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インタビュー

2018.03.28


中国がコンテンツ産業にかける期待。日中アニメ産業は協力できるのか?

世界が注目している急成長を遂げる中国コンテンツ産業。J-LOP4補助金事務局では、アニメーションやゲーム業界の発展を支援する非営利社会団体法人北京漫画アニメゲーム産業協会視察団の来日にあたり、「中国コンテンツ産業 最新動向セミナー」を開催。

北京漫画アニメゲーム産業協会の秘書長である劉 春剛氏に、中国のアニメーション市場の現状や成長予測、教育方針を中心に、今後、日本のアニメーション業界が中国に進出するためにはどうすればよいか、VIPO事務局次長の槙田寿文がインタビューを行いました。

◆「中国コンテンツ産業 最新動向セミナー」の実施報告および資料(PDF)はこちら(事業報告ページへ)

北京漫画アニメゲーム産業協会 秘書長 劉 春剛 氏[略歴

(以下、敬称略)

中国アニメーション市場が目指す産業チェーン-中国の課題、日本の課題

過去から未来へ中国のアニメーション市場の成長の要になるものとは

現在の市場概況とこれからの成長予測
 
VIPO事務局次長の槙田寿文(以下、槙田)  今の中国のアニメーション業界の市場の概況、特に過去から今後への成長予測について教えていただけますか?

北京漫画アニメゲーム産業協会 秘書長 劉 春剛氏(以下、劉)  まず、中国のアニメーション市場は非常に大きな市場です(2017年9月、国家統計局発表によると、2016年全国文化及び関連産業の市場規模は3兆元〈51兆円相当〉を達し、前年比13%アップの増加を成し遂げ、今では中国のGDPの4%に当たる産業に成長 出典:智研咨询)、(2017年、北京市におけるアニメ、ゲーム産業全体の生産高は627億元、約1.6兆円、前年比20%成長 出典:2017年中国游戏产业报告)。現在は、制作・運営・関連商品(グッズなど)など含めたトータル産業チェーンとなっており、出版、テレビ、映画、インターネット、関連商品がかかわっています。中国のアニメーション産業は日本と比べてスタートは遅れていましたが、ここ数年は急速に成長しています。他の産業との融合という点でも成長していますし、国も今後大きな伸びしろがある市場だと期待していると思います。
 


©️ IP FORWARD 「中国コンテンツ産業 最新動向セミナー」王氏の資料より抜粋

 
今、日本企業も含めた多くの企業が中国を大きな市場だと認識していますが、市場というものは、どんどん開拓していくことが重要です。

市場開拓の一例として、4月に北京で開催される、初音ミクのコンサートがあります。なぜこの例をあげたかと言いますと、コンサートの主催者がコンテンツ業界ではない国美電器有限公司(以下、国美電器)という企業だからです。

国美電器は中国で最大の家電量販店で、年間の売り上げが数千億元あります。
今まで国美電器は、電気製品の小売しか行っていませんでしたが、国美電器のユーザーの高齢化が、近年のボトルネックとなっていました。そこでもっと若い人に自分たちの認知度を高めようと初音ミクのコンサートを開催することになったのです。

そして国美電器の次のステップは、アニメーションのIPを3C(Computer:パソコン、Communication:携帯電話、Consumer electronics:家電)と融合させて、これまで日本やほかの国にもなかった大きな市場を作ることです。
 

 

業界をまたいで成長するアニメーション市場



  中国アニメーション市場はスタートこそ遅れていましたが、今では中国国内のアニメ―ションIPもできていますし、何より中国という市場は14億という人口を抱える、世界的にも大きな市場です。今後、未来に目を向けた場合、中国アニメーション産業は業界をまたいで融合させるような産業になると予測でき、新興産業として活力に満ち溢れて成長していくと思います。

槙田  日本でも同じようにアニメーションと言うのは2つのバリューチェーンがあります。1つはコンテンツ系のバリューチェーンで、日本の場合はコミック、アニメ、実写、テレビという相互の流れがあります。
2つ目は、今、劉さんのお話にもあったような非コンテンツ系の他産業を巻き込んだ産業チェーンで、近年日本でも目立ってきました。このように、中国同様の動きが日本にもあると、私は認識しています。

