VIPO

インタビュー

2017.09.07


【広報特別企画】世界の映画界で活躍する人材を数多く輩出するアメリカ名門映画学校・USCの現役学生にカリキュラムを聞く

今回はVIPO広報課特別企画として、著名な映画人を数多く輩出する、南カリフォルニア大学(以下USC)、映画芸術学部、映画・テレビ制作学科に在籍する大賀英資さんをお招きし、最先端の映画教育プログラムについてインタビューしました。

(以下、敬称略)

 

南カリフォルニア大学(USC: University of Southern California)映画芸術学部とは

USCは、米国カリフォルニア州ロサンゼルスに本部を置く名門私立大学。映画芸術学部は、『スター・ウォーズ』『インディ・ジョーンズ』のジョージ・ルーカス、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『フォレスト・ガンプ/一期一会』のロバート・ゼメキス、『タイタニック』『アバター』プロデューサーのジョン・ランドーをはじめ、多くの映画人を輩出している映画学校として知られている。

USC・映画芸術学部のカリキュラムとは

留学~大学入学までの道のり


広報)大賀さんは、USC映画芸術学部の学生で、現在夏休みを利用して、VIPOでインターンをしています。本日はUSCのカリキュラムなどについて、お話しいただこうと思います。

大賀)私は現在、映画監督やプロデューサーになる勉強をしています。高校2年生まで日本にいました。

広報)留学しようと思ったきっかけは何だったのですか?

大賀)中学3年のときに将来について考える機会があり、映画が昔から好きだったので、映画に携わる仕事をしたいと思ったのがきっかけでした。
日本の大学で映画を学ぼうと考えたのですが、調べていくうちにハリウッドの学校に自分が求める環境があるのではと感じ、留学を目指すようになりました。
そして準備の末、高2の夏にカリフォルニア州モントレーにあるボーディングスクール(全寮制高校)に転校しました。

広報)そのボーディングスクールを選んだ理由は?

大賀)やはり寮に住みますし、雰囲気を知りたかったので何校か見学に行きました。その中でカリフォルニア独特のフレンドリーなムードや、天候の良さも決め手となり、この高校に決めました。

広報)1学年の人数はどれくらいですか?

大賀)150人程度です。半分が寮生、半分が地元から通学しています。寮生の中で50%がアメリカ人で他が留学生。留学生の中では60%がアジアから、40%がヨーロッパや中近東から来ています。
日本人も他に3~4人はいましたが、皆英語が流暢で、日本語を話す機会が全くなかったので、最初は電子辞書を片手に一生懸命でしたね。そのおかげもあってか、英語が喋れるようになったのは比較的早かったかもしれません。やはり母語ではないので、今でも苦労することはありますけれど。

広報)そこから希望の大学を受験するまでの道のりは?

大賀)大学受験は11年生(高校2年生)から始まります。アメリカの大学が受験で最も重要視するのがGPA(Grade Point Average=成績表価値)です。50%がGPA、25%がSAT (Scholastic Assessment Test=共通テスト)、他25%が学校以外のボランティアなど課外活動で、人間性を見るといわれています。

広報)もともと留学前にUSCへの進学を希望していたのですか?

大賀)実は留学前は知らなかったんです。進学が具体的になった時に、映画学校として有名なNYU(New York University)、UCLA( University of California , Los Angeles)、チャップマン大学(Chapman University)、そしてUSCを見つけました。アメリカでは高校生向けにカレッジツアーがあって、どこの大学もプロレベルの設備が整っており、やはり日本と規模が違うなと感動しました。

中でもUSCがキャンパスも映画学部自体も気に入ったのですが、自分のスコアでは到底受かるとは思いませんでした。USCは映画学部に入ることも難しいのですが、その前にまずUSCに受かることが前提なんです。

広報)まずはUSCにパスした上で、映画学部に入学できるかどうか、と2段階踏まなければならないのですね。

大賀)はい。そこで12年生の夏にUSCのサマースクールに参加しました。そこが大きなターニングポイントになったと思います。
サマースクールは進学を希望する高校生が、実際にUSCの寮に住みながら映画制作の授業をうけることのできる6週間プログラムで、参加者は30人程度でした。

