VIPO

インタビュー

2020.07.14


香港貿易発展局の東京事務所長に直撃! 今、知っておくべきコンテンツビジネスにおける香港の活用方法
中国の中でも独立した文化や考え方を持つ香港は、中国のみならず世界への架け橋として世界中から注目されています。共同製作や協業を行うにあたり、数多くの実績を持つ香港と日本のコンテンツ業界はどのようにつながると効果的なのか? 香港を活用する具体的なメリット、新型コロナウィルスで変化した展示会の形、さらに今年8月には初のオンライン開催で行う「香港フィルマート」等について香港貿易発展局東京事務所長の伊東正裕氏、マーケティング・マネージャーのヘンリー・リー氏にVIPO初のオンラインインタビューを実施しました。(取材日:2020年5月11日)

 
・香港貿易発展局公式サイト 公式サイト:http://www.hktdc.com/info/ms/jp/Japanese.htm

(以下、敬称略)

 
 

日本人は香港人に愛されている

香港のコンテンツ産業の基礎「映画ビジネス」はどのように発展したか

輸入・輸出双方をプロモートする香港貿易発展局
 
VIPO専務理事・事務局長 市井三衛(以下、市井) 香港貿易発展局の紹介をお願いします。
 

office
香港貿易発展局 東京事務所

香港貿易発展局 東京事務所長 伊東 正裕(以下、伊東)  香港貿易発展局の設立は1966年です。まだイギリスの植民地だった時代に海外貿易を促進するために作られた政府系機関です。日本では1971年に東京事務所、1981年に大阪事務所を設立しました。ジェトロ(日本貿易振興機構)さんに非常に似た組織ですが、異なる点は、通常、貿易振興というと他国への輸出促進がメインですが、香港貿易発展局の場合、貿易に関しては輸出・輸入双方向でプロモートしているところです。
 
日本の事務所では、香港のモノを日本へ、日本のモノを香港経由でアジアや中国へ輸出プロモートしています。かつては、形ある(プロダクト)ものの貿易促進がメインでしたが、最近ではサービス、即ちコンテンツや物流や金融など無形物の貿易促進も担っています。
 
香港貿易発展局は現在、世界50カ所の事務所に1,000名の職員がおり、メインの事業は香港で開催する国際展示会や国際会議に世界中から人を集めることです。
 
市井   非常に大きな組織ですね。
 
伊東  もとは政府系の組織だったので補助金で運営されていました。今は半官半民になり自分たちで国際展示会や国際会議を開催し、そこで得た収入で海外の事務所の運営をしています。私たちのサービスは基本的には誰でも使えるものなので、会員制ではありません。
 
市井  誰でも利用できる方が、窓口も広がりますよね。伊東さんの自己紹介をお願いします。
 
itou伊東  私は1960年代の生まれで、子どもの頃に父の仕事の関係で香港に住んでいました。2006年に香港貿易発展局に入局してからコンテンツ関係のプロモーションの仕事にも関わるようになりました。
 
私が小・中学生だった1970年代に、ブルース・リーが『燃えよドラゴン』(1973)でデビューしました。その頃から映画に興味を持ちはじめ、その後もサモ・ハン・キンポー(香港出身の映画俳優、映画監督、アクション監督、脚本家、映画プロデューサー)などのカンフー映画が好きでよく見ていましたね。
 
市井  ありがとうございます。ヘンリーさんも自己紹介をお願いします。
 
henry香港貿易発展局 マーケティング・マネージャー ヘンリー・リー(以下、ヘンリー)  私は大学で国際関係を専攻し、2011年に新卒で入局してから日本語の勉強を始めました。2017年に大阪事務所へ赴任、2018年5月に東京事務所へ転任し、現在、サービス産業のプロモーションを担当しています。
 
市井  香港貿易発展局に入ってから日本語の勉強を始められたのですか?
 
