川邊祐之亮氏インタビュー(後編)

川邊祐之亮氏インタビュー

当機構公式ホームページ、TOP画面並びに事業案内のグラフィック画像をご提供頂きました川邊祐之亮氏。小学生時、モントリオール・オリンピックのポスターを見て「かっこいい」と思ってから、「大人になったらこういうものを作る人になりたい」と憧れをもち続けていました。

当機構公式ホームページ、TOP画面並びに事業案内のグラフィック画像をご提供頂きました川邊祐之亮氏にインタビュー

何かを創作する、新しいものを生み出すというのに大事なことは何ですか?

今CG友禅では父の培ってきたノウハウではなく、やったことないことをやろう、とベンチャースピリットで挑んでいます。
野球が大好きだった少年時の僕の憧れの「ミズノ」、スポーツ全般、とりわけオリンピックが大好きで何か関わりたいと切望していたらオリンピックの仕事ができました。子どもの頃の夢の1つ「宇宙に関わる仕事がしたい」と思い続けていたら、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測衛星ALOS「だいち」が撮影した地表の高精細画像をモティーフに使った着物を制作する仕事ができ、宇宙関連の新しいプロジェクトも動き出しています。友禅という道に一旦入り、諦めた広告業界での経験も今の自分の仕事に活かされています。
「あれがやりたい」「こういう人といっしょに仕事をした」などと、ミーハー心は何事においても影響しています。何かやるための、また継続して何かやっていくためにはミーハー心が大事だと思います。僕は気が多くていろんなカテゴリーのプロになりたい、と気持ちの上では非常に欲張りですが、伝統という極めて日本の核になる部分を継承していきたい、という強い思いもあります。依って日本の伝統文様をベースとしたグラフィックデザインをハブとして様々なことをやっていけたらいいなと思っています。

川邊祐之亮氏インタビュー

G8外相会合国際プレスセンターにも展示された”KYOTO-CAR”と共に

CG友禅について着物業界自体の反応というのは?

バブルを経験した後、僕は着物をメーカーにおさめるようなBtoBビジネスは崩壊している気がして、直に消費者の反応が感じられるようなビジネスをしたいと思い始めました。
当時、映画やアート作品などのコンテンツを劣化の少ないデジタルメディアに保存するというデジタルアーカイブというのが言われ始めた時で、1999年頃から京都の伝統をデジタルアーカイブ化しようと京都市役所が主体となって推し進めていました。京都の着物組合に話がきて、私がパソコンが使えるというので声が掛かりました。
私としては「着物の図案、色合わせなどをCGで完成予想図を作って、お客さんに見せたら販売促進につながるんじゃないか」と思いつき、職人がほぼ勘でやっている色合わせや図柄合わせの部分を数値として合理化しようと思い、また、バージョンが5.5だった頃のアドビイラストレーターを使って染色図案をデジタイズしました。

発想のヒントとは何ですか?

欧米の知識層、見聞が広い方は日本の文化をクールだという認識があります。
友禅に代表されるような和柄を、“懐かしい”市場ではなく、“クー ル”市場で受け入れられるものに昇華させることを目標にしています。そのため常に海外の先端デザインを見て刺激を受けるようにしています。特にパリのグランメゾン、たとえばエルメスやシャネルなどのWEBサイトなどは素敵な配色が溢れていてとても刺激的です。また、逆に江戸時代の琳派などの絵画を観 ることで、日本人の美の基本に立ちかえるよう心がけています。

海外に日本の伝統、川邊さんのもつコンテンツを紹介するという活動で意識されていることは?

