東映アニメーション 小原康平氏インタビュー(後篇)

東映アニメーション 小原康平氏インタビュー

東映アニメーション株式会社 小原康平(おばらこうへい)

INTERVIEW

東映アニメーション 小原康平氏インタビュー

2009年4月5日より、フジテレビ系列にて放送中

日本アニメの海外マーケット進出についてお聞かせ下さい。

原則的には、日本で製作するのであれば、海外へといきなり飛躍するのでなく日本での成功を前提とすべきだと思います。日本の市場を度外視して海外のみを目指すことに対しては否定的な認識です。
もちろん例外はあり、「おくりびと」や「つみきのいえ」は海外での評価なくして今のような大きな盛り上がりを見せることはなかったかもしれませんが、ビジネスとしてのアニメーションがシリーズを通して海外でも成功するためには日本でどれくらい売れたかというデータがないと売りに出しても買い手が付きません。
日本のアニメ作品の絵柄、キャラクター構成、構想は海外でももちろん人気がありますが、受け入れられない点も多々あります。例えば、ちゃぶ台や炬燵を囲んでみかんを食べる、といったシーンは文化的な前提の下にストーリーが語られているため、なんでもない描写なのに海外の人にとっては意味がわからなかったり、違和感を持たれたりします。ギャグや微妙なセリフ回しなども文化的要素で問題が出てくる場合が多いです。そういった要素を無視するくらいぶっちぎりにおもしろい、文化的ギャップを押しのけてでも海外で売れる強いアニメ作品というのが作れればいいのですが、そういった作品は稀です。
因みに、海外でよくやられているのが、日本のアイデアの部分だけ取り出し、絵柄もある程度日本のものに近づけて、作品のプラットフォームを自国の文化に置いて自国発のアニメーションをヒットさせる、というケースです。弊社でいえば「ふたりはプリキュア」などの変身モノの女児向けアニメなどにヒントを得た作品もしばしば見られ、欧米で人気を博しているケースもあります。真にこういった作品と競合していくには、このような問題をどう製作的に解決し、踏み込んでいくのかを考えていかなければならないのではないでしょうか。

東映アニメーション 小原康平氏インタビュー今後のスキルアップとして経験したいことはありますか?

日本で作品を成功させ、それを世界でもリリースしてみたいです。そのために海外と日本の文化のギャップを埋めるような作品づくりについて、より知識を深める経験を積みたいという希望はあります。ハリウッドのラブコメディ映画が日本でヒットするケースは稀ですが、それが文化的な背景のためであるなら、具体的にどのような背景や違いがあるのかなど、映像ビジネスの文化の違いを体感してみたいという気持ちがあります。可能であれば、アメリカのフィルムビジネスのスキーム、現場におけるスタッフ、キャストのモチベーションと知識のレベル、余暇の過ごし方。同じ世代は学校や会社から帰ってきて何を観るのか、テレビを観ないでパーティーに行くのか、など、微に入り細に入りヒット作品が生まれる土台を肌で感じる機会がもっとほしいです。

実務的な部分の経験ではどういったところを勉強したいですか?

日本でも、また海外でも、企画立案から作品を作るまでの過程をいろいろな作品、土台で経験し、資金調達、権利処理のしかた、分業の体制などの実質的な作業のスキームについて、より知識を深めていきたいです。
より海外に進出できる作品を考えるのであれば、海外をもっと知る必要があるはずです。お金を生み出すシステムが日本よりも確立されているかどうかわかりませんが、微に入り細に入り彼らのスタイルを観察し、確立されてきたシステムを体感することも重要だと思います。単に相対比較しているだけでは見えてこないですし。
アート性の高い作品であることは大事ですがそれだけではなく、弊社で僕がプロデューサーとして関わるものはビジネスとして成立しなければなりません。効率的にスタッフの疲弊がなく整備されたシステムの中でビジネスとして成功する作品を作るための勉強は実務でも引き続き行っていきます。

東映アニメーション 小原康平氏インタビュープロデューサーをされている『ドラゴンボール改』についてお聞かせ下さい。

全世界で1億部以上売れている鳥山明先生のコミックス「ドラゴンボール」のアニメーションの新シリーズです。原作を知らない人は国内ではもういないのではないでしょうか。
「ドラゴンボール改」は1989年4月から1996年1月まで放送された「ドラゴンボールZ」の「鳥山明オリジナルカット版」として製作しています。
「ドラゴンボールZ」は僕も含め、当時の小中学生なら毎週欠かさず、テレビにかじりついて見ていた作品のはずです(笑)。そんな誰もが知る作品を「放送開始20周年記念」と題し、改めてテレビ放映することになったのが「ドラゴンボール改」です。こうして新たに放送するにあたり、新旧のファンを獲得するための幾つかのポイントを設けています。
まず、2011年の地上デジタル放送に対応して、「Z」の頃のフィルムをフルハイビジョン対応で「デジタルリマスター化」しています。あのときの映像でなければ『ドラゴンボールZ』はやはり語れません。初めて見る子どもたちはもちろん、あの頃テレビで毎週の放送を心待ちにして見ていた今の大人たちもまた、「これぞドラゴンボール」と思える作品とするため、あえて『Z』のフィルムを使った放送を試みています。その際、当時使っていたアナログの16mmフィルムから、撮影の際に付いてしまったゴミやキズ、フィルム全体に残る粒子(ノイズ)を除去し当時のフィルム本来の鮮やかさ、キレイさを最大限に再現しました。
次に、このフィルムを使って、当時引き伸ばしやアニメ・オリジナルのエピソードが多かった放送を改めて編集し直し、よりスピーディーで、原作の展開に近い「鳥山明オリジナルカット版」としての展開を実現しています。これにより当時のファンも再放送としてではなく、新鮮な気分で楽しんでいただき、これから初めて「ドラゴンボール」を知る子どもたちもスピーディーな展開で素直に楽しんでいただけるよう努めています。
さらに、このようにテンポ感の変わった本編のためにBGMを一新しました。新しさをより強く感じていただくよう、合わせてオープニング曲・エンディング曲と、これらにつくオープニング映像、エンディング映像を完全リニューアルしています。
「ドラゴンボール」シリーズはこれまでテレビ放送のなかった期間でも認知度が高く、世代を超えて愛されてきたキャラクターです。毎回楽しみにアニメ作品を観るという行為をこの「ドラゴンボール改」で視聴者の皆さんに体感してもらいたいと考えています。
何しろ僕もプロデューサーということでこの作品に携われて非常に光栄です。「ドラゴンボール」に関しては、今でも第一線で活躍する役者の方々のアフレコ模様を観るだけで鳥肌が立ちます。
20年越しの思いの詰まった仕事というか、「聖闘士星矢」にしても「ドラゴンボール」にしても、自分が幼い頃に夢中になった作品に関わることができるというのは何ともいえず感慨深いです。
次の目標ですが、今は目の前のことを着々とこなしていき、それから将来の目標をより見据えて作品に携わっていきたいと思っています。

ありがとうございます。VIPOに対して何か期待されることをお願いします。

映像コンテンツ業界における人材育成についても活動されているという認識があります。僕も2007年にロサンゼルスで行われた「プロデューサー研修」に参加させていただきました。研修自体は1週間という短い期間でしたが、現地で映画製作の一片を体験することができとても勉強になりました。貴機構にはそういった人材育成のためのプログラムやセミナーなどを今後もどんどん企画・開催していただければと思っております。

(取材・文 広報室 小林真名実)


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