杉田成道氏インタビュー

杉田成道氏インタビュー

(社)日本映画テレビプロデューサー協会 会長
(株)フジテレビジョン 役員待遇 エグゼクティブディレクター
日本映画衛星放送(株)代表取締役社長

日本のドラマ史上に残る名作『北の国から』を手がけたことで知られる杉田成道さん。 『北の国から』の脚本家・倉本聰 氏との濃密な関係、長年の経験から培われたスタッフ・ワーク、演出に対する考え方といった実践的かつ貴重なエピソードから、これからプロデューサーを目指す人に対するアドバイスまで、幅広いお話を伺うことができた。

杉田 成道 氏 プロフィール

(株)フジテレビジョン役員待遇/エグゼクティブディレクター、日本映画衛星放送(株)代表取締役社長。不朽の名作『北の国から』を監督。テレビドラマや舞台演出のほか、『優駿 ORACION』など映画も監督。(社)日本映画テレビプロデューサー協会会長。フジテレビドラマスペシャル『町』で第52回(平成9年)芸術祭大賞を受賞するなど、受賞作多数。

脚本家とプロデューサーの感性が合わないといい作品は生まれない 日本の映像業界を代表するプロデューサー/ディレクターである、 フジテレビのエグゼクティブディレクター・杉田成道さんにお話をお伺いした。

プロデューサーとの脚本家の理想的な関係とは?

まず、“おもしろい”と感じることが似ていないとダメですよね。
たとえば脚本家と打ち合わせをしていて、“この人が言ってること、ぜんぜんわかんないな”と思ってしまったら、その仕事はおそらく、いい結果にはならない。相性っていうのは不思議なもので、少し話をすればわかるんですよね。“これはいけるな”とか“いくら話しても無理だろうな”という判断は、すぐにできる。男と女の関係といっしょですよ、それは(笑)。だいたいのことはわかるじゃないですか、最初の出会いで」感性を共有できるプロデューサーと脚本家が出会えば、そこには自然とひとつの確固たる世界観を持ったドラマが立ち上がってくる。 そんな“理想”を体現したのが、杉田さんの代表作にして国民的知名度を誇るドラマ『北の 国から』だ。
脚本家・倉本聰氏との関係を、杉田さんはこんなふうに語る。「倉本さんは子供時代、お父さんに宮沢賢治を音読させられたらしいんですよ。彼の作品には世の中を引いて見るようなシニカルな部分と、きわめて人間的な熱い部分が混在しているのですが、そのベースは宮沢賢治に象徴される童話性にあると思うんです。その感じは僕にもよくわかるんですよね。

たとえば、倉本さんが“ここは『風の又三郎』でいこうか”といえば、彼が何を言おうとしているのかがわかっちゃう

“風の又三郎”の一言で、作品が表現すべき色合いを共有できるんですよね。それができちゃえば、あとの細かいところはどうでもいいっていうか(笑)、 どうにでもなるんです。
もうひとつ例を出すと、『北の国から』の“初恋編”は、“『野菊の如き君なりき』(木下恵介監督/1955年作品)をやろう”っておっしゃたんです。 そこで”なるほど”と思えないと、いい仕事はできないですよね」 『北の国から』を支える

“ツーカーの関係”はスタッフ陣についても同じことがいえる

「カメラ、照明、美術などのスタッフとは、“ツーカー”じゃないとやりにくくてしょうがない」と杉田さん。多くを説明しなくても、作品が目指す世界観を理解し、それを実現するためのアイデアを生み出す。そういうスタッフが揃わなければ、『北の国から』の成功はあり得なかったはずだ。「たとえばホームドラマのセットをつくるとき、“カーテンの柄はこれにしてくれ”なんて指定をしなくちゃいけないスタッフだったら、やりにくくてしょうがないですね。脚本を理解して、“この母親だったら、こういう感じだろう”ということを想像したうえで、 さりげなく配置してくれる…

要するに想像力ですよ、大事なのは。僕が“こんな感じ”といえば、勝手に動いてくれる

杉田成道氏インタビュー僕がずっといっしょにやっているスタッフはみんなそんな人ばかりです。ええ、すごくラクですよ(笑)。実際に、僕が関わってる作品のスタッフは、20~30年ずっと同じですから」
脚本を深く理解していれば、演出方法も自ずと決まってくる。『北の国から』における独特のテンポ感も、物語から生み出される“必然”によって裏付けられているのだ。「基本的にテレビドラマっていうのはセリフのやりとりで成立させるものなんですが、

