VIPO

インタビュー

2019.09.18


<デジタルコンテンツの配信最前線> 映像と音楽。デジタルコンテンツの配信プラットフォーマーのTOPが、今後の展望を語る
>>〈第一部〉「誰もがストレスなく自己表現によって生きられる世界を作りたい」
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二氏
>>〈第二部〉「世界における音楽業界の進化と日本の市場とは」
アマゾンジャパン合同会社 デジタル音楽事業本部事業本部長 レネ ファスコ氏
>>〈第三部〉前田氏、ファスコ氏、市井によるパネルディスカッション
東京ビッグサイトで開催された「コンテンツ東京2019」にて「デジタルコンテンツの配信最前線」をテーマとした特別講演(4月5日)が行われ、前田 裕二氏(SHOWROOM株式会社 代表取締役社長)と、レネ ファスコ氏(アマゾンジャパン合同会社 デジタル音楽事業本部事業本部長)のお2人が登壇いたしました。講演ではVIPO専務理事・事務局長の市井三衛のモデレーターのもと、パネルディスカッションも行われ、約1400人の来場者に向け、2社の今後の戦略や日本コンテンツの海外展開の話も交えながらコンテンツ配信ビジネスの未来についてお話いただきました。その内容をまとめたものをお送りします。
(以下、敬称略)

「誰もがストレスなく自己表現によって生きられる世界を作りたい」
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二氏

視聴者にアイデンティティーを持たせることが一番効果的

 

SHOWROOM』の配信サービスは、配信映像が画面全体の3分の1程度しか占めていないことが大きなポイントであり、視聴者の方が見たい”映像の部分”ではないエリアに視聴者が参加できる仕掛けを作り”、視聴者のアクションをコンテンツに連動させ、視聴者が能動的に参加できる仕組みをサービスの面白み・強みとしているのが特徴だ。その結果、『SHOWROOM』は日本の動画配信サービスの中でもアプリベースの収益がトップとなっている。視聴者数という”幅”だけでなく、視聴者と演者のつながりといった”深さ”を大事にしているのが、『SHOWROOM』の最大の特徴といえるだろう。

 

『SHOWROOM』が行うコンテンツ配信サービスの3つのポイントとは

 

ポイント1:”リアルタイムに特化する”ことによって、ユーザーと演者の一体感を醸成
現在、デジタルコンテンツの配信はいつでも好きな時に消費をすることができるのがあたり前である。私たちは、配信サービスやサブスクリプションサービスに登録して自分の好きな時にオンデマンドで見たり聴いたりしている。しかし、『SHOWROOM』はリアルタイムに特化してあえて”不便性”を持たせている。例えば、アーカイブは一切ないため、19時から20時の配信を見られなかったら、基本的にその人はその配信を2度と見ることができない。

なぜ、ユーザーの利便性を損ねて(不便性を優先させて)までリアルタイムに特化しているのか? それは『SHOWROOM』というサービスが提供している付加価値が「利便性」ではないからだ。「我々が提供している価値は、機能ではなく意味。双方向で演者とユーザー(視聴者)が同じ時間を共有しているという一体感や、そこから生まれるインタラクション、それらがもたらす演者とユーザー間の濃い関係性や絆など、一言で言うと、共感という”意味”を提供しているのが我々のサービスの特徴です。」と前田氏は語る。『SHOWROOM』は”リアルタイムに特化する”ことによって、ユーザーと演者の一体感を醸成している。

ポイント2:視聴者のアイデンティティや行動を可視化してエンゲージメントを最大化する
『SHOWROOM』が注目されるようになったきっかけは、視聴者が配信者に「スター」や「ダルマ」などの「バーチャルアイテム」と呼ばれるアイテムを、バーチャル空間上で投げ込むことができるマネタイズの仕組みだ。この仕組みは、今までになかった新しい収益化の方法を作りだした。
「このマネタイズ手法の感覚に最も似ているものとしては、ストリートパフォーマンスでしょうか。あれをインターネット上に持ってきたという考え方です。感動を与えてくれたパフォーマーに対して、感動を受けた聴衆が、感動の度合いに応じて対価を支払う。ギターケースにお金を入れていくわけですね。この仕組みをインターネット上に作れば、演者が見てもらえる人数のN値も、現実世界とは桁違いになる。この仕組みを普遍的に存在させることで、全ての表現者の可能性を思い切り広げたかった。」と前田氏は話す。これら目的をかなえるためのギミックとしてSHOWROOMは、視聴者の存在や行動をサービスインターフェース上で可視化。それによって演者に紐づくファンの熱量・エンゲージメントを最大化していったという。これが2つ目のポイントである。