ヘンリー  そうです。入局後、新卒生に対して1人1外国語を習得させる制度があり、日本語を学ぶ機会をいただきました。
 

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香港ブックフェア

日本との関りが深い、香港のコンテンツ産業
 
市井  香港のコンテンツ産業の概要を教えて下さい。
 
伊東  規模は、映画の興行収入が2019年は約20億香港ドル(約290億円)でした。日本の映画産業は、約2,600億円と聞いているので、香港の興行収入は日本の約10%です。人口比で考えると香港720万人、日本1億2000万人ですから、人口当たりのウエイトは日本に比べて高いと思います。公開本数が年間353本(2018年)ですが、そのうちの1/3くらいがアメリカ映画です。アメリカが131本、次いで日本は68本で第2位です。日本映画を観ている人が非常に多いと言えますね。
 
DVD、CDなど視聴覚関連商品の輸出額は6億2000万香港ドル(約90億円/2017年)となっていて、主にアジア向けの輸出が多いのが香港の特徴です。
 
テレビ局は地上波3局、ケーブルテレビ2局、その他6局。チャンネル数は地上波9チャンネル、ケーブル421チャンネルとなっています。
 
香港は、もともと地上波が少ないので、ケーブルテレビやネットを見ている方が多いようです。
 
市井  ゲームはいかがでしょうか?
 
ヘンリー  もともとゲーム文化は日本から香港に流れてきたものです。2018年の香港市場のゲーム機本体の売上第1位は、近年世界中でも大ヒットしているNintendo Switchで、日本のゲームソフトやアプリも若い方に非常に人気があります。

ブルース・リーでブレイクした香港映画ビジネス
 
市井  先ほど少しブルース・リーのお話も出ましたが、すごい人気でしたよね。
 
伊東  流行りましたよね。ヌンチャクものが多かったですよね。
 
市井  そのようなことも含めて、香港映画ビジネスの発展の状況を教えていただけますか?
 
伊東  1949年に中華人民共和国が成立した際に、上海から香港に逃げてきた繊維産業の富裕層の方たちが作ったインフラや人材が基礎となり、映画産業を興してきたと言われています。
 
香港でメインとなる映画会社はショウ・ブラザーズ社とMP&GIという2社で、ルーツは上海人です。香港は広東省と思われる方が多いかもしれませんが、産業によっては上海の影響が大きいということですね。
 
中国は社会主義国家になってから、しばらく映画を作ってはいなかったと思いますが、香港で中国語の映画が作られて発展してきたという歴史があります。
 
市井  香港のコンテンツ産業を語る上で、一番の基盤となるのが映画ビジネスと聞きますよね。
 
伊東  はい。そしてブルース・リーが登場したんです。今有名なツイ・ハーク(徐克)監督、アン・ホイ(許鞍華)監督は、ブルース・リーのカンフー映画の時代後のニューウェーブと言われています。
 
日本でもジャッキー・チェンの映画がブームになりましたが、90年代はウォン・カーウァイ監督がレスリー・チャン、トニー・レオンなどの俳優を起用して映画産業そのものを発展させてきました。
 

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香港「アベニュー・オブ・スターズ」にあるブルース・リーの銅像

日本のコンテンツを香港で作品化した成功例『頭文字D』モデルとは
 
市井  テレビ局の発展に関してはいかがでしょうか?
 
伊東  1967年に香港最大のテレビ局TVB(無線電視)が開局され番組製作もしていましたが、製作力が弱く、輸入番組に頼っていました。その中に、多くの日本のドラマ/アニメ/ヒーローものの吹き替え番組などがありました。現在はバラエティ番組やドキュメンタリーも放送されています。
 
伊東氏その後、マンガを香港で実写化する試みが行われるようになりました。一番代表的な作品は2005年のマンガ『頭文字D』(イニシャル・ディー)です。日本ではテレビアニメにはなりましたが、実写映画化は技術的に難しいと言う理由でされていませんでした。
 
それを、『頭文字D』の大ファンだった香港の『インファナル・アフェア』シリーズの製作陣が、日本の権利者と交渉を重ねて実写化しました。この作品が香港で大ヒットしたんです。さらに主演男優が台湾の有名歌手だったので台湾でもヒット、華人華僑つながりでアジアでもヒット、中国本土でもヒットしました。そして最後日本でもヒットしました。
 
これはいいモデルだという話になり、当時、経済産業省のメディアコンテンツ課の課長が、「これからコンテンツの国際化は、『頭文字D』モデルを踏襲してやっていこう」と言っていたくらいです。
 
『頭文字D』モデルは、香港の映画製作陣主導で作られて成功した好事例ですが、それに続く作品が出てこないのが今のジレンマですね。
 

世界中から良いモノが集まる香港をいかに活用すべきか

香港における日本・韓国・中国のコンテンツは?
 
