VIPO

インタビュー

2021.02.19


ハリウッド映画音楽監督に学ぶ!GMSが教える音楽プレイスメントのあり方とは
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今後、注目が高まる映像&音楽のシンクロビジネス。VIPOでは、「ハリウッド映画音楽監督に学ぶ!映像&音楽のシンクロビジネスの現状とライセンス攻略法」セミナーを昨年12月に開催。ハリウッド映画業界で活躍する音楽監督組合GMS(Guild of Music Supervisors)から、ジョナサン・マクヒュー氏とジョエル・C・ハイ氏を迎え、米国映画・TV・ゲームや広告に使用される劇伴・音楽ライセンスのビジネスと映像における音楽の効果的な売り込み方法や、サブスクリプション・メディアの拡大におけるシンクロの最新事情などを解説していただきました。今回は実施されたセミナーの内容を再構成したものをお届けいたします。

 

(※2020年12月4日経済産業省「令和2年度コンテンツ海外展開促進事業(コンテンツ関連ビジネスマッチング事業)」の一環として実施されました)


 
◆インタビュイー

(以下、敬称略)

 

ハリウッド映画音楽監督に学ぶ!映像&音楽のシンクロビジネスの現状とライセンス攻略法

 

ミュージックスーパーバイザーの役割とは

GMS(Guild of Music Supervisors/音楽監督組合)の紹介

 

モデレーター 田端 花子(以下、田端)  本日のモデレーターを務めさせていただきます田端花子と申します。今回のセミナーは、以前在籍していたレコード会社での私自身の経験をもとに企画いたしました。
 
当時担当していた日本のアーティストの音楽が、いくつかのハリウッド映画に使用されたことがあり、そのシンクロ料の高さに驚いたり、日本映画の音楽監督をさせていただいたときには、日米のシンクロやスコアの制作の違い、契約の違いを学び非常に勉強になりました。
 
まずは映画やテレビの音楽に欠かすことのできないミュージックスーパーバイザーという職業についてご紹介したいと思います。わかりやすく訳すと音楽監督になるのですが、今回のセミナーではミュージックスーパーバイザー、音楽スーパーバイザー、(以下、MSV)とさせていただきます。
 
アメリカやイギリスなどでは、ミュージックスーパーバイザーの組合はGuild of Music Supervisors、GMSと言われ、毎年ハリウッドではアワードまであるミュージックスーパーバイザー先進国です。今回はそのGMSのプレジデントであるジョエル・C・ハイ氏と、創設者の1人で音楽監督、映画監督、プロデューサーでもあるジョナサン・マクヒュー氏のお2人をお迎えしています。
 
ジョエル・C・ハイ氏(以下、ジョエル)ジョナサン・マクヒュー氏(以下、ジョナサン)  みなさんこんにちは! 今日はミュージックスーパーバイザーについてたくさんのことをお話したいと思います。よろしくお願いします。

 

ジョナサン・マクヒュー氏とジョエル・C・ハイ氏の対談の様子

 

田端  GMSについて簡単にご説明いたしますと、GMSは、NPOとして2010年に設立されました。MSVの認知拡大や、映画監督やミュージシャン、俳優の組合などとのネットワークや情報共有を目的としています。各国と連携して次世代のミュージックスーパーバイザーの育成にも力を入れています。
 
このGMSには、MSVでなくてもゲストとして参加することもできます。ニュースレターやコンベンションなどのさまざまな案内もあるので、ご希望の方には入会方法をご案内いたします。(※お問い合せ先は巻末に記載)

 

GMS(音楽監督組合)

ミュージックスーパーバイザーの主な仕事とは

 

さて、MSVをひとことで言えば「映像作品の音楽にまつわること全てを仕切る人」になると思います。最終的な決定は監督やクライアントだったりしますが、音楽にそれほど詳しくない方々もいらっしゃいますから、ミュージックスーパーバイザーの提案やアドバイスというのは非常に重要です。使いたい楽曲が使えない場合には代案をいくつも用意する必要がありますし、豊富な音楽の知識はもちろん、その楽曲製作の現場も仕切り、アーティストや作家の事務所との交渉、やり取りや事務処理、楽曲使用の権利処理もMSVの責任です。
 