  そうですね。アニメーションから非コンテンツ産業を巻き込んだ発展は、中国と日本は同じだと思います。また、中国と日本の文化は非常に似ているところがあるので、中国の若者たちは、日本のIPが好きです。その裏付けとして今回国美電器は、初音ミクの8曲の歌(知財)に150万元(約2,500万円)を支払いました。しかもこれには組織運営の資金、設営の資金は含まれておりません。

槙田  日本でも中国でもアニメーションのIPと知的財産関係の重要性は将来どんどん増していくと思います。
 

 

アニメーション業界を発展させるための人材育成の考え方

政府としての支援と550の大学が行う教育


槙田  IPを作り出す人材育成を中国政府は、どのような方針でどのように取り組んでいるのかを教えてください。

  中国では国レベルでアニメーション企業の認定が行われています。この認定を担当しているのは、文化部、財政部、税務総局です。

さらに、税金の軽減も行われています。企業の所得税や輸出入税などに関しては減税措置があります。また、北京市政府などの地方に関しては、映画、テレビ、文化と科学技術が融合するような政策、設計関連の政策も打ち出されています。

現在、アニメーション関連の講座を持つ大学が約550校あります。
人材の育成に関しては教育部門にしても政府(国レベル)にしても、北京市としてもいろいろな政策が打ち出されているのです。

槙田  550校…、多いですね。教える側の人材も重要ですね。それはどのようにまかなっているのですか?

  もっともなご指摘ですね。確かに、550の大学で行われているのは、美術関係の基本的なトレーニング・基礎の養成です。この基礎のトレーニングの後に、2次元、3次元、インターネット出版などを勉強していきます。

現在の中国では、アニメーション学科を卒業しても、必ずしもアニメーション専門の会社に入っていません。デザインやゲーム会社に入ったり、グラフィックデザインの仕事に従事することもできます。そのため、他の分野に就職する人も多くいます。
 

 

中国アニメーション業界での若い人材確保の現状は?



槙田  アニメーション業界に入りたいという若者は多いですか?

  アニメーションの会社では単純な仕事になるので、多くの人がゲーム会社に流れていきます。アニメーションとゲームとは重なる部分もありますし、中国ではゲーム市場のほうが大きく、北京だけでも100か国以上の国に輸出する規模となっています。
中国のアニメ―ション産業は日本と比較すると業界的に大きな違いがあると思います。

日本では、アニメーション出版やテレビ、関連グッズは非常に強く、良いものを出しています。一方、中国では、ネットアニメやネットマンガのように、インターネットを利用して展開させていく市場がメインとなっています。ネットマンガ、ネットアニメ、ネットアニメ映画はインターネットを通じて瞬く間にIPを作り出すことができるのが特徴です。

槙田  日本では、その魅力的なIPを下で支えているクリエイター、アニメーターの年収が低いことによって、この業界に参入していこうという人材がどんどん少なくなっていて、将来、制作能力に限界が出てくるのではないかと言われています。しかし、今の日本のアニメーション業界はその答えを見出せないでいます。

先ほど、ゲームと比較するとアニメーションのクリエイターの年収が低いというお話がありましたが、それに対して、アニメーションのクリエイターの年収をあげていくというような、国もしくは北京市の政策はおこなわれていますか?

  今のところはありません。しかし、政府としてはないですが、利益を上げる方法や運営モデルは日本とは異っています。
 

 

日本と中国の収益モデルの違いにも注目



槙田  利益の配分が適切にされているということですか?

  日本の場合は製作委員会がテレビ局にお金を支払って放映時間を買うケースもあるようですが、中国では、テレビ局がお金を出してコンテンツを買うのです。私は日本のマンガ展にいくつか参加したことがありますが、日本は出版を通じても利益を上げる収益モデルですが、中国はプラットフォーム側がお金を出してコンテンツ(ネットマンガ)を買っています。

中国のテレビ局もネットマンガのプラットフォームも、徐々にアニメーションのクリエイターや作者の収入を上げるように取り込んでいます。これらの取り組みで現在の中国のクリエイターやアニメーターの収入はかなり良くなりました。

槙田  日本の方が遅れているようですね。

  私もそうだと思います。
 

 

日本と中国のアニメーション産業が相互に協力して発展していくためには?

日本の人材育成レベルを中国に


槙田  日中のアニメーション産業はどのように協力していけば良いと思いますか?