市井  今は、K-POPが世界を席巻していますが、日本のコンテンツと比較するといかがでしょうか? 
 
夜景伊東  香港は韓国コンテンツを好きな方も多いですよね。
 
ヘンリー  香港では、以前より日本以外のコンテンツの人気が高まっています。ただ、アニメは日本が不動の一位です。若い世代から年配者まで、宮崎駿監督の作品や『ONE PIECE』は圧倒的な存在です。最近ではアニメ『鬼滅の刃』やアニメ映画『天気の子』もとても人気があります。
 
韓国コンテンツも人気が高く、特に最近ではバラエティ番組が人気ですね。韓国の斬新なバラエティ番組ショー『Running Man』の放送が開始されたことで、香港だけでなくアジア地域全体の心を掴んだと思います。
 
伊東  私たちが主催している「香港フィルマート」でも感じることは、韓国は国をあげて自国のコンテンツをプロモートする意気込みがすごいということです。そこは日本とは違うと感じます。
 
香港は世界中の良いものが集まってくる場所なので、非常に鑑識眼、良いものを見分ける力があります。「香港で受け入れられればある意味本物だ、世界どこでも通用する」と香港の方が言っていましたし、私もそうだと思います。
 
アニメや漫画は世界的に見ても韓国よりも日本が上ですが、音楽はK-POP人気の方が上だと思います。
 
市井  中国コンテンツの場合、中国産アニメが中国国内ではかなり人気だと聞きましたが、香港ではいかがですか?
 
ヘンリー  香港では中国産アニメはそこまで人気はないと思います。香港には世界中のコンテンツが集まってくるので選択肢がたくさんあります。その中からストーリーはもちろん映像や表現の描写等々、さまざまな面で魅力的で面白いコンテンツが選ばれるのです。日本アニメは、昔から放送されてきた歴史もあり、中国産オリジナルより、なじみのある日本のアニメの方が人気が高いです。
 
伊東  無条件に「日本のものは良い」と思ってくれている部分もあると思います。
 
市井  そういう意味では、香港は中国本土の方とは少し違う特殊な位置づけになるのでしょうね。
 
伊東  「一国二制度」ですから、やはり香港と本土は違うと思います。中国であって中国ではないというところが、香港の強みであり特徴ですよね。
 

 

香港の活用方法と華僑ネットワークの重要性
 
市井  私たちが若い頃は香港をゲートウェイにして、中国本土へコンテンツが入っていくのが常套手段でしたよね。今は中国本土に直接行く方々が増えている中、香港の位置づけは変わってきていますか? 日本のコンテンツホルダーは、香港をどのように活用すれば良いと思いますか?
 
伊東  中国側の海外に対する規制が緩和されていることは事実です。ただ、香港をうまく活用することによって、中国事業がやりやすくなる一面も見逃せません。
 
対談の様子 例えば、中国と香港間にはCEPA(セパ、Closer Economic Partnership Arrangement)というEPA(経済連携協定)が結ばれており、例えば日本企業が香港でサービス産業の現地法人を作ると中国国内で内国民待遇が受けられたり、中国では外国映画枠が年間約30本と決まっていますが、香港との合作映画の場合は外国映画としてカウントされないというメリットがあります。サービス産業の中でもコンテンツ産業は香港に拠点を持ったり香港の企業とパートナーシップを結んだりすることで中国本土での事業がやりやすくなります。
 
市井  約1年半前にタイやシンガポールなどアジアのコンテンツ企業をまわったのですが、華僑の方たちのネットワークを通じて中国へ入る方が、直接入るよりも早いのかもしれないと感じました。香港も同様でしょうか?
 
