株式会社アールグレイフィルム 谷口広樹氏インタビュー(前篇)

株式会社アールグレイフィルム 谷口広樹氏インタビュー

株式会社アールグレイフィルム 谷口広樹(たにぐちひろき)

PROFILE

1976年5月生まれ 大阪府豊中市出身
2006年 映画「どろろ」制作主任兼中国語通訳として参加
映画「ヒートアイランド」監督補
経済産業省主催プログラム「J-PITCH」にて企画応募プロデューサーとして、東京・ベルリン・香港・プサン映画祭等に参加。
2007年 プサン映画祭AFAプロジェクトのプロデューサーに選ばれる
2008年 「花婿は18歳」プロデューサー
「カフェ・ソウル」プロデューサー

趣味・特技

語学(英語・韓国語・中国語)、会計学

好きな映画

「にっぽん昆虫記」

好きな映画監督

今村昌平監督、熊井啓監督、森崎東監督

好きな俳優

左幸子、左ト全

INTERVIEW

株式会社アールグレイフィルム 谷口広樹氏インタビュー2008年12月に韓国映画振興委員会(KOFIC)と当機構共催の「日韓共同制作セミナー」に参加されたということですが?

はい、静岡県の伊東にて2泊3日にて開催されました。日韓間で共同製作が可能なプロジェクトを企画・進行中のプロデューサー及び監督が対象で、参加者は期間中韓国から選定された5名のプロデューサーたちが各自のプロジェクトを紹介し相手国の映画製作システムを理解しあい、また日本と韓国サイドからの共同製作経験のあるプロデューサーや投資家からプロジェクト実現に向けてのアドバイスを戴くというものでした。基本的には参加プロデューサーと監督が各プロジェクトを発表して、ベテランのプロデューサーさんたちからアドバイスを戴くというのが主でした。
他のプログラムにも参加したことがありますが、そちらでは映画祭に招待して頂き、自分たちでアドバイス戴ける人をつかまえてくる、もしくはブースで自分たちのプロジェクトを発表するというもので、アドバイザーを見つけるのが大変でしたがとてもいい経験にはなりました。今回「日韓共同制作セミナー」では著名なプロデューサーのアドバイスをプログラムに沿っていけば戴けるというものでした。

「2008 第2回日韓共同製作セミナー」に参加された目的は?

課題としてもっていたのは海外との合作についてどうしていくべきか、ということでした。合作の場合2、3年かかって結局できなかったとか、完成はしたもののテーマや方向性的なブームが終わった2年後だったというようなケースが多いので、もう少し低予算で合作ができるのではないかと考えていました。合作についての疑問に思っている点や手法などについてベテランのプロデューサーの方々にアドバイスを戴けるのはありがたかったです。

株式会社アールグレイフィルム 谷口広樹氏インタビュー元々プロデューサー志望だったのでしょうか?

プロデューサーとしては今回の「カフェ・ソウル」で2本目となります。1本目は2009年1月に公開された「花婿は18歳」です。それまではフリーランスの制作スタッフとして映画づくりに関わっていました。学生時代は映画研究会でお決まりのように仲間たちと作品を撮っていました。大学卒業後はテレビの制作会社でADをやっていました。
テレビと映画両方に関わってみて思うのは、テレビ番組はテレビ局主体で、テレビ局のカラーがあり、制限があり、一方映画の方は単体の作品となるので自由度が高いということです。ただ、映画会社は人を募集していなくて、入ろうにもツテがなかったんです。早稲田大学出身者ではテレビ局に入る人は結構いるんですが、映画をやりたい人がいる割に業界へ入る人が少ないというのが僕の周辺での印象でした。映画については演出の方に興味がありましたが、とにかく演出の部署に入ることは難しかったです。制作をやりながら演出に関わりたいと思っていましたが、周りのみんなは若くて、僕は年寄りで浮いた存在でしたね(笑)。
僕の場合、大学を卒業して、その後テレビの仕事もしてからだったので、映画の専門学校を卒業して入ってくる21、22歳の若い人たちと比べると、26、7歳で動きも鈍いし、使いにくいイメージもあり、あまり声がかからないかったんですよね。制作では人をほしがっていましたし、映画に関わりたいという思いは強かったので取りあえず制作に入り、3年ほどフリーの制作として勤務しました。

合作はその後から関わりだしたんでしょうか?

合作については韓国限定でなく、アメリカ、イギリス、フランスとも話はありましたが実現は難しかったですね。国際恋愛みたいなものです。時差があって生活習慣が違って、仕事の上ですが心がだんだん離れてしまった経験があります。遠いし、頻繁に会えないですしね。シナリオの第一稿ぐらいまで辿り着いたとして、イギリスに突然アジア人が訪ねて行って説明してもひと筋縄ではいかなかったですね。あるプログラムでベルリン映画祭や香港映画祭などに行かせてもらって2、3回トライしましたが、難しかったです。

国際舞台を意識して映画作りをされていますか?

