VIPO

インタビュー

2019.12.02


大きなポテンシャルのある東南アジアにいかに挑むべきか?
――AFA*創設者ショーン・チン氏が語る、日本企業の強みと弱み、他国の戦略から学ぶこと
*SOZO社が2008年から開催

 

>>〈前編〉東南アジア基本情報(セミナーより抜粋)>>〈後編〉日本のコンテンツも市場に寄り添い現地のファンがアクセスしやすい環境を作るべき(対談)
AFA(Anime Festival Asia)や各種J-POPカルチャーイベント等を10年以上にわたり運営し、日本と東南アジアとの接点を作ってきたSOZO社の代表ショーン・チン氏。東南アジア(特にシンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン)でのエンタメビジネス(アニメーション、音楽、ゲーム関連業界)の現状、そして、セミナー後には日本のコンテンツ業界の課題と可能性について語っていただきました。

(以下、敬称略)

〈前編〉東南アジア基本情報(セミナーからの抜粋)

東南アジアは中国大陸とオーストラリア大陸の間の11ヵ国のことを示し、人口は合計で約6.5億人、東ティモールを除く10ヵ国がASEAN加盟国。主要6ヵ国である、シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムに東南アジアの経済の95%が集中している状況。GDPは2008年の150兆円から2018年には284兆円まで伸び、直近の10年間でほぼ倍増。特にインドネシアは非常に高い成長率を誇り、ここ10年間で約36%以上の伸び率で、約100兆円以上のGDPを産出。主要6ヵ国の経済規模は2020年までには世界で5番目になるということが予想されている。

 

1)シンガポール共和国

シンガポールは多民族国家で、主に中華系、マレー系、インド系の3民族で構成されている。公用語は英語で、その他母国語としてマレー語、中国語、タミル語等がある。学校では英語で教育され、各家庭では両親の母国語を話すため、生まれつきのバイリンガルという方たちが非常に多い。人口の約84%の方がインターネットを利用。インターネットの利用者のうちほぼ9割以上の方が何らかのSNSを利用。同じく約9割以上の方がモバイルフォンを利用。使用デバイスの普及状況は、スマートフォン、タブレット、PC、TV、アップルウォッチ等のウェアラブルのデバイス。SNSでは、Facebookが非常に強い。YouTube利用率も非常に高い。チャット系アプリでは、WhatsApp(ワッツアップ)がダントツに強い(日本ではLINEが強い)。昨年度の検索ワードのトップ10では、世界中で話題になったことを検索する傾向が非常に強い。例えばiPhoneX、スタン・リー、昨年話題になった『アベンジャーズ』など。

 

2)インドネシア共和国

公用語はインドネシア語、バハサ語といわれる現地の言葉を公用語として使用。人口は日本の約2倍の推定2億7000万人。インターネット普及率は人口比の約56%(前年比15%)。今後も、インターネット人口が伸びていくことが予想される。インターネット利用者のほぼ100%の方がSNSを利用。約95%の方がモバイルフォンでインターネットを使用している。Facebookの使用率が非常に高く、YouTubeの利用者も大変多い。Instagramも非常に人気がある。チャット系のアプリは、WhatsAppとFacebook Messengerが非常に高いシェアを持っている。各々の嗜好に合ったチャットアプリを利用していることが想定できる。検索ワードは、エド・シーラン、K-POPのBLACKPINK、その他の歌やテレビ番組等、エンターテインメントについての検索が多い。このことからインドネシア人がエンターテインメントに関して非常に高い関心を示していることがわかる。

 

3)タイ王国

公用語はタイ語。人口は約7000万人。インターネット普及率は、人口の約80%以上。SNSの利用状況も非常に高く、約9割が利用。モバイルフォンを利用したネット利用が95%以上おり、約97%の方が何らかのモバイルデバイスでインターネットにアクセスしている。シンガポール、インドネシア同様に、Facebookの利用が非常に多く、YouTubeの利用率も非常に高い。チャット系のアプリは、東南アジアでは唯一LINEの使用率が非常に高く、Facebook Messengerの利用率も、LINEに次いでいる。検索ワードは、タイでは国産のテレビドラマの検索が非常に多く、このことからタイの方は国産のエンターテインメントに関して非常に高い関心があることが見て取れる。