伊東  先ほど申し上げたのは制度の話ですが、人的なつながりやネットワークも大変重要です。世界中にいる華人・華僑は、一番多い説だと人口にして8,000万人にのぼると言われています。東南アジアもそうですが、華人・華僑特有の血縁や地縁をベースにした人同士の繋がりつまり人的ネットワークの中心であることが香港の大きな強みです。
 
そういう意味では、香港の後背地は広東省だけではなく、華人・華僑人口が多いオーストラリアや東南アジアにも広がっていますので、360度後背地があると考えれば、その影響力や波及効果は計り知れないものがあると思います。
 

中国との契約を香港経由ですべき理由
 
市井  日本人が中国で仕事をするときに、契約書に対する考え方などの違いが問題になることもあるようですが、香港人の考え方は違うのでしょうか?
 
伊東  香港人は民族としては中華系ですが、長くイギリスの植民地だったため、歴史的に世界中の方々と交わってきました。いわば西洋的価値観と東洋的価値観のハイブリッドですから、非常に洗練されたセンスを持っています。加えて、“日本びいき”ですので、日本人や日本文化、日本の習慣についても良くわかっています。従って、香港人とのコネクションをうまく使って中国事業を行うと、先ほどの契約の問題などもクリアしやすいことは言うまでもありません。中国のことも日本のこともわかっている香港人を間に挟むことによって、想定外のトラブルの回避や問題解決がしやすくなると思います。
 
市井  香港は中国の一部ですが働いている方は西洋的な考え方に近いですよね。
 
ヘンリー氏ヘンリー  契約に関してですが、日本が中国本土と契約を結ぶときに、香港を契約地とすれば、両国間での調整がし易くなると思います。中国と香港は別々の司法制度を有していますし、香港には国際弁護士事務所もたくさんあります。実際に世界のトップ弁護士事務所上位100所の半分以上が香港に事務所を構えていますので、中国本土と中国以外の取引先の契約にもスムーズに対応ができるのです。
 
市井  日本のコンテンツ企業が中国で共同製作や作品を出そうとすると、ライセンスアウトも含めて中国と直接コミュニケーションをすることになります。その結果中国のやり方でやらざるを得なくなっているのだと思います。その中でどのように香港という場所を活用したら良いと思いますか?
 
伊東  直接コミュニケーションすることの難しさは今後10年、20年は変わらないと思います。ですから香港をワンクッションとして活用することで、色々なことをスムーズに回すことが中国事業を成功させる秘訣といえるのではないでしょうか。一方で、中国サイドからすると香港や台湾を絡めなくてもいいという考えの人もいるでしょうし、中国自体が発展して規制緩和が更に進む可能性もあると思います。
 

海外展開を考えたらまずは香港から
 
市井  コンテンツ業界の方々がどのように香港という場所/企業/展示会などを活用していく形が良いのでしょうか?
 
伊東  先ほども申し上げた通り、香港は“日本びいき”の方が多く、中国本土との間で制度的なメリットもあり、華人・華僑とのネットワークで世界中と繋がっています。
 
伊東氏これはコンテンツ産業に限った話ではありませんが、海外に何かを売っていこうと思ったら、その第一歩は距離的にも心理的にも近い香港からがいいと思います。香港に出ていくことによって、中国本土や世界各地に広がっていくチャンスがありますので、そういった香港の持つゲートウェイ機能を有効に活用してもらいたいと考えています。
 
ヘンリー  香港では、日本のコンテンツは私の親の時代から人気があります。今の香港は他国に比べると日本以外のコンテンツもものすごく入ってきていますが、互いが共感できることを探していけば、チャンスは大きくあると思います。
 
また、去年大ヒットした『コンフィデンスマンJP』や映画『おっさんずラブ』の2作は香港で撮影されましたが、香港の東洋と西洋が混じり合った洗練された街の風景で撮影された作品は他にもたくさんありますし、逆に香港のテレビ局が日本のローカル局の番組を撮影することもあると聞いています。私の個人的な意見ですが、現在の香港は単独でコンテンツを作るより、他国と一緒に取り組む傾向(合作の増加)があると思います。
 

 

 
伊東  ロケ誘致に関していいますと、日本各地の地方自治体が海外からの映画撮影地としての誘致活動に力を入れていて、私どもの「香港フィルマート」にご出展いただくケースも増えてきています。香港からに限らず、世界中の映像関係者にロケ地として使ってもらいたいと。このような動きは、地方のフィルムコミッションと地方自治体が共同でやっているケースが多いのですが、そういった支援も今後はしていきたいと思っています。
 
市井  香港貿易発展局はどのように絡んでいくのでしょうか?
 