私は映画が好きといっても、それまで、撮ったことも編集したこともありませんでした。一方他の参加者は自主映画の経験がありました。「最近何撮ってるの?」みたいな話から始まって驚きました。
サマースクールではショートフィルムを3本撮影します。しかもUSCの設備を全部使っていい。素晴らしい環境です。
しかし私自身制作が初体験で、演技させたり編集したり、何が何だかまったくわからなかったので、難しいなあと思いましたね。
3本目の作品は、プロの俳優を使って撮ることができます。プログラム参加者同士で音声や撮影をサポートしあい、俳優はオーディションで選び、プロのカメラを使って音声や編集もしっかりしたサポートの下行うことができました。
完成後の講評会では、「よかった」、「わかりやすかった」、「感動した」との感想をもらい、嬉しかったことを覚えています。

USCでは夏の間に映画祭があります。
そこでクラスの中から一つだけ上映作品が選ばれるのですけれども、投票の結果、私の作品が選ばれました。映画館の大きいスクリーンで自分の作品を見て、ますます気持ちが高まりました。

広報)実際の受験では、どういったステップを踏むのでしょうか?

大賀)その夏知り合いになった教授に推薦状を書いてもらい、5分の短編と2時間の脚本プロット、15~20分程度の脚本を提出しました。
他にもいろいろ大学を受けましたが、やはりUSCに行きたくて。
映画学部は1学年50人(2016年度合格率2%)と少数なので、合格通知が送られてきたときは、みんなが「英資よく受かったな!」と驚きながら喜んでくれました。USCのサマースクールに行かなければ受からなかったと思うので、あの時の判断は大正解でしたね。

 

大学生活について

必修の一般教養クラスもハイレベル

広報)大学入学後の生活を教えてください。

大賀)入学後は、さあ映画を作ろう!とはならず、最初の2年間は一般教養を受ける必要があります。また留学生は英語力を高めるため、エッセーのクラスも追加されます。とにかくエッセーや歴史、科学などの一般教養をこなすのが大変でした。USCは総合大学で、ハイレベルな生徒が集まっているので、一般教養であっても各分野アカデミックで難しいんです。かなり苦労しました。

映画の基礎知識を習得するための授業では、映画史や映画分析といったことを学習します。中でも印象的な授業だったのが、ドリュー・キャスパーという名物教授の講義です。NHKで放映されていた『ハリウッド白熱教室』でご存じの方がいるかもしれません。 
ドリュー・キャスパーは映画に関して何でも知っている人で、ビジュアルデザイン、サウンドデザイン、脚本、世界の映画史、業界・興行・制作スタイルを含め、総合的にレクチャーしてくれるのですが、これが非常に面白く、授業を受けてから映画の観方が大きく変わりました。

広報)たとえば日本の映画史だと、どんな監督が紹介されましたか?

大賀)溝口健二や小津安二郎が、日本映画の基礎を築いた監督として取り上げられました。
そういった基礎授業を経て、私はやっと1年前くらいから映画制作の授業に取り組むことができるようになりました。同期はもう卒業している人も多く、遅い方です。

広報)在籍年数など日本では気にするけれど、その点アメリカはおおらかですよね。

大賀)そうですね。ギャップイヤーといって、休学を挟む人も多いです。
その間は、自分のしたいことをします。私は現場で映画制作を手伝ったり、日本の地方を旅したりしました。

広報)なぜギャップイヤーをとるのですか?

大賀)制作の授業が始まったら、平日は授業、週末は撮影と忙しくなります。自由に使える時間は、これが最後だと思いました。

 

いよいよ本格的に実制作の授業がスタート

学部の延長線上にある、プロの映画業界

大賀)現在は全18人のクラスで、映像制作の実習をしています。3人1チームになり、監督、プロデューサー、編集などに分かれて各自担当し、6週間で1作品を完成させます。

広報)プロデューサーは具体的にどんな仕事をするのですか?