ポイント3.:『SHOWROOM』上で「ストーリーが創出」される仕掛けを散りばめる
「ストーリーの創出」のための仕掛けはいくつもあるが、『SHOWROOM』上で開催される「レコード会社からのメジャーデビュー」「大きな会場でのライブコンサート」「テレビや映画への出演」「アニメの声優」などのオーディションは、その大きな部分を占める。
『SHOWROOM』は「パフォーマーが日々ここでファンを増やして、人気者になろうと頑張っている。そこで人気者になれるとメジャーの世界に出ていくことができる。」と前田氏は話す。

「トップのクリエイターや演者の方の中には大きな売上を立てている方もいて、これをインターネット上のライブ空間で実現していることを私たちとしては誇りに思っていますし、もっと広げていきたいと思っています。」と熱く語る前田氏には演者たちへの愛がある。生まれ持った才能、運や縁を持っていない人でも、人気者になりたいと後天的に頑張ることによって、ストーリーが生まれ、ファンがつき、応援をされて、メジャーデビューすることもできる。大きな金額を生み出し、ファンベースを築いたりすることもできる。ボトムからの人気者が生まれる仕組みに貢献しているのが『SHOWROOM』の大きな魅力でもある。

 

『SHOWROOM』が大きく成長できた3つの理由

 

あまたあるコンテンツ配信サービスの中で、ここまで『SHOWROOM』が注目され、大きく成長できた理由は何だろうか?

1つ目の理由として前田氏は以下のように分析する。「1つには、コンテンツ連動です。他のプラットフォームにないようなコンテンツが存在し、互いにシナジーを生み続けているのが、大きな差別化の要因だと思います。」これからの時代はコンテンツとプラットフォームの分け目が難しく、プラットフォームだけを作っていても利益は出ない。より魅力的なコンテンツを作らないと差別化も図れなければ、勝ちにもいけないわけで、『SHOWROOM』は既存のプレイヤー(演者)たちと組みながら、他にはないコンテンツを生みだすことを大事にしているといえる。

2つ目の理由として、彼らは「『ヒット』を科学する」ことをあげている。人気のある子の売り上げやファンの数などの変数をデータで分析してアドバイスすることにより、再現性が高く人気者になっていける。ネット上で今とるべきアクションを科学的に分析して提示するのである。これは人気者になりたいと思っている一般人には大変心強いサポートだろう。

「ただし、こればかりやっているとすべてのコンテンツか似通ってしまうため、1段階目の部分に最低限人気者になるためのフォーマットやフォーミュラ、マニュアルをつくり、その先に自分のオリジナリティを出していくという成長のさせ方をしています。」と前田氏は語る。

3つ目の理由として前田氏が上げたのが、演者との関係である。『SHOWROOM』はプラットフォームであるため、収益は、当然『SHOWROOM』が生み出しているわけだが、その収益を演者に直接戻すと当然『SHOWROOM』の利益率は高くなる。しかし、それをやってしまうと、マネージメント会社と『SHOWROOM』が潜在競合となる。『SHOWROOM』は既存の芸能事務所や代理店と組んでコンテンツを作る際に、間にオーガナイザーを立てることで、「プラットフォームとマネージメントの役割を切り分ける」という新しい生態系を作っている。

 

エンターテイメントビジネスは第3のステージへ

 

『SHOWROOM』はコンテンツ世代を3つのステージに分けて考えている。

1つ目のステージは第1世代といえる”パッケージ世代”。CDやDVD1枚の価格が事前に提示されて物を買う世代だ。しかしパッケージ市場は、インターネットの登場によってだいぶ変わってきてしまった。たとえ海賊版が無くてもYouTubeで無料で聴けるなら、わざわざお金を払わなくてもいいという考えがこの市場が縮小させてしまったことは否めない。

