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インタビュー

2018.12.18


セガCOOの経験則から学ぶ、マネジメントの極意
(VIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」経営者講演より再構成)

エンタテイメント分野において幅広く事業を展開する、株式会社セガホールディングス。今回は、同社代表取締役社長COO 岡村秀樹氏をお招きし、これまでの豊富なビジネス経験に基づくマネジメントのあり方をお伺いしました。
※この記事はVIPOアカデミー「コーポレートリーダーコース」講演会の再構成です。

(以下、敬称略)

豊富な経験からたどり着いた経営姿勢

セガホールディングスについて
 
VIPO専務理事 事務局長 市井三衛(以下、市井)  本日は、「エンタテイメント業界の未来を担う皆さんへ」というテーマで、株式会社セガホールディングス 代表取締役社長の岡村秀樹さんにお話を伺いたいと思います。

株式会社セガホールディングス代表取締役社長 岡村秀樹(以下、岡村)  株式会社セガホールディングスの代表を務めております岡村です。併せて一般社団法人日本eスポーツ連合の会長も兼務しております。

今日は私個人の経験則に基づいたお話をさせていただき、皆様に少しでも「なるほど」と感じていただければ幸いです。

最初にセガサミーグループ、そしてセガグループの説明をさせて頂きます。私は、1987年に株式会社セガ・エンタープライゼスに入社しました。途中で社名が株式会社セガに変わりますが、そこで17年間働き、2004年にはサミーと統合して今年で14年目となります。現在、セガサミーホールディングス株式会社がセガサミーグループの持ち株会社となっています。セガサミーグループは、遊技機事業からリゾート事業、エンタテインメントコンテンツ事業と、ビジネスモデルもビジネスの相手も多様な、幅広い事業展開を行っております。

セガサミーホールディングス株式会社
■「遊技機事業」
遊技機(パチンコ、パチスロ)の開発・製造・販売

■「リゾート事業」
統合型リゾート開発・運営(パラダイスセガサミー)/リゾート施設の開発・運営(フェニックスリゾート)/ゴルフ場経営(セガサミーゴルフエンタテインメント)

■「エンタテインメントコンテンツ事業」
セガグループ

 
次に、「エンタテインメントコンテンツ事業」を担うセガグループの構造です。
 

セガグループ
■「コンシューマ事業」
全世界に向けて家庭用ゲーム、PC、スマートデバイス向けにコンシューマゲームビジネスを展開する株式会社セガゲームスや、株式会社アトラスなど

■「アミューズメント機器事業」
アミューズメントゲーム機器の開発、生産、販売を行っている株式会社セガ・インタラクティブ、オンラインダーツで日本一のシェアを誇る株式会社ダーツライブなど

■「アミューズメント施設事業」
日本で約200店舗のゲームセンターを経営する株式会社セガ エンタテインメント

■「映像・玩具事業」
アニメ作品の企画・制作・販売・配給を行う株式会社トムス・エンタテインメント、CGアニメーションの制作を行うマーザ・アニメーションプラネット株式会社、玩具の企画、製作、販売を行う株式会社セガトイズ

 
上記のように、セガグループには4つの事業カテゴリーがあります。中間持株会社としてこの「セガグループ」全体を統括しているのが、私が所属する株式会社セガホールディングスとなります。

市井  総合エンタテイメント企業ということですね。現在、御社のようなエンタテイメント企業を取り巻く環境はどのような状況でしょうか?

岡村  コンテンツのデジタル化により業界構造が一変し、ゲームや映像をはじめとしたすべてのコンテンツ間の競争がグローバルかつ同時進行で展開されるようになりました。また、コンテンツのジャンルの垣根は限りなくボーダレス化しています。

これはつまり、旧来のマーケティング手法が通用しづらい時代になってきているということでもあります。

マスでヒットすれば爆発的な規模になる一方、勝者と敗者の優勝劣敗が極めて明快に分かれるという時代です。しかもそれは寡占化される傾向が強く、移り変わりのスピードが早いということでもあります。特定の領域に囚われない多様な感性を身につけないと、ついていけません。

大局的に時流を捉えるためには、俯瞰的な視点を身につけることが重要です。

 

 