 

4)マレーシア

公用語はマレー語。人口は約3200万人。インターネットの普及率は80%以上で、そのうち97%の方がSNSも並行して利用している。マレーシアも他の国同様、モバイルフォンでのインターネットへのアクセスが非常に多い。SNSは、Facebookの利用率が非常に高く、チャット系のアプリは、WhatsAppの利用率が非常に高い。検索ワードは、昨年度マレーシアで実施された選挙の影響からか政治関連のものが非常に多く見て取れた。その他、ブラックパンサー、アメリカの映画等。

 

5)フィリピン共和国

公用語はタガログ語と英語。フィリピンは非常に英語の通じる国。人口は約1億700万人。インターネットの普及率は、人口の7割。来年度、もう少し伸びると予想。インターネット利用者はSNSもほぼ同様に利用。90%以上の方がモバイルフォンを利用したネットアクセスを行っている。Facebook、YouTubeが非常に高いシェアで利用されており、チャット系のアプリはFacebook Messengerが非常に高いシェア。検索ワードは、ゲームに関するものが非常に多く、ゲームに強い興味を持っていることがわかる。

 

6)ベトナム社会主義共和国

公用語はベトナム語。人口は約9700万人程度。インターネットの普及率は66%。今後の伸びが予想される。SNSは約9.5割の方が利用。多くの方がモバイルフォンを使っている。Facebook、YouTubeの使用が非常に高い。他国との違いは、ベトナムの電子企業が提供するチャット系アプリZaloというサービスが主に使われていること。検索ワードは、スポーツに関する検索が非常に多く、スポーツに対する関心の高さを示している。韓国ドラマの検索もトップ10に入っており、ベトナム国内で韓国ドラマの人気が高いということがわかる。

 

7)6カ国のまとめ

インターネット利用者は全6カ国で約3億7700万人(人口の約65%)。3億7700万人は、アメリカの全人口よりも多い。スマホ経由でのアクセスは95%以上で、たくさんの方がモバイルフォンを利用している。SNSはFacebookの利用者が非常に多く、広告等のプラットフォームとして東南アジアでは1番効果的と思われる。検索ワードの結果によって、各国ごとに趣味趣向の違いが少し見えてくる。

〈後編〉日本のコンテンツも市場に寄り添い現地のファンがアクセスしやすい環境を作るべき(対談)

東南アジアで発展するサービスと各コンテンツの状況
 
VIPO専務理事 事務局長 市井三衛(以下、市井)  本日のセミナーには、東南アジアにご興味をもっている方々がたくさん集まりました。話足りない部分もあるかと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。
 
SOZO Pte.Ltd. 創業者・代表取締役 ショーン・チン(以下、ショーン)  東南アジアマーケットの可能性を感じていただいてとてもうれしいです。今後どのように接していくべきかをお話しさせていただきたいと思います。私は日本の多彩な文化に惹かれ、約10年前にSOZOという会社を立ち上げました。10年前と比べ、今の日本企業は、日本発のコンテンツのグローバル展開に大変興味を持っていると思います。
 
市井  東南アジアのコンテンツ市場で特に発展しているものは何ですか?
 
ショーン  インターネットの利用率に着目するならば、モバイルファーストの市場です。Googleの調べによると、東南アジア地域ではYouTubeを視聴する際に最も使われるデバイスがモバイルフォン、スマートフォンです。これは近年デバイスの価格が低下し、現地の方も気軽に購入できるようになったことが1つの要因です。そしてこの地域におけるYouTubeの視聴者の約半数以上は、週に10時間以上をYouTubeで消費するヘビーユーザーだという調査結果がでています。
 
●SVODなど
 
市井  YouTube以外にそのような映像サービスはありますか?
 