2つ目のステージは、興業を収益の柱としたライブや会場でのグッズ販売など、”その空間でしか感じられない価値に対してお金を払う”第2世代である。体験価値に対してお金を払っているため、コピーされるという悩みは解消されたが、その一方で、客数×単価による売り上げの上限が決まってしまうという悩みもでてきてしまった。「しかしネット上では、キャパシティーが無限に広がっているので、拡張可能性が無限になり、客数×単価という売上が永遠に広がっていく可能性があります。これかがネットの強みです。」と前田氏は語る。

そして3つ目のステージは、「直接支援市場」。この「直接支援市場」では、必ずしもクオリティが高く、芸術性の高い音楽を提供したら売れるということではなく、”裏側にあるストーリーや文脈”に人が共感をしてお金を払う。最近の人気物が生まれている仕組みがこの3つ目のステージであり、人が何に対価を払うかが変わってきているのも特徴だ。まさに『SHOWROOM』の世界である。
『SHOWROOM』では、自身がコンテンツの一部になれること、参加できること、共感を得られること、そしてその「裏側にある何か足りない部分を自分が埋めてあげたい」と思うこと……そういった”こと”に人が時間やお金を使うようになった。その市場は、非常に利他的である。「他の人のために時間やお金を使うという市場が、日本発で広がりつつあるのはとても誇らしいことだと思っています。これを、日本を通じて世界に広げていきたいと思っているのが『SHOWROOM』のあり方です。」と前田氏は語る。社会が成熟すると、自分にお金を使うよりも、他の人のためにお金を使ったときに得られる幸福度の方が高くなる現象が起きるという。そういった市場を作って世界を温かくしていこうというのが『SHOWROOM』の考え方だ。

 

『SHOWROOM』のこれからの挑戦

 

・つい応援したくなるようなキャラクターコンテンツ
『SHOWROOM』で中国人の女の子キャラを作ったら、ものの2週間くらいで中国における人気バーチャルキャラクターになったという。これは「日本で頑張っている中国人の女の子」という設定にしたことで、つい応援したくなってしまうという心理をついたものだ。海外で頑張っている自分たちの仲間がいると注目してしまうように、今後もつい応援したくなるようなキャラクターをどんどん作って日本発で世界に出ていこうとしている。

・コンテンツのインスタント化(AI技術を使って、簡単にバーチャルキャラになり、VR空間でライブ配信)
最近は、ほとんどコストをかけずに、YouTube、Twitter、『SHOWROOM』だけを使って、IPとして高い人気になっているケースがたくさん生まれてきている。それはどういう技術なのか? それは、グリーンバックのスタジオで動きを撮影するのではなく、スマホ1台で全身の動きをトラッキングできるモーショントラッキングの技術である。今はAIに人間の体の動きや傾きを予測させて、安価なWEBカメラでもモーションキャプチャできるのだ。

「『SHOWROOM』は誰でも配信者になれますが、自分の顔を出して配信するのには勇気がいります。そんなとき、自分を必ずしも表に出さずに、何か別のキャラクターや人格を作ってそこに自分の個性を投影させることで新しい自己表現の場を作っていけるということが、今私たちがやっていることです。」と前田氏は話す。

そうすると、今までコンテンツを作っていたプレイヤーの様相は変わってくるだろう。「お金を持っている人たちだけではなく、発想を持っている人がどんどんコンテンツを作るようになると、世の中のコンテンツの質も量も全てが変わってくるのではないか。クリエイターに対しての自己表現の機会を広げていきたいという思いでこのような技術を開発している」という前田氏の言葉に励まされ、夢を抱くクリエイターも多いのではないだろうか。

