを買うとすごいやりこむと思うんですが、今回はやりこむための仕組み、仕掛けがたくさん入っていてやればやるほどおもしろい、やってもやってもまだこんなに遊べる、というゲームに仕上がっています。
また、ワイヤレス通信を使ったマルチプレイにも対応していて、自分ひとりだけではなくて、見知った人といっしょに同じ世界で冒険ができる楽しさもある。これまでの「ドラゴンクエスト体験」は、冒険を進めていったひとりひとりの思い出を、世間話とかで友達と共有するというものでしたが、今回は、まさに同じ冒険をみんなで共有できるんですね。
はっきりいってやりすぎました(笑)。詰め込みすぎてお得感いっぱいなソフトです。もちろん、そんなにゲームをみっちりやりたくない人でも十分遊べるように、プレイする上でのとっつきやすさは今までの「ドラゴンクエスト」と同じです。
基本は変わらないんですが、「今、ユーザーにとって何がいちばんおもしろいのか」という市場の動向を敏感に感じ取って変化していける器の広さが、実は「ドラゴンクエスト」のいちばんおもしろいところなんです。簡単にもできています。

(取材・文 広報室 小林真名実)


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