ショーン  東南アジア地域では大小合わせて数多くのSVODのプロバイダーが存在していて、サブスクリプションやVOD市場で新たなサービスが次々と出てきています。NetflixやAmazonに親和性がありますが、東南アジアではローカル向けのサービスを展開しているサプライヤーやプロバイダーが多くいます。
 
ユーザーは各々の嗜好に合った複数のプロバイダーを利用しています。アニメのコンテンツを提供しているNetflixはシンガポールなどでは大人気ですが、インドネシアでは価格設定の問題などもあり苦戦しているようです。
 
東南アジアのアニメのファンは現在のところ、非常に限られたアクセスでしか日本のアニメを合法的に視聴することができないため、海賊版も多く横行しています。
 
市井  海賊版に対する対応などはしていますか?
 
ショーン  多くの作品の流通を行う、台湾のミューズ社が開始したサービスは、合法的にライセンスを購入し、視聴者へ無料でアニメを配信するプラットフォームです。YouTubeで最新のアニメを無料で公開することにより、IPの紹介とを露出を行い、マーチャンダイズのグッズ販売を伸ばしていくというのが戦略です。これは海賊版撲滅にも非常に大きな役割を担うと思います。
 
また、タイの携帯電話サービスでは、日本のコンテンツを含むビデオストリーミングサービスを無料で視聴することができます。動画サービスに対する個別課金ではなく、携帯電話のパッケージに付加価値をつけてお客様に提供するというビジネスモデルです。
 
●ゲーム
 
市井  東南アジアのゲーム業界はどのような状況ですか?
 
ショーン  スマートフォンの普及に伴いスマホゲームの利用率が急成長中です。ゲーム業界の市場規模は約4600億円。そのうち約65%が課金から成り立ち、毎年20%以上の増加が見込まれています。この著しい成長を見込んで、来年から世界三大ゲームイベントのひとつ、Gamescomの「Gamescom Asia」がシンガポールで正式に開催されることが決まりました。また当社でもこの成長著しい市場に対して、先ずはインドネシア最大級となる総合ゲームイベント IGS(インドネシア・ゲーム・ショー)を来年の6月~7月頃にジャカルタにて開催する予定になっています。
 
●K-POP
 
市井  東南アジアでもK-POPは人気なのでしょうか?
 
ショーン  中国政府が韓国文化の露出を規制した、いわゆる「限韓令」から3年が経った結果、現在東南アジアではK-POPが席巻しています。これは韓国エンターテインメント業界が、中国の代替市場として東南アジアに比重を置いてプロモーションを実施した結果だと思います。
 
インドネシアでは毎月のようにK-POPのスターたちがコンサートを開催しています。例えばBLACKPINKというガールズグループはワールドツアーで実施した31公演のうち、タイ、インドネシア、フィリピン、シンガポール、マレーシアの5ヵ国で約9万人を動員しました。特にメンバーの1人がタイ人ということもあり、タイでは1日約1万人を動員して3日間開催しました。チケットが平均で約15,000円なので、1公演のチケットセールスだけでも1億円以上稼ぐビックコンテンツになっています。この金額感はインドネシア、ジャカルタでも同じです。
 
ここに日本のコンテンツも割って入りたいところですが、日本は国内マーケットが大きいため、アーティストや制作会社は、まだどうしても海外展開に注力しにくい傾向はあると思います
 
●ストリーミングサービス
 
市井  CDが売れない現在、ストリーミングサービスの発展が著しいようですが、東南アジアではどのような状況ですか?
 
ショーン  シンガポールやフィリピンでは欧米系のSpotify、タイ、マレーシア、インドネシアでは中国のテンセントが提供するJOOXが非常に高いシェアを占めています。JOOXは、現地の音楽や現地語での配信など、ローカライズしたサービスを提供しており、各国の需要をピンポイントで見極めて展開している状況です。


 

6ヵ国のコンテンツ市場環境(国別)
 
ショーン ここからは各国の国別の市場環境のトピックスをご紹介します。
 
1)シンガポール
・映画:興行収入は約150億円規模。日本の劇場作品では、アニメやマンガ原作、その他ジャニーズのタレントが出演する映画が主流。最近ではマンガ原作の『キングダム』が公開。
・デジタル市場:Facebook等での広告が非常に伸びてきている。
・音楽:2017年に過去5年間で最高の売上を記録。CDやレコード等の売上は下がる一方、オンラインのストリーミングサービスが台頭したことにより記録的な売上を残している。
・ゲーム:政府が特に力を入れており、積極的に投資をしてクリエイター等を育成している。
 