アメリカではシンクロ権が独立していて、シンクロ費用も権利者の指値だったりしますので、交渉やその権利処理が非常に大変で煩雑なんですね。そのうえで予算やタイムラインの管理、また編成の方たちや広告代理店など、あらゆる関係部門とのコミュニケーションをそれ相当の知識を持って行います。楽曲使用の権利処理には、レコード会社や音楽出版社の方々との強力なコネクションや信頼関係も重要なポイントとなるので、本当に多岐にわたる能力を必要としている仕事です。
 
日本では、音楽監督がいますが、このように1人の人間が全部を統括して責任持ってやる職業はまだないと思います。ただこれから全世界的にも非常に需要が増えてくる職種であり、日本でもMSVを目指している方もいらっしゃいます。また実際に海外でやってらっしゃる方もいますので、今後、もっと増えたらいいなと個人的には思っています。では早速お2人に質問していきたいと思います。
 
まず、GMSが音楽業界において貢献していることと、MSVの役割を教えてください。

Guildが音楽業界にもたらした変化、貢献とは

 

ジョエル  MSVという仕事は十年以上も前から存在していたわけですが、Guildが設立される前は、それほど多くの人たちがやっていたわけではありません。またその仕事内容は定義されていませんでした。
 
しかし、みんなが同じようなアイディアを持っているということと、一緒に何かをやっていく必要があることに気付きまして関係者と話し合いました。1番重要だったのはグラミー賞で自分たちの仕事が全く認識されていなかったことに気がついたことです。それはグラミー賞の組合メンバーにもなれないということですから、まずはグラミーの社長に直談判しに行きました。
 
組合メンバーになれないというのは、賞が設定される以前の問題で、この音楽業界で仕事をしているうえではあり得ないことだということを社長と話し、「メンバーになりたい」という思いを伝えてきました。我々の仕事は文化的にも音楽業界の経済的な部分でも力を持っているはずです。その部分に関してもきちんとわかっていただきたい、そういう意味も込めてGuildを設立しました。
 
田端  エミー賞はすでにMSVの賞がありますよね。
 
ジョエル  そうです。エミー賞でテレビにおけるミュージックスーパービジョン*に関する賞が創設されたことは非常に大きなことでした。ジャナサンたちとやり始めたときには音楽監督組合も数十人の規模だったわけですが、このMSVの仕事というものがフィルムや映像の世界でも大きくなってきたわけです。それでエミー賞の幹部の方に、まずはメンバーになりたいと伝え、何年も話し合いを続けた結果やっとメンバーとなり、4年前からスーパーバイザー賞というものが創設されることになったんです。(*ミュージックスーパーバイズする人のための賞)

 

GMS Annual Awards

 

田端  カナダ、イギリス、ブラジル等いろいろな国とも連携を取っているんですよね?
 
ジョナサン  はい。私は数年前に西海岸からニューヨークに移ったのですが、そこで出会ったMSVはほとんどが広告業界にいて、肩書もミュージックスーパーバイザーではなく、ミュージックプロデューサーと名乗っている方たちが多くいましたがやっていることはMSVの仕事です。
 
それを見たときに、ニューヨークはアメリカでも外国と同じ感覚なんだなと思ったわけです。そして我々が西海岸でやっていたことをニューヨークの人たちにも知らせる必要があると考えたときに、海外ではどうだろう?と思ったわけです。 Guildを始めたばかりの頃でしたが、カナダ、英国などいろいろな国の方とのコネクションを使って繋がっていき、Guildがやっていることを一緒にやりましょうと話していくうちに、どんどん輪が拡がっていったわけです。さまざまな国の方たちと一緒に仕事をすると、各国の素晴らしい音楽を知ることができますし、コネクションはとても大事だと思います。それで我々は、北欧、ノルディックの方にもセミナーやショーケースをやったりしているわけです。

MSVとして、重要な役割、大事にしていることとは

 

田端  ではミュージックスーパーバイザーの1番重要な役割とは何でしょうか?
 