伊東  「香港フィルマート」に「ロケーションワールド」というロケ誘致に特化したゾーンを設けています。
 

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香港フィルマート「ロケーションワールド」ゾーン

香港との共同製作と補助金制度

香港に期待する中国映画産業
 
市井  共同製作の現状はいかがでしょうか?
 
伊東  中国本土で公開された香港の作品は、2018年は20本でした。そのうち17本が共同製作、トータルの売り上げが97億元(約1,480億円相当)で全体の17%くらいを占めています。中国側から見ても香港の重要性は変わっていないと思いますし、中国大陸のトップ10の映画のうち3本は香港との合作映画です。
 
市井  それはすごいですね。
 
伊東  中国側も香港が今まで培ってきた映画のノウハウやネットワークに期待している面があると思います。中国自体も力をつけてきたので自前で映画製作はできるようになってきていますが、香港のもつ国際性やネットワークなど今まで培われてきた製作のノウハウ、ポストプロダクションも含めて期待するところがあるのではないでしょうか。
 
先ほどご説明したCEPA(香港と中国間で結ばれている自由貿易協定)ですが、2020年6月から改定されて、今まで課せられていた色々な規制が撤廃される動きがあるようです。
 
市井氏市井  それはどうしてですか? 
 
伊東  実情に合わせているということもあると思います。あとは、GBA(グレーター・ベイ・エリア)という香港とマカオと広東省全体の9つの都市を一体化していくという国家計画もあるので、新型コロナウィルスが蔓延しなければもっと早くに香港を活用して広東省に事業を展開していくビジネスモデルがたくさん出ていたはずなんですよね。
 
市井  アメリカの企業が香港をうまく活用して中国に入っているケースもありますか?
 
伊東  アメリカやヨーロッパにとっては、香港は英語が通じる場所というメリットがあります。香港貿易発展局に入って世界中の事務所長が集まる会議でわかったことは、欧米の方が見る香港と日本人が見る香港は使い勝手の良さや役割や期待が全く違うということでした。P&Gやモトローラなどの大企業は自社で中国の事業をしていますが、大手でない企業は、ヒト・モノ・カネに限りがありますので、かなり香港のプラットフォームを活用しています。
 

海外からも使える香港の補助制度
 
市井  香港のコンテンツ関連の国の政策/サポートについて教えていただけますか?
 
伊東  香港の政府系の組織で映画産業の発展や人材育成、中国含めた海外展開を支援する「香港映画発展局」という機関があります。その香港映画発展局が提供するさまざまなファンディングサービスは、海外企業からの申請も受け付けています。最終的には、審査に通らなければなりませんが、政府が映画産業の振興に対して金銭的支援をしているのが特徴です。
 
2007年に設立されて、これまで36の作品に対してトータル1億737万香港ドル(約15~16億円)の融資を行っています。実際に融資を受けて作られた映画の36作品中20作品が海外の色々な映画祭で賞を獲っています。
 
市井  中国と香港の合作や日本と香港の合作という意味ではなく、あくまでも香港の映画産業の発展のためということですよね。
 
伊東  そうです。そもそも映画を作るには資金が必要ですよね。大手企業でなくても審査に通れば融資が受けられます。その作品が海外の賞をとればリターンが得られる、いわば投資という考え方だと思います。
 
市井  香港で開催される香港貿易発展局主催の展示会に海外から出展する場合、香港政府より助成金が出るというお話もありますね。
 
伊東  はい。香港政府が2020年4月から2021年4月末までの13カ月間、香港貿易発展局が主催する展示会に出展する団体・企業に対して、助成金を出すことになりました。香港企業だけではなく、海外の企業にも一律的に助成金を出すのですが、1社最大約14万円相当の補助額になります。1コマの出展に約40万円お金がかかる場合、補助額の14万円は即引きで請求書の金額から控除されます。日本の助成金の場合は、まず全額自分で立替払いをした後で、補助額が返金されるというしくみになっていますが、香港は請求書の金額から14万円を差し引きますので、後から返金申請をするなどの煩雑な手続きは不要です。
 