2)インドネシア
・映画:国として外資の規制を撤回し、映画の制作・配給において、100%外資による流通が可能に。
・デジタル市場:依然、テレビ広告が非常に力を持っているが、Facebookの広告市場も伸びている。
・音楽:インターネットユーザー1億5000万人のうち約4割がストリーミングサービスを利用。
・ゲーム:人口が多いのとスマートフォンの普及率が上がっていることから、今後特にスマホゲーム市場としては東南アジア最大級の市場になり得る。
 
3)タイ
・映画:国産の映画がやや低迷し興行収入も下がっている。ただ『君の名は』が爆発的にヒットしていることから配給会社も特に日本のコンテンツに前向きな姿勢。
・デジタル市場:FacebookとYouTubeの利用率が非常に高いが、JOOX(ストリーミング)というアプリが特に高いシェアを獲得。
・ゲーム:今非常に伸びている。
 
4)マレーシア
・映画:インドネシア同様、国として特に現在力を入れている市場。日本の作品自体の興行は多くないが、ホラー映画と日本のコンテンツに対する需要はまだまだ安定的にある。
・音楽:海賊版が出回っている状況で売上規模は約30億円程度。
・ゲーム:国内でゲームの開発が非常に盛んで、RPGやアクション系のタイトルが特に人気。
 
5)ベトナム
・映画:政府が力を入れた2011年以降、外資系の参入により映画市場が大きく拡大。
 
市井  今後、東南アジアでより発展が見込める市場は何でしょうか?
 
ショーン  デジタル市場に大きな可能性があります。今後6~7年の間で現在の約7.8兆円の市場規模から26兆円まで成長すると見込まれています。オンラインメディアも今後6~7年で現在の1兆円の市場規模から3兆円規模になると予想されます。eコマース、物販などのオンラインメディアの可能性は、我々エンタメ業界にいるものとしては非常に魅力的に感じます。なお、東南アジアでは決済も含む全ての取引がオンライン上で完結するシステムが構築されてきており、マーケットの伸びに遅れないように、我々もなるべく早くこの市場に参入すべきだと思っています。ただ、あまりにも急成長する市場に、ビジネスにおける環境整備が追い付けていない部分もあります。
 
市井  環境整備の話が出ましたが、例えばどのような整備が必要ですか?
 
ショーン  フィリピンやインドネシアの税関は、複雑な手続きに手間と時間がかかり、効率的な輸送ができないこともあります。インドネシアでは今年再選された大統領のトップアジェンダとして、この複雑なルールを整理し、海外の投資より得やすいシステム構築に重点を置いています。
 
その他の国でも海外からの投資を得るために同様の取り組みに励んでいます。日本でもニュースになりましたが、日本のコスプレイヤーがマレーシアのイベントに出演したときに、主催者側がアーティストビザを取得しておらず、移民局がイベントに踏み込み逮捕されたことがありました。このことから複雑な手続きを代理で行うパートナー選び、並びにリサーチは、非常に重要だと思います。
 
市井  プラットフォームなど、この先どう変わっていく必要がありますか?
 
ショーン  東南アジアの市場は現在急速に成長しており、市場の成長に合わせた戦略が確実に必要です。モバイルファーストの市場では継続的なプロモーションが重要です。日本コンテンツはとても人気が高いのですが、アクセスしづらいという部分が問題だと思います。
 
K-POPを例にとると、YouTubeやFacebookに非常に力を入れていて、アクセスしやすいコンテンツとしてプロモーションを展開しています。まさに身の回りのすぐ手に届くところにあり、気がついたらいつの間にかファンになってしまう環境ができています。日本のコンテンツも市場に寄り添い、現地のファンがアクセスしやすい環境を作るべきだと思います。タッチポイントを増やし、見たい時にいつでも周りにあるという状況を作り、日本のコンテンツを好む方のコミュニティを構築できれば、K-POPやチャイニーズカルチャーにも負けない市場を構築できると思います。