関わった会社でたまたま合作系の作品が多かったんです。ハリウッド版「呪怨」の「The Grudge」、「力道山」、ニュージーランドで撮影された「どろろ」などです。僕は中国語とハングルができるというので、翻訳者も兼ねながら現場制作をやっていました。
国際的プロジェクトは好きといえば好きですが、中国語やハングルができるという点を制作部で生き残っていくための自分のセールスポイントというか、自分のメリットをだしていかないといけないので、合作をやっていくことになったといった方がいいかもしれません。

株式会社アールグレイフィルム 谷口広樹氏インタビューテレビ制作と映画制作の違いはどういうところにありますか?

システムの違いがわかったりと映画との比較はできますね。
映画の現場はタイトといえども、テレビの現場に比べたらまだおおらかで自由な印象です。また、テレビ番組はテレビ局の色があるので、ある形や意図で番組を作っても、うちのカラーではないよね、というのがあるんですけど。
例えば公共放送であれば全国の電波で特定の人だけが喜んだり特定の人だけが納得するものは不公平というのがあると思いますが、映画については片寄った内容であっても見ているお客さんは、監督、作品のメッセージなので私は同意しないけれど・・・・・・と納得する部分があると思います。ただし、テレビも映画も数字の面での厳しさは同じですかね。

プロデューサーとして心がけている点について教えて下さい。

映画が好きでやっているというのが映画製作に関わることにおいて大きなモチベーションですが、実は映画を観るのはあまり好きではなく、作るのが好きなんです。
商業的になりすぎてもいけないし、芸術的になりすぎて誰も観ないような作品というのもよくないと思うので、そこでどうやってバランスを取るかというところでプロデューサーとしての手腕というか、決断が問われるかもしれません。
出演者頼みのいかにもなアイドル路線もいやですし、観ても誰もわからないような映画もいやですね。ただ、出発点が真面目な観点からはじまっていれば、あとでどんなにアイドル路線が入ってきても見ている人はわかると思います。
根っこが曲がっていずにしっかりしていれば、観ている人に監督とプロデューサーの意図は伝わります。
「カフェ・ソウル」では韓国の伝統菓子と家族の絆を絡め、韓国社会の今を表現したい、というところが出発点となっています。
主演の俳優さんたちは実力的にも素晴らしいです。みなさん人気があるだけに一見アイドルの映画と思われたかもしれませんが、商業的にもこちらも資金を回収しないと次がないという切実さもあります。
今回の「カフェ・ソウル」には限ったことではありませんが、出発点は絶対に妥協したくはありません。ひと晩寝て考えたぐらいのアイデアだとお客さんに絶対に見抜かれると思うんです。やはりきちんとリサーチして何を伝えたいのかしっかり固めてから作れば、観ている人はわかってくれると思います。キャスティングでは出資者の意向もあったりしますが、作品を通して伝えたいこととのバランスを摂りながら、出発点は妥協せずにやっていきたいです。

キャスティングはどのように決まっていったんですか?

韓国の映画業界には何人か知り合いがいまして「カフェ・ソウル」でも「力道山」でいっしょに仕事をしたスタッフと再び仕事をしたのですが、候補は無数にあがりました。
候補を元に、出資会社の意向と、作品性のバランスを見ながら決めていきました。
メインのキャスティングには武正晴監督はノータッチで、端役には助言がありました。やくざ役の3人、お兄さん役、ヤンおばあさん役については武監督も意見を出されました。
作品中70、80歳のおばあさん役を演じているチョン・スギョンさんは実年齢40歳なんです。日本語ができて、演技ができ、24時間稼働するような現場でハードなスケジュールに耐えられる70、80歳のおばあさんを捜すのに一苦労でした。チョンさんはおばあさん役を頻繁に演じていて、日本人が聞いても違和感のない日本語もできる人というので配役しました。
お兄さん役についてはもっと筋肉流麗なタイプとか、ごつごつした感じのタイプなどたくさんの候補が挙ってましたが、最終的にキャスティングされたチェ・ソンミンさんの笑顔は役のもつ芯の強さとやさしさを表していてとてもよかったかな、と思っています。

株式会社アールグレイフィルム 谷口広樹氏インタビュー現場での武監督について教えて下さい。

武監督の力で映画が力をもち、役が力をもっていきました。僕の力でも何でもありません。監督と組むのは「花婿は18歳」に続き、「カフェ・ソウル」で2本目となります。前回もそうでしたが監督は現場で絶対にぶれず、チームを引っぱっていく強固な存在でした。「あー」「うーん」とかいう迷いがなく、ビジョンがはっきり見えていて、スタッフが大変付いていきやすい。
監督が長年助監督もされており、様々な技、勘とかに長けていたので助かりました。今回の現場では時間のない中、監督の力があって迷わないでやっていけたというのが進行の上で非常に大きかったです。
また、アイドル性と映画のもっている作品性のバランスのとり方がうまいですね。僕からは韓国の伝統菓子を推したいのでそれをよく撮ってほしいとか、John-Hoonのファンも多いので彼をかっこよく撮ってほしい、といったことをお願いしたぐらいです。

韓国の伝統菓子をモチーフにしたのはなぜですか?