不遇・危機・失敗を肥やしに

“不本意”にどう取り組むか
 
市井  事業履歴の中で学んだことや身につけたこと、あるいは失敗したことなどをお聞かせください。

岡村  かつて株式会社セガトイズが販売していた、電子知育玩具「ピコ」はご存知でしょうか? 幼児向けのコンピュータで、小さい子どものいる家庭には必ず1台あると言われたほど人気がありました。その前身モデルである「SEGA AI COMPUTER」(1986年発売)を手がけたときの話です。

AIといっても今とはレベルが全く違い、カセットテープにソフトデータを入れるものでした。入社直後に幼児向けの新規事業が立ち上がり、私はそこに配属されました。そのあとはゲーム機とPCが融合した機械という売り文句で、「テラドライブ」をIBMと共同開発しました。これを持ってセガはPC事業に乗り出したのです。

「AIコンピュータ」も「テラドライブ」も、セガの中では傍流でした。当時セガの本流は、1,000店舗あったゲームセンターであり、アミューズメントの機器開発でした。この分野では、当時日本のみならず世界でNo.1だったと思います。

市井  本流からはほど遠いところにいらっしゃったのですね。

岡村  そうです。これらの事業は失敗する可能性も高かったのですが、新規事業ということで全国の販路開拓からマーケティングまで全てをわずか15名ほどでやり抜きました。

「AIコンピュータ」は、家庭用の幼児向けで18万円もしたのです。この値段の商品をご家庭向けに販売するのはかなり厳しい。そこで18万円で売れるところを探し、見つけたのが幼稚園や保育園でした。このセットをピンポンパソコン教室と銘打って売り出し、(専用の)移動車をつくって科学技術館や行政とリレーションをとり、全国の幼稚園、保育園に販売しました。この時代に経験した、ビジネスモデルの構築や新規マーケット開拓は、私自身にとって非常に勉強になったと感じています。

一生懸命やっていれば必ず誰かが見ていて、きちんと評価してくれます。事業自体は失敗に終わりましたが、”失敗の仕方”が重要でした。多くの人がこの取り組みを見守り評価してくれたからこそ、次に「セガサターン」(1994年発売の家庭用テレビゲーム機)の責任者に任命されたのだと思います。その後は、「ドリームキャスト」の事業を担当しました。

市井  不本意な仕事でも、決して腐らず努力していればいずれ報われると身をもって感じたのですね。

岡村  ビジネスマンは、いつも自分がやりたいことをできるわけではないし、いつも本流の中で美しく仕事ができるわけでもありません。しかし与えられた環境での取り組み方次第で、自分の肥やしにできるかどうかが決まると思います。

不遇、不本意な時代の過ごし方こそが大切だという点は、ぜひ皆さん覚えておいてください。

 

 

「逃げない」「覚悟」「背中を見せる」
 
市井  ビジネスでは時に危機的状況にも直面します。岡村さんはこれまでどう乗り越えてきたのでしょうか?

岡村  私はある時期セガを離職し、株式会社デジキューブ(ゲームソフトウェア会社)という会社で2年間副社長をしていました。同社はコンビニでゲームソフトや攻略本を販売し、返品も受け付ける(コンビニは買い取らない)という、それまでのゲーム業界の商取引の常識を変えた、非常に面白いビジネスモデルを展開していました。

しかし返品にはもちろんリスクがあり、結果破綻してしまいます。

私は入社1年目から、倒産の危機をいかに乗り切るかがミッションとなってしまいました。自分が幹部社員の時に会社を潰してしまうことだけは、絶対に避けたいと思っていました。もし会社が倒産したら、自分自身のビジネス人生を壊すことにもなるし、何よりも社員たちの将来と生活を守りたいと願ったからです。

会社を倒産させないために、まずは社員の結束を固めるべきだと考えました。会社がちょっとおかしいなという雰囲気は社員にも伝わります。辞めていく人はともかく、残って頑張ろうという人たちの心を一つにすることが大切だと思い、そこに注力しました。

市井  具体的には何をしたのですか?

岡村  自分が今、この危機に対してどのように対処しようとしているかしっかりと説明して、最終的な責任の所在は自分にあることを明示しました。経営者はメッセージ発信をきちんとすることが大切です。そうでないと社員は怖がって絶対について来ないからです。

またここで重要なのは、どういう手段で危機を乗り切ったかということではなくて、危機にあたって「逃げない」、「覚悟を決める」、「行動を持って自分の背中を見せる」という姿勢です。

市井  これは経営層だけの話ではなく、上司としての部下に対する態度にも同じことが言えそうですね。

岡村  仕事では難しい局面が多々あるかと思いますが、危機から逃げず、自分の背中をきちんと見せていれば良い方向に進みます。特に中間管理職の場合は、陣頭指揮をとって責任の所在を示し、部下に信頼感を抱いてもらえるような行動を意識することが重要です。

 

 

情熱と冷静さのバランス
 
岡村  2年後にはセガに専務として戻ることになりました。そこで新規事業として中国進出に取り組んだ際、今後のビジネス人生において、戒めるべきだと感じた経験がありました。

市井  大きな反省があったということでしょうか?