 

コンテンツの事例紹介——東南アジアの成功の鍵
 
市井  日本のコンテンツはどのように東南アジアで展開していくべきですか? そしてどんなバリューを持っているのでしょうか。
 
ショーン  日本のコンテンツが東南アジアでマーケットを獲得できるポテンシャルは高いですが、その一方で中国のビジネスプレイヤーも積極的に東南アジアを攻めています。
 
『モバイルレジェンド』という中国製のモバイルゲームがあるのですが、現在大人気で、東南アジア競技大会「SEA Games」というイベントではメダル種目にもなっています。人気になった理由は、インドネシアの神話に基づく「カチャ」というキャラクターを作り、現地の声優さんを採用したことにあります。インドネシアのマーケットを熟知しているからこそ、ユーザーにアピールできる有効なプロモーション手法だと思います。
 
『モバイルレジェンド』は、最初から東南アジアの複数の国をターゲットにした戦略で作られていますので、このように最初からグローバル展開を考えているというのがトレンドといえます。
 
市井 そうなのですね。各国の海外版の開発過程や体制はどのようになっているのでしょう?
 
ショーン 日本の企業の場合、デベロッパー、パブリッシャーとなるパートナー会社に委託し、そこで制作・運営していくケースが多いですが、先程の『モバイルレジェンド』では、彼ら自身でパブリッシャー、デベロッパーとなり、独自に直接東南アジアの各地へ進出しています。そこでスピードの差が出てきます。
 
市井  そのようなローカライズしたセールスがやはり重要でしょうか?
 
ショーン 各国の言語に対応させる単純ローカライズはもちろん、マーケットに合わせたローカライズ戦略はセールスにとても影響すると思います。ローカライズといえば、2015年にシンガポールで行った『ガンダム』の35周年記念イベント「GUNDAM DOCKS」での事例を紹介します。その年はちょうどシンガポール建国50周年記念にあたり、シンガポールの旗の色に基づいた限定コラボプラモデルを販売したところ、1日で在庫の半数以上が売れてしまいました。ローカライズ化を図ることによって爆発的なセールスを生み、その人気を高める1つのファクターとなりました。こういうことがローカライズの1つの成功例かと思います。
 
市井  タイにも「AKB48」の姉妹グループがありますよね? それもやはりローカライズによって可能性が広がっていますか?
 
ショーン  そうですね。タイ、バンコクで日本のコンセプトをローカルタレントで複製した「BNK48」が活動しています。「会いに行ける国民的なアイドル」というコンセプトが、タイでも大成功しています。アイドルの売り出し方、プロモーションの方法も日本風にしたことが現地でも通用したことは、大変な驚きですし、突出するファクトでしたね。CDを買うことで握手会などのファンミーティングに参加できるおかげで、昨今のCDが売れない時勢に大量に売れました。日本でも流行った楽曲『恋するフォーチュンクッキー』のタイ語版を作ったところ、タイ中どこでも流れている状況でした。
 
市井  それは驚きですね。日本的だったからウケたのか、それとも斬新さがウケたのか、何か共通するスピリットみたいなものをタイの方が感じたのか気になります。この成功を受けて「BNK48」のように日本のフォーマットを使い、ローカルの事務所がローカルのアーティストを同じパターンで売り出すことが増えてきているのではないですか?
 
ショーン  そうですね、これ以降、このような「BNK48」のビジネスフォーマットを模倣したスタイルで追随するグループが数多く生まれています。日本が海外マーケットでローカライズ化していくのに“リスク”や“チャレンジ”が必要なことは理解できますが、それをしないと受け入れられないことも理解する必要があります。さらに言うと、今、他の国々のコンテンツも含めて、海外に向けてチャレンジするスピードがとても速いので、日本が二の足を踏んでいればそこのエリアを取られてしまう可能性があります。
 
●音楽マーケット
 
市井  「BNK48」の話題が出たので、東南アジアの音楽マーケットについてお聞きしたいと思います。
 
ショーン  音楽のマーケットについて、東南アジアはグローバルのトレンドと同じ状態です。日本における海外のコンテンツのシェアは低いですが、日本のコンテンツはまだまだ海外に展開できると思うので、継続した視野でコンテンツを海外に持っていくことが大切です。
 
●アニメ映画マーケット
 
市井  日本のアニメ映画は東南アジアでも上映されていますか?
 