  私は第1ステップとして、人材の育成がポイントになると思います。

昨年、代々木アニメーション学院を見学させていただきました。先ほどお話ししましたように、中国では500以上の大学で人材の育成をしていますが、この人材が卒業後にうまくマーケットに入っていくためには、まだまだ学ばなければならないところが多いのです。代々木アニメーション学院のように専門的な人材を育てる教育課程はまだ、中国にはありません。

槙田  カリキュラムの開発や充実が中国のアニメーションの学校にはまだなくて、日本のノウハウの部分が中国側には間違いなくニーズがあるということですか?

  はい。中国では仕事をしながらトレーニングをするという育て方なので、代々木アニメーション学院のような、勉強だけに集中するというようなやり方ではないのです。私の見解では、中国にはカリキュラムや人材を育成するメカニズム、システマチックに人材を育成するという部分が不足していると思います。

槙田  中国側が求めているものには、日本の指導者が現地で教えることも含まれると解釈してよろしいでしょうか?

代々木アニメーション学院のような学校が、中国で学校ビジネスをやりたいと思った際に、中国では外資を受け入れてくれるのでしょうか?

  はい。そこに一切の規制はありません。代々木アニメーション学院のような学校は、中国では教育機関ではなく、社会養成機関になります。

槙田  100%の資本で代々木アニメーション学院北京を開いても問題はないということですか?

  一切問題はありません。企業としてのビジネス行為です。

槙田  実写の映画の場合ですと、日本映画界から監督やカメラマンが、中国の大学で教えたりはしていますが、現在、日本のアニメーション業界から北京などの大学に教えに行っているのでしょうか?

  まだ少ないです。
中国の代々木アニメーション学院のような学校は、大学卒業後、会社に入る前の期間を利用して勉強をするところです。生徒たちはすでに基礎ができていて、脚本や美術などについて知識をさらに深めるために、例えば6か月などの期間でトレーニングを受けるという感じです。

槙田  北京でPerfect World(完美世界)さんが始めようとしているCGの学校のようなものでしょうか?

  そうです。
 

 

お互いのマーケットを理解した相互協力が大切



  相互協力についてマンガ出版を例に挙げると、日本の作者が日本では出版して、中国ではネットで配信をしてIPを作り出し、利益を上げることも可能です。ただし、中国版の内容はある程度直す必要があると思います。中国の事情や文化や管理・規定に合わせる必要があるのです。

私は、日本のマンガ家の制作の様子を実際に見たことがありますが、精緻で素晴らしいです。日本のコミックマーケットにも行ったことがありますが、今の中国国内では良いストーリーを作り出せる人材が不足していると思いました。

槙田  中国の大きなマーケットで日本のクリエイターが活躍できる場所を提供することが、結果として相互協力となるのではないかということですね。

本日の劉さんのプレゼンテーションでは、中国の著作権の登録制度の説明がありましたが、日本には登録制度はありません。法律的には中国は日本より著作権保護制度が明確ですが、登録すれば、日本人の著作権も保護されて、作品から生まれる報酬が得られると考えてよろしいのでしょうか?

  はい。日本人の著作権に関してもきちんと保護されます。

槙田  日中の産業同士の協力として現在は、日本のアニメが中国で上映される、あるいは日本のアニメーション会社が中国からオーダーを受けて下請けとしてアニメーションを制作しているという現状のようですが、次のステップはどのように発展していくと思いますか?

  個人的な見解ですが、中国の制作と日本の制作を融合させて、中国と日本の実情にも合う作品を共同で作るべきだと思います。中国はインターネットマンガ・アニメがメインコンテンツで、日本は出版、グッズがメインコンテンツです。これらを含めたクロスカテゴリーの融合もしていくべきだと思います。
 

 

日本のアニメーション業界が中国にビジネスとして進出していくには?

中国市場のニーズを知って積極的に参入を


槙田  日本のアニメーション制作プロダクションが中国へ進出を計画する場合、どのようなやり方をすると、中国でのビジネスがうまくいくと思いますか? 日本のプロダクションの中には中国でビジネスをしたいと思っている経営者がたくさんいると思います。その方たちにどうすればWin-Winの関係でお互いに発展していけるのか、アドバイスをいただけますか?

