竹田靑滋氏インタビュー

竹田靑滋氏インタビュー

(株)毎日放送 東京支社 テレビ編成部 部次長

『機動戦士ガンダムSEED』『鋼の錬金術師』、現在放送中の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』『交響詩篇エウレカセブン』。毎日放送の竹田プロデューサーが製作した作品が立て続けに話題作になっている。肝に銘じているのは「子供だましは通用しない」ということ。脚本の打ち合わせには、毎回参加する。スタッフの精神的支柱としての信頼感は絶大だ。

竹田 靑滋 氏 プロフィール

1984年、毎日放送入社。警察回りの報道記者からスタートし、グリコ・森永事件、豊田商事事件、竹中組長殺害などを取材する。その後、監察医制度への関心から「脳死・臓器移植」について取材し、ドキュメンタリーなども制作した。湾岸戦争ではTBS外信部に5カ月赴いた。2001年から現職に異動し、アニメーション番組などのプロデューサーを務めている。

子供だましは見抜かれる。大人が面白いと思うことを子どもにそのまま提供する

以前、竹田さんは大阪で、指揮者の佐渡裕さんを迎えて子ども向けのクラシック音楽番組を手掛けていた。東京に異動した現在も、定期的にコンサートを開催しているほど情熱を傾けているのだが、その番組の制作中に竹田さんが痛感したのは、「子どもは思った以上に柔軟性がある」ことだった。大人が勝手に“子どもには分からないだろう”と思いこんでいることを、子どもはちゃんと感知したり、理解していたりする。マーラーのシンフォニーでも、予め設定を説明すると、 15分間退屈せずに聴いているのだ。 「要は、僕が面白いと思っていることをそのまま提供すれば、彼らは面白がるんですね。逆に言えば、

子供だましは見抜かれてしまう。
大人の観賞にも耐えられるものをつくらないと、通用しないんです。

僕が子どもの頃に観ていた『あしたのジョー』なんか、つくる側が自分たちが観たいものをつくってたんでしょうね。だからあんな勢いがあったんだと思いますよ」
報道局、営業局時代の仕事を通じて、竹田さんにはもっと正しく伝えなければいけないと思うことが数々あった。脳死や臓器移植の取材を通じて感じた「倫理」の問題、湾岸戦争の取材で感じた戦争の真実や報道の偏り、科学技術の進歩が一方で持つリスクなど。東京支社でアニメ番組を手掛けることになった時、これらのことを子どもにきちんと伝えていきたいと思ったという。

ちょうど、『機動戦士ガンダムSEED』を始めるとき、ゲノムに関心があってかなり勉強したんです

竹田靑滋氏インタビュー研究所に取材に行くと、マウスの遺伝子の組み替えは実用化が近いという話だった。マウスのDNAと人間のDNAは90%重複している。つまり、人間の遺伝子組み替えも技術的には不可能ではないんですね。研究者はみんな、“ゲノムの世紀を制するのは自分だ”という自があるようだった。だけど、本当に遺伝子操作をして倫理的に問題はないのかということに関しては、誰も考えていなかった。そこは怖いと思いました。人間はやっていいかどうかより、できるということで突き進んでしまう。こういうことは子どもに感じてほしいことだと思う。だけど大上段に構えると、やっぱり子どもだから受け入れてもらいにくい。だから、アニメーションの裏設定に入れるのはとても有効で、物語を通して心のどこかに引っかかってくれればいい。それがいつか好奇心や知識欲になるんです」

思いの丈をぶつけるために自由な表現を規制する。禁忌事項は設けない

竹田さんがプロデュースする番組には、これまでのアニメーション番組では禁忌事項とされていたような表現やエピソードが、自然に登場する。
「別にタブーに挑戦したくて、やってるわけではないですよ(笑)。だけど、たとえば戦争の真実を描くときに、リアリティを伝えるためなら、あるいは作者の思いの丈を伝えるためなら、たとえ過激でもその描写が必要なら描くべきだと思うし、僕は使う。多くのテレビ番組関係者は、批判が来ないようにしたいだけだと思うし、表現したいことに反対も賛成もあるのは当たり前。来た批判に対しては誠実に対応するしかない。
『交響詩篇エウレカセブン』の京田監督は、9・11以降の現実社会を描こうとしていた。しかし、ストーリーによっては“こんなことテレビでやっていいのかな”と逡巡するものもあった。 「多くについては”放送に関わる人間ならやるべきだ”

公共の電波を使ってるのに反対も賛成も来ない番組をつくるのは、僕には耐えられないですね

と言いました。“僕が責任を持つ”とも言いました。アニメーションの放映期間である1年間はとても長いんです。思いの丈を全部ぶつけないとつくる側のテンションは維持できないし、特に『交響詩篇エウレカセブン』は、日曜朝7時の放送ですから、生半可な作品では視聴者は朝起きてくれませんよ。クリエーターが全力投球するためには

つくる側が全力投球してない作品を視聴者は積極的に見ない

既成概念で持っている表現の歯止めをはずしてあげなければ。それが僕のいちばんの仕事だと思ってます」
とはいえ、竹田さんはただ鷹揚に「自由にやれ」と言ってるわけではない。毎週行われる脚本の打ち合わせには必ず参加し、大いに議論する。
「当然ですよ。脚本がどうなっているかも知らないで責任なんか取れないじゃないですか、知らないのに責任を取るなんて、それは無茶な話ですよ(笑)。だけど、『交響詩篇エウレカセブン』の京田知己監督とか、シリーズ構成の佐藤大さんとか、

若い人と仕事をするのは楽しいし、いい刺激になりますね

竹田さんは東京に来て、全国ネットの影響力を再認識している。
「たとえ朝の7時の放送でも、全国でどれだけの人が観ているのかを考えたら、全力投球するしかない。これからも視聴者には何かしらの感情が、心の澱として残るような、そんなアニメーションをつくっていきたいと思います」


取材:映画専門大学院大学設立準備委員会
取材協力:『映画・アニメ・CMの全仕事』編集部

コラム 劇場版『鋼の錬金術師』は、舞台を現実の世界史に忠実に設定

『鋼の錬金術師』はテレビシリーズの時からフルアクセル。“等価交換の法則”の世界観とエルリック兄弟の波瀾万丈の物語は、それまでアニメとは無縁だった女性視聴者層をも取り込み、DVDの売り上げも88万枚を越えた。そのクオリティの高さを受け継ぎ、さらにパワーアップして登場したのが、7月23日から公開された劇場版『鋼の錬金術師』。物語の舞台を現実の世界史に忠実に設定した。「いろいろな作品で戦争そのものは描かれているが、戦争に向かっていく様は描かれたことはない。そんな時代の空気、戦争に向かって止まらなくなる人間を描きたかった。なぜ個々の人間は悪くないのに、集団になると取り返しのつかないことになるのか。この映画が、今の日本の状況を考えるきっかけになるかもしれない」と竹田さん。人間ドラマもふんだんで、必ず3回観たくなるという。しかも、3回とも違うところで感動できる作品になっている。