韓国の伝統菓子については前から気になっていて、地味だなーという印象がありました。中国の飲茶とか日本の和菓子ほどフューチャーされないのもどうしてかな、と疑問に思っていました。
14世紀末の李王朝は儒教で国を治めたため歴史的に仏教が排除された時代となり、仏教と深い関わりのあったお茶の文化も迫害を受け、否定され、お茶をたしなむような習慣も当然発展ませんでした。お茶が発展しないのでお茶と一緒に戴くお菓子も発展せず、お茶を飲んでお菓子を楽しむという習慣もなかったということです。
その後お茶は漢方、薬のお茶として残り、おかしは儀式、供養のためのものとして残っていったようです。日本の和菓子は例えば戦争に持っていったりするなど保存の技術に長けているのですが、韓国のお菓子は儀式が数日程度しか続かないということで、見た目は華やかですが、保存については考えられておらず、すぐ腐ったりして、そういう点では販売にあまり向いていないそうです。そういうことを調べていくとおもしろいなと思いました。
ただ、作品にでてきたような老舗のお菓子屋さんはいるにはいて、韓国伝統菓子屋さんと日本の和菓子屋さんの男の子が交流して家族について立ち返る、振り返ることができたらおもしろいのではないかと思ったんです。

個人的な体験もヒントになったのでしょうか?

僕は甘いもの好きで、海外に行くとお菓子を食べるのが大好きなんですが、旅行で韓国を訪れた際、韓国のお菓子の扱われ方ってなんかおもしろいな、と思っていました。
10年前の韓国で甘いものにありつこうと思ってもいわゆる甘味処やケーキ屋さんもなく、韓国菓子を食べるような場所もあまりなかったので、随分とショックを受けたんですね。そのショックというか、韓国菓子の扱いが気になっていて今回プロットを書くにあたって調べだしたんです。
地味でパック詰めで山積みになっていたりする韓国菓子を見ると切なくもおかしくもあり、もうちょっとうまく売ればいいのにな、と買ってみたいけどなかなか手がでない、というか、もっとお客さんの手が伸びるように仕掛ければいいのにと見る度に思っていましたね(笑)。
実際に作品に登場するようなお菓子やさんにも旅行の時に行ってみてイメージはありました。
日本でも地元に密着した家族経営のお店が裏通りにあったりし、韓国と日本で形態は違うかもしれませんが郷愁をそそられる体裁のお店ってあると思うんですよね。
「カフェ・ソウル」を観た方のアンケートで’韓国は儒教の国だからこんなに家族ばらばらにならない’というコメントを頂いたのですが、実は韓国では現状お店の移り変わりが早いんです。
1年で随分変わってしまいますし、3年続けばいい方というぐらい韓国社会では様変わりが早い。日本だとお店が長く続くと’老舗’や’伝統’の看板という風に評価されますが、韓国ではそういう要素はほとんど評価されないんですね。
そういった評価されない社会の中、何年もやっている店、それでも残っている店があって、すごいなと思っていました。様変わりの激しい社会だからこそ家族はばらばらになっているのではないかというのも「カフェ・ソウル」の出発点でした。

(取材・文 広報室 小林真名実)


カフェソウル谷口広樹原作、武正晴監督 キャスト:斎藤工、チェ・ソンミン、チョン・スギョン、キム・ウンス、京野ことみ
プロデューサー:村田亮 谷口広樹 ホン・ミンギ

韓国はソウル、その街の片隅にひっそり佇む伝統菓子店「牡丹堂」。フード・ルポライターの井坂順(斎藤工)が偶然出会ったその店は、寡黙だが腕の良い店主サンウ(チェ・ソンミン)が一人で切り盛りしていた。サンウの人柄と牡丹堂の味に魅了された順はこの店で取材をする事に決めるが、牡丹堂は地元のヤクザから立ち退きを迫られていた。そのいざこざからサンウが怪我をしてしまい、しばらく菓子作りが出来なくなってしまう。そこにサンウの弟・サンヒョク (John-Hoon)が現れる。ミュージシャンを夢見て家を飛び出したサンヒョクだったが、音楽への夢が破れてしまっていたのだった。初めは反発しあう順とサンヒョクだったが、牡丹堂の看板を守るために協力していく二人の間に、いつしか不思議な友情が芽生えて行く。しかし、ヤクザの刺客としてサンウのもう一人の弟・サンジン(キム・ドンウク)が現れた事により牡丹堂は窮地に陥ることとなる。
牡丹堂の運命は?バラバラになってしまった家族の絆の行方は?
それはサンヒョクが作る想い出の味がカギを握っていたのだった……

渋谷シアターTSUTAYAにてロードショー公開中、ほか全国順次公開
http://www.cafe-seoul.com


株式会社アールグレイフィルム 谷口広樹氏インタビュー(後篇)
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