ジョエル  私はフィルムプロダクションでミュージックビデオの製作に関わってこの業界に入ったのがスタートでして、そこからMSVになりました。重要な役割といえば、やはり色々なコンテンツの音楽に関わる全てのクリエイティブな部分の総指揮官ではないかと思います。
仕事としては、まずスクリプトを基にどんな音楽が使われるべきかのプランニングをします。そしてそれらを集め、パフォーマー、ボーカル、演奏、コーラスをする人達、ダンスが入れば振付師とも一緒に仕事をしますからカメラに映る音楽におけるパフォーマンス全部の総指揮を務めます。そしてスコアについても作曲家たちとも一緒に仕事をしていきます。新しい楽曲を使うのであればそれに関する権利問題、古い曲であればそれに対するライセンスの権利の確認など、そういったすべての権利関係についても自分達でクリアにしなければなりません。コンテンツとは音楽が関わるすべての映像メディアをさします。映画をはじめ、テレビ、ゲーム、広告、ドキュメンタリーとありとあらゆる音楽が関わる全てにおいて仕切るのがMSVの仕事です。
 
田端  MSVというのはクリエイティブはもちろん、リーガル面においても両方長けていないと務まらないということですね。次の質問ですが、ハリウッドでは音楽の多様性というのは歓迎されるのでしょうか?また新しい音楽やアーティストの発掘、特に外国の音楽の発掘はどのようにしていますか?
 
ジョナサン  まず多様性に関してですが、私達は新しい音楽や文化を知るということに喜びを感じています。だからこそ自分達の知っている世界以外のことに目を向けて、音楽というものを探求しています。それぞれのプロジェクトによって、1番合う音楽、特徴といったものを深く知る必要があります。例えば、サンフランシスコのベイエリアのヒップホップのプロジェクトがあれば、そのベイエリアのヒップホップの上辺だけではなく、地元の人しか知らないようなこと、ルーツなど深いところまで知る必要がありますし、またクラシックアメリカンロックのプロジェクトがあれば、同じく深いところまで追及して新しい音楽をみつけていきます。それは多様性を受け入れるということでもあります。プロジェクトにベストなものを探すことが我々の仕事でありますが、自分達もスポンジのように新しい音楽をたくさん吸収することが大事なんですね。そうすることでMSVとしてもより良い仕事ができるというのが重要ではないかと思います。
 
ジョエル  私もMSVとして2つ大事にしていることは、ジョナサンも言ったようにプロジェクトに関する音楽のジャンル、背景を深く知ることだと思います。例えば最近自分が担当した『Heartbeats(原題)』というプロジェクトはインドの物語でして、インド音楽について深く知ることがまず大事でした。先ほどの話でベイエリアのヒップホップのことを深く知ることと同じですね。楽曲探求は外国の文化を知ることにもつながります。我々が唯一やらないことは作曲ですが、プロジェクトにふさわしい人をコーディネートして作ってもらうわけです。また自分のプロジェクトではないですが、Netflixで配信中の『クイーン・ソノ』というドラマはアフリカ全土の音楽が使われていて、ドラマも音楽もとても素晴らしくて感銘を受けました。いつか自分のプロジェクトでも起用してみたい音楽も見つけることができました。これも発掘のひとつです。私達が喜びを感じるのは、誰もまだ知らない音楽を世界中のみなさんに知ってもらう、そういう機会を作ることです。それが2つ目の大事にしていることです。

サブスクリプションや新しいメディアの台頭によるMSVの仕事の変化

 

田端  モデレーター 田端花子なるほど。ありがとうございました。Netflixのお話がでましたが、今はAppleTV、Huluなどサブスクリプションの時代になって、音楽プレイスメントやMSVの仕事が増えていると思います。その中で変わったことはありますか?
 
ジョエル  やはりオーディエンスを特定しなくて済むということと、世界中の人に見てもらうための労力が減ったことですね。ある一定のターゲットに向けて作ったとしても、その作品には世界中からアクセスされるわけですから、より良い、おもしろい作品を幅広く知ってもらえる機会は確実に増えました。例えばラテンアメリカやアフリカの物語を製作して各国の言語で世界にむけて配信していますから、新しい音楽を知ってもらう機会も増えるわけで、それに伴い音楽の重要性も高まっています。それはMSVとしてもとてもやりがいのある時代になったと思います。
 