・コンテンツのボーダーレス化と前田氏の思い
「私たちはインターネットを前提にしているので一/気に世界に広めていくことができます。コンテンツが本当のボーダーレスになっていくということを、僕らは感じています。その一番先駆けの成功事例として、バーチャル関連のコンテンツを広めていき、世界でヒットする日本発のコンテンツを作っていきたいと思っています。先天的に恵まれた容姿や、与えられた環境、コネクションを持っている方だけでなく、誰もが、今この瞬間に自分が表現したい、誰かを楽しませたい、自分の声や思いを聞いて欲しいと思ったら、すぐに”自己表現”ができて、その表現に対してきちんとした経済的な価値が紐付いて、それで生きていける社会を作ると世の中はもっと豊かになるんじゃないかと思い、一生懸命サービスを作っているところです。」とプレゼンテーションを締めくくった。

 

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SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二氏
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アマゾンジャパン合同会社 デジタル音楽事業本部事業本部長 レネ ファスコ氏
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世界における音楽業界の進化と日本の市場とは
アマゾンジャパン合同会社 デジタル音楽事業本部事業本部長 レネ ファスコ氏

音楽を聴くスタイルを日本文化に合わせて進化させる

日本は世界第2位の世界的にも有望な市場

 

ファスコ氏は9年ほどドイツに赴任し、日本に着任したのは、2018年9月。約10年間、世界の音楽配信を見続けており、この数年間で音楽を聴くスタイルがレコードやCDからデジタルの世界へ変わってきたことを実感していると語る。同じような進化を日本でも体験したいと楽しみにしていたという。では、音楽業界が世界でどのように進化しているのか。それに伴い『Amazon Music』)が何をしているのか?を語ってもらった。

60年代から90年代まで日本はいろいろなフォーマットで音楽業界を牽引してきている。「レコード、カセット、CD……新しいテクノロジーが導入されると新しい成長が音楽業界に生まれてきました。98年は日本の音楽業界の売上のピークです。一方、世界では何が起きていたかと言うと、『Napster』*のような、ファイルシェアリングサイトが登場し、違法にダウンロードができてしまう状況でした。」とファスコ氏は語る。
(*90年代末に立ち上げられたファイル共有サービス。音源ファイルを自由にやりとりでき、大きなブームと問題を起こした。)

しかし、今やiTunesやAmazon Musicの出現で、音楽は合法的にダウンロードをされるようになり、お客様はアルバムを買う必要もなく、気に入った1曲をダウンロードできる時代だ。一時、市場は減少に転じ、この数年間で少し安定化しているという。日本の売り上げとしては下降傾向にあるものの、規模でいえば世界第2位と世界的にも有望な市場だとしている。これは、イギリスとドイツを合算した以上の音楽市場である。

 

日本の音楽市場の2つの特徴

 

「1つはCD市場です。昨年の日本では、音楽業界の売上の70%がCDでした。世界のCD売上の平均値25%と比べると、日本では現在もCD売上にかなり依存しています。

2つめは、ストリーミングがまだまだ新しいサービスだということ。日本では約13%しかストリーミングが使われていませんが、世界的には約50%を占めている国も存在します。ストリーミングのシェアが非常に進んでいる国、例えばスカンジナビアでは音楽業界での売り上げの100%がストリーミングとなっています。業界も大きく様変わりしたので、異なるお客様の趣向や需要に応えてきました。」とファスコ氏は続ける。

 

CDからストリーミングまたはダウンロードストアへ

 

アマゾン ジャパンは2010年に、ダウンロードストア(Amazon MP3)を開設。アメリカではすでに開始していたが、日本でも著作権フリーの楽曲を提供するようになり、その後も『Amazon Prime Music』や『Amazon Music Unlimited』という新しいサービスを提供。物理的なビジネスとダウンロードビジネスを合わせていった。

需要も収益もストリーミング配信が増えて行き、ここ何年かで音楽配信サービスはどんどん拡充している。「レコード・CDのフォーマットから、ダウンロードやストリーミング配信に至る全てのサービスを持っていることが私たちにとっての差別化要因となっています。私たちは、アーティストに対して、これらのサービスやリスナーを提供し、そして、ファンを見つけてそのファンとエンゲージメントするサポートをしています。」と言うファスコ氏は、生配信ではないが、オンデマンドでいつでも音楽にアクセスすることができ、スマホやスマートスピーカー、ノートパソコンなど多様なデバイスに対応をしていると説明する。