岡村  はい。実は中国のネットワーク事業を手掛けようとした結果、上手くいかずに相当なところまで進んだ段階で、撤収することになってしまったのです。

今振り返れば、もっと早く、失敗の予兆を見極めるタイミングがあったと思います。しかし準備は相当進んでいましたし、資金もかなりつぎ込んでいました。熱意と情熱を持って、役付役員として乗り込んでいる以上、引くに引けない環境にあったことも事実です。それでも見極めるタイミングを見誤ったことが、大きな反省となりました。熱意と意欲の強さから、都合の良いところしか見えていなかった……見ようとしなかった可能性があります。

そこで、「熱意を持って取り組んでいる時こそ冷静な判断ができるようなスキル、あるいは心の有り様、取り組み方」が必要だと実感しました。情熱と冷静さのバランスです。よく人口に膾炙されるように「攻めより勇気ある撤収は難しい」ということですね。これができるかできないかで、ビジネスへの取り組み方は相当変わってくると思います。

 

 

経営の要諦

会社を成長させ続けるための構造改革
 
市井  次は経営者として、会社を成長させ続けるために必要だと思うことを教えてください。

岡村  「ビジョン提示」と「推進力」に尽きると思います。

セガグループの株式会社トムス・エンタテインメントの社長を務めていた時です。トムスの代表作品には、看板タイトルの『ルパン三世』、『それいけ!アンパンマン』、『名探偵コナン』や『弱虫ペダル』などがあります。中でも『名探偵コナン』は今でこそ90億円程の興行収入がありますが、かつてはあまりよい数字ではなくて、これを立て直すことが私のミッションでした。

市井  アニメ業界の経験はあったのですか?

岡村  いいえ、ゲーム業界とは隣接事業でありますが、アニメーション会社のビジネスモデルに一度も触れたことがありませんでした。

これはゲーム業界の方だったらおわかりかもしれませんが、ゲーム業界の構造は、IPホルダーが基本的にヒエラルキーの一番上にいます。アニメ業界も当然のことながら、IPを作り出す原作者が一番上流です。しかしそれを具現化するアニメ制作会社は、業界ヒエラルキーの最下流に位置しており、下請け状態であることに愕然としました。

そこで私はトムスで、この古い体質からいかに脱却するか、ということに心血を注ぎました。まずは社員の意識変革が必要です。物理的な惰性を断ち切り、組織を変えることに注力をしました。

しかし社員の皆さんは、アニメが好きで制作会社で働いているので、制作できれば嬉しいという意見が多数ありました。そのため変革時は、かなりの抵抗にも直面しました。私も初めての経験だったので、苦労しましたね。セガからの部下を1人も連れて行かなかったので、言ってみれば1人だったわけです。

そういう中で時間をかけて、1人、2人、3人と中堅以上の社員たちに、自分のモノの考え方や、どのように変えていけば50年後に生き残れるかという話をロジカルに説明していきました。話をいくらしても分かり合えない人は、やむを得ず排除したこともありました。

業界の暗黙のスキームにチャレンジするために、まずは自分の足元の会社社員から意識を変えていこうと働きかけたわけです。おかげで業績はV字回復できました。

私が目指したのは、アニメの制作会社から多機能映像エンタメカンパニーへの転換です。
多機能と名乗るからにはプロデュースカンパニーにならないといけない、下請け的制作だけにとどまってはいけないと、自分たちが生き残るために社員の意識を変えていきました。

 

 

権限委譲で人は育つ
 
市井  セガでも構造改革を行ったと伺っています。

岡村  6年間トムスの社長をしたあとセガに戻り、構造改革を行いました。この改革を経て、業績がV字回復している過程の中で、セガホールディングスを立ち上げました。

市井  構造改革のポイントを教えてください。

岡村  (1)現状の方針を改める、(2)社員のマインドを変える、という2つのポイントがあります。

特別なことをした訳ではありません。(1)現状の方針においては、まず不採算事業の整理です。そこには冗費(無駄な経費)というものが必ず存在しますから、見直して人員的な面での決断も行いました。結果大幅な固定費の削減ができたと思います。