田端  サブスクリプションのコンテンツで成功例があれば教えてください。
 
ジョナサン  今までテレビといえば家でみることがほとんどでしたが、今はスマホでもどこでも視聴可能になりました。そこで見聞きした音楽はその場で検索してSpotify等で聴くという流れができています。音楽がテレビのコンテンツと連動、シンクロしていることが日常に浸透しているわけです。テクノロジーの発展が音楽も映画もテレビもどこでも楽しめることでヒットが生まれやすい環境になっています。先日あるうちのMSVが手掛けたNetflixの番組で「アッシュ」というアーティストの曲が爆発的に売れました。なぜかというと、その番組内ではリップシンクしているだけなので、視聴者は楽曲を聞きたくてアクセスしました。またワンダイレクションのナイル・ホーランが参加したその曲のリミックスバージョンがでたことも爆発的ヒットにつながったという例があります。
 
田端  今は、気になる楽曲があったらすぐShazam*して、それをSpotifyのプレイリストに入れて聴くという時代なんですよね。サブスクだけではなく新しいメディアが増えたことで、MSVの仕事は今後どのように変化していくと思いますか?(* Shazamはアップルが保有するアプリケーションソフト。機器に装備されているマイクを使い、短時間のサンプル音から音楽、映画、広告、テレビ番組を特定することができる)
 
ジョエル  MSVの仕事の幅は拡がっています。特筆すべきはゲームじゃないかと思います。「フォートナイト」のようにゲーム上でライブコンサートを行うようなことは、クリエイティブなやり方もできるようになりました。こんなことは今までには想像もしなかったことです。「フォートナイト」や「FIFA」などのゲームでは、映画とは異なり、ゲームの中の音楽をいくらでも変化させることができる。これは20年前では全く予想もしていなかった動きです。やはりこれまではMSVの仕事といえば、映画だけというような意識がありましたから。映画からテレビ、ゲームと扱うコンテンツも拡がってきて、ゲームもインタラクティブでできるようになった。ゲーム音楽を担当してきた人達も、今ではMSVの肩書で仕事をしていて、クリエイティブな部分をリードして発展させていっているわけです。ビジネスの機会も仕事の幅も拡がることで、クオリティも高くなりましたし、そこへの貢献は大きいと思います。

楽曲が作品に起用されるには。-売り込みからライセンスフィーの決定まで―

楽曲のソースと選曲の基準、また売り込みにおけるアドバイス

 

田端  やはり優秀なMSVは監督やプロデューサーから全面的に信頼されていますよね。そういう優秀なMSVにアーティストが自分の作品を売り込む時のアドバイスはありますか?
 
ジョナサン  ジョナサン・マクヒュー氏Guildとしても出来る限り各国のアーティスト達や音楽に関わっている人達とコネクションを拡げていきたいと努力はしていますが、持ち込まれた全ての楽曲を聴くことはやはり難しいです。ですから、MSVに近い関係者にまず提案をしてフックを作ることが大事だと思います。ソングプラガーズとも呼ばれる楽曲のセールスエージェントとつながることも一番の近道かと思います。MSV側もセールスエージェントからの売り込みが一番信頼度が高いと思っています。それは権利元との話がついているということもありますし、メタデータも全てアップデートして持っていますから、こういった楽曲が欲しいという要望にもスピーディーに提供してくれるからです。よって、何か曲を選ぶソースとなるのはセールスエージェントというのが我々の今の流れです。アーティストの方々はセールスエージェントに見つけてもらうためにもオンラインプレゼンスを大事にしてください。自分の作った楽曲全てがオンラインで聴けるようにすること、そしてメタデータも全てアップデートし、プロファイルも公開してSpotifyなど、なるべく多くのサービスで聴けるような状態にしておく。それがやはり第一歩ではないかと思います。
 
田端  そうですね。楽曲のセールスエージェントは独立して日本には存在していないと思うのですが、アメリカでは特にシンクロビジネスの市場規模が大きいので、それだけで仕事が成立するんですよね。
 