 

ストリーミングサービスの課題と成長ポイントとは

 

何年にもわたってお客様に音楽を提供し続ける中で、他国においてストリーミングサービスへの課題が2つ浮上したという。

「1つは、一般的なストリーミングサービスは、高額の会費がかかってしまうか、さもなければ無料だが広告があり、楽曲の幅も限られているという2種類しかなかったということ。2つめはストリーミングの操作が難しそうだという課題。ユーザーは必ず老若男女存在する。スマホやアプリをうまく使いこなせる人ばかりではなく、テクノロジーをそれほど理解していない方やなじみがない方、あるいはファミリーで使っている方たちにとって、ストリーミングで音楽を探すのは難しいというコメントもあった。」とファスコ氏は話す。

この2つの課題をふまえて打ち出したのがシンプルな3つの戦略である。
(1) プロダクトを差別化する
Prime MusicとAmazon Music Unlimitedという2つのサービスを用意。「プレミアムサービスだけとか、無料サービスだけを提供するのではなく、少し違う差別化したプロダクトにしようと考えた。
(2)簡単に操作ができるものを提供。たくさんの音楽を販売してきたノウハウや専門知識の蓄積を活かし、簡単にパーソナライズができたり、おすすめの楽曲を提示したり、その中でみなさんに好みの音楽を見つけてもらえるようにする。
そして、(3)新たなカスタマーの獲得である。日本のAmazonのプライムメンバーの数多くは、アーリーアダプター(新しいテクノロジーを吸収していく若い世代)と呼ばれる層とは違うことが分かったそうだ。それで、ご年配やファミリーで利用している方たちも音楽の配信、ストリーミングという新しいテクノロジーを使えるようにしたのだという。

以上3つのことを組み合わせて新しい年代層のカスタマーに訴えかけた結果、ストリーミングの市場を拡大したとファスコ氏は話す。

 

ファスコ氏が語る消費者とアーティストのアプローチの変化とは

 

現在はグローバルで配信サービスを利用できるようになっているので、何百万人というお客様にリーチできるようになりました。国内だけではなく、海外のお客様も含めて、音楽を「見つける」、「買う」、「楽しむ」が一つのサービスでできるようになりました。ローカルのCD、レコードショップで家族や友人から勧められたものを買うのではなく、レコメンデーションエンジンのアルゴリズムサービスで音楽をおすすめできるようになりました。

また、プレイリストは私たちのキュレーターが作ってくれています。日本のチームでもプレイリストのキュレーションは注力していて、日本で作成したプレイリストが他の国でもグローバルに提供できる状況になりました。それによってアーティストにとっては国境を越えてファンを作ることができるというユニークなチャンスが生まれてきました。

日本のAmazon Musicのプレイリストを見ていると、アメリカやヨーロッパ、インドのお客様が日本の音楽やアニソンに興味を持っていることが分かります。そして、その方たちが新しい日本のアーティストを発見できるようになりました。このように新しい世界が広がり、アーティストにとってはこれまでとは違う形でファンとエンゲージメントをすることが可能となっています。

ストリーミング配信はワールドワイドで34%の成長率を占めています。これから数年間、日本、ブラジル、メキシコの3ヵ国がこの業界では最速で成長すると言われています。私たちとしても、このビジネスを継続的に伸ばしていきたいと考えています。

 

音楽ビジネスのさらなる成長を促す3つ目のフェーズ

 

何年にもわたってお客様に音楽を提供し続ける中で、他国においてストリーミングサービスへの課題が2つ浮上したという。

日本のストリーミングサービスを使ったことがあるほとんどの方がモバイル端末を利用しており、日本はまだ第1段階のステージにいるという。
「アメリカ、イギリスなどはすでに市場のセグメントが次の第2のフェーズに移っていると思います。これは家庭でのストリーミングです。今、音楽を手に入れる形は多くの国で変わってきています。家庭にはWi-Fiや、ゲームのシステムなどいろいろなテクノロジーが導入されています。私たちの提供するスマートスピーカーにより、音楽を自宅で聞くようになりました。スマホからヘッドフォンをして一人で聞くのではなく、自宅でみんなで聞くという形になってきています。」