大賀)ロケーションやキャスティングをはじめ、契約書や許可証明書などの書類もプロ同様にそろえなければならないので、そういった手続きまわりです。あとはマネージメントも担当します。
作品は、インターネット放送用のTVシリーズパイロット版、ドキュメンタリー、ショートフィルムと各6週間ずつを費やして制作します。

またその授業と並行して週2回、撮影・照明・編集などのテクニック、また予算マネージメントやスケジュールの立て方も勉強します。中でも最も多くの時間を割くのは、配給会社へのピッチング練習です。やりたい企画を制作会社の人たちにどうやって売り込むかを習得します。

私は次に準卒業作品のショートフィルムにとりくむ予定です。こちらも3人1チームでやります。

広報)3人1チームだと、相性などの良し悪しもありそうです。

大賀)そうですね。それはプロの現場の訓練になります。自分と合わない人とも、いかにうまくやっていくか。先生にも「USCの監督学科を出る人は100%業界に入って絶対将来一緒に働くので、隣人には優しくしろよ」とよく言われます。

広報)いかに同じ学部の人と仲良くなるかで、将来が決まるということですね。

大賀)皆クリエーターなので、癖は強いですが、仲良くなると面白いキャラクターの持ち主ばかりです。あとは仲間同士でサポートしあう際、少しでも手を抜いたりすると「こいつはダメだ」とみなされてしまいます。どんな役割でも精一杯こなし、いかに信用を得るかは本当に大事なことです。
すでに学部の延長線上に業界がある。口コミや現場の評価は、技術および人間的な面ともに重要です。ここから始まっているのだと日々感じています。

 

競い合うのは作品のユニークさ

日本人としてのアイデンティティを活かす

広報)卒業までにはあとどれくらいありますか?

大賀)1年半あります。準卒業作品、その次は卒業作品になりますが、そうなると1作品の規模も大きくなるので、全員が監督できるわけではありません。監督になるには、選ばれなければならないシビアな世界です。ただ生徒たちの中には監督ではなく、脚本家、撮影監督などを職業に選ぶ人もいますし、そういった道にも門戸は開かれています。

広報)大賀さん自身が目指している職種は?

大賀)私は監督かプロデューサーが目標です。監督はクリエイティブで素敵な仕事ですが、プロデューサーとして企画をマネージメントするのも楽しいと感じています。

広報)個人的な経験からしばしば思うのは、言葉やカルチャーが異なると、時に自国以外の映画の本質的なところまでふつうは理解しきれないのではないか?ということです。観客がそうであれば、作り手はもっと大変ですよね。

大賀)特にコメディは国特有の笑いの文化があるので難しいですね。しかしチャップリンなど、万国に通じる笑いもあります。私自身は、アメリカ人も日本人もわかる内容にしたいと思っているし、どちらの文化圏でも生活した経験を踏まえ、国を問わず普遍的な作品が撮れるのではないかと考えています。

広報)日本人として、とくべつ意識していることはありますか?

大賀)クラスでは作品のユニークさを競い合う傾向があるので、私は日本で培った感性をいかに打ち出していくかを意識しています。
例えば先日撮ったドキュメンタリーでは、第二次世界大戦時に日系アメリカ人が強制収容された事件をテーマにしました。そして宗教で人の危険度を判断している現代のアメリカは、日系というだけでその人々を恐れた過去と同じ過ちを犯しているのではないか…というストーリーに仕上げました。こういった気づきを提言できるのは、日本人特有の視点だと思います。

また、次作品では“引きこもり”をテーマにしています。
引きこもりはアメリカで認知されていない(鬱と解釈される)ので、アメリカ人にとって、日本人にはおなじみのアイデアがユニークだったようで、クラスメートからの評価が高かったです。

広報)日本人であることをプラスに、個性を出して人々を惹きつけられるものがいくらでもあるんじゃないかということですね。

大賀)そうですね。テーマだけでなく、ストーリーの伝え方など、私にしかできない日本の経験・知識を活かしていきたいです。

広報)アメリカ人がクラスメートの大半だと思いますが、他の国から来ている人の作品に、その国の個性といったものが見えることはありますか?

大賀)その国独特のキャラクター設定などもあるので、面白いところです。
しかし実はみんなそこまで国を意識しておらず、私に意見を求める場合でも、日本人の視点というよりは、大賀の意見を求める、といった感じで個がベースになっていると思います。

 

今後のキャリアパス、監督やプロデューサーとしての目標

広報)将来は、どんな道を進みたいと考えていますか?