ショーン  10年前はシンガポールで年間2、3本しか上映しておらず、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムの映画館でもアニメ映画はあまり観れない状態でした。その後、当社が2010年の「AFA(Anime Festival ASIA)」でもアニメの映画の上映を行い、それ以来シンガポールのアニメ映画マーケットが順調に成長しました。人気のタイトルは、『NARUTO -ナルト』、『ONE PIECE』、『名探偵コナン』などで、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ブルネイの上位4ヵ国の総売上を足すと、すでに香港、台湾を超える作品も出てきています。アジアのマーケットは香港、台湾に限らないということです。
 
市井  日本カルチャーのコンテンツの強さはどこにありますか?
 
ショーン  メイドインジャパンにはポジティブなイメージがあり、電気製品に限らず日本発の商品、コンテンツもクオリティが良い印象があります。“メイドインジャパン”であるということがすでにアジア人の中では“プレミアム感”を持っています。日本は独自の文化を持っていますが、アジア人が共通で認識できる文化をそこに内包しています。アジア人がリスペクトしやすいものを元々持っているので、その部分にもっと気づくべきです。
 
市井  その“プレミアム感”とはどういうところにありますか?
 
ショーン  例えば日本だとラーメンは1杯800円ぐらいですが、シンガポールで同じブランドのラーメンが約倍の1,800円です。日本の食品、商品、コンテンツはまず“良質”なイメージがあり、西洋のコンテンツよりアジア人に受け入れられやすく、共有できるストーリーがあるのが1つのセールスポイントです。
 
フロンティアという点では、常に日本のコンテンツが最先端にいます。アニメの世界では常に新しいコンセプト、アイデアやテーマがあり、とてもわかりやすいです。私は小さい頃からガンダムシリーズのファンでしたが、40年後の今もガンダムシリーズは続々と新しい作品が出ており、これは簡単にはできないことだと思います。こだわりと誇りを持ってパーフェクトを求めるという証だと思います。このことは世界中にも認識されていて、日本のクリエイターが尊敬されるところだと思います。
 
市井  シンガポールは東南アジアといいながら少し特殊なマーケットという感があり、東南アジアを代表していないのではないか? という感じもします。例えば日本のコンテンツを東南アジアに持っていく場合、その国用にカスタマイズする必要は出てきますか?
 
ショーン  最初のテストカントリーとして、シンガポールは1番適しています。東南アジアのビジネスに慣れてない方に“フィーリング”(現地での手応え)を感じていただくには最適だと思います。
 
一方で、東南アジアをひと括りで考えるのはちょっと難しいと思います。言葉も違いますし、コンテンツの販売や展開の戦略も違うと思います。例えばマーケットの規模ではインドネシアは非常に大きいので、インドネシア向けにローカライズするのは戦略として正しいと思います。その反面シンガポールに対してもそれをすべきなのかというと、マーケットサイズからするとそうではないと思います。コンテンツの質、内容、ターゲットによってローカライズの幅というのを考えるべきで、全てのコンテンツに関連する方々が国内だけではなく、グローバル化に関しても意識を持っていただくということが非常に重要です。テクニカル的にどう実践していくかというのはまた次のステップになります。
 
また、マーケットには「単品(アラカルト)とビュッフェ」というコンセプトがあります。さまざまな企業と力を合わせて、一緒に海外に行って多種多様なコンテンツを見せるというビュッフェスタイルの機会を作る必要があると思います。多くのコンテンツを共通のプラットフォームを用いて訴求していくことも重要だと思います。


 

SOZOが提供できるサービス
 
市井  SOZOさんがやっているいろいろなイベントがありますが、それに参加するためには、まずは何をすればよいでしょうか?
 