そして、第3のフェーズでは車の中で音楽を聞くようになってきます。「私たちは今、ストリーミングサービスを車でも利用できるようシンプルかつ直感的に操作できるようにしています。これが3つ目の波となるでしょう。」と話す。

 

新しいテクノロジーが提供する音楽環境

 

「私たちはAmazon Echo(アマゾン・エコー)やAlexa(アレクサ)を、次世代の音楽を楽しむためのデバイスにしていきたいと考えています。現在世界ではアレクサを通じて音楽を聴く方がスマホを経由する人よりも多くなっています。」と話す。この独自で新しいデバイスは今後、日本の音楽の消費の仕方をともっと変えていくだろう。通常の「アレクサ、音楽をかけて」というような特定の質問への反応の良さではなく、ファスコ氏はもう少し先を目指している。「レコメンデーションもアレクサが行い、みなさんのために音楽を探してくれる。このアレクサと自然な会話でやり取りができるように、どのように音声機能改善を行えばユーザーの思い通りに操作できるようになるのか、日本のチームもかなり労力を費やしていています。みなさんが音楽を聞く際に、アレクサがみなさんのベストフレンドとなる役目を担えるようになりたいです。」と訴える。

新曲の曲名が分からなくても、アレクサにアーティストの新曲をリクエストすると、新曲がかかるようになる。『Amazon Music』はこの部分に関してかなり重要だと捉えているようだ。
「例えば、『福岡で人気のある楽曲をかけて』と呼びかけると、福岡でお客様が聞いている楽曲データに基づいてあなたへ曲が紹介されます。さらに『ムード』、『アクティビティ』や『年代』などからも新しい音楽を探すこともできます。」と説明した。

最後にファスコ氏は「アレクサはデバイスであり、ツールであり、音楽業界を成長させるものだと思っています。私自身、ストリーミング配信の中でアレクサの可能性に最も期待しています。というのも、アーティストはこれまでにないような形でオーディエンスと触れ合うことができて、新しいオーディエンスを見つけ、そのオーディエンスとユニークな形で関わることができるようになるからです。」と熱く将来への展望を語って締めくくった。

 
 
 

>>〈第一部〉「誰もがストレスなく自己表現によって生きられる世界を作りたい」
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二氏
>>〈第二部〉「世界における音楽業界の進化と日本の市場とは」
アマゾンジャパン合同会社 デジタル音楽事業本部事業本部長 レネ ファスコ氏
>>〈第三部〉前田氏、ファスコ氏、市井によるパネルディスカッション

前田氏、ファスコ氏、市井によるパネルディスカッション

前田 裕二氏(SHOWROOM株式会社 代表取締役社長)と、レネ ファスコ氏(アマゾンジャパン合同会社 デジタル音楽事業本部事業本部長)のプレゼンテーション後には、VIPO専務理事・事務局長 市井三衛を交えたパネルディスカッションがあり、主に3つの質問が投げかけられました。

市井  Q1. 事業拡大のために日本のコンテンツホルダーに期待することは?

前田氏  期待することは2つあると語る前田氏は最初に、「ネットをもっと活用して欲しい」とあげた。YouTubeやTwitterを使うことをポジティブに受け止めていない方もいると思うが、ブランドを棄損せずに視聴者の熱量と演者のリアリティを自分たちのコンテンツに紐づけることができるノウハウを『SHOWROOM』は多くもっているため、ネットの活用を通じて、世界へ創出できる挑戦ができたら面白いと語る。

2点目は、まだIP(知的財産)を持っていないが自分で作ってみたいと思う方に門戸が広がるため、アイディアと発想次第では、誰もがコンテンツホルダーになれるということ。ネット上で描いた絵にストーリーをつけてTwitterに毎日あげたら人気者になるように、ネットという身近なツールをうまく活用して自己表現の場としてコンテンツ発信してくれたら嬉しいと話した。