8月26日(水)~29日(土)にオンラインで開催することになった「香港フィルマート」でもパッケージを用意しています。いろいろ調べると日本も海外の展示会へ行くための補助金制度はたくさんありますよね。東京都中小企業振興公社の補助金とセットで使うと割安で海外の展示会に出られるんです。
 
現在の状況が改善されて積極的に香港行けるようになったときには、ぜひ香港と日本、双方の補助金を利用していただきたいと思います。
 
市井  リアルな展示会に行くときが条件ですよね。
 
伊東  そうですね、オンラインの展示会は今のところ対象外です。
 

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香港フィルマート2019

オンライン/リアル対応が求められる展示会と「香港フィルマート2020」
 
市井  今、色々な展示会ができなくなってしまっていますよね。先程お話された日本のコンテンツ業界にとって大切な「香港フィルマート」をはじめとしたイベント開催は、どのようになっていきますか?
 
伊東  香港貿易発展局では、今年の1月までは通常通りにイベントを行っていました。しかし新型コロナウィルスの影響で今年の2月、3月開催予定だった展示会は全て延期になりました。7月からは再開することになっていますが、仮に香港で無事に展示会が開催できたとしても海外の方々がどのくらい出展できるのか、買い付けができるのかが今の時点ではわかりません。
 

香港インターナショナル・ジュエリー・ショー
香港インターナショナル・ジュエリー・ショー

市井  コンテンツは、リアルの方がいいとは思いますが、オンラインでもなんとかなりますよね。日本も、少しずつ動き始めるとは思いますが、今までのように自由には海外に行けないと思うんです。リアルの展示会とバーチャルのコンビネーションになっていくと思いますが、香港貿易発展局としてはどんな動きがありますか?
 
伊東  香港貿易発展局の最大の強みは、リアルとオンライン両方の展示会のプラットフォームを持っていることです。ただ、リアルの展示会に行けるのであれば、皆さん補助金が使えるリアルの展示会に行きたいですよね。
 
市井  私たちはJ-LODという海外展開する人のためのサポートをしていますが、今はみなさん海外に簡単に行けなくなってしまっているので、オンラインで参加する費用も対象にすることを検討中です。
 
伊東  「香港フィルマート」はJ-LODと香港政府の補助金を組み合わせて使うとかなりお得ですよね。
 
JLOD市井  はい。香港政府の補助金ではトップオフされるのが大変いいですよね。補助金が引かれた金額の請求書に関して、J-LODが半分サポートする形が取れます。
 
伊東  今回、VIPOさんには「香港フィルマート」セミナー(2020年7月16日開催)の機会をいただいたので、リアルでのコロナ対策やオンラインでの方法など、いろいろご説明をさせていただきたいと思っています。
 
市井  ぜひ、有効に使ってください。「香港フィルマート」の参加者の方には香港の助成金とJ-LOD の両方をうまく活用していただきたいですね。
 

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香港フィルマート「ジャパンパビリオン」

香港から見た、日本のコンテンツ業界のこれから
 
市井  香港の方は“日本びいき”とおっしゃってくださいましたが、アメリカのコンテンツが強いことには変わりなく、他国のコンテンツも伸びていると思います。その中で日本のコンテンツ業界に対するアドバイスはありますか?
 
伊東  冒頭にも申し上げましたが、官界が積極的に出ていく姿勢を見せたほうがいいと個人的には思っています。日本が“ものづくり”の輸出を増やしてきた時代は、通商産業省がかなり重要な役割を果たしてきました。とりわけ、韓国と比べると、コンテンツに関連するライセンス産業など、国としてやっていこうという政策がクリアに見えにくいのではないかと私は思います。
 
市井  コンテンツクリエイターとして、気をつけることはありますか?
 