ジョエル  さきほどジョナサンが信頼できるエージェントから楽曲を得ることが多いと言ったのは、我々の仕事は数十億ドル規模の大作プロジェクトを抱えたりすることが多いので、そういった場合には権利が100%クリアであるかどうかというのが1番大事です。権利問題がすべてクリアになっていることが前提でエージェントから提供された楽曲が我々としても余計な心配をする必要がないので、頼ってしまうわけです。とはいえエージェントから提供された曲しか聴かないというわけではありません。私達も日々あらゆるソースから音楽を聴いています。その中でも目につくのは、やはり私達のプロジェクトについてリサーチをしてからコンタクトをとってくれる方です。ランダムに自分のプレイリストだけを送ってくるようなメールは無視されてしまいます。どんなプロジェクトを手掛けてきて、今後どういう仕事を抱えるかは、IMDb Pro(Internet Movie Databaseの有料版)を見ればわかることですし、連絡先のインフォメーションも載っています。携わっているプロジェクトがわかれば、売り込み方法もかわってきますから、具体的にコンセプトをもってコンタクトを取ることが大事です。私達もそういう知識がある人と仕事がしたいと思っています。

アメリカのシンクロ権とは。そのシステムや使用料など

 

田端  IMDb Proは非常に有効なソースなのでぜひ活用してみてください。
音楽の権利クリアランスはコンテンツをリリースできるかどうかをMSVが担っているわけですから、責任がとても大きいです。日米のシンクロの違いを簡単に説明しますと、アメリカはシンクロ権というのは独立した権利で、シンクロ費用は権利者の指値となっています。ハリウッド映画やCMなど音楽予算が非常に大きい場合に応じて、シンクロ部分だけオペレーションしてもビジネスが成り立つという市場規模です。それに対して日本ではシンクロ権は独立した権利ではなく録音権の一部として解釈しています。それがJASRACです。このあたりの詳細はJASRACの著作権専門ページがあるのでご覧いただくとして、日本の映画では予算もハリウッドほどないということもあってタイアップ楽曲以外は既存曲を使用するということがあまりありません。例えばハリウッドの映画やテレビでは多くの既存曲や描きおろし楽曲というのが使われていたりしますよね。その辺のシステムや価格、体験談などをお聞きしたいと思います。
 
ジョナサン  まず1番大変だった大きなプロジェクトはFIFAです。200以上の楽曲に関してスーパーバイズしました。最初にやることは楽曲権利のクリアランスのために使用許可を貰い、その見積りを一緒に出してもらうために1枚の申請書にまとめるわけですが、その申請書には楽曲がそれぞれどういうかたちで使われるかも全て書かなければいけません。例えば、一緒に何が映るのか、BGMなのかエンドタイトルとして使われるのか、そしてゲームの最中に使われるのかなど、どういったかたちでどれぐらいの長さで楽曲が使われるのか詳細を全て明記するわけです。その際にはその放映権が北米だけなのか、世界にむけてなのかということも全て書き込みます。そしてその申請書は音楽制作者、出版社、作曲家、レーベル、アーティスト、楽曲に係る権利を持っている全ての人達に対して送られます。そこから見積りを出してもらっていくらかかるのかが決まり、使用が決定するわけです。
 
田端  そういった効率的なワンシートがあるというわけですね。ハリウッドでいえば音楽予算はどれぐらいが平均的なのでしょう?
 
ジョエル&ジョナサン  大作については数十億(ドル)におよぶものもありますが、やはりそのプロジェクトでどれだけの割合で音楽が使われるのか、それにより予算も変わってきます。『ピッチパーフェクト』のように音楽が中心の作品は予算も高くなりますし、アクションやスーパーヒーローものは逆にその音楽を使用する頻度というものが1作品の中にそんなに多くはないので、大作といえども音楽予算は小さいです。ただテーマ曲として壮大に使用されるものであれば規模もかわってくるので、音楽だけの予算でも相当の額です。
 
田端  一番高かったライセンスは何ですか?
 
ジョエル  今までで1番高かった曲はメアリー・J.ブライジじゃなかったかな。作品全般のメインテーマや主題歌、タイトル頭で流れる曲として使う権利料はすごく高いです。記憶にあるのは、コールドプレイで1曲50万ドルぐらいしたのがありました。
 
ジョナサン  私がユニバーサルピクチャーズでMSVをしていたときにカニエ・ウエストをつかいましたが、彼の楽曲はたぶん100万ドルだったんじゃないかと記憶しています。映画の中で使用するのではなくてトレーラー(予告編)で使用された際の費用です。映画の作品自体よりもトレーラーで使う方が実は金額が高かったりするんです。というのはトレーラーのインパクトが強ければ強いほど、みんなが劇場へ足を運ぶきっかけになるということで、そういったインパクトを付けるためにカニエのような楽曲を使うので、予算もそれだけ増えるわけです。
 
田端  なるほど。ミュージシャンや関係各位にとって一番お金になるシンクロはトレーラー使用というわけですね?
 