どういう国籍をもつ人たちであれ、元は人間というところはぶれないと思います。うれしい、悲しいという感情は同じではないかと思いますが、それぞれの風土の中で感じたり、感情に沿った行動をしているのがポイントではないでしょうか。海外の展示会でエルメスやウェジウッドのブースに菊をモチーフにしたデザインに欧米人が関心を示し「美しい」と褒めてくれました。ただし、「非常に美しいが、この植物は自国にはないし、知らないし、使えないのでこれを見てヨーロッパで感動する人は少ない。むしろいないかもしれない」ということでした。理由を訊くと「パンジー、チューリップで僕たちは故郷を思いうかべ、例えば母が学校から家に帰ると庭に植えていた、とか、居間に飾っていたとかいうので郷愁をそそられる。あなたの菊は美しく、エキゾチックとは思うがそれ以上の感情、要求はおこらない」というのです。
一見目をひき、美しい、かわいい、エキゾチックとなるのは、表面だけの日本文化で満足する人たちであり、物事をわかっている人たちには小手先では通用しない。海外の展示会ではそういったことを感じる機会に幾度も出くわしました。

映像に関するコンテンツに関して思われること

パリでもヴァージンメガストアに漫画売り場ができたりして、やっと変な欧米コンプレックスをもたずに日本のコンテンツを紹介できるようになってきたと思います。
おもしろいのは日本は借りものが多いが自国の文化とミックスさせて独自の文化を作っていっているという点です。私どものCG友禅もシリコンバレーで作ったソフトを使っています。西洋のテクノロジーと日本の文化が融合されてできたすばらしいものは多いと思います。 アニメもその1つかもしれません。ディズニーが確立したアニメーションの技術と日本の作家の土着性がいっしょになって、おもしろいものができあがっているような気がします。
海外に行ったときにもの作りの上でのヒントをもらいました。欧米人に「京都出身です」というと、「いいところからきましたね。日本の精神的な部分ですね。日本の印象をいえば、東京のテクノロジーがあって、伝統的な京都の日本のメタリティーの部分がくっついて対局で表裏一体で1つの形を作っているようです」とエクゼグティヴ層の人たちからいわれました。彼らは日本のハイテクを見ていても日本らしい文化を感じるというのです。 ドイツの展示会では漢字をブースのデコレーションに使っていたのですが、「その漢字がほしい」といわれました。中国のブースもあったので中国ではなく、なぜ日本の漢字がほしいのか、と聞くと、ハイテクが漢字の中にも見えるので“日本の漢字”がほしいということでした。「文化が凝縮され、シンボライズされているのが日本の文字である」ともいわれました。
日本のハイテクと文化のミックスにより、日本発のものがクールに思えるということでした。

川邊祐之亮氏インタビュー

【2】左から映像産業振興機構:石川事務局長、川邊氏、迫本理事長

当機構についての印象、期待することなどお聞かせ下さい。

まず、ホームページと会社案内に使用されているのを見て「わーかっこいい」と思いました。僕の予想外の、しかも僕の頭の中で完結しない使用法で、垢ぬけた(笑)つくりになっていて非常にうれしいです。自分で想像した以上のもの、完成した絵柄による着物を作っても何もおもしろみを感じなかった、とお話ししましたが、アレンジによって、また使用法によって新しい意味や表現が生まれることには、創造の未知なる可能性を感じます。そういった意味で驚きつつ、うれしくも思いました。
機構の設立主旨をお聞きしまして、コンテンツクリエイターは立場が弱い場合も多いと思うのですが、制作の元の泉になるかと思いますのでぜひ盛りたてて頂けますようにというのがあります。産業として何かのコンテンツ業界を盛り上げるには、若い人材、追いつけ追い越せの若者がでてこないといけません。
実家の友禅工房にも弟子入りしたいという子がきますが、断らざるをえない場合が多いです。元はこういう業界は住み込みで10年かけて仕事を覚えていくというような徒弟制度があったのですが、産業として脆弱なので賄いきれず、次第に薄れてきています。
確かに労働条件としては厳しいものがありましたが、そうやってやっと身につくものというのもあります。

(取材・文:総務部広報室 小林真名実 / 【2】撮影:新井貴夫)


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