  中国の国自体や北京地方政府、その下の区や県のいずれもが、日本の企業が中国や北京で投資をしたり会社を作ることを歓迎しています。ただし、市場に入るにあたっては現地の法律法規、文化、市場ニーズについて熟知する必要があると思います。

最初の段階でそれを知り尽くすというのは難しいと思うので、当協会のような団体がいろいろな説明会を開くことで、さまざまな情報を知っていただくことが大切だと思います。今回のようなビジネスマッチングも非常に良い活動だと思いますので、今後もぜひ続けていきたいと思います。

そして次のステップとしては、日本企業のみなさんがどんどん中国に来て、市場を開拓していただきたいと思います。こちらでオフィスを構えるなど市場に参入してきてほしいと思います。

また、中国の永住証(グリーンカード)を取得するという方法もあります。現在、中国全土で8,000しか発券していないことからもおわかりのとおり、中国のグリーンカードは世界で一番取得するのが難しいといわれています。しかし、北京で会社を設立した場合には、グリーンカードを取得することができます。これは中国政府から北京市に許可されていることです。さらに出版分野においては、西城区、徳勝園、豊台区国家出版基地、朝陽区国家出版基地を外国企業に開放していきます。
 

 

中国に進出するなら北京を選ぶべき理由



槙田  上海、広州にも同じような誘致メニューがあるのでしょうか? 北京の優位性を教えてください。

  まず1つ目は出版業への土地の開放です。これは北京だけのメリットです。他の地域の場合、中国側が51%以上の株式を所有という条件があったり、外国企業への土地の開放が禁止されたりしています。

2つ目は興行で、これも北京の順義区国家貿易基地だけが、中央政府から許可されていることです。初音ミクのコンサートもそうですが、ここでしたら興行許可書をとることができます。

槙田  アニメーション産業への措置はありますか?

  この中にはアニメーション産業も含まれています。

槙田  出版という定義の中にアニメーションも入っているのですね。

  はい。その中には興行も含まれています。中国の検閲で制限される分類に入っていないものであれば問題ありません。

日本と中国は違います。日本ではアダルト色の強いものも許されていますが、中国では制限される分類に入ります。そういうものでなければ一切の制約はありません。ただし、先ほども申し上げた通り、これは北京のみのメリットです。

槙田  日本のコンテンツ産業の経営者で、これから北京で頑張りたい人は北京漫画アニメゲーム産業協会にお願いをすれば、アドバイスをいただくことはできますか?

  はい、もちろんです。現在、国家文化貿易基地として5,000平方メートルくらいの場所をすでに用意してあります。ここは、海外展開したい中国企業と中国に展開したい外国企業のために用意した土地です。しかも、空港から5分の場所にあり大変便利です。

槙田  制度的なノウハウのアドバイスもいただけますか?

  はい。できるだけのバックアップをします。私たちの協会にぜひご相談ください。日本企業のためにきちんとサービスを提供いたします。

槙田  それは心強いですね。本日はありがとうございました。
 

 

北京漫画アニメゲーム産業協会(北京动漫游戏产业协会)について

  • 最新のモバイル通信技術とインターネット技術を利用したアニメ、漫画、インターネットゲームの研究開発・制作などを行っている北京市内の企業と北京市の公的機関によって2009年9月に設立された非営利法人。

    協会員である各企業が得意とする技術などの情報を一元管理しているため国内外の企業とのマッチングに長けている。また、知的財産権の保護、紛争時のアドバイスなど広範囲な法的サービスの提供している。

    さらに「北京アニメーションゲーム産業発展報告書」の発行や、大規模なイベントとして有名な「アニメーション北京」では企業間の交流と提携の場を提供するなど、企業へのサービス、政府へのサービス、社会へのサービスをモットーに、北京市のアニメ・ゲーム産業の発展を推進している。国から5Aという最高クラスの評価を得ている組織でもある。

    公式サイト

劉 春剛 LIU Chun Gang
北京漫画アニメゲーム産業協会 副会長、事務局長

  • 北京アニメゲーム産業の促進に努める。
    政府より受託した業務を履行し、また、企業側に立ち、各アニメゲーム企業の要望、発展状況を調査検討し、サービスを提供する。それとともに、政府への提言活動も展開していく。国家・北京市アニメゲーム産業の各種表彰活動を主催する。
    多年にわたり北京市文化創意アニメゲーム産業、及び各区県の関係する審議・考察に携わる。
    2017年「先進個人」(先進的であるとの評価)に選出される。


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