構造を組み替えて、いかに成長事業へ資本を集中投下ができるかどうか、決断ができるかどうかが大切です。赤字だからダメではなくて、赤字会社の将来性を見極めることが非常に重要となります。その前提として、物事を俯瞰して見ることが大切だと覚えておいてください。

市井  (2)の社員の意識変革はいかがでしょう。

岡村  遠心力を働かせました。具体的には、エンタメコンテンツに関する様々な事業を事業会社として分社化し、大胆な権限委譲を行いました。そうすることで、今まで事業部長だった人が社長になるのです。社長になると人は育ちます。これは人材育成の究極の方法かもしれません。

権限委譲したら、自分たちのことは自分たちで決めさせて、下手な口出しはしません。スピーディーに行動して、自分たちが信じるところにお金を投資しなさいということです。ただし結果についてもきちんと責任を持ってもらいます。

 

 

経営者に求められる資質や人間性
 
市井  経営者に求められることや資質は何だとお考えですか?

岡村  まず、わりやすいビジョンを掲げることが重要です。大局観に基づいた経営目標をセットし、自身は環境変化に柔軟に対応します。なおかつ決して先送りにしない、スピーディーな経営判断や、特にエンタテイメント業界では新しい領域への投資を冷静に見極めることが求められます。

必要な資質は、経営目標を達成するための、中長期的な戦略シナリオを構築する論理的構想力と、社会の変化を捉える努力を怠らない姿勢だと思います。また確固たる倫理観を持つこと。これがないと、経営者としておそらく長くは続かないですね。他者を大切にすることも求められます。

最後に社会の発展と後世のために貢献しようという「志」を常に忘れないことが、非常に重要ではないでしょうか。

 

 

ゲーム業界の懸念事項

ゲーム業界としての対策をしっかりと


市井  ここからは、コンテンツ業界で活躍する受講者から集めた質問を中心に進めていきたいと思います。
まず、ゲーム業界の懸案事項や今後の課題について教えてください。

岡村  ゲーム業界で喫緊の課題となるのは、「ゲーム障害」をWHOが認めたことです。これは疾病になるので、3年後には日本の厚労省にも注目されると思います。医学的エビデンスはないそうですが、薬物依存と同じような理解をされてしまう可能性があります。しかも分かりやすくゲーム障害と名付けていますが、実際には「ネットワーク依存症」のことなのです。対策を整理する必要があると考えています。

もうひとつは、1兆3,000億円市場ともいわれるスマホゲームの売り上げがダウンしているように感じることです。しかしダウンしているのは日本発のスマホゲームで、海外タイトルは、シェアを伸ばしています。これはユーザーが、ガチャに飽きたところもあると思います。日本の開発者はそこをしっかりと見据えないといけないですね。

市井  スマホゲームで海外タイトルのシェアがアップしている理由はあるのですか?

岡村  単純にユーザーが今までと違う面白さを発見しているからではないでしょうか。日本のパブリッシャーはバトルロワイアル系を敬遠しますが、世界ではむしろそれが主流ですから、マーケットの大きさも関係していますね。

 

 

経営について

中期的なトレンドで成長を確認
 
市井  経営に関する質問です。
「セガホールディングスでは年度予算を作成していると思いますが、社長としてどういった点に着目していますか」

岡村  エンタテイメント事業、特にゲーム会社では、自分の会社で爆発的なヒットタイトルを毎年出せるとは限りません。出た年と出なかった年の差が非常に大きいので、単年度で評価できないこともあります。

しかし、中期経営計画に沿っているかは重要です。中期的なトレンドで見たときに、きちんと成長しているかどうかが大切な指標になります。
また、コスト効率の高さもチェックします。ゲーム会社では開発費の割り合いが最も高くなるため、コスト効率が良い=作ったものが売れている、ということになります。

市井  セガサミーグループの戦略についての質問です。
「セガサミーグループは、さまざまなエンタテインメント事業を展開していますが、今後新規参入する事業カテゴリーはありますか?」 

岡村  セガサミーグループとしてはリゾート事業を独立させました。ノースカントリーゴルフクラブとフェニックス・シーガイア・リゾートは保有していましたが、韓国に設立したパラダイスシティという施設は、日本で実施法案が通ったばかりのIR(Integrated Resort:統合型リゾート施設)にしっかり参入しようという狙いです。

アメリカの外資も兆円単位で日本のIRに参入しようとしています。セガサミーグループとしては、日本におけるIRこそが、一番大きな新規参入カテゴリーとなります。

市井  具体的な戦略は?