対談の様子伊東  海外へ行くことに今一つ積極的になれないとしたら、言語や文化の壁があるのかもしれません。
 
香港人は、日本人も好きだし、日本のコンテンツ好きな方が多いので、もっと積極的に出ていけばビジネスがもっと発展するのにと思います。
 
ヘンリー  日本の方には意外と思われるかもしれませんが、近年話題になったドラマに『半沢直樹』や木村拓哉主演の『グランメゾン東京』がありました。今まで日本へ行ったことがある香港人も、今まで見たことがない日本の部分が見られるドラマだと非常に人気を集めました。
 
市井  日本人は気がついてないけれど、新しい可能性があるということですね。香港の方たちは、ごく最近の日本のコンテンツから「まだまだ知らない日本を発見できる」余地があるということですね。
 
伊東  ドラマ『半沢直樹』は積極的に売りに出たわけではないのに流行ったんですよね。
 
ヘンリー  誰でも職場には嫌な上司がいると思います。その共感と今まで見たことがない日本を見せられたことが魅力になったと思います。『万引き家族』も日本の裏世界を世界中のみなさんに見せたことが、ヒットになった要因の一つだったと思います。
 
伊東  面白いと思ったのは、『半沢直樹』の舞台となったメガバンクの企業風土は日本独特の世界かと思っていたのですが、香港の人たちからも共感を呼んだ、つまり嫌な上司の存在は万国共通で、どこにでもいるということがわかった点です。もともと、日本では、それが世界で理解されると考えて作ったわけではないとは思いますが。
 
ヘンリー  私の周りの友人は、『半沢直樹』の中の日本の職場の雰囲気をきちんと理解していました。作品を通じて今まで世界の人が知らなかった日本の部分や職場の文化を、アジア地域へアピールしていけば韓流のように世界中に広がっていくのではないかと考えています。
 
伊東  最近顕著なのは、ヘンリーのように日本好きの香港人が増えてきているということです。2019年の訪日香港人は約230万人。最大の契機は、香港人が訪日するのにビザが不要なったこと、円安もひとつの大きな要因です。香港にない雪、スキーなどのレジャーや温泉を体験しに来る人が非常に増えました。そして、体験すればするほど日本のことが好きになってくれる人が増えているように見受けられます。気恥ずかしい話ですが、特に最近、「日本人は香港人に愛されている」と感じることが多くなりました。
 
市井  それは日本人としても大変うれしいことですね。「まだまだ知らない日本」のコトを魅力あるコンテンツとして発信できるということも新鮮でした。日本のコンテンツ企業の方々には積極的に香港を活用して世界に出ていただきたいですね。
本日はありがとうございました。
 

ズームでの対談の様子

 
 

伊東 正裕 Masahiro ITO
香港貿易発展局 東京事務所長
NPO法人 日本香港協会 理事

  • 兵庫県出身。1985年味の素株式会社入社、家庭用・業務用食品の国内営業、海外マーケティングを担当。1990-1996年、味の素(香港)出向、2000-2006年、味の素(中国)出向(広州・上海駐在)を含め、約14年間にわたる中国関連の業務経験を有する。2006年7月より香港貿易発展局に転じ、マーケティング・マネージャーとして食品・農水産物、コンテンツ、デザイン各産業の貿易振興を担当する傍ら、中小企業の香港・中国進出に際してのコンサルティング/アドバイザリー業務に従事。2007年5月東京事務所次長、2012年1月大阪事務所長、2018年3月より現職。香港貿易発展局の東日本における事業統括責任者として、静岡県、長野県、新潟県以東の中央省庁・地方行政・企業や関係機関の海外展開支援に尽力している。1988-1989年、台湾師範大学に留学し北京語習得、広東語・英語にも堪能。英国レスター大学経営学修士(MBA)。農林水産省輸出倍増リード事業委員、近畿経済産業局「関西のクリエイティブ産業を考える会」委員、宮城県食品輸出協議会参与、札幌市「東アジア食品輸出エキスパート養成講座」講師、沖縄国際航空物流ハブ活用推進事業戦略検討委員会委員、沖縄県アジア経済戦略構想推進・検証委員会委員、同観光・MICE振興専門推進部会副部会長、石川県海外経済戦略連携調整会議専門委員などを歴任。

ヘンリー・リー Henry LI
香港貿易発展局 マーケティング・マネージャー

  • 香港生まれ。2011年ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)国際関係学部卒。同年、香港貿易発展局に幹部候補生として入局。香港で開催される食品・ワインの展示会をはじめ、日本デスクおよび金融サービス推進などの部署勤務を経て、2017年7月より大阪事務所、2018年5月より東京事務所勤務。日本と香港間の包括的な貿易振興に加え、金融・物流をはじめサービス産業のプロモーションを統括している。


 
 


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