ショーン  「これから海外で事業を展開したいが手法がわからない」という方々にお勧めしたい3つのステップがあります。
 
第1ステップ:まず東南アジアの国に行ってみて、そこの状況を自ら見て体験してください。シンガポールが1番のお勧めですが、その理由としては国として安全でビジネスの環境が整っているからです。
 
第2ステップ:次にセールスプロモーションや具体的な戦略に落とし込むことです。現地でのライセンス、ビザ、税金、売上の回収方法などさまざまな課題もクリアする必要があるので、第2ステップでは、課題点などを1つずつ解決していくということです。そして適切なパートナーを選ぶことも重要な事項であると考えています。
 
第3ステップ:最後に中長期的な少し長めのビジネスプランを立てること。日本製コンテンツはよく韓国製のコンテンツと比べられますが、私から見ると日本製コンテンツは国際的な競争の舞台において、まだ本気を出していない状態だと思います。日本のコンテンツがこれからさらにグローバル展開を加速させていけば、戦略次第では世界の舞台に立つことができると思います。
 
市井  フリーで視聴できるモデルと、料金を回収するようなモデルとでは、どちらのビジネスモデルの方が伸びていくと思いますか?
 
ショーン  課金の有無については、コンテンツの環境や戦略によって変わってくると思います。一概に無料化といっても先にお話しした、ユーザーがアクセスしやすい形でコンテンツを無料視聴化し、そこからマーチャンダイズ化を行い、グッズ、イベント等から回収するという方法の他、ユーザーからの直接課金ではなく現地のプロバイダーや通信会社との連携によるビジネスの構築の仕方もあると思います。
 
重要なことはマネタイズやビジネスの戦略またはブランディングの視点から、
コンテンツを市場でどのようにマネジメント(展開管理)していくかということだと思います。
何もしないのは、非常にもったいないことだと思います。
 
東南アジアでは海賊版の問題がまだあるので、正規版コンテンツを観れる戦略的な環境構築を通して、認知度を拡大することがビジネスチャンスを高めるひとつの方法として良いと思います。
 
市井  東南アジアでアイドルグループを売りたいと思った時に、まずどこの国に行くのが良いのでしょうか。普通に考えたらタイなのかもしれませんが、インドネシアの方が人口も多いですし、タイよりも経済成長していると思います。それでもタイの方が“オタク気質”があるとか、マインド的な理由で良いということでしょうか?
 
ショーン  タイ、インドネシアというのは、東南アジアでもトップ2に入る、アイドル文化が根付いている国なので、そういう意味でこの2カ国を攻めた方が良いと思います。
 
市井  実写コンテンツ、ライブアクション型のコンテンツのマーケットの可能性はありますか? 可能性があるとすれば、地域ないしプロモーション、戦略においてどのような展開をすれば東南アジア諸国に浸透することができますか?
 
ショーン  韓国ドラマが市場を席巻している現在は、テレビ放送が主要プラットフォームでしたので、話数の問題がマーケット的には大きな問題だったかと思います。しかしデジタルフォーマットが主流になりつつある中、テレビの尺や話数などのハードルが低くなったことにより、クオリティや内容、プロモーションによる現地への訴求という部分が非常に重要になっています。現地にどうやって寄り添うのか? コラボレーションのかたちも大事になると考えています。
 
市井  日本は国際的な競争の舞台にそもそもまだ立っていないのですね。状況はよくわかりました。今回のお話を踏まえて我々VIPOも海外展開の支援により一層力を注いでいきたいと思います。本日はありがとうございました。


 

 
 
 

ショーン・チン Shawn CHIN
SOZO Pte.Ltd. 創業者・代表取締役

  • 株式会社電通 シンガポール マーケティング部門在籍時に、日本のエンターテインメント業界と出会い、日本文化並びに日本のポップカルチャーへの情熱から、2009年にSOZO Pte. Ltd.を創業。AFA(Anime Festival ASIA、現C3AFA)を世界有数のジャパニーズポップカルチャーイベントに育てる。今日では東南アジアにおけるジャパニーズポップカルチャーのサポーターとして、多くの講演や取材実績がある。


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