ジョナサン  はい。トレーラーとテレビコマーシャルは高いです。広告も商品を売るためには重要なスポットだし、我々も出来上がった映像に対してそこで語られるべき物語や込められた感情、メッセージをより良く伝えられるような音楽を選ぶのが仕事なので、選ばれた曲はそのプロジェクトにおいて重要な要素ですから使用料が高いのは当然です。

楽曲使用の交渉で大事なことは作品の素晴らしさを伝えること

 

田端  お金の話ばかりですが、ハリウッドスタンダードがあまりにも高いので、洋楽を日本映画で使うことはほぼ不可能なんじゃないかという意見もあります。でも、不可能ばかりではないですよね。安価でOKしてくれるアーティストもいますし、作品の持つ力やその後の展開部分で上手に交渉するかが大事なんだと思います。
 
ジョエル  ジョエル・C・ハイ氏Guildとしてこの仕事をしていく上で大事にしたいと常に思っているのは、我々がこれを生業としているのは音楽をすごく価値のあるものだと考えているからであり、やはり音楽が大好きだということ。そして音楽を作るアーティストたちに対する敬意をとても強く持っているということです。このことは仕事をするうえで絶対に忘れちゃいけないなと思っています。もちろん予算はありますが、その人が作り上げたアートを使用させてもらうということに対してそれ相当の料金を支払ことは当然のことだと思います。価値あるものには値段はつきものです。音楽はサブスクでいつでもどこでも簡単に聴けるので安く使えるんじゃないかと思う人もいると思います。それは接触が簡単になっただけで、クリエイティブなもの、アートにかわりありません。ミュージシャンが作り出したアート、そしてディレクター、監督達が作り上げる作品にシンクロすることで、よりエモーショナルな場面や感動を作りあげる。それが我々の仕事ですから、それが叶った時が一番嬉しい瞬間です。インディーズのように予算が低くても、アーティストに対して、使用されることの価値、このシーンで使うからこそ、音楽が光るという話ができるような作品を提案して一緒に作っていくことを大事にしていきたいと思っています。
 
ジョナサン  その流れでいうと、私がスーパーバイズをしているドキュメンタリーの作品において、新人のバンドがカバーする曲として、音楽業界トップのロックスターに超有名曲の使用許可のお願いの手紙を書きました。作品のバジェット自体がとても低く、1曲1500ドルで許諾をもらわないとその曲は使えないのですが、それでも既にMost Favored Nation(=最恵国待遇:複数の権利者と条件交渉する際、最も良い条件に合わせるルール)としてメタリカやX-JAPANのYOSHIKIの楽曲の使用許可をもらっているんです。あり得ないぐらい低い金額だから、偉大なロックスターにそんなお願いをするのも失礼は話なんですが、それでもどうしてもこの楽曲を使わせてほしいと、相手を説得するために作品の素晴らしさを伝えることも大事な仕事なんです。
 
田端  補足説明しますと、Most Favored Nationsというのは最恵国待遇で印税配分しているので、メタリカやYOSHIKIさんが1500ドルでOKしてくれたから、その大物のアーティストもOKしてくれないと全員の金額があがってしまうんですよね。
 
別の質問ですが、JASRACみたいにオーガナイゼーションにサインしていないアーティスト、楽曲管理をしていないアーティストのライセンスはどうしたらいいのでしょうか?
 
ジョナサン  何かしらの管理団体と契約する方が話が早いと思います。権利問題が全てクリアになっているマスターを自分で持っていて、問題が今後起きないというサインができればいいですが、プロジェクトごとにだす申請書にひとつでもブランクがあれば、不安要素は取り除くしかないので、やはり管理団体と契約しておいたほうがいいと思います。
 
田端  わかりました。ありがとうございます。次にハリウッドのスコア、劇伴の音楽製作の違いについても彼らはよく知っていることなので、少し触れたいなと思います。スクリーンに合わせてオーケストレーションを演奏し録音する方法ですが、日本でも昔はゴジラとかこういうかたちでフルオーケストラで演奏していました。今はなかなかできないようになってきていますが。ハリウッド特有な映画の劇伴製作とはどういうものでしょうか?