ファスコ氏  「新しいテクノロジー、ストリーミング、そしてインターネットを受け入れ、脅威と感じずに良い機会だと捉えてほしい」と話すファスコ氏。「日本はまだまだCDの販売シェアが高いという非常にユニークな市場ではあるが、さらにストリーミングやダウンロードサービスを伸ばすために、アーティストたちには新しいテクノロジーを積極的に取り入れてほしいと訴えた。それにより多くのオーディエンスにリーチができ、音楽配信はこれまでとは違う形でオーディエンスとエンゲージができる。一般のファンはもちろん、より熱量の高いファンも増加していくでしょう」と答えた。

市井  Q2. 配信プラットフォーム内で今後どのようなオリジナルコンテンツを手掛けていくか?

ファスコ氏  「オリジナルコンテンツが非常に重要だ。編集の部分に力をいれ、キュレーションや嗜好をお客様に向けてつけていくということがオリジナル性だ」というファスコ氏は、音楽のサービスでお客様が期待するのは、すべての音楽を網羅していること。それが『Amazon Music』の一番の優先事項であると話した。すでに6,500万曲が『Amazon Music』にはあるが、同時に人気のあるアーティストでもまだストリーミングサービスをしていない楽曲もたくさんある。そういったアーティストにも加わってもらうことで、お客様の満足度を上げていきたいと語った。

それから、お客様にアーティストとエンゲージしてもらう、つまり本当にアーティストと楽曲について語ってもらいたいとも話した。『Amazon Music』はSide by Side(サイド・バイ・サイド)というプログラムを提供しており、これはアーティストが自分の音楽についてコメントができるサービスだ。「アルバムを聴くだけではなく、アーティストがその音楽の裏にはどのような思いや形があって制作をしたのかということを語ってもらえるので、こうしたサービスはアーティストとファンを繋げる上で、非常に重要なことでしょう」と話した。

前田氏  既存のIPに新しい世界観を紐づけるなどして、『SHOWROOM』のテクノロジーやクリエイティブの力を使い、既存のリアルIPがリーチできていないところに届けるお手伝いをしたい。そうすることで、エンタメ市場の活性化、応援する数が広がっていくことを期待していると話す。

また『SHOWROOM』がオリジナルで作ったIPが育ち始めているという。ある有名なイラストレータの方に5体絵を描いてもらい、『SHOWROOM』上で、先にイラストだけを公開して、この5体の絵の中に入る魂を日本全国から募集したら、魂を選ぶオーディションの過程でファンがたくさんついて、オーディションが終わった瞬間には、すでにキャラクターはIPとして成立していたと話す。つまり、『SHOWROOM』は完成されたコンテンツを見せるのではなく、完成されるまでの過程を見せることによって差別化をはかっている。よって、世の中にでるときには、すでにファンベースがいることが強みだと語った。

市井  世の中にたくさんあるコンテンツの中でも人をコンテンツとして発信していくと決めているんですか?  

前田氏  「決めています。なぜならば今後私たちはもっと寂しくなると予想しているからです。」と力強く応えた前田氏。
「現実の世界がすべてAIやロボットにより効率化されると、人間がやっていた仕事をやらなくてもよくなっていく。電話が無かった時代には、人と会わなければコミュニケーションを取れなかったはずが、今ではテキストだけでやりとりが完結してしまう。私たちはどんどんコミュニケーションをしなくても生きていけるようになっていく。私たちはそんなに強くないということがポイントです。」とも話す。
社会が成熟し、衣食住が満たされていくほど、心が満たされていないと、人は虚しくなっていく。他者とのつながりを感じ、尊厳欲求が満たされていると言う部分がより大切になっていく。前田氏は「モノではない、人でしか満たせないものを私たちが受け皿として人がリアルタイムに動いている空間を作り、現実世界が寂しくなるからネットで寂しさを受け止める。そういう市場が絶対に伸びていくという仮説を置いて、人にフォーカスしています。」と語った。

市井  Q3.日本のコンテンツの海外展開において感じていること、期待していることとは?