大賀)卒業したら、まずはアメリカの映画制作現場で経験を積みたいです。
アメリカで働きながら、自分でも監督やプロデューサーとして小さい映画から作っていければと思っています。

もちろんアメリカで仕事をするには就労ビザの問題などもあり、外国人の私はディスアドバンテージだらけです。しかしそのために今回、VIPOさんでインターンをさせていただき、日本の映画業界やコンテンツ業界を知ることができたら、有利になると考えています。
特に現代はNetflixをはじめとするオンラインメディアが日本に進出し、日本でコンテンツを制作し世界に向けて発信する流れもあります。ハリウッドスタジオの閉鎖的な体制よりオンデマンド制作会社のパワーが強くなっている時代ですから、ボーダレス化はより進むと考えています。そこで日本・アメリカのどちらでも働ける素地があれば、活躍する場は多くあるのではないでしょうか。

広報)VIPOでのインターン経験は役に立ちそうですか。

大賀)はい。VIPOでは、ndjc(※1)のチームで勉強させていただくとともに、VIPOアカデミー
(※2)にも参加させてもらっています。

映画は一人で作れません。監督やプロデューサーは映画に携わる人たちをいかに引っ張っていくかが最も重要な仕事の一つです。今回受けさせていただいた「プロジェクトリーダーコース」では、良きリーダーにどうしたらなれるのかをたくさん学ばせていただきました。

部下への接し方、いかに職場の雰囲気やモチベーションを保てるかなど、チームをまとめるリーダーとして望ましい姿勢から、アイデア発想法やプロジェクトマネージメントなど、実務に使えるテクニックまで知ることができたのは、大きな収穫となりました。。
さらに、一緒に受講したメンバーはコンテンツ業界の第一線で活躍されている方ばかりで、映画だけでなくアニメやキャラクター、また芸能業界のお話をたくさん聞かせていただきました。セミナーが終わっても「会おうね」と言ってくださるほど親睦を深めることができ、将来自分がこの業界で仕事をしていく中で本当に貴重な出会いをさせていただいたなと、とても嬉しく思います。

また2016年度のndjc作品も拝見しました。非常に完成度が高く、監督志望者として勉強になりました。やはり学生とプロの差を感じましたし、俳優陣も素晴らしかったです。フィルムならではのムードも魅力的でした。

広報)フィルムで撮ってみたいと思いますか?

大賀)もちろん思います。なかなかできない経験なので、将来ぜひndjcに応募して撮らせていただきたいです。

広報)最後になりますが、10年後の大賀さんが目指す姿とは?

大賀)映画でもTVシリーズでも、とにかく監督またはプロデューサーとして、長編1本は撮っていたいですね。
そして自分の作品をサンダンス映画祭(※3)に出品したいです。サンダンスは映画界の登竜門なので、目標の一つです。

そのためにも、人と人とのつながりを大切にしていきたいと思っています。テクニックはもちろんですが、いかに映画の現場で人とうまくやっていくか、どうやってプロジェクトをリードしていくのかなどを、引き続き勉強していきたいです。

また私は海外に出て、多様な価値観を知ることができました。クリエーターにとってこのような経験は、間違いなくアイデアの幅を広げてくれます。日本で社会人経験後、USCの大学院に入学した人も知人にいますし、年齢問わず門戸は開かれているので、きっかけがあれば海外での勉強にトライしてみるのもいいと思います。

 



(※1)ndjc(若手映画作家育成プロジェクト):次代を担う優れた長編映画監督の発掘と育成を目指し、平成18年度より実施しているもので、優れた若手映画監督を公募し、本格的な映像製作技術と作家性を磨くために必要な知識や技術を継承するためのワークショップや製作実地研修を実施すると同時に、作品発表の場を提供することで、次代を担う長編映画監督の発掘と育成を目指しています。

(※2)VIPOアカデミー:コンテンツ業界のリーダー育成を目的として、業界に最適化された独自の教育プログラムを提供する人材育成事業。

(※3)サンダンス映画祭:アメリカ合衆国ユタ州で開催される、インデペンデント映画を対象とした映画祭。映画監督や俳優以外にも、ビジネス関係者の出席が多いことが特徴。

 


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