岡村  日本にはカジノのオペレーション経験を持つ会社がまだありません。現在我々は、韓国の施設に50人以上を送り込み、マーケティングからオペレーティングまでの全てのノウハウを吸収しています。日本国内にIRができたときにノウハウを持っている唯一の日本の事業会社が、セガサミーグループということになります。これは強い武器になるのではないでしょうか。

 

 

規模や人数によって変わる、マネジメント手法
 
市井  「グループのアニメ会社時代と現在のゲーム会社における組織けん引の手法で、何か違いはありますか?」という質問もきています。

岡村  経営者として手法の違いは大いにあります。セガグループのように約5,000人が所属するグループをけん引することと、150人程の単体事業会社をけん引する手法は違って当然かもしれません。

ビジョンを語ることは共通ですが、トムスの時は、自らが引っ張っていきました。150人を束ねるにはそのほうが迫力もありますし、会社の体質を変えることが目的だったという理由もあります。

一方セガホールディングスでは、事業会社の社長をいかにサポートするか、になります。とはいえほとんどの会社に会長職として入っているので、経営にもコミットしていますが、いかにグループ各社の社長が社長らしく仕事できるかを叶えることが私の役割だと考えています。

市井  前者の自らリードすることはイメージしやすいと思いますが、後者の5,000人の会社で、ホールディングスとして個別に会社があり社長がいる中で、どうマネジメントしているのかをもう少し詳しく教えてください。

岡村  「遠心力と求心力のバランス」です。

遠心力とは権限委譲をすることです。責任はもちろん発生しますが、自由闊達に親会社を気にせず経営してもらう。一方求心力とは、セガグループの一員であることを忘れさせないことです。そのため、すべての事業会社に最低でも取締役として入り、彼らがしっかりと経営できているか、常にチェックしています。

市井  セガホールディングスのビジョンにのっとったマネジメントを、きちんとしているか確認するということでしょうか?

岡村  そうですね。そこには彼らなりのミッションピラミッドがあるので、それに適合しているかどうかです。

細かく言えば、事業会社に求められるのは、きちんと成長しているか、将来性が確保されているか、人材の育成はきちんとできているか、売り上げと利益率の相関関係が健全に目指しているものと合致しているか、などが指標になっています。

市井  今おっしゃったいくつかの指標をきちんと共有されているのですね。

岡村  共有していますし、私の経験からできるアドバイスはいくらでもしています。でも言いすぎてはダメで、任せることも同時に意識しないといけない。

市井  バランスが難しいですね。

 

 

部下やその家族に責任をもつ
 
市井  最後にビジネスに関して質問です。「ビジネスで守っていることがあれば教えてください」

岡村  たとえば「部下の失敗は自分の失敗にしろ。自分の成功は部下の成功にしなさい」というものがあります。これは倫理観を持つということに通じていると思います。

市井  今日は豊富なビジネス経験を基にした貴重なお話を、どうもありがとうございました。皆様には伺った経営的な視点や経営者として大切な姿勢をぜひ参考にしていただき、未来のコンテンツ業界を担っていただければと思います。

 

 

 

岡村 秀樹 Hideki OKAMURA
株式会社セガホールディングス 代表取締役社長 COO

  • 1955年2月生まれ。1987年に株式会社セガ・エンタープライゼスに入社後、97年に取締役コンシューマ事業本部副本部長 兼 サターン事業部長、2000年には取締役ドリームキャスト事業部門担当に就任。2002年には一旦株式会社セガを離れ株式会社デジキューブ代表取締役副社長、03年に株式会社セガに復帰し 専務執行役員コンシューマ事業本部長に就任。04年に株式会社セガ 常務取締役コンシューマ事業本部長、08年に株式会社トムス・エンタテインメント代表取締役社長を経て、14年に株式会社セガ代表取締役社長COO、15年に株式会社セガホールディングス代表取締役社長COO、株式会社セガゲームス代表取締役会長(現取締役)となる。同年、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会会長就任(現特別顧問)。18年に一般社団法人日本eスポーツ連合会長就任。


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