前田氏  「対アジア、特に中国のコンテンツクオリティが、びっくりするくらいに上がっていて、衝撃を受けている」という。

現在、スマホで利用できるほとんどのアプリは日本のサービスではなく海外のものだ。ハード面はほとんどが日本以外のプレイヤーに取られてしまっていると前田氏は危惧する。そうなるとコンテンツで勝負をしないといけないわけだが、中身まで負けてしまうのではと脅威を感じていると話した。よって、中国が海外で作っているコンテンツを注視して、脅威をいい刺激にして、日本ならではの世界に通用するコンテンツを作りたいと話した。

同時に、それらをどれだけローカライズするかという観点も大事だと。前田氏が期待しているのは、あえて言語面や文化面で“海外に迎合しないコンテンツが広がっていくこと”だという。海外では字幕の文化に馴染みがないが、役者の声そのものや表現を楽しみたいと感じる日本人は多いため、そういう文化をもっと世界に広めたい。日本の言語の美しさや日本人演者のそのままの表現の魅力をあえてローカライズをせずに、海外で受け入れられるようにしたいと最後に語った。

ファスコ氏  「国際市場は日本のアーティストにとって大きなチャンスだ。地域やローカルな音楽の発見からグローバルなサービスへ移行して、世界の何百万のお客様にリーチできるというのは、アーティストにとって本当に新しい世界だ。今、局所的に人気のあるJ-POPやアニメ、ゲーム音楽の人気は、もっと世界的に受け入れられてもおかしくないだろう。そのアーティストが国際的な成功を収めるお手伝いをしたい」とも語った。その例として、東京のスタッフが「Tokyo Crossing」という東京でキュレーションされているプレイリストを作っているという。これは日本の最新ベスト音楽を集めているもので、その中に入るバンドは世界中で人気が爆発していくという。「これが最もエキサイティングなストリーミングの側面だと思うし、日本のアーティストやコンテンツクリエイターはその恩恵を受けるべきだ」と話し、トークセッションを締めくくった。

 

>>〈第一部〉「誰もがストレスなく自己表現によって生きられる世界を作りたい」
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二氏
>>〈第二部〉「世界における音楽業界の進化と日本の市場とは」
アマゾンジャパン合同会社 デジタル音楽事業本部事業本部長 レネ ファスコ氏
>>〈第三部〉前田氏、ファスコ氏、市井によるパネルディスカッション

 
 

市井三衛、レネ・ファスコ、前田裕二

 
 

前田裕二 Yuji MAEDA

前田裕二 Yuji MAEDA
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長

  • 1987年東京都生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券株式会社に入社。
    2011年、UBS Securities LLCに移りニューヨーク勤務を経た後、
    2013年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。”夢を叶える”ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」を立ち上げる。
    2015年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。
    現在は、SHOWROOM株式会社・代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。
    2017年6月には初の著書「人生の勝算」を出版、Amazonベストセラー1位を獲得。2018年12月に新刊「メモの魔力」を発売。

レネ・ファスコ Rene FASCO

レネ・ファスコ Rene FASCO
アマゾンジャパン合同会社 デジタル音楽事業本部 事業本部長

  • 2018年9月よりアマゾンジャパンのデジタル音楽事業本部の事業本部長に就任。来日前はドイツにてAmazon Musicのディレクターとして、ドイツ、オーストリア、スイスにおける事業責任者を務めた。入社以降、Amazonにおいての音楽配信事業への進出を引率し、2015年に提供を開始したPrime Musicや、プレミアムな定額制音楽配信サービス、Amazon Music Unlimitedのローンチに携わった。
    ドイツでは、Amazonがスポーツコンテンツのライブ事業へ参入する際にも指揮を執り、ブンデスリーガの放映権の取得や、サッカーの革新的なオーディオ配信の立ち上げに従事。また、現在までに6シリーズ122エピソードを配信してきた、受賞歴のあるAmazon Originalの子ども向けラジオプログラム制作の主任を務めた。
    Amazon入社前は、マッキンゼー・アンド・カンパニー Media & Entertainment Practiceのドイツおよびアメリカ支社で10年間勤務。ヴォルムス(ドイツ)のThe University of Applied Sciencesとマドリード(スペイン)のThe University Complutenseで、ヨーロッパ経営学の学士号を取得している。

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