阿部秀司氏インタビュー

阿部秀司氏インタビュー

株式会社ロボット 代表取締役

1995年、映画制作1本目となった『Love Leter』から11年目となる2005年、ROBOTが今回描いたのは、昭和33年の世界。阿部さん自らが陣頭指揮をとった『Always 三丁目の夕日』は、まさに”ROBOTの代表作”といえるだろう。

阿部 秀司 氏 プロフィール

『ALWAYS 三丁目の夕日』エグゼクティブプロデューサー。広告代理店でコピーライター、CMプロデューサーをへて、株式会社ROBOTを設立。エグゼクティブプロデューサーとして企画から立ち上げた映画に『Juvenile』(00)、『Returner』(02)がある。

ディティールからすべてははじまる

決して大事件だったわけでもなく、ごく普通の日常の光景なのに、何故か思い出してしまう——誰にでもそんな“ふっと思い出す懐かしい風景”が心にあるのではないだろうか。阿部さんにとってそれは、昭和30年代の光景だった。
「昭和30年代は、ちょうど小中学生時代でした。その当時のことは、思い出として強烈に残っています。そしてそのなかでも“東京タワーの建設”はすごく覚えていて“もう一度実物を見たい”という気持ちがずっとありました」と阿部さん。そして当時の東京タワーに、阿部さんは『ALWAYS 三丁目の夕日』で再会を果たすこととなった…。
阿部さんの原風景と、昭和30年代を描きつづけている漫画『三丁目の夕日』のコラボレーションを企画したROBOT。メガホンをとったのは『ジュブナイル』『Returner』と、阿部さんと息のあったコンビを組んできた山崎貴監督。阿部さんが“1/1の冒険”と語る昭和33年が見事に再現された画はリアルで、そして自然である。「ディティールからすべてははじまる」という阿部さんの言葉が指し示すように、作品に映っていないような細かいところまで、完璧につくり上げたというセット。そこには当然CGやミニチュアによる視覚効果、VFXも多用しているが、決してそれはVFXでつくられた感じがしない。 “VFXを駆使した凝った画”などという言葉をよく耳にするが、本当の意味での”ホンモノ”とは“VFXをVFXと感じさせない”画ではないだろうか。まるでタイムマシンで当時に戻り、撮影してきたかのような自然な画。そんな画に私たちは心から落ち着き、作品の世界にすっと浸透していく。

現実のリアルと映画の中のリアルは違う

阿部秀司氏インタビュー「未来を描くときは、どんなふうにも変えられます。しかし過去を描くのはとてもハードルが高い。嘘は決してつけないし、つきたくもないですから」と阿部さん。上がってきた画を厳しい目で何度も見つめ、徹底的にリアリティーを追求したという。“ああすれば良かった”と思うことが後から次々と出てきてしまう。例えば当時、当たり前のように飛んでいた蠅の存在があります。そういったものは後でCGで付け加えてもらいました。かなり無理を言いましてね」
何度も立ち止まり、修正をかけながら丁寧に積み上げられていく世界。すべてはリアルを求めての作業だが、その“リアル”の中でも葛藤する場面があったという。「当時のリアリティーを具現化してしまうと、違和感がある場合があります。つまり映画に出てくる家や店は、すごく古く見せており、我々はそれをエイジングと呼びますが、それは今から見た当時のエイジングをしているわけです。本当は戦後の焼け野原から建てたものなので、すべてが新しいはずですが、わざわざ汚しをかけて古くする。そこに矛盾も感じますが、やはり映画の中ではそのほうがしっくりくるのです」

リアリティーはメッセージを強くする

昭和33年当時と、今の目で見た昭和33年——その微妙なバランスを取りながら”映画のリアル”を追求。メッセージをより強く観客に届けるためにも、やはり最も阿部さんがこだわったのは“ディティール”。そして、手をかけられた一つひとつのディティールに作品の生命が宿った。昭和33年を見事に再現した画と、心あたたまるストーリーが融合した時、ハートに届く衝撃が生まれました。阿部さんの思い入れの強かった原体験の“特別な光景”から特別なメッセージが心に入り込んでくる。この映画の全てのメッセージは、映画の最後のセリフなんです。50年前の子供たちが、50年後の今を言っているということ——そして、なんとか今の人たちが50年先のことにつなげてくれるといいなっていう願い。最初から“昔懐かしい”にするつもりはなかったですね。“昔は良かったでしょ?”って映画をつくってもしょうがないので。今につなげたい、未来につなげたいという気持ちでした」

これがヒットしないなら、映画から手を引こうと思った

現在を生きる私たちが忘れかけている昭和30年代の人々の生き様、姿勢、そのユーモアから、大事な精神を感じ、未来に歩むということ。これは現在から未来へ向き、私たちと共に進んでいく映画なのではないだろうか。
「これが全然ヒットしないのであれば、もう映画から手を引こうかと思うぐらいの気持ちでした。ここまで頑張って映画をつくって、観客からそっぽを向かれるのであれば、もうつくる映画はないと思いましたね」と阿部さん。
いま公開中の『ALWAYS 三丁目の夕日』は大勢の観客を感動させている。ずっとつくりたかったという昭和を描いた作品を、情熱的につくり上げた阿部さんだが、最後に尋ねた“映画に対する思い”については、冷静な回答だった。
「僕はわりと映画に対して客観的だったので、逆にそれが良かったかなと思います。映画に対する思い入ればかりが強く、映画をビジネスに出来なくなってしまうと、ここまで続けられてないと思います。仕事にする映画と本当につくりたい映画っていうのは、わけておいたほうがいいかな、と思っています。本当にビジネスが成功した暁に“これぐらいの冒険してもいいかな”という作品をつくる。歴史に残っていくような映画をつくり続けられたらいいですが、冒険だけだとダメですから。ちゃんとビジネスを意識してマーケットを考えてつくった上で、大はずれしてもいいという作品を今後(削除)、実験するということはあるかもしれませんね」
しかし『ALWAYS 三丁目の夕日』は“冒険をしてでもつくりたい映画”であり“ビジネスとしても成功した映画”なのではないだろうか。この二つを同時に叶えるという難問をクリアしたROBOTの底力に、今後も期待が高まる。


ROBOTホームページ
『ALWAYS 三丁目の夕日』公式サイト

取材:映画専門大学院大学
取材協力:『映画・アニメ・CMの全仕事』編集部

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