 

オーケストラ録音
画像参照:https://scoringsessions.com/

 

ジョエル  大規模なプロダクション、特にアニメーションでのスコアというものはやはりオーケストラを使うものが多く、予算としてもすごく大きいものになります。オーケストラでレコーディングをする際は60~80人のプレイヤーが一つの部屋に集まって一度に録ります。その際指揮者が一番の要で、指揮者が映画のスクリーン、シーンを観ながら、そのシーンに合わせてプレイヤー達を指揮していきますが、映画の楽曲というのは本当に一瞬のニュアンスやその時の感情を、適格にビートやリズムなどに合わせていかなければいけないので、すごく繊細な作業が必要なわけです。ですから普通のオーケストラの方とまた別に、劇伴演奏のオーケストラとしてのトレーニングが必要になります。演奏家の人もそうですし、エンジニアの人達も映画の劇伴製作に合ったスキルというものを要求されるわけです。
 
田端  なるほど、わかりました。とても興味深いお話をありがとうございました。
今後については、将来的にはGuildのMSVの方々と日本の方とのワークショップを実施できたらと思っていますので、今後のVIPOからのお知らせをチェックしてください
 
ジョナサン  カナダのワークショップではMSVの役割だとか仕事内容そのものを紹介し、カナダ国内のMSVの仕事の地位向上に貢献しました。イギリスやメキシコ、ラテンアメリカでも色々とワークショップをやっていますので、日本のMSVの立場にある人とも繋がりたいです。仕事の輪を拡げて、いろんな国のレーベル、アーティスト、マネージャーの方達とネットワーキングできるようなことも日本でやりたいですね。それにはやはり英語ができるかどうか、紹介する楽曲も歌詞が英語かどうかということも重要になってくるかと思います。
 
ジョエル  このコロナ禍以前はカナダや北欧の人たちをLAのスタジオに呼んでセミナーを開催したり、MSVの人たちとのディナーをセッティングしてコネクションを作ってもらったりと、有意義なイベントをGuildでは行っていました。またそのようなイベントも日本の方ともできたらいいなと思っています。様々なテーマのオンラインセミナーも毎週おこなっていますので、よかったら参加してみてください。2021年2月19日、20日には大きなオンラインシンポジウム*が開催されますし、そして2021年4月11日にはクインシー・ジョーンズを迎えて、MSVの授賞式が予定されています。オンラインでご覧になれます。Guildのサイトでメンバーになっていただければ、視聴が可能です。Guildの正会員になると、色々なベネフィットが利用可能になりますので、ぜひサイトを訪ねてみてください。今日はセミナーにご参加いただきありがとうございました。
(*記事の公開時にはシンポジウムは終了しております)
 

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Guild of Music Supervisors公式サイト


 
【お問い合わせ】
特定非営利活動法人映像産業振興機構(VIPO)
グローバル事業推進部
E-mail:matching@vipo.or.jp 担当:風岡
 
 

Jonathan Mchugh ジョナサン・マクヒュー氏

Jonathan Mchugh ジョナサン・マクヒュー氏
GMS(Guild of Music Supervisors)創設者、理事/ Song Stew Films プレジデント

  • プロデューサー、監督、音楽監督として多岐にわたる映画、ドキュメンタリー、TVシリーズで多くの賞を獲得。New Line CinemaでサウンドトラックのVice Presidentを、JIVE/Sony そして Island/Def Jam/Universalではビジュアル・メディアのVice Presidentを務める。音楽監督として80以上の作品に、プロデューサーとして30以上の作品に関わる。ドキュメンタリーではX JAPANの『We are X』、『X Japan Live at Madison Square Garden』、『Snoop Dogg’s Hood of Horror』、ジャニス・ジョプリンの『Janis: Little Girl Blue』等をプロデュース。

 

Joel C High ジョエル・C・ハイ氏

Joel C High ジョエル・C・ハイ氏
GMS(Guild of Music Supervisors)プレジデント/ Creative Control Inc CEO

  • ハリウッドを代表するミュージック・スーパーバイザー。
    ライオンズゲート社、トライマーク社で長年ミュージック・スーパーバイザーを務める。音楽監督代表作は『クラッシュ』(アカデミー賞受賞)、『ソウII』、『チョコレート』など。

 


 
 


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