『北の国から』の場合は“登場人物の心の動きを表現する”というところに重きが置かれている

だから会話のなかに“間(ま)”が出来たり、相手のセリフが終わらないうちにしゃべりだすこともある。そこでテンポ良く会話が行き交う芝居をしても、不自然ですよね。照明についても同じことがいえます。『北の国から』をよく観てもらえればわかると思いますが、斜光で撮っているシーンが非常に多いんです。それも、あの作品を成立させるために自然とそうなっていったんですよね。太陽が高いうちはグズグズしていて、夕方になっキレイな斜光が入ってくると、一気に撮る。そんなことばかりやってました(笑)。もちろん、“自然に包まれて暮らしている人間を描く”というのは、大前提です。風景のなかにとけ込む人間を、いかにナチュラルに撮るか…。それが『北の国から』の基本ですから

出演者の実人生が、物語のエッセンスにも含まれていく

それも『北の国から』のリアル感を生む。ストーリーのエピソードは、杉田さんと倉本氏の打ち合わせから生まれてくるそうだ。「“吉岡(秀隆)クンはどうしてる?”“中島朋子ちゃんは?”なんてことからはじまって、いろんなことを話しますね。まあ、ほとんどは酒を飲みながらのムダ話なんですけど、そのなかから“五郎さんはいま、どんな暮らしをしていて、どんな思いを抱いているのか”なんて話題も出てくる。それが脚本のエッセンスになっていくわけです。役者自身の状況が反映されることも多いですね。たとえば中島朋子さんがセミ・ヌードを発表した、なんてことがあると、“おいおい、どうしちゃったんだ。どんな心境の変化?”って話になる。そういう時期に“蛍”の恋愛話を物語に盛り込もうとしたら、“いまの彼女に普通の恋愛は似合わない。そうなると不倫かな”ってことになったりします。あとは富良野で起こった現実の事件がドラマに組み込まれることも多いですね。

あえて“現実とリンクさせよう”と思っているわけでわなくて、役者の成長や現実の変化が自然と物語のなかに入ってくる

それも『北の国から』の特徴かもしれませんね」プロデューサーには自分の気持ちを相手に押し込む強引さも必要だ「たまにはサスペンスをつくってみよう、なんて思うんですが、やっているうちに人情話に近付いていっちゃうんだよね」と笑う杉田さんは、近年、若いプロデューサーの育成にも力を入れていて、日本映画衛星放送(株)の代表取締役社長のほか、平成15年5月からは「社団法人日本映画テレビプロデューサー協会」の会長をつとめている。「もともとはプロデューサーの職能の確立、経済的地位の向上などを目指していた協会なのですが、最近では“人を育てる”ことを目的とした活動も数多く行っています。映像業界を目指す人に向けたワークショップ、若い俳優のためのアクターズ・セミナーなども実施しているので、興味のある方はぜひ参加してほしいですね。
いま、映像業界はものすごい勢いで変化しています。インターネットの発達は映画の興行形態を大きく変え、そのぶん、ソフトとしての映画の価値はさらに上がっている。プロデューサーの役割もどんどん増えていくと思いますね」

これからの時代のプロデューサーの求められる資質とは何か?

「まず第一に、人を引っ張っていけること。そのためには全体を見渡す冷静さも必要だし、人をほめる力も大事でしょうね。たとえば“この演出家は力不足だな”って思っても、その気持ちをグッと抑えて“素晴らしい”と言い切り、しかもそれを相手に信じさせてしまう…そういうのも、ひとつの才能だと思います。あとは自分の考えを相手に押し込んでしまうだけの強引さも不可欠です。だから、熱意が内向しちゃう人は向かないでしょうね。そういう人はプロデューサーに限らず、テレビや映画の仕事自体に向いてないと思います。

シャベリまくって人を説得する。これにつきますよ(笑)

もちろん、できるだけたくさんの作品を観ておくことも大切です。もともと報道を希望してテレビ局に入った僕がドラマの世界でこれまで何とかやってこられたのも、小さいときに観ていた映画をドラマづくりの参考にすることができたからだと思います」


取材:映画専門大学院大学設立準備委員会
取材協力:『映画・アニメ・CMの全仕事』編集部

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映画専門大学院大学
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