【第ニ話】米国5大フィルム・スクールとその特徴
全米で600校以上あると言われる(*1)フィルム・スクール。ドキュメンタリーに特化した学校、コマーシャルに強い学校など多彩な学校が存在する。
その中で、我々が通常見ることの多い物語形式(=Narrative)の映画に関しては、5大スクールといわれる学校が長らく業界に人材を輩出し続けている。
- AFI(アメリカン・フィルム・インスティテュート )
- Columbia University(コロンビア大学)
- NYU(ニューヨーク大学)
- UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)
- USC(南カリフォルニア大学)
この5校の力を示す一例として、学生映画の最高峰と言える「学生アカデミー賞」(Narrative部門)と「学生エミー賞」(Drama部門)の昨年度授賞者はラインナップしてみた。
学生アカデミー賞(Narrative部門)2009
| 順位 | 題 | 監督 | 所属 |
|---|---|---|---|
| 1 | Kavi | Gregg Helvey | USC |
| 2 | The Bronx Balletomane | Jermy Joffee | City College of New York |
| 3 | Bohemibot | Brendan Bellomo | NYU |
学生エミー賞(Drama部門)2009
| 順位 | 題 | 監督 | 所属 |
|---|---|---|---|
| 1 | Acholiland | Daniel M. Harrich | AFI |
| 2 | El Americano | Santiago Portales | AFI |
| 3 | Warrior Queen | Hezekiah L. Lewis他 | UCLA |
この中でも有名なのは、長い歴史を持つNYUとUSCの2校であり、映画業界の東大・京大のような位置づけと言えるだろう。双方とも学部と大学院を持つため、大学院のみのAFIやColumbiaに比べると圧倒的に卒業生も多い。
ただし、『HEROES』で一躍有名になったアメリカ在住の日本人、マシ=オカが「ハーバードに受かったが、画一的な価値観を押しつけられそうだったのでブラウン大学を選んだ」と語っているように、アメリカの学生たちは日本以上に学校と自分の方向性のマッチングを重要視している。
フィルム・スクールも同様で上記の5校はそれぞれの特徴を持ち、受けたい教育や将来像に合わせて学校選択が行われている。本稿ではこの5大スクールそれぞれの特徴、そして私が通うAFIの位置づけを説明したい。
インダストリー系 or インディペンデント系
まず学校の特徴を見る際、一つの基準となるのは「インダストリー系か、インディペンデント系か」という点である。
ざっくりと定義してしまえば、インダストリー系の学校はメジャー・スタジオを中心としたシステムのなかで働くことを前提とし、インディペンデント系ではスタジオに頼らず映画を製作していくための手法を学ぶ 。
どの学校がどの系統に属するか、を知るために有用なリソースとして、NYUの卒業生が執筆した『Film School Confidential』がある。この本を参考にしながら、5大スクールをプロットすると次のようになる。
例えば、私が通うAFIはインダストリー系に分類される学校で、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のプロデューサーであった学科長はじめ、教えに来る講師もメジャー・スタジオや大手タレント・エージェンシーの現役ビジネスマンが多い。そのため、ハリウッド・インサイダーとの人脈形成も非常にスムーズという特徴がある。
一方でコロンビア大学やNYUのウェブサイトで教員の経歴を見れば、インディペンデント業界出身の教授が充実していることがわかる。
特にプロデューサー志望の学生にとってはインダストリー系とインディペンデント系のどちらを選ぶかは、人脈形成の上で重要な選択になってくる。
西海岸 or 東海岸
上記とオーバーラップする面もあるが、もう一つ学校を特徴づけるのは「西海岸か、東海岸か」という物理的なロケーションだ。すなわち、ロサンゼルス(LA)かニューヨーク(NY)かと言い換えても良い。
フルタイムの教員がほぼ存在せず、現役ビジネスマン中心のフィルム・スクールではその立地が決定的に重要となる。
AFIはほぼロサンゼルスの中心部といって良いロケーションにあり、エージェントやプロデューサーが主にオフィスを構えるビバリーヒルズ周辺からは車で30分程度。それでもなお彼らからは「Far East」(極東)と呼ばれ、教員は多忙なゲストを招聘するのに苦労しているほどである。
ロサンゼルスのフィルム・スクールの強みは、言うまでもなく世界の映画産業の中心地であることだ 。6大メジャー・スタジオ、4大タレント・エージェンシー、多くの有名プロダクションの製作機能はロサンゼルスに集結している。そこで働く業界人へのアプローチ、インターンシップ機会などに絶大な強みがある。
ニューヨークにもスタジオやエージェンシーの支社は当然存在するが、その規模はロサンゼルスに比べれば小さく、機能は限定的だ。例えばテレビネットワークのインターンを例に取ると、ドラマの製作はロサンゼルス、ニュースやスポーツ番組の製作はニューヨークといったように分かれているケースが多い。フィルム・スクールの学生が目指す「クリエーティブ」なポジションはロサンゼルスが圧倒的に多い。
一方でニューヨークのフィルム・スクールの強みは、 クリエーティブな刺激に溢れていること街で学べることだろう。映画は美術、音楽、ファッション等の総合芸術と言われるが、世界のトレンドを生み出す街ニューヨークに身をおくことはクリエーターにとって最高の環境と言える。
車での移動がメインのロサンゼルスではファッションを気にする人も圧倒的に少なく、よほど気をつけていないと世の中で何が流行っているかが全く見えない。私の同級生でも、「感性が腐らないように」と長期休みには必ずニューヨークに行く者もいる。
また、ニューヨークの映画産業は演劇からの影響を色濃く受けているため、役者への演技指導がうまい監督が比較的多く育つとも言われている。
LAとNY、学生が作る作品の違い
付け加えるならば、物理的な環境の違いによりフィルム・スクールで作られる作品にも違いが出てくる。コロンビアの卒業生から聞いたのは、ニューヨークでは殆どの学生が車を持っていないので、彼らは撮影で使う小物や機材を何台ものタクシーに乗せて移動するためロケをするにも制約が多いそうだ。
一方でロサンゼルスでは車を持っていない学生はほとんど存在しない。そのため、ロケ地は数十キロ離れた荒野でも海でも簡単に移動可能であり、機材や小物の運搬に全く問題ない。また、ニューヨークと違って道もだだっ広いので大型トラックを借りて学生が運転して移動することも容易である。
このような物理的な制約から、ニューヨークの学校はロケ地や美術に頼りすぎない「ストーリー重視」の作品が多く生まれ、ロサンゼルスの学校は「ビジュアル重視」の作品が生まれるという傾向もある。
以上のように、教員の出身やロケーションによりフィルム・スクールはそれぞれの特徴を持つ。その中で、「インダストリー系で西海岸」という象限にはAFIとUSCが存在するが、この2校にもそれぞれの特徴がある。
次回は、AFIを特徴付ける「コンサバトリー・モデル」という教育コンセプトについて説明したい。
*1:経済産業省「国際展開に向けた追加検討国際展開に向けた追加検討事項について (PDF)」資料より
木野下有市 (きのした・ゆういち)
1980年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒業後、広告会社にて大手飲料・製薬メーカーの広告キャンペーン等を担当。ギャガ会長兼東京国際映画祭チェアマン依田巽氏からの奨学金を受け、2008年8月よりAFIに入学。2010年7月のMaster of Fine Arts (プロデュース専攻)の取得を目指して勉強中